70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 オリジナルEPです。別名を関係の清算?


Syndrome53 MotherとEVEくらいに違う ①

 もう用を成さなくなりつつある光ヶ森高校の制服に、何か月かぶりに袖を通した。

 仮住まいならぬ仮学び舎だった光ヶ森高校への通学路をなぞって歩く。

 

 ほんの少し前まではそうして生活していた。2018年を生きるただの男子高生みたいに。

 女子生徒の制服を着たツクヨミと、いつもヘラヘラしていた常磐ソウゴと、三人で、毎日。

 

 ――3年G組の教室に入ると、いくらかのクラスメートが朝の挨拶をしてきた。女子の数名はツクヨミに何かと絡んで世話を焼きたがってたな。

 

 予鈴が鳴ったら、ジャストで先生が教室に来て、講壇に上がった。

 

 “それでは、今日も朝のHRを始めましょう”

 

 ――全て、全て、今日で最後にする。

 

 ジャケットの懐から両手に取り出した物。左手には俺を進化させるとの触れ込みのゲイツ・リバイブウォッチ。右手には、ツクヨミと共に四苦八苦して書き上げた――『退学届』。右手にある物を先生に渡せば、それで終わる。

 

 俺と常磐のどちらともが決戦兵器を手に入れたんだ。オーマの日はそう遠くない。

 その日――俺かあいつか、どちらかが死ぬ。

 

 常磐ソウゴが勝ってオーマジオウになるか、俺が勝って歴史を変えるか。この二択の他に未来はない。

 その運命を、リバイブウォッチを手に取った時、やっと受け入れることができた。

 

 オーマの日がいざ来た時に、先生を危険に晒したくはない。

 どんな闘争の巷だろうが先生が飛び込んでしまうのは、アナザーリュウガの一件で証明済みだ。

 そうなる前に、先にこちらから突き放す。

 それが俺に思いついた、せめてもの彼女の“守り方”だった。

 

 俺たちのどちらが死んでも、彼女は泣くんだろうな。

 世界の行く末が懸かっていようが関係なく、魔王や救世主なんて肩書きなんて越えて。

 ただ、“生徒”の死にむせび泣く――

 

 新しいウォッチと二人分の退学届を懐に戻した。

 

「登校する日取りを間違えてないかい? ゲイツ君」

 

 ……身構えることはしない。慣れた。慣れたくなかったというのが本音だが。

 

「白ウォズか? それとも黒ウォズか?」

 

 『逢魔降臨暦』を片手に携えた煤色のストールの男に、厭味のつもりで言い放った。

 

「黒いほう。というかキミ、我が魔王もだけど、分かっててやってるだろう?」

「知らん。どけ。俺は学校に用がある」

「私はキミに用がある。なに、大した時間は取らせない。ちょっとした保険をかけるだけだ」

 

 俺は黒ウォズを無視して再び歩き出そうとした。

 

「キミは気づいているかな? 王母織部とキミの師匠殿の存在の危うさに」

 

 先生のみならずミトさんにまで話題が及んで、俺は反射的に足を止めてしまった。

 

「何が、言いたい」

 

 ――吐き気がする。心臓がドクドクと鳴って煩い。

 

「仮に、だ。仮にキミが我が魔王をこの時代で斃し遂せたとして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。明光院ミトはオーマジオウ決戦兵器として生を享け、過去へ飛ぶ任を帯びた。巡り巡って、彼女は織部美都を出産した。彼女たちの出生はどちらも我が魔王に起因する。分かるかい? キミは我が魔王を弑することで、敬愛する二人の師をも殺そうとしているんだ」

 

 

 

 

 

 せっかくのひな祭りの日ですが、悲しいかな、私は本当に久しぶりに休日出勤です。四月スタートの新学期の準備が間に合いませんでしたので。

 といってもこれについては私に限った話じゃありません。年度過渡期はどの先生も出ずっぱりです。

 新一年生の入試の二次試験と、卒業式&入学式というハードモードが春休みです。明けて四月には実力テストがあるので、その作問もありますし。言い挙げるとキリがありません。

 

 我が3年G組の教室も二次入試の会場に使用されますので、今日は室内チェックです。

 置き勉なし。日本史年表ポスターはすでに剥がしました。机に落書きしてたら消すように生徒たちには言っておきましたが。

 

 がらんとした教室を見回して、苦笑が漏れた。

 

 自由登校になってから、うちのクラスの生徒たちを含めた三年生を校内で見かけなくなりました。

 彼ら彼女らは今頃、新居探しや引っ越し、新生活に向けての買い出しや挨拶、入学や入社の手続き、そして高校最後の思い出作りと、忙しい日々を送っているのでしょう。

 

 卒業式の日、泣かずに彼らを見送れるといいのだけど。

 

「先生」

「わっ、はい! ……あ」

 

 明光院君……気がつきませんでした。いつの間に教室に入ったんでしょう。あ、ドアが開けっ放しでした。

 

 私が挨拶するよりすばやく、明光院君は私に二通の封書を突き出しました。

 

 愕然と、しました。

 封書には、『退学届』と書いてあったのです。

 

「俺もツクヨミも、ここの生徒として“卒業”することはできそうにない。かといって、ずっとここに留まることもできない。受け取ってほしい。俺たちなりのけじめだ」

 

 分かる、分かるの。

 

 正式に在籍していない彼らを学校に縛るものは本来何もない。こんな物を出さなくても、彼らはいつだって“光ヶ森高校の生徒”でなくなることができた。

 それをあえて形式に則ったのは、明光院君もツクヨミさんも、自分を光ヶ森高校の生徒だと思ってくれているから。

 だから私は、担任教師として、彼らの誠意に報いてこの退学届を受理するべきなのに。

 どうして私、今にも泣き出しそうなの?

 

「先、生――」

 

 何も言えない。声にならない。

 ああ、理由なんてシンプルだった。

 

「それを受け取ったら、私は二度と、君に関わることができなくなるのでしょう?」

 

 ぴったり3秒間、数えた。

 

「そうだ」

 

 浅はかな話ですが、私は彼にこの宣告を突きつけられるまで、どこかで甘えていました。そんなことはない、と彼が口ごもって、本心じゃないと言ってくれる展開に期待していました。

 

 今まで私は、彼に邪険にされたり文句を言われたりすることはあっても、本気で拒絶されたことはありませんでした。……こんなにも、悲しい、ことだったんですね。せり上げた涙は引潮のように失せて、呑み込んだ感情が鉛と化して沈殿するほどに。

 

 私は我ながら緩慢な手つきで退学届を受け取りました。

 

「確かに受理しました。残念です。お飾りでも、君とツクヨミさんには卒業証書を贈りたかったのですが」

「ああ……」

「わざわざありがとうございました。ツクヨミさんによろしく伝えてください」

「……わかった」

 

 明光院君が私に背を向けて教室を出て行きました。

 

 ドアが閉じて、足音が聞こえなくなってから。

 私は二通の退学届を胸に抱いて、泣き崩れた。

 

 ――それを廊下で聞いた一人の男子生徒が、明光院君を追って走り出したとも、知らずに。




 思い出されよ、読者諸賢。
 3/3放映のEP24で、ソウゴは再追試のために登校していたことを(`ФωФ') カッ
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