「馬鹿正直で無意味な説法に免じて教えてやるよ。――聞けばそいつは魔王? とかになるんだろ。それを危険視した奴が未来から来て、そいつを消そうとしたらしい。俺は今でもハッキリ覚えてる。2009年4月24日。あのバスの中で、そいつが俺の近くのシートに座ってたこと。常磐ソウゴの名前を叫んで、銃の引鉄を引いた白い女のこと。俺の父さんと母さんは、そいつのせいで事故に巻き込まれたんだッ!!」
私は言葉を失って立ち尽くした。
常磐君の両親が他界されていることは、常磐君本人から言われたわけではないけど、うっすらと察してはいた。でもそこに、オーマジオウが関わってくるなんて夢にも思わなかった。
そして、加古川君が言った「白い女」と「銃」。この二つを兼ね備えて、オーマジオウを危険視する人物に、私はツクヨミさんしか心当たりがない。
「ほら、言ってやったぞ。これでもまだ暴力に訴えるのは間違いだって言うのか? 家族を殺された奴を斃して、仇を取りたいと思う俺は間違っているか!?」
言い返せない。どうして? 少し前、ううん、去年までなら、私はきっぱり「間違いです」と言っていただろう。なのに、何が喉を堰き止めているの?
加古川君が再びアナザーライドウォッチのリューズを押して、まるで常磐君が変身する時のように腹部にウォッチを押しつけた。
《 Zi-O 》
加古川君が変身したアナザーライダーの姿を見て、私はショックのあまりその場に頽れた。
乳白色のボディ。宝石ではなく、血管を体外に剥き出しにしたローズピンクのライン。フェイスマスクとバックルには「2019」の刻印。
「ジオウの、アナザーライダー……」
まさか、と思いながら、そんなわけない、と心の中で遠ざけていた可能性が、現実のものとして目の前にある。どんな悪夢よりひどい光景。
『――黒ウォズ。美都せんせーを頼む』
ジオウⅡとアナザージオウの戦いの火蓋が切って落とされた。
二つに増えたドルフィン針がジオウⅡの顔面で回転した。ああすることで彼は未来予知をして敵にイニシアティブを取る。
なのに、アナザージオウもまた、一つきりのドルフィン針を回転させた。
『お前の未来も、視えたぞ!』
二人がフィニッシュ・タイムの構えを取ったのは同時。
《 タイム・ブレイク 》
重なり、相殺する。ジオウⅡが放ったジョーヌブリリアントの閃光と、アナザージオウが放ったルビー色に輝くエネルギーエッジ。
「常磐君!!」
「いけない! 王母!」
黒ウォズさんが私を押し留めた。直後に巨大なエネルギーの衝突の余波が私たちにも叩きつけた。
視界がようやく晴れる。
ジオウⅡもアナザージオウも健在だった。変身解除に至るほどのダメージは追わなかったみたい。
でも、このままじゃジリ貧です。両者の力が伯仲していて、決着をつける決定打が無い。戦いの泥沼化は必至。どうすれば。
私や黒ウォズさんがいるのとは別の並木道に、駆けつけた人たちがいた。
ゲイツ君に、白ウォズさん?
「すでにジオウたちもいたか……! 行くぞ、白ウォズ」
「キミと並び立てるとは感激だよ。我が救世主」
彼らはおのおのドライバーを装着して、ライドウォッチをセットしました。
「「変身!」」
《 ライダー・タイム カメンライダー GaIZ 》
《 “投影” フューチャー・タイム スゴイ・ジダイ・ミライ カメンライダーウォズ・ウォズ 》
まさかのゲイツ君と白ウォズさんの二段構え!?
あの様子だとお互い示し合わせての共同戦線です。ゲイツ君もそれだけ加古川君を――アナザージオウを警戒していたということです。
まずはゲイツが肉弾戦でアナザージオウにぶつかって行った。
《 “投影” パッション・ファッション・クエスチョン フューチャリング・クイズ 》
その隙にウォズはクイズミライドウォッチへ換装。ゲイツと交替して、アナザージオウにジカンデスピアーで斬りつけた。
『問題! トマトは野菜だがフルーツトマトはフルーツである。〇か×か!』
とりあえず白ウォズさんは全国のトマト農家さんに謝りに行ってください。
ああ、案の定です。赤と青の「?」型拘束を、アナザージオウは容易く破りました。
ゲイツが壁に手を突いて立ち上がりました。
彼の手には、砂時計型のブランクウォッチが握られています。私は初めて見るウォッチです。もしかしてパワーアップアイテムですか!?
ゲイツが砂時計ウォッチのリューズを押した――
――あれ? 何も起きませんよ?
『な!? 何故だ!?』
ゲイツは何度もリューズを押し直しますが、新しいウォッチは一向に起動しません。
そうしている間にもアナザージオウはゲイツに迫ります。
寸での所でウォズが割って入って食い止めなかったらどうなっていたか。
ですが、ゲイツが用意した何かしらの策が通用しないのなら、またも泥沼化の戦況まで待ったなしです。状況の打開策が思いつきません。
「はいはい、そこまでー」
戦場にあっては暢気すぎる、少女の声。
直後、灰色のオーロラが降りて、アナザージオウだけを包んでこの場から退場させてしまいました。
「小夜さん!」
「ハァイ。お昼ぶり、美都さん。割と悲惨な現場ねえ。誰も敵わなかったんだ。アナザージオウに」
わわわっ、そこストレートに言っちゃだめですよ!
慌てて小夜さんに駆け寄ろうとした私でしたが、二の腕に何かが倒れてきた衝撃で踏み止まりました。
気絶した常磐君が傾いて、私にぶつかったのです。
「常磐君、しっかり! 常磐君ッ!」
私は常磐君の口元に耳を近づけました。
よかった、呼吸はある。戦闘疲れで昏倒しただけみたいです。命に別状がなくて、本当によかった。
「キミにはがっかりだよ、我が救世主」
あちらはあちらで静かにしていてはくれません。白ウォズさんとゲイツ君が言い争っています。
ゲイツ君に胸倉を掴まれて凄まれているのに、白ウォズさんは余裕綽々です。
「リバイブウォッチが起動しなかったのがその証拠だ。リバイブウォッチは魔王を斃すための力。キミの動機と連動している。今やキミは、牙を抜かれた獣だ。キミの使命を思い出してもらいたいね。このままでは、ツクヨミ君に
白ウォズさんは言いたい放題の末、不吉な言い回しを残して去って行きました。
「美都さん。わたし、ソウゴ君を連れて帰っとくね。黒ウォズさんとも話しておきたいし」
「お願い、できますか?」
「ええ。お任せよ」
私は支えていた常磐君を黒ウォズさんにお願いしました。
程なくして灰色のオーロラが降りました。小夜さんが笑顔で手を振るのを最後に、彼女たち全員が消えました。
私は、一人佇むゲイツ君に歩み寄りました。