70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

73 / 121
 畳んでやる! 何が何でもあの4話分を畳んでやるー!(ノД`)・゜・。


Syndrome59 仮面ライダーに捧ぐ卒業式〈リハーサル〉

 俺が煮え切らなかったばかりに、ツクヨミが手を汚した末に、死んだ。

 

 先生は「まだ死んだと確定したわけじゃありません!」と訴えたけれど、あの規模の爆発の中で生き延びたという夢想は、俺にはできないんだよ。先生。

 

 白ウォズの言う通りだ。このままではツクヨミに顔向けできない。

 ならばせめて、遅すぎた決断を今からでも下そう。遅すぎた覚悟を、ここに示そう。

 

 トップギアで走らせたライドストライカーで、俺は、ジオウとアナザージオウの戦う真っただ中に割り込みをかけた。

 

 変身はしていない。生身のままで突っ込んだ。バイクに乗っていようが、いやむしろ乗っていたからこそ、アナザージオウに衝突した瞬間に手足の骨が一気に外れたんじゃないかってくらいの反動があった。

 

 ライドストライカーがウォッチに戻ったが、俺はそれを拾わないで立ち上がる。

 

『また邪魔しに来たのか……! 帰れ!! 常磐ソウゴは、俺が斃すべき存在だ!』

 

 ――違う。ジオウを斃すのは、お前じゃない。

 ――この俺だ。

 

『ゲイツ……?』

 

 呼ぶな。

 そんな、親しい人間の暴挙に戸惑う声で、俺の名を呼ぶな。

 

 ジクウドライバーの右側には、お前に殺されたミトさんから受け継いだ、悔恨の力を。

 左側には、砂がとっくに落ちきって手遅れを否応なく告げる、贖いの力を。

 

《 GaIZ  “リバイブ” 》

「――変身」

 

 願っても取り返しのつかない時を巻き戻すかのように、バックルを逆時計回りに回した。

 

《 リ・バ・イ・ブ  剛烈 》

 

 新しい力――俺だけの力が、全身を装甲した。

 排熱を行うボディスーツとは裏腹に、俺の思考はどこまでも冴えている。感慨に耽る気すら起きなかった。

 

「祝え! 巨悪を駆逐し、新たな未来へ我らを導く救い主(イル・サルバトーレ)。その名も仮面ライダーゲイツ・リバイブ! 真の救世主がこの地に降り立った瞬間である。――何があったか知らないが、見違えたよ、我が救世主。今こそゲイツ・リバイブの力を解放する時だ」

 

 俺がジオウへ向けて踏み出そうとしたところを、アナザージオウが背後からがむしゃらに止めようと突っ込んできた。デフォルト装備で戦った時には強敵だと感じたのに、今はちっともそう思えない。()()()()()()()

 

 俺は振り向かないまま、アナザージオウの胸板目がけてジカンジャックロー(電動丸鋸)を突き出した。的中だと手応えで分かったし、今の一撃だけで、アナザージオウは後ろのコンクリートブロックを軽く3層はブチ抜いて吹っ飛んだだろう。

 

 これほど圧倒的な力を揮いながら、胸に何の高揚も湧いてこない。

 ただ、アナザージオウが、ジオウと決着をつけるために邪魔だ。だから、退場させる。その程度にしか思考が働かない。

 

 追撃は必要なかった。

 スウォルツが現れて時間停滞を発動し、アナザージオウを連れて撤退したからだ。

 

 時の流れが正常に戻ったところで、ようやくジオウⅡが声を上げた。

 

『ゲイツ、一体何があったの?』

 

 話すことなんて何もない。そう言い捨てるだけですんだ。なのに。

 ことばが、出てこない。

 

 ――過去のお前や加古川が遭ったというバス事故を追ってツクヨミは消えた。生死すら不明なんだ。でもな、ツクヨミは少なくとも、決断できなかった俺に代わって、自分の手を汚してでも、いつか魔王になるお前を消そうと全霊を尽くした。でもお前はこの2019年にこうして健在だ。ツクヨミはしくじった。なら俺が手を下すしかないだろう? 俺もツクヨミも同じ、“オーマジオウ”を歴史から消すという目的で時空を超えて来たんだから。

 

 ああ、何だ。俺がショックだったのは、ツクヨミが死んだかもしれないことじゃなかっ

た。我ながら何て薄情者だ。

 

 

 “ゲイツ。女の子は大事にしなさいよ。でないと大人になった時に後悔するんだから。――イヤそうな顔しないの。いつか出逢う運命の相手への予行演習だとでも思いなさい。そうねえ、まずは……バディ組んでるツクヨミを守れるようになろっか”

 

 

 ミトさん。俺はまた一つ、アンタの言いつけを破ってしまった。

 

 アンタが俺にドライバーとウォッチごと託した“仮面ライダー”という在り方。一つ破って遠のくほどに、死んだミトさんが、俺の中でもっともっと死んでいく気がした。

 

「二人とも、待って!! まだ争っちゃダメです!!」

『美都せんせー!?』

 

 ああ、彼女が来てしまった。居合わせたら絶対に俺たちを止めると思ったから、あえて連れて来なかったのに。

 

 彼女は崩れたコンクリート片を危なっかしい足取りで避けながら、それでもいくらかストッキングを伝線させて、俺たちの――俺の前まで来た。

 

「明光院君。恐れ入りますが歯を食い縛ってください」

 

 は、と反駁する暇もあらばこそ。

 先生は平手で、俺の顔面を、ひっぱたいた。

 

 変身中だから俺のほうは痛みなんて皆無、なのに、殴られたという現実だけで充分すぎるショックがあった。

 目の前の先生は、俺を叩いた手を真っ赤に腫らして、俺なんかよりずっと痛いだろうと分かるのに。

 

「常磐君に何か、言うことがあるでしょう。まさか、何も打ち明けないまま、ゴリ押しで闘おうとしたんじゃないでしょうね?」

 

 否定はできない。先生が割って入らなければ、俺は結局何も告げずに、問答無用でジオウⅡとの交戦に入っていただろう。

 

「加古川君だって、常磐君を恨んでる理由、襲う理由がどんなものかをちゃんと言いました。理由があれば人を傷つけていいわけでは、もちろんありません。ですが、理由もなく人を傷つけるのも、同じくらい、いけないと思います。それと、何より、加古川君にせよゲイツ君にせよ、闘いを吹っかける理由は君たちの手前勝手。その対象である常磐君には何の罪もないじゃないですか!」

 

 ――カチン、と。

 何か、途轍もなく取り返しのつかないスイッチが、俺の中でONになった。

 

『ジオウに何の罪もない、だと?』

 

 常磐ソウゴがオーマジオウなんかになってしまうばっかりに、俺の師匠で育て親だったひとが、大勢のレジスタンス仲間が、世界中の無辜の人々がこれから死ぬというのに。その悲惨な末路を知りながら未然に防ぐ努力をしないほうが、よっぽど罪深いじゃないか。

 

 それどころか、アンタは「王母織部」なんて仰々しい二つ名で呼ばれるほどに、オーマジオウの人格形成に一役買ったんだろう?

 俺からすればジオウもアンタも同じくらい罪深い人間だ。

 罪深いと言っていいくらいに、愚かな、人間だ。

 

『もう、いい』

 

 ツクヨミのためじゃない。ミトさんのためじゃない。俺自身の正義のために、コイツらの息の根をここで止めなくては。

 

『ゲイツ!? くっ……せんせー! 俺から離れないで!』

「は、はいっ!」

 

 ――遅い。

 さっきアナザージオウと闘った時と同じだ。ジオウⅡにせよ彼女にせよ、動きが停まって見えるくらいに、俺のほうが加速できるようになった。

 

《 リバイブ  疾風 》

 

 女一人を背中に庇ったジオウⅡの背後に回り込むなんて、あまりに容易い。

 

『せんせー、ごめん!』

「きゃっ!?」

 

 ジオウⅡが先生を突き飛ばしたせいで、俺が突き出したジカンジャックロー・つめモードはジオウⅡしか射程に捉えられなかった。

 

 なら、後回しでもいいか。生身の女一人、始末するなんて簡単だ。

 

 ジオウⅡをスピードクローで攪乱する。攪拌する。ズタズタに。ザクザクに。

 

「常磐君ッ! ゲイツ君、やめてください!」

 

 やめない。

 地べたに落ちたジオウⅡに、ジカンジャックロー・のこモードを振り上げ――

 

 背中に何かがぶつかってきた。

 

「ライダー・シンドローム!」

 

 

 

 

 

 気がつけばジオウⅡが目の前にいない場所にいた。その上、変身が強制解除されていた。

 

 たったさっき俺の背中に抱き縋ったひとは、そのままの態勢で、息を荒げている。

 

「も、ぅ…やめて、くだ、さっ…おね、がい…だから…わたしの生徒、を…ぇっく…これ以上、いじめ、ないでぇ……ふぇ、えええん……っ」

 

 ――頭から冷水をぶっかけられたらこんな気分かもしれない。

 たったさっきまでの自分自身の残虐性に、他ならぬ俺がぞっとした。

 

 何で俺はあれほど異常に常磐や先生が憎くてならなかったんだ? どうして二人をあんなにも傷つけたくて堪らなかったんだ?

 売り言葉に買い言葉? ムキになった? いいや、そんな生易しいレベルじゃない。破壊衝動や力そのものに憑き動かされて、思考が完全にイカれていた。

 

「先生……」

 

 ビクン! 先生が大きく体を強張らせたのが、密着した背中から伝わった。

 

「もう、しない。俺が、どうかしてた。だから、その、な」

 

 泣かないでくれ、と言う前に。

 

「感謝を申し上げる、王母。あんな形での決着など、もう一人の私を喜ばせるだけだっただろうからね」

 

 最悪の邪魔が入った。

 

「黒ウォズ……」

 

 すると、先生は俺の背後でさらに縮こまった。

 もしかして、泣き顔を黒ウォズに見られるのが恥ずかしいあまり、盾にされたのか、俺?

 

 ――距離が、近い。もしかすると去年のクリスマス前、車の中で抱き合った時くらいに。

 彼女から離れてくれないなら、俺が居直るしかないじゃないか。

 

「何のつもりだ」

「キミのためさ」

「お為ごかしを言うな!」

「――やっぱり気づいてなかったか。まあ()()()には気づけないか、この状態じゃ」

 

 黒ウォズはほんのわずかに俺を見下ろしてから、わざとらしく溜息をついた。

 

「我が魔王を斃したいという気概は買うから、そろそろ王母から離れてくれないかい? 偉大なる魔王と救世主(笑)の決着が痴情のもつれに起因するなど、預言者として語るに忍びないことこの上ないのでね」

 

 俺が反論するより、先生が俺の背中から俊敏に離れるほうが速かった。密着されたらされたで困るが、離れられると途端に空しくなるのは何故だ。

 

 というか黒ウォズ。さっき、(笑)(カッコわら)わなかったか、おい? 事の次第によってはもう一回、リバイブに変身して凹るぞエセ預言者。

 

 とかなんとか考えていたのが表情に出たからか、斜め後ろから先生が俺の服の裾を摘まんで、涙の跡の残る顔で一生懸命に首を横に振った。

 ――分かった。短気は控えるから、泣き顔はやめてくれ。本当に。

 

 

 

 

 

 明光院ゲイツが織部美都に気を取られている隙を見て、黒ウォズはさらりと両名の前から姿を晦ましていた。

 

「――実に下らない三文芝居だ」

 

 いっそあの場で、織部美都がうっかり殺され、それを実行した明光院ゲイツが精神を破綻させてしまえば、不確定要素をまとめて一掃できたのに。

 

 考えてみて、彼はくつくつと笑みを漏らした。

 

 明光院ゲイツはともかく、織部美都に関しての所感が常磐ソウゴに知れれば、この世に産まれたことを後悔するほどの仕置きが待っていると安易に想像がついたからだ。




 黒ウォズが言った「気づかなかった『そっち』」が何かはお分かりいただけると信じて。
 簡単ですよ。この文中のゲイツ、超ピンピンしてますよね?
 そしてこの直前、美都せんせーのライダー・シンドローム開放。
 はい、説破。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。