70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome61 三人寄れば文殊の(悪)知恵 ②

 ――カチッ

 

 カメラのシャッターを切る音が、ツクヨミの意識を呼び覚ました。

 

 節々が痛む体をどうにか起こせば、離れた位置に、火煙を上げる都市を撮影する男が一人。

 

「アナタは――」

「門矢士。お前らがレジェンド10とか呼ぶ存在だ」

「レジェンド10……仮面ライダーディケイドが、どうして」

 

 よくよく見れば、門矢士はたったさっきまでツクヨミや幼いソウゴたちが乗車していたバスの運転手と同じ服装だ。つまりあのバスを運転していたのは彼だったのだ。

 ツクヨミ自身に時空転移の固有能力はない以上、この時代にツクヨミを緊急避難させたのは彼ということになる。

 

 士はツクヨミの問いに直接答えはしなかった。

 

「見ただろう。あれがお前たちの追っていた、“魔王”が誕生した瞬間だ」

 

 ツクヨミは思い返す。

 白昼堂々、タイムジャッカーの、否、それ以上の能力を行使し、あのバスを事故へ追いやったスウォルツ。

 2000年生まれ(ミレニアムチルドレン)の中でただ一人、果敢にスウォルツに食ってかかった、幼いソウゴ。

 ソウゴを守ろうとして、ツクヨミはファイズガンを撃ったが、スウォルツには通用しなかった。

 

 2009年4月24日の事故は、スウォルツが仕組んだものだった。

 それも、8~9歳の少年少女を拉致し、魔王の器をテストするためという、悪辣な目的のために。

 そして幸か不幸か、常磐ソウゴは王の資格ありとスウォルツに見込まれてしまった。

 

「っ! ソウゴたちは!?」

「常磐ソウゴと加古川飛流なら、スウォルツによって2009年の事故現場に戻された。のちに発見された二人の少年は、救助され、悲惨な事故の二人きりの生還者となるって筋書きだ」

「どうしてアナタはここに?」

 

 士はまたも答えない。

 ツクヨミは業を煮やして士に詰め寄ろうとしたのだが。

 

「おーにーいーちゃーん?」

 

 ギクゥ! と。彼のイメージからは信じがたいほど、門矢士は大きく肩を跳ね上げた。

 彼は、ぎ、ぎ、ぎ、と後ろを――ツクヨミより遥か後方を顧みた。

 

「さ、小夜……」

「やーっと! 見つけたと思ったら! 何このいかにも核心のシーン真っ最中ですって光景はっ!」

 

 そこにいたのは士の妹の門矢小夜だが、同時に白いゴシックドレスに身を包んだ大神官ビシュムでもあった。その出で立ちから、ツクヨミにも小夜の怒り心頭は察せられた。

 君子危うきに近寄るな、という明光院ミトの教えを思い出し、ツクヨミはそろりそろりと兄妹の間から下がった。

 

「お兄ちゃん。小夜が頭に来たらどういうことになるか、まさか忘れてないよね?」

「分かった俺が悪かっただから落ち着け小夜!! 昔のあれ地味にトラウマなんだぞ!?」

「わたしにとってもトラウマだもん! 言っとくけど士お兄ちゃんの帰りがあと一日遅かったら、わたし、本当に月影さんと結婚式挙げてたんだからね!」

「知りたくなかった10年越しの真実!」

 

 士が頭を抱えてのけ反った。

 門矢士の『世界の破壊者』という看板はこの瞬間、ツクヨミの中で崩れ落ちた。それはもう派手に、ガラガラと。今なら士に正面切って「シスコンだったの?」と訊ける気すらした。

 

 門矢兄妹がぎゃーすか言うだけ言い合い、互いに息を切らしたところで、ツクヨミはなんとなく疲れながらも尋ねるべきを尋ねた。

 

「アナタはソウゴをどうするつもりなの?」

「――常磐ソウゴが魔王になる未来しか見えないなら、結論はすでに出ている。しかし――」

「そうじゃない道も、あるということ……?」

「――お兄ちゃん?」

「現状、数多の可能性が交錯しているが、お前たちにも分かりやすい結果だけを述べるとすれば、有力な“未来”は三つある。一つ目、常磐ソウゴが魔王となって世界を荒廃させる未来。二つ目、明光院ゲイツが常磐ソウゴを魔王になる前に討ち、現状を維持する未来。この内、実現する目が最も高いのが一つ目ってとこだ」

 

 小夜がツクヨミのそばまで歩いてきて、眉根を寄せて彼女の兄に問うた。

 

「三つあるって言ったよね。三つ目は?」

「三つ目というよりは、一と二の間、1.5番目とでも言うべきか。1.5の未来では、闘いによらず破壊によらず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。愛に殉じるといえば聞こえはいいが、この分岐では()()()()()()()()()()()()()()()()。善人にも悪人にも等しく救いがない。このまま放っておけば歴史は1.5へ進むだろう」

「何で?」

「……ここまで説明させといて、さらに言わせるか?」

「言ってくれなきゃ分かんない。士お兄ちゃんはいっつも肝心なことだけ言わないって、ユウスケさんやキバーラから聞いてるんだから」

「あいつら……はあ」

 

 士は制帽を外すと、今なお破壊の続く都市を見やった。

 

「1.5に進むかは、織部美都に大きく起因する」

「先生に?」

「アナザージオウ。二人のウォズ。タイムジャッカー。どの横槍も実は大した影響力はない。この命題を担うのは、当事者の片割れ、常磐ソウゴだ。ソウゴが美都のためにオーマジオウになると決意したら。本来の動機であるはずだった『ゲイツへの友情』より、そちらを取ってしまったら。もう後戻りは利かない。ソウゴは『みんなを護る王様』ですらなくなる。結果として、ただひとりの女のために魔王を演じるピエロしか残らないって寸法だ」

 

 士が懐ポケットから取り出した品は、盗まれて久しい美都の懐中時計だ。

 

「封印具を持たない今、織部美都の(シンドローム)は底のないバケツ同然だが、だからってまた封印具を持ち歩くようになれば、彼女は自衛手段がないまま仮面ライダーに関わり続けることになる。その場合の最悪の事態は、すでに一度起きかけただろう?」

 

 ツクヨミは身も凍る心地で思い出した。

 2018年12月末。ジオウとゲイツの諍い。美都は彼らの間に飛び込んで致命傷を負った。

 あの時は小夜が(シンドローム)と魔宝石の指輪を利用して快癒させたからよかったものの――

 

 あんな悲劇が、また織部美都に降りかかる?

 

 

 “驚きすぎてかえって冷静という感じです”

 

 “全員揃いましたので、朝のHRを始めます!”

 

 “ツクヨミさんは、ケガとかしませんでした?”

 

 “遅くなってすみませんでした、ツクヨミさん”

 

 “よく知らせてくれましたね”

 

 

 かけてくれた言葉と、笑顔。危なくなったら心配してくれた。大したことでないのに褒めてくれた。

 対等な個人として接しながらも、“生徒”への配慮を怠ることはなかったオトナの“先生”。ミトの他にそんな教育者がこの世にいるなんて思わなかった。

 

 そんな得難い女性が、仮面ライダーの闘争によってまた血を流すならば。

 

 ――そんなのイヤよ。理不尽だわ。許せない。

 

 ツクヨミの中で結論は呆気なく出た。

 あるいは、彼女に“生徒”扱いされた日から、自分はこう答えを出すことが宿命だったのではないかとさえ感じた。




 真剣な問答のはずが、小夜の参戦によってシリアスが全力でエスケープ。
 このシーンのためにディケイド映画返①を何度も観返しましたとも。しみじみ。

 いずれはオリジナルEPで「1.5の世界線編」をやる予定ですので、ちょいと布石をば
(ただし予定なので未定であることを悪しからずご了承くださいm(_ _"m))。
 作中の士が説明した通り、1.5世界は、美都せんせーが「ソウゴやゲイツにどういう存在として見られていたか」がキーとなります。特にソウゴから。
 それについては次回、温存に温存を重ねたソウゴの本音ぶちまけターンが炸裂する予定です。
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