70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 今さら過ぎますがサクラサク版仲直り回へ向けてよーいドン!


Syndrome62 仰げば尊しわが師の

 ――やめて。おじさん。それは言わないで。

 

 

 “さびしい時くらい、大丈夫なんて言わないで! ちゃんとさみしいって言いなさい!”

 

 

 サビシイなんて、言っちゃダメなんだ。お願いだよ、言わせようとしないで。

 

 

 “さびしい時に『さびしい』って言えない人間なんて、人の痛みが分からない()()になっちゃうぞ!”

 

 

 気づかせないで。本当は初めから、ちゃんとずっと、俺はおじさんに■■されてた、なんて。

 

 

 “帰ってくるんだよ!? 絶対絶対、この(うち)に帰ってくるんだよ!”

 

 

 でないと俺――泣いちゃう、よ……

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 私がどんなに言葉を尽くしても、ゲイツ君は常磐君との決戦を急ぎたがりました。

 ついには私の意見なんてまるっと無視して、彼は常磐君に「土星館パーキングで待つ」というメッセージをスマホで送信してしまいました。

 

 いずれ避けられない決着だとしても、今この時は“その時”ではないと、私は思いました。

 

 こうなった以上、せめて二人が対面した時に、もう一度やめてくれと訴えられるように、私はゲイツ君に同行することを選びました。

 

 

 いざ土星館のホール正面に到着した時でした。

 私のスマホにメールが届きました。常磐君からです。私は急いでメールを開封しました。

 

 そこに綴られていたのは――常磐ソウゴというただの18歳男子の、あまりにも痛ましい懺悔と決意表明でした。

 

 

 

 

 

 このメールを美都せんせーが読む時、俺はゲイツとの決着をつけるために出発したあとだと思います。

 闘いの結果がどうなるかは分からないから、今まで美都せんせーに言えなかったことを、今の内にぜんぶ言っておくね。

 

 最初俺は、自分が美都せんせーを恋愛的に好きなんだと思ってた。せんせーだけが俺の夢の理解者で、きっと俺の運命の人なんだって、本気で信じてた。

 

 ――叶わない恋で、よかった。

 

 俺は独占欲が強いほうだから、G組のクラスメート全員を巻き込んで、みんなが美都せんせーを好きで、俺はその生徒の中の一人なんだって自分を位置づけて、なんていうか、ままごと遊びの「好き」でいられるよう、予防線を張った。

 

 あ! だからって、G組のみんなが美都せんせーを慕ってるのは嘘じゃないからね!?

 みんな、俺ほどじゃないけど、それなりに変わった半生を送ってきた。なのに生徒を奇異の目で見たり接したりしない美都せんせーを、みんながかけがえのない存在だと思ってる。俺が断言する。

 

 それでも、仮面ライダーの事件で何度も一緒に行動して、徐々に、俺自身のせんせーへの気持ちって何なんだろ? って思うようになってった。

 

 早瀬さんの護衛に行った時に、気持ちの正体が分かったよ。

 あの時、黒ウォズに言われたこと、覚えてる? 「まるで本当の母子みたいだ」っていう、アレ。

 あの時に、こう、すこーんって、分かっちゃったんだ。俺が美都せんせーをどんなふうに好きだったのか。

 改めて思ったよ。――叶わない恋で、よかった。

 

 

 美都せんせーは、俺にとって“お母さん”でした。

 

 

 ほら、俺さ、小3で両親と死に別れたでしょ? どうしても父親母親の代わりをしてくれる人を探しちゃったんだよね。

 まあ、大体のオトナが、俺の「王様になる」って夢を聞いて手の平返したんだけど。

 優しいご近所のオジサンオバサンも、小中学校の先生も、みーんなそうだった。

 それはもういいんだ。むしろ風当たりにめげずに王様志望を貫いた俺のこと、褒めて褒めて?

 

 でも、心の隅っこでは願ってたのかもしれない。「俺のユメを笑わないで」って。

 

 光ヶ森高校に進学して、初めて美都せんせーと進路面談して、実はショックだったんだ。ショックはショックでもカルチャーなほうね。

 

 初めてだった。「王様になりたい」って言って、真面目に聞いてもらえたの。

 

 呆れられなかった。頭ごなしに怒鳴られなかった。適当にあしらわれなかった。

 

 単純でしょ? 俺、その時から、美都せんせーがどうしても欲しかった。独り占めしたかった。

 だって、荒唐無稽な将来の夢を真剣に受け止めて応援してくれるなんて、まさに“お母さん”じゃない。

 うん、白状すると、『美都せんせー』呼びも、クラスごと巻き込んでせんせーをアイドル扱いしたのも、主犯は俺だったりするんだ。外堀から埋めてった。こういうとこが黒ウォズの言ってた俺の魔性なのかな?

 

 尊敬してるっていうのは嘘じゃないよ。美都せんせーは間違いなく教師の鑑だ。

 けど同時に、俺は、心の底でずっと、美都せんせーに母親の愛を求めてた。

 

 黒ウォズから聞いてる。オーマジオウがいないと、美都せんせーたちは存在できなくなるんでしょ?

 

 いいよ。俺、オーマジオウになっても。

 

 笑ってそう言い切れるくらいのものを、先生は俺にくれた。

 先生は自覚してないだろうけど、それでいいんだ。“その程度のもの”が、俺が欲しかったものばかりだったから。

 今度は、俺が返す番。

 

 ――俺の未来を、あなたにあげます。

 ――その代わり、若い俺と、これまでと変わらず接してください。

 

 追伸。ゲイツは美都せんせーに脈ありまくりだよ。だからせんせー、ファイトっ!

 

 

 

 

 

 ――――嗚呼。

 私は、何と罪深い人間だったのでしょうか。

 

 こんなにも慕われながら、大切に想われながら、私は彼の深い愛に気づくどころか、思いを致すことさえしなかった。

 

 教師らしく在ろうと志す自分自身で精一杯だった。そんな姿勢の自分に酔ってすらいたのかもしれない。

 生徒に「いい先生」だと思われたくて、私にとっての正解しか探さなかった。

 

 私はスマホを胸に抱いて泣き崩れました。

 

「どうかし……先生!?」

「ごめん、ね…っ、ごめん…ごめんなさい、ソウゴ君…! ふ、ぅぇ、っく…ぅぅ…っ!」

 

 私は、間違うべきだった。

 彼のために、間違いだとしても、選べたことはいくつもあった。

 彼のための過ちを犯す勇気が足りなかったばかりに、彼に死ぬまで解けない呪いをかけた。

 

 どんなに時間を遡れたって、彼の心の針は巻き戻せない。

 巻き戻すということは、つまり、ソウゴ君の決意を穢すということだから。

 もう、取り返しがつかない……

 

 

 ――“本当に?”――

 

 

 ……あ。

 ちがう。私……ちがう!! 私がするべきは泣くことでも後悔でもない!!

 

 私はソウゴ君の進路指導をしてきた先生だから。彼が進む路をあえて過つのが私のためだというなら、私がその原因でなくなるよう、それこそ死ぬ気で足掻かないとだめなんですから!

 

 この時、私は本当の意味で覚悟を決めました。

 

 ソウゴ君。君を決してひとりぼっちにはさせません。

 先生はこれから目いっぱい、君の味方をします。

 

「どうしたっ? どこか体の具合が悪くなったのか?」

 

 ゲイツ君に対して首を横に振ってから、私は服の袖で涙を拭いました。

 

 叶わない恋でよかった。ソウゴ君はそう書いていました。

 叶わないと諦めながら、私を好きだという気持ちを今日まで絶やさないでくれて、私のほうこそ、ありがとう。

 

 将来に向けての準備。このメッセージにしたためられたソウゴ君の捨て鉢な決意を覆す方法。

 二つを思いつくことは簡単でした。実行しても成功率は低い、というだけです。

 だったら私は実行します。失敗すると事前に分かっていることは、行動を起こさない理由にはならないのですから。

 

 ごめんなさい、常磐君。君がよこした“進路希望”ですが、これだけは、先生、受理するわけにはいきません!

 

 しゃがんだ私に合わせて片膝を突いていたゲイツ君が、ふいに、敵意を剥き出しにしてふり返りました。

 

「またお前か。黒ウォズ」




 前に美都せんせーが黒ウォズと「王母織部」の名の由来を話した回がありました。
 その時に美都は「(しき)()」のほうに何か隠されているのでは? と考えましたが、実は「王母」のほうに重点が置かれていたんですよ。

 “あなたは俺にとって母にも等しい存在でした”
 誰にも知りえない、魔王の最敬礼。

 この名の隠された意味を知るのは、登場人物中では黒ウォズのみです。初対面の時点からあれこれ目上への態度を取ったのはだからです。
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