黒ウォズ、さん……
そう、ですよね。彼にとってはソウゴ君がオーマの日に正しく魔王オーマジオウになることこそ正史です。その予定調和を崩そうとしているゲイツ君を、彼が見逃すはずがありませんでした。
「言ったはずだよ。キミと我が魔王を闘わせるわけにはいかないとね」
「――この俺は昔の俺じゃない。ミトさんと組んでいなくても、俺は一人で戦えるようになった。相手が貴様だろうとだ」
ゲイツ君は、ジクウドライバーにゲイツウォッチとリバイブウォッチを装填してから装着しました。
《 GaIZ “Revive” 》
「変身」
《 リバイブ 疾風 》
ソウゴ君という“トモダチ”を打ち砕くための呪いのアーマーを、ゲイツ君はみじんの躊躇いもなく纏いました。
非戦闘員である黒ウォズさんは圧倒的不利なはずです。なのに、黒ウォズさんは笑みを崩しません。それどころか――ドライバーを取り出したのです! 白ウォズさんが仮面ライダーウォズに変身するために使用していたビヨンドライバーを!
そんな、こんなことって。いつの間に。どうやって。
黒ウォズさんは装着したビヨンドライバーにウォッチをセットしました。
「変身」
《 “投影” フューチャー・タイム スゴイ・ジダイ・ミライ カメンライダー Woz・Woz 》
黒ウォズさんまで、仮面ライダーに変身しちゃい、ました……
私は黒ウォズさんの胸中の覚悟を悟って、またも涙腺を決壊させそうになりました。
“本来”は仮面ライダーでなかった彼は、たとえ並行世界の自分自身のものといえ、ライダーの力を行使したことで自ら歴史のルートを外れたのです。厳密にはソウゴ君ではなく50年後の魔王オーマジオウへの忠誠心が動機だとしても。
きっと私はこれから黒ウォズさんを悪し様に語ることはできないでしょう。
『行くぞ、ゲイツ君!』
『……いいだろう』
ゲイツ・リバイブは感情を暗い湖底へ沈めた声で応じました。
そうして、私がどうすることもできない中、両者の闘いが始まってしまいました。
黒ウォズさんが圧倒的不利? 全くそんなことはなかったです。
素人の私にも分かりました。仮面ライダーウォズの体術というか、手足の捌き方というか、とにかくそういうのは全て重く練られた技です。もしかして、アーマータイムに頼っていない分だけ、地力はゲイツ君やソウゴ君より上なのでは?
『例えお前が変身しても』
ですが無情にも、ゲイツ・リバイブはウォズがくり出した拳を躱して、逆に彼の腕を掴まえました。
『俺のスピードには勝てない』
『ならばこれでどうだい!?』
仮面ライダーウォズは片腕だけでシノビウォッチをビヨンドライバーに追加装填して、シノビアーマーに換装しました。ウォズ・シノビアーマーは煙となってドロンと姿を消して、ゲイツ・リバイブから離脱しおおせました。
『逃がすか』
え、ゲイツ・リバイブが、消えた? 彼もウォズも、二人ともどこに。
なんて思った自分がすごく間抜けだったことを、あとから思い知りました。
――私の動体視力では追えなかっただけで、彼らは亜音速の中で熾烈な競り合いをくり広げていました。
いいえ、競り合いと言うとニュアンスが違いました。
疾風のゲイツ・リバイブのスピードにウォズは追いつけず、一方的に嬲られていたのですから。
私がようやく彼らを視界に入れた時には、剛烈のゲイツ・リバイブがウォズの胸板にトドメの一撃を抉り込んでいました。
変身が解除された黒ウォズさんが地面に転がりました。
黒ウォズさんの無力化を認めたからか、ゲイツ君もまた変身を解きました。
「言ったはずだ。俺がジオウを斃すと。お前に俺を止めることはできない」
「そうかな?」
黒ウォズさんの笑みは勝者のそれです。ゲイツ君にあれほど痛めつけられたあとなのに、どうして?
答えはすぐに示されました。
ゲイツ君が頽れて四つん這いになった。その口と、目からは、血が。
私は悲鳴を上げてゲイツ君に駆け寄った。
「ゲイツ君っ!!」
俺と黒ウォズの戦闘を遠巻きにしていた先生が、這いつくばる俺に駆け寄ってきて、傍らにしゃがんだ。
「ライダー・シンドローム……!」
ふうっと、鉛のようだった体が軽くなった。そうか。先生、
脱力した俺を、先生はほとんど抱くようにして支えた。両腕の感触が、とても、ミトさんを思わせた。ああ、本当に、母娘なんだな。
「王母!? 彼は我らが魔王を斃そうとしているのだぞ!? 我が魔王はアナタにとって可愛い教え子のはず! その教え子を傷つけようとする人間を助けてどうするッ!」
「私はソウゴ君とゲイツ君、どちらにも傷ついてほしくないんです。そして」
先生は俺を離して立ち上がると、ダメージにふらつく黒ウォズの胸板にも両手を当てて、
「あなたもです、
「王母、アナタは――」
黒ウォズの態度で一目瞭然だ。奴は俺たちが知らない先生の人生だか運命だかを知っている。それも、俺と常磐ソウゴが深く関わった情報だ。それでなくて、
先に視線を断ち切ったのは先生のほうだ。
先生は俺のそばに戻ってきて、しゃがんでから俺の腕を彼女の肩に回させた。
「立てますね?」
疑問形なのに、それ、ほぼ脅しだ。
さっきと同じだ。言い方に、ミトさんの血を感じる。戦場で二人して爆撃にやられて、這いつくばった幼い俺にミトさんがドライに投げた言葉。
“まだ立てるね? ゲイツ”
なら俺は返事しないで実際に立ち上がって見せるだけ。先生、アンタの母親が伸べた腕に、爪を立ててそうしたように。
俺は、先生の肩に遠慮手加減抜きで掴まって、二人で目的地へ向かって歩き出した。
黒ウォズが俺たちを邪魔することは、なかった。
決戦の地――土星館パーキングに着く頃には、ゲイツ君の体力もだいぶ回復していました。ですので肩を貸すのは、広い屋上駐車場でおしまいとしたのですが、ゲイツ君は腕を離す直前、微かに動揺を浮かべました。
いつもならどうしたのか尋ねるのですが、ごめんなさい、今だけは不安のサインを見逃すことを許してください。
これからこの場に来るソウゴ君に、絶対に伝えておかないといけないことがあるから。
“これ”をソウゴ君に伝えられなかったら、彼は致命的に路を踏み外してしまうから。
がちゃん、と金網が鳴った。本当に、遠く下方から。よく聞き逃さなかったと自分の耳を褒めたいと思いました。
本来は自動車が通るコンクリートの坂道を、ソウゴ君が、満身創痍で登ってきていました。
反射で駆け出そうとした両足を、意思力だけで留めた。
ソウゴ君は私を認めると、泣き出しそうに笑いました。
「せんせーには見せたくなかったのになぁ」
俺がゲイツを殺すとこ――そう言葉を続けようとしたんでしょう? 分かりますよ、それくらい。
私は先んじて、勇んで前に出ようとしたゲイツ君を手と眼光だけで制止してから、坂道を下りました。
私と、ソウゴ君。近くも遠くもないベストな角度と距離で立ち止まる。
「君のメールを読みました。明光院君と闘う前に、君の認識違いを見つけてしまったので、その一点だけを聞いてはくれませんか? そのあとでしたら、私は一切、ソウゴ君たちに干渉しませんから」
「……今度こそ“最後の授業”だね。教えて、せんせー。俺が、どう間違っちゃったか」
――お父さん。昭和ライダーのおじさま方。そして、天国のお母さん。私に力を分けてください。ライダー・シンドロームなんて大袈裟なものじゃなくていい。ほんの少し、私の背中を押してください。
「オーマジオウがいないと私とお母さんが産まれないという部分は、
ソウゴ君が、上で待機してたゲイツ君が、気泡が抜けた炭酸みたいな声を上げた。
大きく息を吸って叫ぶ準備。
ソウゴ君の不可視の鎖を砕く、光に、なりますように。
「私もお母さんも! オーマジオウが存在しようがしなかろうが、
い、言った。言い切った。言って、しまった。――言って、やったんだから。
打算はありましたけど、一つだって嘘は言ってませんから。
あとは、祈るだけです。私がブチまけた“本音”が、ソウゴ君の心を果たして揺さぶるか。彼の心震わすだけの信頼関係を、私は常磐ソウゴ君と築いてこられたか。織部美都の教師人生満4年が試される瞬間です。
「――おれが鏡の中のおれに言ったこと、覚えてる?」
“おれは、おれの未来に賭けてみたい”
「忘れるわけありません」
「おれは、美都せんせーの未来に……ううん、おれたちに逢いたいってせんせーの気持ちが起こす奇跡に、賭けても、いいの?」
「賭けちゃってください。私が、君を、大勝利させてみせますから」
「――は」
あは、あはは。常磐は枯れた笑い声を上げた。
「俺、バカみたいだ。一人で悲劇のヒーローぶって、美都せんせーの気持ちガン無視で、俺一人が我慢すればいいって思い込んでた」
「別に責めるべきことではありません。反省したなら、これからいくらでも変えていけます。君はまだ18歳なんですから」
「うん……ううん。はい、『先生』。ありがとうございます」
「ありがとうは、私の台詞です。ありがとう、ソウゴ君。私の感情論に、賭けるだけのものを見出してくれて」
「俺は信じる。俺がどんな路を進んでも、美都せんせーはその先の未来で、俺と出会ってくれるって」
先生は常磐に歩み寄ると、ライダー・シンドロームを開放して、常磐の負った傷を治癒した。
見つめ合う、教師と生徒。そこにあるのは余人には壊せない、信じ合うという聖域。
常磐はやがて俺へと向き直った。覚悟を決めた人間の貌だ。――俺には今日までついぞ出来なかった貌、だ。
頭の端に追いやった。俺が常磐を見事討った暁にオーマジオウが歴史から消えたら、ミトさんが昭和の過去へ飛ぶという出来事も消える。そもそも対オーマジオウのレジスタンスもなくなるから、俺だってミトさんにも先生にも会わない。
白状すると、俺はその未来が恐ろしかった。
恐ろしかったのは、そんな未来が成立したら俺は絶対に傷つき悲しむと分かっていたから。
俺は俺自身だけがイヤで、ずっと考えることを放棄してきたんだ。
認めてしまった感情はもう押し戻せない。
俺は、常磐ソウゴとは戦えない。
常磐が坂を登ってくる。俺を見据えてまっすぐに。
敵を前にして、人生で初めて、逃げたい、と心から思った。
ふいに、常磐の視線が俺から外れて、俺の後方へ飛んだ。
「ゲイツ、避けろッ!!」
普段の俺であればその一言で訳が分からないなりに動いていた。今この瞬間にアクションを起こせなかったのは、ほんの一瞬前の自覚に愕然としていたせいだ。
背後に現れたアナザージオウが、俺を殴り飛ばした。その勢いで俺は一気に傾斜を転げ落ちた。
「ゲイツ!」
這いつくばった俺を抱え起こそうとする常磐と、俺たちを背にしてアナザージオウの睥睨を一身に受け止める先生。
「加古川飛流、くん――」
『またあんたか。失せろ。邪魔だ。今度は転ぶだけじゃ済まないぞ』
「どかせたいなら殺してください」
『ッ、そいつは! 未来で魔王になる男だぞ!? 何でそこまで肩入れする!』
「ソウゴ君が魔王になって、
アナザージオウの愕然に、今なら全力で共感できる、なんて俺は暢気にも思ってしまった。だってそれは、俺自身が常磐を斃せないと自覚したのと同等のカルチャーショックだろうから。
『イカレてる――!』
アナザージオウが俺たちのいる位置まで歩いてくる。
――いつまで彼女の背中で護られているつもりだ? なあ、俺。
――答えはさっき、とっくに出ていたと気づいたろうがッ!!
ついにアナザージオウが間合いに入った。この至近距離ならば彼女は考えるまでもなくライダー・シンドロームを開放する。
だったら。
俺は先生の肩を掴んで後ろに押しやって、位置を入れ替えた。そして、アナザージオウが突き出した腕を逆に掴み返し、半歩回ってアナザージオウを背負い投げにした。
『な、ぁ、うぉあ!?』
アナザージオウが傾斜を転がった。さっきのお返しだ。文句あるか。
常磐は、俺が突き飛ばす形になった先生を、しっかりキャッチしていた。常磐は絶対そうすると思ったから荒っぽい手を打てた。
そのくらいに信頼してるんだから――もう開き直ってしまえよ! 明光院ゲイツ!
「コイツが魔王になるわけあるかッ!! コイツは誰よりも優しくて、誰よりも頼りになって、先生の教えを誰より正しく学んだ男だ!! そして何より――
遅くなりまして申し訳ございません。ようやく文章がまとまったので投稿できました。
まさか公式であそこまでストレートに仲直りしてくれるとは思わず。ええ。やはり追いかけ連載の弱点ですね。展開次第でこちら側の構想を最初から練り直さなければいけないのは。
原作のブレイド編に手を付けたいのはやまやまですが、この仲直り回の直後にちょっとした問題が発生して少しオリ展開を挟みます。ブレイド編そのものは並行して書いているのですが。
海東が出た時点で決めたテーマは一つ。「裏ミッシングエース」です。