70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 オリジナル展開及び設定、入りまーす。
 驚愕! サクラサク版ウォズの正体は黒ウォズではなかった!? の巻。


Syndrome65 仮面ライダーに捧ぐ卒業式〈アンコール〉

 目を開けると、古びた天井が一番に視界に飛び込んだ。

 次いで、背中に煎餅布団特有の硬さ。どうやら私は、これまた古びたベッドに寝かされているみたいです。

 病院に運び込まれたにしては、見回した部屋に生活臭が混在していて、一般的な病室に見えませんし。

 それに、潮騒が聴こえます。開け放した窓の、夜の帳のさらに向こうから。寄せては返す、優しい泡沫――

 

 ぼんやりしていても始まりません。まずは起き上がってみましょう。よいしょ、と。

 ん、あれ? 今気づきました。私の手を握っている誰かがいます。両手共に。

 

 右手を、ソウゴ君が。

 左手を、ゲイツ君が。

 二人とも私がいるベッドの左右で突っ伏してうたた寝中でした。

 

「!?!?!?」

 

 天国のお母さん。悲鳴を上げなかった私をどうか褒めてください。

 

 なんて、寝そべったままパニックを起こしていたところで、部屋に初老のお医者様が入って来ました。その男性を、私はよく知っていました。

 

(じん)のおじさま……?」

 

 神敬介さん。お母さんが死んだ、いえ、正しくは未来に帰っていなくなったあと、私とお父さんをお世話してくださった、“おじさま方”の一人。

 

 どうして私が倒れたって分かったんですか? いついらしたんですか? 尋ねたいことは山ほどあるのに、口にするのがひどく億劫です。

 

「久しぶりだな、美都。本当なら『元気だったか?』と続けたいんだが……ここでそれを聞くのはナンセンスだな」

「そんなこと……」

「阿呆。その体たらくで『おかげさまで元気でした』とでも答えてみろ。俺が風見先輩にシバき倒されるだろうが」

 

 こつん、と。神のおじさまはノックするみたいに私のおでこを軽く叩きました。

 ぐうの音も出ないとはこのことです。――倒れる寸前、私は確かに死を覚悟したのですから。

 

 笑顔のソウゴ君やゲイツ君たちを見て、彼らが眩しいくらいに盛り上がる風景を見て、私がいなくなっても大丈夫だって安心して、緊張の糸が切れちゃったというか。あの瞬間は本当に私、未練も後悔も無かったのです。

 

 彼らがあの眩さを失わないで生きていくだけで、いいや、って。

 

 こうして生きている自分に戸惑ってすらいます。私の倒れる様を見て、きっと心を痛めた生徒たちと、こうして手を繋いでいるというのに。

 

「神のおじさま。私、どうして助かったんですか?」

 

 左手から、ぴくり、震えが伝わった。

 

 神のおじさまは、ベッドの上に立ててあった、パスタ瓶ほどの大きさの容器に手を置きました。月明かりを受けて仄かに光る波飛沫だけを濾したかのような、煙。

 

「若い時分の光太郎――仮面ライダーBLACKが生死の境を彷徨った時、その命を救った妙薬。海底に棲むクジラ怪人一族に古より伝わる、“命のエキス”だ。これを浴びせて、度重なるライダー・シンドロームの開放で疲弊したお前の心身を、繋ぎ止めた。俺が施された改造手術は、本来、深海開発用の強化人間を造る技術をベースにしていたからな。ミトが“グレートダッド”と呼んだ仮面ライダーの中で、水中活動が可能なのは俺だけだったが、今回はそれが吉と出た」

 

 話を聞くだけで貴重と分かる品を、私のために、わざわざそんな苦労をおかけしてまで?

 

「せめて織部教授に打診された先月中には持ち帰りたかったんだが。思いのほか、クジラ怪人一族との交渉が難航してしまった。間に合わなくて、すまん」

「おじさまが謝ることなんて一つもありません。現に私はこうして生きています。敬介おじさんが駆けつけてくださったおかげです。遅くなりましたが、ありがとうございます」

 

 神のおじさまは無骨な手つきで私の頭をくしゃりと撫でました。

 

「それと。若いの二人。狸寝入りは程々にしとけ。5秒以内に美都の手を離さなかったら、Xライダーの真空地獄車だ」

「なんか痛そうな気がする!」

「還暦過ぎのくせに大人げない!」

 

 あ、ソウゴ君とゲイツ君、飛び起きました。いえ、神のおじさまの言葉通りなら、二人とも寝たフリだったんですよね。つまり私の手を握っていたのは寝ている間に無意識に、とかではなかったってことに、なります?

 

「ソウゴ、ゲイツ、どうしたの!? って、あーっ! 先生、気がついたのね!」

 

 ツクヨミさんまで。間髪入れず部屋に飛び込んだってことは、病室の外でずっと待っててくれたんですか? こんな夜中に女の子が出歩いて……あら、黒ウォズさんが一緒でしたか。でしたら不安の種が減りました。

 

 それと、入っていいのかどうかという感じでドアの陰に隠れて窺ってる飛流君は、むしろ遠慮しないで入っていらっしゃい。入っても先生、怒りませんから。

 

 

 

 

 

 ツクヨミ、黒ウォズ、加古川の順で、関係者全員が病室に入ったところで、神敬介は俺をふり返った。

 

 彼にはすでに俺とミトさんの師弟関係は伝えてある。まあ、俺が申告するまでもなく、俺のジクウドライバーとゲイツウォッチを見て、神敬介はすでにその辺を察していたが。さすがはグレートダッド5()・仮面ライダーXである。

 

「にしても、長生きはしてみるもんだ。まさかミトの娘だけじゃなく、未来の弟子や養い子にまで会うことになるとはなあ。一丁前に親代わりの教官ポジションなんざ、あの純粋培養の箱入り娘が逞しくなったもんだ」

「……純粋培養?」

「箱入り……?」

 

 俺はツクヨミと揃って頭を抱えた。いやだって、ミトさんだぞ? 泣く子をさらに泣かす明光院ミト。あの人が箱入りなら世界中の全ての女を王侯貴族扱いしないといけなくなる。

 

「手がな、凄まじくキレイだったんだ」

 

 そういえば、と言うツクヨミには心当たりがあるらしい。

 

「ミトさん、手の他にも、古傷があまり残らない体質だったわ。本人は『人より丈夫に産まれたんだ』って笑い飛ばしてたけれど」

「体質で言い通すことにしたのか、アイツ。俺は最初、この小娘は絶対にイイとこのお嬢さんだ、なんて思った。水仕事も針仕事もしたことない、苦労知らずなんだろうってな。昔の俺の悪い癖だ。謝れるもんなら、会ってじかに謝りたいと今でも思うことがある。でも無理なんだろう? 光太郎から話は聞いた。――死んだんだってな、アイツ」

 

 ただ二音節、「ああ」と声に出すことすらできなかった。少なくとも俺にとっては、ミトさんの死はまだそれほど生々しく刻まれた光景だ。

 

 ツクヨミも、黒ウォズさえも、何も言わない。

 

 神敬介は俺たちのリアクションを予想していたのか、そもそも相槌を求めていなかったのか。唐突に話題を変えた。

 

「最近は『正義』を『鉄の心』って描写するのが流行りなんだってな。言い始めた奴に皮肉が利き過ぎてて実に見事! って一発ぶち込みたいくらいだ。その通りだよ。正義なんてモンは、鉄で出来た連中だけが背負えばいい」

 

 ひょろり。神敬介はパイプ椅子を立つと、壁に備え付けの洗面台から剃刀を取って、おもむろにその刃を――自分の腕に振り下ろした!?

 

 誰が叫ぶ間も止める間も、なかった。

 

 常識的に考えれば、腕の肉に深々と突き刺さるはずの剃刀は、逆にその刃のほうが彼の腕に当たったとたんに折れて、床に落ちた。神敬介の腕には傷一つない。

 

 鉄で出来た連中。たったさっき聞いたフレーズが蘇る。

 

()()()()()()()()()()()()()()。なら最初から仮面ライダーになるために造られたミトが、何で改造人間でなかったと言える?」

「ば、かな――」

 

 馬鹿なことを言うな。相手が大先輩のグレートダッドだと忘れて怒鳴ろうとしたのに、その先が続かなかった。

 

「馬鹿らしいと俺たちも思ったさ。けど実際に目の前にいるんだからしょうがねえ。だから、あの子がオメデタって光太郎から聞いた時は耳を疑ったさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 答えは、この美都だ」

 

 

 

 

 

 ああ――やっと、分かりました。私が2019年で没したと伝わった歴史のカラクリが。

 

 種を明かせばシンプルでした。王母織部の死因。それはきっと、改造人間の母胎から産まれた不安定なこの肉体が、度重なるライダー・シンドローム開放に耐えられなかったため。私はこの力を行使するたびに、知らず命を削っていたのです。

 

 ソウゴ君とツクヨミさんの目が私に訴えています。もうライダー・シンドロームは使わないで、と。優しい若者たちです。

 だって私の現状はいわば自業自得です。私が彼らに要らぬお節介を焼きたくて通したワガママのしっぺ返しです。それでも私を案じてくれる彼らが、優しくなくて何なのか。

 

 パン!

 

 わっ。び、びっくりした。いま手を叩いたのは、黒ウォズさん? 急にどうしたのでしょう。

 

「暗くなる必要はないよ、諸君。王母を救うすべならば、()()()()が知っている」

「それって“俺”じゃなくて、未来のオーマジオウが、だよね」

 

 ソウゴ君は突然の指名に困惑する素振りもありません。聞けば、ソウゴ君の判断基準はささやかで、「『我が魔王』って言う時に俺のほう向いてなかったから」。

 

「でしょ? ()()()

「――やはりキミは慧眼だな」

 

 黒ウォズさんは、ベッドにいる私のそばに来ると、『逢魔降臨暦』を手に私に対して恭しく礼を取りました。

 

「私は二つの王命を賜りこの時代へ降り立った。一つは若き日の我が魔王に力添えすること。もう一つは、王母織部の命が風前の灯となった時、アナタを2()0()7()0()()()()()()()()()の下へお連れすることだ」

 

 ――あれ? 2070年?

 

 ゲイツ君とツクヨミさんも唖然として、黒ウォズさんを凝視しています。

 

「私の手札を一つ明かそう。私は確かにキミたちの知るウォズで間違いないが、この“私”はキミたちがこの現代へ発った時点から2年後、西暦2070年時点でのウォズなんだよ」

 

 ウォズさんは見る者を昏く圧倒する、酷薄な笑みを刷いた。

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