70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 やっと書き上がったーーー!!orz


Syndrome67 “魔王ソウゴ”

 俺の正面で立ち止まった男は、オーマジオウなんかじゃなく、俺がよく知る、2019年時点の18歳の常磐ソウゴだった。

 

「やっと言える。()()()()()()()

「お、まえ、いったい」

 

 何をしたんだ。いや、“何”になってしまったんだ。

 

 解説を買って出たのは黒ウォズだ。

 

「我が魔王は時の王者。万物の時の流れを意のままにする御方。このように己の肉体の(とき)を操ることもまた造作もないのさ」

 

 黒ウォズのオーバーなアクションを見た『ソウゴ』は苦笑した。

 

「俺にとっては52年ぶりの“再会”だ。70歳の外見で会うには抵抗があったんだよ。同い年なのに俺だけおじいちゃんになってるとか、カッコつかないじゃん。この見てくれは単に、それだけの話」

 

 確かにソウゴには仮面ライダージオウに初見変身できるだけの素養はあったし、ジオウⅡウォッチを得てからは局地的時間逆転や事象創造なんてやってのけた。それを意識的にコントロールできるようになっただけと言われてしまえば、それまでだが。

 

 本当に魔王になってしまったのか、お前は。

 

 『ソウゴ』は人好きのする笑顔のままだ。2019年のソウゴと異なる点があるとしたら、目だ。笑っているのに、冬の大地より冷たい。

 

「美都せんせーも、久しぶり。来てくれて、また会えて、本当に嬉しい」

「常磐君……」

「――うん。ゲイツとも美都せんせーとも、話したいことはたくさんある。けど、その前に。二人とも、ウォズの誘いに応じたってことは、せんせーの命は今も危ういままってことだよね?」

 

 そこだけは正しい。その通りだ。Xライダーのおかげで保ち直した先生だが、いつまた昏倒するか分かったもんじゃないって症状は改善されてない。

 そんな彼女を救うすべを持つのがお前だと聞いたから、危険を承知で俺たちは2070年に来たんだ。

 

「大丈夫。この日この瞬間のために、俺はオーマジオウになって、ずっと待ち続けたんだ。――あなたを絶対に死なせはしない」

 

 付いて来て、と『ソウゴ』は踵を返した。

 歩き出した『ソウゴ』に黒ウォズが続く。

 

 ここまで来て怖気づいていられるかよ。

 俺は先生の、少し冷たくなった手を掴んで引いて、『ソウゴ』たちを追って歩き出した。

 

 

 

 

「『俺』にとってのオーマの日は、それこそゲイツとせんせーがいた2019年3月31日だった。今でもその日のことは鮮明に思い出せる」

 

 移動中の暇つぶし程度のように淡々と、『ソウゴ』は己の来歴を語った。

 

「お前がオーマの日を経て健在ということは、お前の知る『俺』は敗れたのか。お前との闘いに」

「勝ち負けで論じるなら、うん、不戦敗って言うべきかな? 決着をつけようと約束した日、『ゲイツ』は土星館パーキングに来なかった。夜になって、雪がやんで、朝日が昇るまで待っても、『彼』が現れることはなかった」

「それって! ……明光院君が君との約束を反故にした、ということですか?」

「そうだよ、せんせー。ゲイツが戦わないんじゃ、俺がオーマジオウになるのを止められるライダーなんて一人もいない。実際、いなかったよ。平成(レジェンド)ライダーも昭和(グレートダッド)ライダーも、現実感が湧かないくらい呆気なく、俺の前で敗れて散っていった。そしてレグルスが一番輝いた夜、俺は歴史の流れるまま、全てのライドウォッチを手に入れて、“魔王”になった」

 

 叶うものなら、コイツの過去に居合わせた“俺”を殴りに行きたい。

 どんな経緯や理由があったにせよ、明光院ゲイツが常磐ソウゴを手酷く裏切ったことに変わりはない。降りしきる雪の中で一人、『ソウゴ』はどんな思いで『俺』を待っていたんだろう。

 

「勘違いしないで。俺は別にゲイツを恨んでるわけじゃない。間に合わなかった事情はちゃんと知ってる。今でも俺はアイツをトモダチだと思ってる。……あっちはどう思ってたかは迷宮入りだけど」

 

 先生が、一度口を噤んだものの、吹っ切ったように『ソウゴ』に問うた。

 

「その事情には、私の死が関係していますか?」

 

 『ソウゴ』が足を止めた。その表情は窺い知れないが、背中が帯びた昏さから、ろくでもない展開になったことだけは俺にも確信できた。

 

「してるん、ですね」

 

 俺たちをふり返った『ソウゴ』は、やっぱり、貼りつけた笑顔でいる。皮肉げに。

 

「要はさ、何もかも間が悪かったんだ。――ゲイツは気づいてるかな。リバイブの力はリスクを伴う。変身者のゲイツに反動がかかる。でも今、そんな自覚症状は欠片もないでしょ? それはね、美都せんせーがライダー・シンドロームで反動を消してるからなんだよ」

 

 俺は先生をまじまじと見た。

 先生が(シンドローム)を開放し過ぎたせいで昏倒したのは漠然と分かっていた。その「開放し過ぎた」のが「誰のせい」かまで考えなかった。

 彼女の命を刻々と削っている張本人は、俺だった。

 

「そうと知った『ゲイツ』は、目の前で倒れた『美都せんせー』を放置して俺のもとへ向かうことができなかった。そこはいいよ。むしろ無視して俺のとこへ来たら、それこそ若い俺が許さなかった。アイツはせんせーを助ける術を探して探して――見つからない内に、あの人は永眠した。2019年3月31日、その日があの人の命日だ」

「そっちの『俺』は、先生を看取ったから、お前との約束に間に合わなかった……」

「そこは少しだけ違うんだよな、これが。言ったでしょ。朝日が昇るまで待っても来なかった、って。『ゲイツ』は先生が死んだあと、俺との決着をつけに来ようとしてくれたよ。リバイブの反動で中身がズタズタの体を引きずって。美都せんせーが倒れたから、誰も『彼』の抱えるダメージを消せなかったのを、自分が誰より分かってたくせにさ。でも現実は俺たちに意地悪だった。角一つ曲がれば俺が待ってた位置から見えるってとこまで来て、タイムオーバー。――ねえ分かる? 朝になって、やっと諦めがついて帰ろうとした俺が、角一つを曲がったすぐそこで、雪に半ば埋まったキミの死体を見つけた瞬間の、絶望と自責」

 

 唖然とするしか、なかった。

 尊敬する先生が知らない内に死んでいて、俺はほんの少し注意すれば気づけた至近距離で絶命していた。当時の『ソウゴ』が受けた精神ダメージは察するに余りある。

 

 曲がり角一つ。たった数歩。そんな僅かな“足りなかった”が、誰より優しくて誰より頼もしい常磐ソウゴを、“魔王”なんてモノに貶めてしまった。

 

 先生は、俺よりリアルに『ソウゴ』の過去を思い描けたのか、手で口元を覆って嗚咽を上げている。

 

「――泣かないで、美都せんせー」

「だ、って…っ…あ、あんまり、ですッ、こんなの…!」

「あなたは俺の『美都せんせー』と違って生き延びた美都せんせーだし、誤差なんかじゃなくて、この先も人並みに生きていけるように、俺が助けてあげる。――あなたが俺を、赦さなくても」

「常磐君……?」

 

 不意打ちで場が明るくなった。白い光と内装が目に痛くて、俺はとっさに目を細めた。

 視界が利くようになってから見回すと、黒ウォズが何かのレバーを握って下げていた。

 

 広いホールをびっしりと覆い尽くす電機系統の、さらに奥。灯りを点けたのにまだ薄暗いほど距離が空いた位置に、円柱状の貯水槽が一本、ぽつねんと立っている。

 

 ――心臓が嫌な律で打ち始める。

 具体的な未来図なんて描けないのに、恐ろしいモノを見せられる予感だけ、加速する一方で。

 

 死と隣合せの戦場に長く身を置いた俺がこうも中てられてるんだ。先生は大丈夫か?

 ――大丈夫なわけなかった。暗所なのに目で見て分かる顔の青白さなんて、相当だ。

 同時に、先生の反応こそが自然なんだと思った。血の繋がりが“親子”の全てじゃないと知ってても、やっぱり、血を分けた娘が産みの母親を案じる気持ちってのは格別なんだな。

 

 先生と繋いだ手の力を少しだけ強めた。

 ここで「俺が付いてる」とか言えたらもっとマシなんだろうが、内心では混乱しきりの俺が言ったって不誠実だから、黙っておく。

 

「あなたを救うためだけに」

 

 『ソウゴ』が貯水槽に向けて手をかざした。

 

 貯水槽が照らされ、俺たちからも中身が明瞭に見えるようになった。

 ――その“中身”は、溶液漬けの死体。()()()()()

 ガラスに刻まれた文字は――「Kamen Rider GATE」、「Mito Myokoin」。

 

「俺は魔王になったんだから」




 タイトルの「魔王ソウゴ」は、『ソウゴ』は厳密には「オーマジオウ」ではないという意味を込めたものです。
 いつだったか黒ウォズに釘を刺された「オーマジオウが存在しないと、みと母娘はどちらも産まれてこない」のほうを先生自身より信じて、「オーマジオウ役を50年以上演じると決めた普通の少年」です。
 士の「オーマジオウさえ被害者」発言はここに起因します。
 戦場でゲイツやツクヨミを見つけた時、この『ソウゴ』は彼らの名を呼んで二人の胸の中に飛び込みたい気持ちで一杯だったでしょう。黒ウォズが内偵として現れた時に、「久しぶり」と言いたくて堪らなかったでしょう。
 それら全ての感情を仮面の下に隠して、「ただ待ち続ける」ことを選んだのです。
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