70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 すんごい長いです。なのに内容は薄いです。
 この回が書きたくてジオウ二次を始めたと言っても過言ではないです。
 ――始まります。


Syndrome68 チルドレン;クロス・オブ・ファイア

 俺は『ソウゴ』の胸倉を掴み上げた。

 

「貴様ァ!! ミトさんに何をした!! 俺の……俺たちの“母さん”に、何をしたんだ!!」

「死の直前で、彼女の肉体の(とき)を停めた。生きてはいない、けれど死んでもいない。朽ちはしないが目覚めもしない」

「何のために!!」

「明光院ミトの肉体に残留したライダー・シンドロームを、全て、美都せんせーに譲渡するためだ」

 

 先生の視線は貯水槽に、その中に“保存”されているミトさんの亡骸に固定されたままだ。

 

「わた、し……?」

「あなたたち母娘は、昭和世代の10人ライダーから継いだライダー・シンドロームがどちらとも不完全だったせいで機能不全を起こした。母親はエネルギー不足、娘はエネルギー過多。なら片方がもう片方に(シンドローム)を譲れば、問題は全て解決する。そして、片方は生きていて、もう片方は死んでいる。どちらを生かすべきかは明確だ」

 

 死んだ人間は生き返らない。ミトさんは死んだ。だが、先生は生きていて、ミトさんの遺体から力を抜き取れば命は安定する。

 

 この有無を言わさぬ状況を作り出すために、『ソウゴ』はあえてミトさんを“殺した”んだ。幽閉や監禁で済ませてミトさんと先生、両方が生きていたら、先生だけを救うことが難しくなるから。

 

「……私がお母さんのライダー・シンドロームを受け取ったら、お母さん、どうなるんですか?」

「――死体は爆発飛散する。後には骨も残らない」

 

 『ソウゴ』が俺の手首を掴むと、恐ろしいほどの怪力で胸倉から手を外させた。

 

「元々、仮面ライダーゲートは俺を巻き込んで自爆しようとしたんだ。その寸前で俺がこの人の(とき)を停めた。解いてしまえば一巻の終わりだよ。ほら、こんなふうに」

 

 『ソウゴ』が貯水槽の中のミトさんに掌を向けた。するとミトさんの遺体がひきつけを起こしたように跳ね、全身の血管が膨れて浮かび上がり――

 

「よせ!!」

 

 『ソウゴ』が掌を下ろすと、遺体は何事もなかったかのように鎮座し直した。

 

 唐突に、先生が貯水槽に向かって歩き出した。千鳥足だ。まともな意識状態じゃない。

 俺は止めようとしたが、ウォズが俺の腕を掴んで引き留めたせいで、叶わなかった。

 

 先生は冷たく無機質な水槽に頬擦りした。――涙は、浮かべていない。

 

()()()()、お母さん」

 

 

 

 

「あ、れ? 変、ですよね。ここ、家でもないし、どっちかっていうと出かけた先で、私、何で、わた、し」

 

 ――それは混乱するまでもない、至ってシンプルな解でした。

 

 単に私が言ってみたかったんだわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが、30年間ずっと心の底に沈めてきた、織部美都のささやかな願い事だったから。

 

 やっと、言えたね。私。

 こんなになってまで、私に言わせてくれたね、お母さん。

 

 ありがとう。ありがとう、大好き。たったいま私、お母さんを大好きになりました。私、お母さんの、明光院ミトの娘に産まれてきてよかった。

 

 

 

 

 先生がふり返った。清々しい顔つきをしていた。

 

「ごめんなさい、常磐君。君の52年越しの厚意を、先生は受け取ることができません」

「――ああ。あなたはそう言うだろうと思った。母親の亡骸を辱めてまで生き永らえようなんて、考えもしない。それが、俺が尊敬してやまない、織部美都という教育者だった。そうと分かって、あなたが頷くことに期待した未練(おれ)とは、ここで訣別しよう」

 

 『ソウゴ』がウォズに呼びかけた。何を命じるでもない。だがウォズにはそれだけで『ソウゴ』の意図が伝わったらしい。

 ウォズは恭しく跪くと、色褪せたジクウドライバーを『ソウゴ』へ向けて捧げ持った。

 

 『ソウゴ』はウォズからジクウドライバーを受け取ると、それを装着してジオウウォッチを嵌めた。

 

「変身」

《 ライダー・タイム  カメンライダー  ZI-O 》

 

 『ソウゴ』が変身した姿を見て、俺は即座に先生を庇う位置に立った。

 ――ここにいるのが俺一人だったら、きっと、愕然と立ち尽くして動くこともできなくなったに違いない。

 

 ――オーマジオウ、に。

 ――常磐ソウゴが、変身、したんだから。

 

『懐かしい感触だ。ドライバーとライドウォッチで変身するのは何年ぶりか』

「“ミレニアム29”を鎮圧して以来ですので、ざっと39年ぶりかと存じます」

『そうか。あの動乱からそれほどの歳月が過ぎていたのか。老いるはずだ』

「お戯れを。我が魔王、アナタの精神は、御年18の時代よりいささかの衰えもありません。52年前で若き日のアナタと接したあとなれば、確信を持って申し上げることができます」

 

 ふ、とだけその『オーマジオウ』は零し、ウィザードライドウォッチを抜いた。

 

 俺が――俺が呆けていて、どうする!! 背中には先生がいるんだぞ!!

 

 俺もジクウドライバーとゲイツウォッチ、さらにはリバイブウォッチも、両手に構えた。

 

《 GaIZ  “Revive” 》

「変身!」

《 ライダー・タイム  カメンライダー  GaIZ 》

《 リバイブ  疾風 》

 

 変身完了から敵急襲まで、1秒足らず。俺はジカンザックローで『オーマジオウ』に切りつけた。

 手応えあり! 直撃――のはずだった。

 

 当の『オーマジオウ』がどこにもいない。

 馬鹿な。確かに俺は奴の殺界に入った。この爪で奴を切り裂いた。なのに。

 

《 アーマー・タイム  WIZARD 》

 

 っ、しまった! 後ろか!

 

『先生ッ!』

 

 

 

 

 

 気がついたら、黒と金で全身を固めた仮面ライダーが、正面に立っていた。

 ――これが、オーマジオウ。52年にも渡って世界中に暴政を敷いて人々を苦しめた、最低最悪の魔王。

 

 ぼさっとしてちゃだめ。そんな相手からは逃げなくちゃ、私。

 なのに、足が動かない。怖くて足が竦んだとかじゃない、泣き出しそうなのは怯えてのことじゃない。

 

 いつかのウール君の問いがリフレインした。

 

 

 “アンタは何で若いジオウを魔王なんかにしたの?”

 

 

 ――そうです。この『オーマジオウ』は私のせいで生まれた、ソウゴ君の可能性なんです。それを、私が目を逸らすなんてできるわけありません。

 

 私はやるせない気持ちで、『オーマジオウ』のフェイスマスクに左手を添えました。

 

「ときわ、君」

 

 ごめんなさい。私みたいな半端な教師に出会わなければ、君はこんな姿に堕ちてしまうことはなかったのに。

 

『ああ。あなたが泣く必要などこれっぽっちもないのに、この姿を見てなお、胸を痛め泣いてくれる。そんなあなただから、待つことができた。この52年間、どんな血と犠牲を払っても』

 

 『オーマジオウ』が、私の左手の上から自分の右手を重ねた。その手に体温を感じないのは、バトルアーマー越しだから?

 

 外される左手。その親指に、『オーマジオウ』は何かを音もなく嵌めた。

 これって、仮面ライダーウィザードの、魔宝石の指輪? しかもこのデザインには見覚えがあります。仁藤攻介さん、仮面ライダービーストから頂いた“お守り代わり”の指輪と同じデザインです。

 

《 “プリーズ”=シンドローム 》

 

 ドクン、と。真後ろの貯水槽、正確にはその中のお母さんの遺体が、大きく脈打った。

 

 な、に、これ……! 立って、られない。何か大きなエネルギーが私の体に流れ込んでくる! 無理よこんなの、内側から破裂しちゃう! なのに、拒めない――!

 

『2018年だ。仮面ライダービーストの仁藤攻介があなたに渡した魔宝石の指輪、覚えてる? あれには、あなたの(シンドローム)を隠蔽する魔法の他に、もう一つの魔法を仕込んでおいた。持ち主を除く同種の力の宿主から、その力を強奪する魔法。“プリーズ(魔力供給)”の効果を絞った応用魔法だよ』

 

 すぅ、と凍てる、常磐君が私に向ける声。

 

『知っていた。あなたは決して俺の“準備”に賛同しない。俺はあなたの意思と命、二つを天秤にかけて、命を取ったんだよ。どんなに憎まれても恨まれても、生きててくれるだけでいい。50年かけてそう答えを出したんだよ。美都せんせー』

 

 どう、したら……このままじゃ私、お母さんから残ったライダー・シンドロームを奪って、お母さんの体を爆散させちゃう……!

 

 

 “私には個体名がない。担当官も研究員も、私を『30番』とだけ呼んでいた”

 

 

 今のは――なに?

 純粋な力の流体に過ぎなかったものに、何か別のものが混ざって、私の頭の中に投影された。

 映像。音声。五感。私じゃない誰かの目と耳が、心が、感じた――記憶?

 

 

 “こんなものが人間だというなら、仮面ライダーが守るに値するなんて大嘘だ”

 

 

 おかあさん……お母さんの、記憶だわ。

 オーマジオウとの決戦に備えて昭和世代に時空転移した頃の、若かったお母さんの。

 

 

 “あなたの妻になりたかった。この子の母親でいたかった。でも……ごめん。私はやっぱり、仮面ライダーであることを捨てきれない”

 

 “10人の偉大なりし父なる仮面ライダーより継いだ正義の旗の下、お前を斃しに来た仮面ライダーよ! 魔王オーマジオウ!”

 

 

 私とお父さんじゃなくて、2050年の世界の平和を守る“仮面ライダー”に戻ることを選んだお母さん。

 ――そう。(わたし)の命を救うためだと、オーマジオウに誘惑された時でも。

 

 

 “実を言うと、裏があるだろうとは思ってた。お前が私という目の上のたんこぶを殺さない理由が、平成に生きる私の夫か娘に原因があってのことだってね”

 

 “魔王といえど女心は読めなかったと見える。目の前にいる私は誰? 妻だし母親だけど、同時に、()()()()()()()()()

 

 “自爆装置は腹の中に設置済み。このまま一緒に地獄に堕ちましょうか。いつの間に、ですって? そんなもの。初めての会敵で、お前が私を殺さず見逃した直後からずぅっとに決まってるじゃない”

 

 “これが、貴様のような魔王を世に送り出した不肖の娘に代わって、母親が果たすせめてもの責任だ!!”

 

 

 ――お母さんは私一人じゃなくて、ゲイツ君やツクヨミさん、大勢の人を護る選択をした。

 

 私は貯水槽のガラス管に、指輪を嵌められたほうの手の平を当てた。

 

 

 ――お母さん。

 ――ごめんなさい。

 ――愛してる。

 

 

「ライダー……! シンドローム!!!!」

 

 貯水槽が内側からフラッシュして、砕け散った。

 

 溢れ出た溶液を、真正面にいた私はまともに浴びて、服も髪もびしょ濡れで寒いのに。

 荒げた息と心臓の鼓動が、熱い。

 

 私は自分のライダー・シンドロームで、お母さんの遺体を“消失”させたのです。

 

『なんて、ことを』

 

 目に見えてショックを受けている常磐君を、私は厳しく見据えた。

 

「これが私の答えです」

 

 お母さんは(わたし)への愛情で信念を曲げたりしなかった。おじさま方と共に闘った日々に掴んだ“正義”を胸に、“仮面ライダー”のまま死んだ。

 

 そんなお母さんを、私は、途方もなく()()()()()と思ったのです。

 永遠に誇らしい、自慢の母親だって。

 

 もし私のためだけに自決したんだとしたら、私はお母さんを、ちょっと見苦しいな、とさえ思ったかもしれません。

 

 だって織部美都は、普通の家庭に産まれた普通の子供ではなく、“仮面ライダーの娘”ですから。

 私自身が戦えなくても、戦士の娘としての誇りくらい、私にだってあるんです。

 

 もちろん望んで死にたいわけじゃない。ゲイツ君やソウゴ君、たくさんの教え子、それに知り合った親しい人たちに、私の惨い死を見せたいわけでもない。

 

 ――もっと、ずっと、生きていたい。

 

 けれど、こんな非道に頼って生き延びるのは、だめ。他の誰がしかたないと言ってくれたって、私が私を赦せない。

 

 謝る相手は、一人だけ。

 

「ゲイツ君」

 

 離れた位置にいるゲイツ・リバイブにも聞こえるように。ほら、あと少しだから頑張って。

 

「お母さんのこと、ごめんなさい。――」

 

 ――だいすき――

 

 最後だけは、声を乗せずに口だけを動かした。

 

 言いたいだけ言ったら、なんだか力が抜けちゃいました。

 私は割れた貯水槽に背中を預けて、その場にずるずると座り込みました。

 

 

 

 

 ――ミトさんの昔話を思い出す。

 

 

 “幸いにしてグレートライダーの力は、ライドウォッチでなくジクウドライバーに宿っている”

 

 

 俺が使っているジクウドライバーは、元はミトさんが使っていた。ミトさんが仮面ライダーゲートとして昭和へ時空転移した時から、ずっとこれが使われていた。

 

 まだだ。まだ、終わってない。()()()()()()()()()()()

 

 俺はウィザードライドウォッチを腕から外して、リューズを押したそれをリバイブウォッチと付け替えた。

 

《 アーマー・タイム  WIZARD 》

 

 ウィザードアーマーへ変わりながら、駆け出す。

 

 ――先生が嵌められた指輪の元の魔法が“プリーズ”なら、まだ方法が皆無じゃない。

 

 ミトさんの昔話が確かなら、俺のジクウドライバーには、ミトさんが継承したライダー・シンドロームの一部が宿っている。

 俺のドライバーの(シンドローム)を、“プリーズ”の供給効果を利用して先生に与えることができれば――!

 

 先生の傍らへ来て俺は片膝を突いた。

 

「ゲイツ君……?」

 

 先生の左手を掴んで検める。『ソウゴ』が嵌めさせた魔宝石の指輪は消えてない。

 俺は先生の親指から指輪を引っこ抜いた。

 

『死なせない。短命のまま2019年に連れ帰ったりなんかしない。俺がアンタを救う』

「! 待っ、て……ゲイツ君、待って! 君のライダーの力を私に与える気ですか!? そんなことして、君が仮面ライダーに変身できなくなったりしたら……!」

『そんなことにはならない』

 

 抜き取った魔宝石の指輪を、先生の左手の()()に通す。

 

『過去の先人たちの仮面を借りることは、もうしない。師匠にも頼らない。()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、先生の左手をジクウドライバーにかざすように導いた。

 

 感覚で分かる――俺自身のものじゃない生体エナジーが、ドライバーから先生に供給されていく。

 同時に、俺自身のスペックを底上げしていた、加護とでも呼ぶべきものが消え去っていく。

 

 それら全てがカラッポになった虚無感を、どうにか呑み込んで、変身を一旦解いた。

 

「気分はどうだ?」

「あ……その、特に変ではないんです、けど」

 

 先生はその先を言わず、ぼろり、と涙を零した。

 

「だ、大丈夫かっ? どこか不具合が」

「ううん、そうじゃない、そうじゃないんです……ごめんなさい……ただ、あったかく、て……」

 

 先生は泣き濡れた顔を上げて、俺とまっすぐ目を合わせてから、ぶつかるみたいに俺の胸に飛び込んだ。そして、本格的に泣き声を上げた。




 ただの文通やタイムカプセル代わりに計都教授が“観測者”を引き受けるとでも思うてか。
 ただの惚気でミトさんが平成ライダー史の記録をゲイツたちに習わせたと思うてか。

 そう! 全ては、この瞬間に歯車が噛み合うようにと祈って! 織部夫婦はごくごく低い娘の延命の可能性に賭けて! 人生をなげうったのです!!(≧◇≦)


 次回予告。
 今まで「GaIZ」の表記はわざとだと言ってきたな。
 刮目せよ同志諸兄! ついに「GEIZ」表記にする時がキター!
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