急な削除と上げ直しでご迷惑をおかけして申し訳ありません。
由々しき事態です。
入学式から一週間と経たず、門矢小夜さんが無断欠席しました。
保護者に確認? ええ、しましたよ。何せ我が家に下宿している子です。
お父さんに電話したところ、「急用が出来たと言って朝食も食べずに家を出ました」という返事でした。
大事なことなので二回言います。由々しき事態です。
家を出てから事故や事件に遭ったのか。はたまた自発的な欠席か。
ちなみに今年で教職5年目の織部美都、脳内辞書に「様子見」の三文字はありません。こういう時はスピーディーに動いてナンボです。
私は、仮に自主休校だった場合に
《はいもしもし、ツクヨミです。どうしたの? 先生》
「突然すみません、ツクヨミさん。近くに小夜さんはいますか?」
《小夜なら私の隣……あれ!? 消えた!》
「逃がさないでください。無断欠席ですので」
《そして先生もテンションが振り切れてる時の声だし! ――小夜、戻って! バック、カムバック! このままだとアナタ、一日サボり通すよりもっと大変なことになっちゃうからー!》
ツクヨミさん。いくら私でも、無断欠席一つでそんな無体はしませんよ。とりあえず進路相談室にて差し向いで事情を聞かせてもらって、当日中〆切で反省文をA4原稿1枚分書いてもらうくらいですってば、もー。
とはいえ、です。
「ツクヨミさん。小夜さんの他には誰が一緒ですか?」
《ソウゴと一緒。3人で動いてたの。ゲイツと黒ウォズは別行動》
私はスマホの口元を手で覆った。
「――アナザーライダーですか?」
《……ええ。2004年のレジェンド5・仮面ライダー
今年生み出された。つまり、2019年の時点で、その仮面ライダー
《……実は、先生のお父さんの計都教授に、
あー、と私は困って間繋ぎに間抜け声を上げました。
私の延命を2070年で裏から成功させるために、お父さんは“語り部の禁”を犯したといいます。多くの禁止事項の中でも最も重い罪状――闘争の歴史的記録の改ざんを。
お父さんとお母さんの、時代を超えたファインプレーのおかげで、私はお母さんの遺体の尊厳を守った上で、ゲイツ君から人並みの寿命を授かることができました。
今のお父さんは、“観測者”のお役目を続けてはいますが、それは後任の“観測者”が見つかるまでの中継ぎ。後任が決まったら、ライダー史改ざんを行った時点まで遡って、後任は記述を全て洗い直すという段どりです。お父さんはもう“後任”を誰にするか目星をつけているようですが。
要は今のお父さん、半分だけ謹慎中って感じの身の上なんですよね。
と。にわかにスピーカーの向こうが騒がしくなりました。これってまさか。
《先生ごめん、アナザーブレイドが出た! 落ち着いたらまた連絡するから!》
「あ、ちょ……!」
切れちゃいました。
せめて現在地は聞いておくべきでした。反省です。
こうなったら――あまり好きになれない手法ですが――しょうがないですね。
私は自分のデスクに戻って、デスクトップPCを再起動してから、国際的動画サイトにログインしました。
選択するのはライブ中継。もしアナザーブレイド襲撃が白昼堂々なら、動画フリークが現場を撮って生配信しているはずですから。
いくつかチャンネルを回って――ビンゴ。『
日本史の授業をさっき一コマ終えて、残るコマは軒並み午後帯でしたね。
私は新調したショルダーバッグにスマホを入れて、席を立ちました。
「すみません。出かけてきます。昼までには戻りますので」
席替えで私の正面になった、1年A組の志野先生に伝えて、私は職員室を後にしました。
校舎を出て職員用駐車場に回って、愛車に乗り込んで、レッツゴーです!
私が現場に駆けつけた時には、すでにジオウと、おそらくはアナザーブレイドが交戦に入っていました。
「ソウゴ君! さっきも言ったけど、相手は女の子だからね、女の子! 手加減推奨!」
『できるだけ気をつける、けど……!』
「見つけましたよ、門矢さん」
「きゃあああ!? 美都さん……じゃなくて、美都せんせー!?」
ソウゴ君をはじめ3年G組のみの愛称だった「美都せんせー」は、小夜さんによって1年G組にも広がりつつあります。
「こ、これには訳がっ」
「大体察しはついてます。とはいえ、これが終わったら学校には来てくださいね。何か危ないことがあったんじゃないかって、心配したんですから」
「ごめんなさい……」
とはいえ、目の前の戦闘も放ってはおけません。
アナザーブレイドの手には大振りのソードブレイカー。対抗してジオウは鎧武アーマーに換装して、オレンジを模した二刀でアナザーブレイドの剣を受けては流します。
その内、ジオウが押して来ました。
不利を悟ってか後ずさったアナザーブレイドに、ジオウが追い縋ろうとした時でした。
「待て」
この場に居る誰でもない、有無を言わせぬ声が割って入りました。
アナザーブレイドは愕然と、現れた男性の名を呼びました。
『始さん――!』
「……天音ちゃん?」
男性はアナザーブレイドの負傷を見咎め、厳しくジオウを見据えました。
「
男性が手にトランプらしきカードを構えると、彼の腹部に黒いベルトが現れました。彼はそのベルトのカードリーダに、手に持ったカードを読み込ませました。
「変身」
《 Change 》
変身、した? 黒のボディと、顔面と胸部の模様はハートマークを模った赤。あれって仮面ライダー……でいいんでしょうか? 今までのライダーに比べてどこか違和感があります。
『始さん!?』
アナザーブレイドの声は驚きによるもの。彼女もあの男性が仮面ライダーだと知らなかった?
当の仮面ライダーの彼は有無を言わさず、アーチェリー状の刃でジオウに斬りつけました。ジオウはオレンジの二刀でどうにかあちらの太刀筋を逸らしたのですが。
すると、彼が抜いたのは……またトランプ、ですか? それも、三枚も。
《 Float 》《 Drill 》《 Tornado 》
『はあああああっっ!!』
《 Spinning Dance 》
ジオウへとくり出された技は、空中で回転しながらのライダーキック。まともに食らったジオウは吹き飛ばされて、鎧武アーマーも解除されてしまいました。
「トランプをモチーフにしたカード、スライド装備とリーダー搭載武器……もしかしてあれ、レジェンド5の固有武装『ラウズカード』!?」
「さすがツクヨミちゃん、今なら仮面ライダークイズに勝てそうね。そう、レジェンド5世代の闘いは、アンデッドという怪生物をカードに封印して回っては、そのカードを兵器として装備した。だからそのバトルスタイルで変身して戦闘を行う以上、あの仮面ライダーはレジェンド5で確定」
分析も解説もあとから伺います。私は地面に倒れるジオウに駆け寄ろうとしたのですが、途中で足を止めざるをえませんでした。
私の前をちょうど横切った、くたびれた身なりの男性によって。
『剣崎!? まさかお前まで……っ!』
「始……アンデッドの力を使ったな!」
今が戦闘の真っ最中でなければ、私は剣崎と呼ばれた男性に、体調が悪いのかと尋ねたに違いありません。だって彼、そのくらいに呼吸のリズムが乱れていたんですもの。
「俺は、っ、お前のために、自分の力を封印したつもりだったのに! お前が封印を破った! どうしてだ、始!」
糾弾を叫ぶ剣崎さんのもとへ飛来したのは、トランプの帯です。それらは文字通り
剣崎さんがベルトのバックルを返して、現れたのはスペードのエースの模様。
「変身!!」
《 Turn up 》
青い光を潜った剣崎さんの姿は、それこそ真正の仮面ライダーだと一目見て分かるほどでした。
「さぁてツクヨミちゃん、ラストクエスチョンよ。レジェンド5で『剣崎』と『始』といえば!」
「仮面ライダー
「――、その辺の既定事項を書き替えるために、彼女をアナザーライダーにしたんでしょうね、白いほうのウォズさんは。なりふり構わずのくせにこっちの泣き所は心得てんの、ニクイったらありゃしない。――美都さん! そこ危ないから戻って来て!」
「えっ、あ、はい!」
これでも仮面ライダーに関わって約半年、ドンパチには慣れました。すぐさま小夜さんとツクヨミさんのそばまで後退しました。
学校では“門矢さん”に対して“先生”している私ですが、校外と自宅ではつい小夜さんに主導権を委ねてしまいます。ちょこっとだけ無念です。本っ当に、ちょこっとだけ。
ジオウはジオウで、アナザーブレイドが猛進してくるのでそちらの防御に追われています。
小夜さんが手加減推奨なんて言っていたからか、ジオウから積極的に攻撃に転じる様子は見られません。
《 Kick 》《 Thunder 》《 Mach 》
あれは、確かラウズカード? でしたっけ。
『はあああああ!!』
《 Lightning Sonic 》
ここでジオウが取っ組み合いになっていたアナザーブレイドを、
カリスはというと、アナザーブレイドをあくまで庇うスタンスを崩しません。アナザーブレイドと
仮面ライダー
オリジナルの攻撃が効くという法則はアナザーブレイドにも健在でした。アナザーブレイドの姿が人間の女性のものに戻りました。
『天音ちゃん!』
『天音、ちゃん?』
――面影を、仮面に隠されながら、天音と呼びかけられた女性は、カリスの本当の姿を見間違えはしませんでした。
「始さん……っ」
ですが、とっさに天音さんに駆け寄ろうとしたカリスはそうではありませんでした。
カリスは自らの黒い装甲を見下ろし、苦吟もあらわに天音さんに背を向けて駆け去りました。
「待って! 行かないで!」
カリスとは対照的に、天音さんは迷いの一欠けらも見せずにカリスを追って行きました。
事態に置いてけぼりを食った形になった私たちですが、幸いにもすぐに気を取り直すことができました。
ツクヨミさんがジオウに駆け寄り、小声で彼に変身解除を促しました。ジオウは応えて、ジクウドライバーからジオウウォッチを外しました。
ソウゴ君はというと、真っ先に
「大丈夫だった? 結構ハデな戦闘みたいだったけど。ウチに来てくれたら、ケガの応急手当くらいするよ」
『気持ちだけ貰っておく。これでも体は頑丈なほうでな。それに俺はカリスと、あの女性を追わなくちゃいけない。どうして天音ちゃんがあんなバケモノになったかも確かめないと――』
「アナザーライダーのことなら俺たちのほうが事情通だよ! それに、あんたがあちこちダメージ食らったの、傍目に見てても分かったんだ。だからさ、ね?」
変身を解除した剣崎さんの傷口を濡らす血を見て、私は息を呑みました。
赤く、ない。
剣崎さんの傷口から滲み出るそれは、どれも、緑色だったのです。