70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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2018年編
Syndrome1 桜前線異状アリ


 物心ついた頃には、銃を握っていた。

 

 俺にとって、オーマジオウはいつだって、赦しがたい悪であり、絶対的な魔王だった。

 戦場で上がった鬨の声が、オーマジオウによって全て悲鳴と絶叫へ変えられた様を、何度この目に映しただろう。

 

 レジスタンスの構成員は日を重ねるごとに死傷者を増していった。

 俺の師匠であった人も、オーマジオウに挑んで、散った。

 

 ――2068年9月。

 レジスタンスが何十回目かの敗走をしてから、どうするの、とツクヨミに問われた俺は、答えを迷わなかった。

 

「時間を超えて、歴史を変える」

 

 まだ幼かった俺やツクヨミに、師匠は言った。

 例えそれが現在を善くするためだとしても、決して過去の歴史を改変してはいけない、と。

 

 

 “私たち人間が変えていいのは、これからの未来だけなんだよ”

 

 

 アンタの教えを守れなかった不肖の弟子を、許してくれ。師匠――明光院ミトさん。

 口にはしないで胸中で唱えてから、俺は赤いタイムマジーンに搭乗した。

 

 

 …………

 

 

 ……

 

 

 …

 

 

 2018年9月。

 高校の二学期が始まって最初の進路指導面談で――

 

「俺、王様になります!」

 

 きっぱりはっきり、弁護のしようもないくらい途方もない希望を述べた生徒には、どう対処すればいいのでしょう?

 教職人生4年ぽっちの私――(おり)()()()には、さっぱり分かりません。

 

「――常磐ソウゴ君」

「はいっ、美都せんせー」

 

 彼含め生徒にはちゃんと「織部先生」と呼ばれたいんだけど、光ヶ森高校に赴任してからはこのアダ名で定着してしまった。やめて、と言い張るのも教師として威厳がないように思えるし。悩みの種の一つです。

 

「常磐君はどうして『王様』になりたいんですか?」

「世界を全部良くしたい。みんな幸せでいてほしい。そんなことを思ったら、王様になるしかないじゃないですか!」

 

 常磐君の理想は真剣であり、それを本気で進路にするくらいにいい子であることは、クラス主任として知っている。

 

「常磐君の『王様』は具体的にどのようなことをする人ですか? 環境保全? 災害復興? エネルギー資源開発? 医療の発展? 戦争の根絶? 国際交流? 後進国の援助? ハンディキャップのある人たちの支援? 政治改革?」

 

 そ、それは、と常磐君は言葉を詰まらせる。

 

「全部やりたい……じゃ、ダメ、ですか?」

「ダメではないですよ。むしろ全部やろうと本気で思っているならすごいことです。ただ、なりたい自分になってから、さあ何をしよう? とやっと考え始めるようじゃ、先生も手助けのしようがないんですよ。――次の面談までの宿題にしましょうか。常磐君が『何をする』王様になりたいのか、調べて考えて、具体的なヴィジョンを描けたら、それを先生に教えてください。自力で分からないなら、先生も全力で知識提供とアドバイスしますから」

「分かりました! ありがとうございます、失礼しました!」

 

 常磐君は足取り軽く進路指導室を出て行った。

 私も、間続きになっているドアから職員室へ戻った。

 

 自分のデスクに座って、スケルトンの懐中時計のスタンドを開いて机の上に立てかけた。

 

 正面席の伊賀先生から声がかかった。

 

「お疲れ様です、織部先生。職員室まで聞こえましたよ。常磐には手こずらされますよねえ」

 

 そうおっしゃる伊賀先生は、確か2年生の時の常磐君のクラス主任でしたっけ。

 

「2年生の時も、常磐君の進路希望は『王様』だったんですか?」

「2年どころか一年の時から。高校入学から常磐は一向にブレてませんよ。俺は、せめて大学には行けってずっと言ってたんですが、常磐の奴は聞く耳持たずでして。……なんか、すいません。ツケを織部先生に押しつけた形になっちゃいましたね」

「伊賀先生の謝ることじゃないですよ」

「はは。これはご丁寧に。――それじゃあ俺はこの辺で。部活の指導に行きます。お疲れ様でした」

 

 伊賀先生は物理の小テストの答案を片付けると、帰り支度をして職員室を出て行った。伊賀先生は空手部の顧問でもあるから、道場に向かって、空手部の活動が終わったら直帰するんでしょうね。

 

 私はどうしましょう?

 今日の出席簿は集計して、欠席の生徒のお家には連絡した。

 日直の生徒が書いた学級日誌は、もう読み終わって一言欄にもコメントを書き込んだ。

 

 他には……

 そうだ。クラスの生徒の生活ノートのチェックが途中になっていたので、それを再開することにしましょう。

 

 他の先生方は、生活ノートを小まめに読んでコメントを書き添えるなんて「じきにやる気をなくしてスルーするようになる」と言ったけれど、私はこの方針。

 だって、たくさん勉強して努力したのにプレッシャーで潰れて試験や面接に落ちる、なんて生徒がかわいそうじゃないですか。その兆候が生活ノートに書いてあったとしたら、クラス主任として悔やんでも悔やみきれませんもん。

 

 立てた懐中時計の針を見やる。うん、時間にはまだ余裕がある。頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 生活ノートをやっつけた頃には、窓の外はとっぷりと暗くなっていた。

 スケルトンの懐中時計を見ると、針は20時30分を指していた。

 

 職員室に残っているのは私だけ――かと思いきや。

 卓球部顧問の清水先生が戻ってきた。もとい、駆け込んだ。

 

 清水先生は私を認めるなり、小走りで私の前まで来て身を乗り出した。

 

「織部先生! 私がいない間に電話かかってきませんでした!? 本間から!」

「い、いえ。この一時間、電話は一本もありませんでした」

「そう、ですか……」

 

 卓球部の本間弘也君は私のクラスの生徒である。今日の帰りのHRでも、本間君には特に変わったことはなく、普通に室内競技棟に向かっていたのを見かけた。

 

「本間君がどうしたんですか? 何かあったんですか?」

「それが……家に帰ってないとかで。私も知ったのはついさっきですけど……親御さんから部活仲間の家に連絡が行って、その家の子のLINEで部員に話が広まって……部員が手分けして探してて、その中で学校に確認しに来た部員が私のとこに来て、『学校に残ってないの?』って……」

 

 清水先生は項垂れた。

 

 私は隣の席のオフィスチェアを引いて、清水先生に座るよう勧めた。清水先生は「すいません」とそのオフィスチェアに腰を下ろした。

 

「学校に戻ったという部員の子は?」

「別の場所を探すとかで、すぐに帰ってしまいました」

 

 卓球部の部員たちは上から下まで団結力が強い。突然いなくなった本間君を探すのは納得できる。いい子たちだと思う。

 でも、夜の街を未成年の子たちが駆け回っているのはよろしくない。

 

「清水先生。落ち着いてください。とりあえず、卓球部の生徒たちは、帰宅するように伝えたほうがいいんじゃないでしょうか。探してくれるのはいいことですけど、真夜中は生徒が危険だと思います」

 

 本間君を探す過程で、別の部員が事故や事件に遭ったら二次災害になってしまう。心根の良さが裏目に出るのが夜って世界だから。

 

「はい――はい。そう、ですね」

「私は卓球部全員の連絡先を知らないですから、清水先生、お願いします。本間君の親御さんには私が電話しますから」

「すいません。お願いします、織部先生」

 

 清水先生はオフィスチェアを立つと、早歩きで自分の机に行って、電源を入れたPCから学校連絡網サービスを起ち上げた。

 

 私は本間君宅の電話番号をプッシュして受話器を持ち上げた。

 一方的なメッセージ送信より、親御さんと直接会話したほうがいいと思った。必要なら警察に捜索願を出してもらうことも視野に入れて話し合おう。

 

 

 

 

 

 

 

 土日が明けて月曜日が来た。

 

 本間弘也君は元気に登校して、今は教室で、授業(私の担当教科は日本史Bです)を受けている。

 

 ――保護された本間君は、交番で「なんか赤くて青い怪人に襲われて、そのあとは何も覚えてない」と証言したそうです。

 変質者でも通り魔でもなく、怪人。その言い回しが引っかかった。

 でも、私みたいな一高校教師にできることなんて無いに等しい。

 そう、思ったのですが――

 

 

 終業チャイムが鳴って、私が教材と生徒が提出したノートを持って職員室に帰るだけというタイミングで、本間君が私のところへ来ました。

 本間君はノートの束を運ぶと申し出てくれたので、一緒に職員室まで歩いた。

 

 階段の踊り場で、本間君が立ち止まった。

 

「美都せんせーは、さ、『仮面ライダー』って知ってる? 怪人に襲われたあと、俺、何も覚えてないのは本当なんだけど……だから、夢、だったかもしれないんだけど……『仮面ライダー』って聞こえた気がするんだ。しかもやけにリズミカルに」

「仮面ライダーの名前は知ってますけど……本間君。そのことを、おまわりさんには言いました?」

「……言ってない。保護されてすぐの時は、まだ頭がハッキリしてなかったから……言いに行ったほうがいい、のかな?」

 

 納得が行った。本間君は、新しい手がかりを思い出したはいいものの、もう一度、交番にそれを申告に行く踏ん切りが付かないのだ。

 

 分かりますとも。“仮面ライダー”という、都市伝説の一種である新証言なんて、おまわりさんに向かって堂々と言うには勇気が要りますよね。

 

「別にいいんじゃないですか? なんなら先生が伝えておきますよ」

「いいのっ?」

「はい」

「やった! ありがと、美都せんせー!」

「どういたしまして」

 

 そうこう言う間に職員室前に着いた。

 私は本間君からノートの束を返してもらって、よたよたした歩調で職員室に入った。




 活動報告で10月から連載と言ったな? あれは嘘だ。
 ――という茶番は置いといて。
 ジオウ始まりましたので、平成最後の一花を咲かせたく、作者あんだるしあ、あいるびーばっくしました。
 ジオウを一視聴者として楽しみつつ、一物書きとして物語にできたらばと思いますので、生温かく見守ってくださいませm(_ _"m)
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