都内のタワービル、その展望室。
夜景を見るでもなく、愛用のトイカメラをいじっていた門矢士に、背後から声をかける者があった。
「久しぶりだね、士」
「……お前らは揃いも揃って、人んちを玄関から訪ねるって常識がないのか」
「それを君が言うのかい? いつだって唐突に現れて唐突に去るのがスタンスのくせに」
――海東大樹。門矢士にとっては、切っても切れない腐れ縁のコソ泥野郎であり、常に異邦人であるという一点では肩を並べられる数少ない男である。
「まあそれはそれとして。士、足下が甘いのは相変わらずだな。君の妹くん、お父さんの形見のカメラを失くしてたよ」
心底どうでもいいと言わんばかりに、海東は士にとって聞き捨てならない言葉を吐いた。
士が荒っぽくソファーチェアから立ち上がった。
苛烈な眼差しは「ありえない」という愕然と、報せをもたらした自分への八つ当たりの二色で彩られたものだ。付き合いの長い海東には容易く読み取れた。もっともこの場合は、士が感情的になっているという加点があるが。
「――、お前」
「僕は誓って手出ししてない。確かに僕は“お宝”に目がない、そこは認めよう。けれど僕だっていい歳したオトナなんだ。人命に直結する品であれば手を引く分別はあるよ」
士は溜息をつくと、手に構えていたネオディケイドライバーを下ろした。
申し開きがあと1秒遅れたら
「さて士。君への貸しはごまんとあるが、そこにさらに貸し一つ上積みする気はあるかない?」
「……探す気か? 親父の形見のカメラ。また異なる世界を渡り歩いて?」
「アレが無いと小夜くんがビシュムの眼の負荷に耐えられず命尽きる未来が待ってる。それに、昔言っただろう。僕は君よりずっと前から“通りすがりの仮面ライダー”だ」
士は間を置き、スーツの内ポケットから一枚の写真を海東に突き出した。
写っているのは、仲睦まじげな、若い兄妹。並んで寄り添う兄と妹は、どちらも機種は異なるがカメラを首から下げている。10年近く前の写真だろうに、士は後生大事に持ち歩いていたらしい。
「頼まれたものと受け取るよ」
「――なるべく早く、頼む」
「殊勝だな。分かった。尽力する。――君には家族を喪って号泣するなんて姿、似合わないからね」
海東は灰色のオーロラを展開し、それを潜って展望室から姿を晦ました。
足下が甘いのは相変わらず。
海東の何気ないその言葉は、門矢士を沁みるように苛んだ。
――かつて。士は記憶を失い、この世で二人きりの兄妹である門矢小夜を忘れた。そのために小夜は寂しさを持て余して大ショッカーの大神官ビシュムへと身を窶し、今なおビシュムの“役”から脱却できずにいる。
妹の運命を歪めたのは、間違いなく士だ。
時折考える。9年前の旅立ちの日。士は無理にでも小夜を連れて共に旅立つべきだったのではないか。強がった別れが小夜を今なお苦しめているのではないか。
光ヶ森高校の入学式の日。春爛漫の眩さを放つ制服姿の小夜の姿を見て、また士は勘違いをした。小夜は自分などよりずっとしっかり者だから大丈夫だ、と。
「守ってみせるさ。今度こそ。なあ、――」
呼びかけた名は、夜闇を震わし、大気に音もなく融けた。