本日は土曜日。学校はお休みなのだが、織部美都は朝早くから出かけた。行き先はクジゴジ堂だ。定例になりつつある、仮面ライダー関係の対策会議に参加するためだ。
よって本日は小夜のほうが美都より遅く起床し、遅めの朝食を頂くことになった。
リビングのテーブルで、白ごはんに味噌汁に卵焼きと、軽めの定番朝メニューを食べる小夜。
正面には、老眼鏡をかけて新聞を読む織部計都が着席している。
「小夜さんは美都と一緒に行かなくてよかったのですか?」
「これ食べ終わったら出かけるよ。今回の事件は、ツクヨミちゃんに大きく関わるものがあるみたいだから」
はら、ぱさり。
新聞を畳んだ計都は、温和に小夜に問いを発した。
「あなたの来訪目的は門矢士さんの監視と調査ではありませんでしたか?」
「その士お兄ちゃんの
「……申し訳ありません。僕の考えが穿ちすぎでした」
「気にしてないよ。わたしが怪しさてんこ盛りなのが悪いんだもん。おまけにディケイドの妹だし?」
小夜は大仰におどけて見せてから席を立ち、ハンガーから花柄のカーディガンを取り外した。
「美都さん追っかけてクジゴジ堂に行ってきます。帰りは美都さんに便乗するつもり、だけど」
「何か気になることでも?」
「
計都はきょとんとしてから、相好を崩した。
「もし小夜さんの言うようになった時は、帰ってからオススメのメニューを教えてください。今度は僕もお供しますから、3人で行きましょう」
「――ありがと」
小夜は、彼女にしては言葉少なにリビングを出た。
(美都さんが“お姉さん”なら、計都さんは“パパ”だよなあ。しかも頭に『理想の』が付く。“お姉ちゃん”は夏海さんで、“お父さん”は実のお父さんだけど。うん、確実に織部父娘に情が移っちゃってるよ、わたし。だってあれだけ堂々と“家族”にカウントされたら、しょうがないじゃない)
内心でぶちぶち言い訳しながら玄関で靴を履き、小夜は、外へ出た。
朝も
ただいま織部美都、元・主任クラスに在籍していたソウゴ君、ゲイツ君、ツクヨミさん、加えて黒ウォズさん(もう“黒”を頭に付けなくてもいいのですが)と一緒に、警察管轄のある場所へ向かっていました。
ちなみに車です。運転手が私、助手席にウォズさん、後部座席に未成年組3名が詰めて、という内訳です。
アッシー君? いいえ、引率です。
「G3ユニットの演習場?」
「調べてみたらここのとこ、G3ユニットとアナザーライダーが連続して交戦してるの」
「この時代の警察の特殊部隊だろう。アナザーライダーと交戦しても何らおかしくはない」
「交戦自体はね。その現場は、必ず警察が所有する施設の中なの。屋外ならまだしも、警察の中にある訓練場にまで乗り込んでるのよ」
「どゆこと?」
「事件現場にG3が駆けつけるんじゃなく、G3のほうにアナザーライダーが駆けつけてるってことだ」
「もしそうならアナザーライダーを待ち伏せすることもできる。――昔からそうだが、実に冴えてるじゃないか、ツクヨミ君」
「あ。そういえば、ゲイツとウォズの話はこないだ聞いたけど、ツクヨミってレジスタンスの時はどんな感じだったの? 気になるな」
前が赤信号なのでブレーキをかける。
「ツクヨミ君はレジスタンスに入隊した時には、記憶を失っていた」
「記憶喪失ってこと!?」
「……ええ、まあ。ミトさんに拾われてレジスタンス入りするまでの記憶が、全く無いの。ツクヨミ、って名前もコードネームみたいなものね」
バックミラーに映る後部座席のツクヨミさんを窺いました。
彼女は指で宙に「2943」と書いていました。数字の語呂合わせで付いた名前。私のお母さんと一緒です。
「本当の名前も分からない。ゲイツと年頃が近い背格好だから、一応は同い年ってことになったけど、本当言うと実年齢も分からないのよ。――あんまり気にしてないけどね」
信号が青になったので、私は再びアクセルを踏んで車を走らせました。
目的地である警察の演習場に到着するまで、車内でしゃべる人は一人もいませんでした。
警察の演習場に着いた時には、すでに銃撃戦が始まっていました。
G3を装甲した隊員さんたちも、生身の警官たちも、狙い撃つ相手は一択。アナザーライダーです。
目星をつけて来たとはいえ、一発でアタリを引いたのは、幸先がいいのか悪いのか。
ソウゴ君を筆頭に男性陣はおのおのドライバーとライドウォッチを両手に、戦場へ飛び込んで行きました。
警官の一人、おそらくは隊長らしき方が、闖入者にぎょっとしたようです。
「君たち!? 危ないから下がってろ!」
「大丈夫っ。私たちに任せて」
先に行った3人がアナザーライダーの前でそれぞれに変身しました。
――開戦を告げる陣鍾が鳴る。
ジオウ、ゲイツ、ウォズがアナザーライダーと戦い始めたことで、G3装着者の皆さんは攻撃タイミングを計りかねています。
ゲイツがアナザーライダーの左腕を背中でねじり上げました。
あの左胸の刻印は……“AGITΩ”?
「仮面ライダーアギトのアナザーライダー……!」
え。あれで「アギト」って読むんですか? 確かにΩはラテン文字だとOに転写されますけど……
って、まずいです! アナザーアギトがこちらのライダーたちを突破しました。
狙いは、倒れたままのG3装着者の一人です。ツクヨミさんがファイズガンを向けますが、アナザーアギトがその人に覆い被さったせいで上手く狙いを定められてません。
アナザーアギトがとうとうG3の胸部アーマーを力ずくで剥がしてしまいました。
――ですが、本当に見るも恐ろしい光景は、ここからでした。
アナザーアギトは、押さえつけた隊員の剥き出しになった胸部を
私たちも、G3ユニットの方々も、そのスプラッタな現実に呆然として動けませんでした。
やがてアナザーアギトが血まみれの口元を啜りながら拭って立ち上がった。
修羅場慣れしたと思っていたのに、目の前でカニバリズムを見せられて戦慄している情けない自分がいる。
……あれ? 襲われた人が起き上がりました。もしかして、ダメージそのものはあの光景ほど酷くはなかったってこと……、……え?
ぼとん、ぼとん。勝手に外れるG3の装甲。
最後に落ちたフェイスガーダーの中から出てきた顔は、まぎれもなく怪物の、いいえ、アナザーアギトと同じそれ。
悪夢のような光景でした。
二体目のアナザーアギトは、手近な生身の警官に襲いかかりました。アナザーアギトと同じく肉を食い破って心臓に牙を立てて――三体目のアナザーアギトの出来上がり。
『また増えた!?』
『これまでのアナザーライダーとは違うということか――!』
アナザーアギトたちは、ジオウにもゲイツにもウォズを文字通り歯牙にかけず、G3ユニットの隊員ばかりに襲いかかりました。
こちらの仮面ライダーたちはそれを引き剥がして敵の注意を自身に向けようとしましたが、なぜか隊員ばかりをアナザーアギトたちは狙うのです。いっそ、執拗なほどに。
乱戦の中、ウォズが蹴り飛ばしたアナザーアギトの一体が、ちょうど私たちの前に転がりました。
――私とツクヨミさんのそばには、G3ユニットの隊長、つまりアナザーアギトが獲物と定めたカテゴリに入る方がいます。
案の定、アナザーアギトはこちらへ飛びかかりました。気づいたウォズの追撃も間に合いません。
「危ない!」
ツクヨミさんが隊長を突き飛ばすと同時、私はツクヨミさんを抱き寄せてアナザーアギトに背中を向けました。
ツクヨミさんが襲われるくらいなら、私の背中に一生消えない傷が残るほうが100倍マシです!
「だめええええっ!!」
――、――、――何も、起きない?
私はツクヨミさんを腕の中に隠したまま、恐る恐るふり返りました。
停まって、る。
アナザーアギトが、ジャンプして襲いかかろうとした態勢のまま、宙に固定されていたのです。
私はライダー・シンドロームを開放していませんので、私がしでかしたことじゃありません。
今のジオウはⅡではないので、時間を操って私たちをピンチから助けたという線もありません。そもそもジオウⅡの能力は時間の“逆転”であって“停止”ではありません。
だとしたら。――私はツクヨミさんを見下ろしたのですが、すぐに思い直しました。
アナザーアギトはいつまた動き出すか分からないのです。私の“生徒”への狼藉は見過ごせません。
私はツクヨミさんを抱いたまま、アナザーアギトの射程から大きく下がりました。
時間停滞が解けたアナザーアギトが、数秒前まで私とツクヨミさんが立っていた位置に落下しました。
そのアナザーアギトが起き上がる前に、ウォズが駆けつけてジカンデスピアを揮い、敵の注意をこちらから外してくれました。
ウォズを相手取っていたアナザーアギトが撤退しました。
それを皮切りに、ジオウやゲイツと交戦中だった他のアナザーアギトたちも演習場から逃亡してしまいました。
ツクヨミの命名の元ネタが「2943」の語呂合わせだというのは、完全に作者の思いつきです。No誤解!
原作でこの数字が全く関係なかったらまた捏造に走ると思われます。
しかしこの数字が「アタリ」だとしたら、「
追記
待って。マジで待ってカブト後編。
ツクヨミが連れてかれたあの屋敷! 嫌ってほど見た! 門矢家の屋敷の内装そのままだったんですけど!!щ(゚Д゚щ)
さらに気づいた!
龍騎の神崎邸の階段とも同じセット使ってる!