G3ユニットの尾室隊長による事情聴取を私が引き受ける間に、男性陣は取調室の外の廊下で作戦会議をしてもらってます。増殖するアナザーライダー、あえて警察のG3ユニットを襲撃するという不審な動向、etc…
こういう事態に備えて“社会人”の私がいつも仮面ライダーたちに同行しているとはいえ、我ながら損な役回りです。好きでしている損ですから同情はノーサンキューですけどね、ええ。
ようやく事情聴取が終わって取調室から出た私。
一番に目に付いたのは、廊下のソファーに座って無言を貫くツクヨミさんです。
「お待たせしました」
「美都せんせー! 大丈夫? 何もされなかった?」
「君は警察の取調べを何だと思ってるんですか、常磐君」
「うぐ。ゴメンナサイ」
まあ、仮面ライダーに変身したこちらの3名のことは尋ねられましたがね。
それも、予想より根掘り葉掘りではなかったので、肩透かしを食らいましたが。
尾室隊長曰く、
“そういう人、知り合いにいましたから”
……まさかね?
私は、ソファーに肩肘を張って座るツクヨミさんの、隣に腰を下ろしてから、彼女の膝の上の手にそっと手を置きました。
「帰りましょうか」
ツクヨミさんは無言で首を縦に振りました。
クジゴジ堂に帰ってからも、ツクヨミはリビングのソファーに座して、堂々巡りの思考に悩まされていた。
ソウゴとゲイツは、インターネット検索で出てきた「AGITΩ」という店名のレストランを訪ねてみる、と言って出て行ったきり。
このリビングにいるのは自分とウォズ、それに、隣に何も言わないで座っている美都の3人だ。
「元気がないじゃないか。さっきのことを気にしてるのかい?」
「っ、見てたの?」
「この目でハッキリと」
そこで美都が庇うように、常より低いトーンでウォズの名を呼んで窘めた。
「王母もご覧になっただろう。さっき時間停滞を発動させたのは、他ならぬ彼女だ」
「ええ、見ました。だとしても、そう追及するかのような言い方では、当人を混乱させるだけです」
先生、いいよ、大丈夫。
普段の彼女ならばそう言って美都の弁護を止めることができただろう。
だが、今のツクヨミはとても「普段通り」とは言えない精神状態にあった。彼女は自身でも自覚できないほどわずかに、美都の腕に身を擦り寄せた。
ピコン♪
SNSの着メロが鳴った。ツクヨミのスマホからだ。
現代に来たばかりの頃はファイズフォンを使っていたが、ソウゴが「悪目立ちするから買い換えよう」とゲイツともども携帯電話ショップにツクヨミを引っ張って行って新調させたのだ。
LINEを起ち上げると、「光ヶ森3G~2019~」というグループから招待メッセージが入っていた。
小和田隆>ヨミちゃん、やふー? 見てるかー?
篠崎磨白>ヨミが元気ないと聞いて。
青山新>おまおれ。
白石五十鈴>愚痴りたいなら聞くよ、ヨミ。
(ヨミ、か)
ツクヨミという名自体が偽名なのに、さらにそこから愛称が派生するとは夢にも思わなかった。
しかもG組女子がそう呼び始めた理由が「長くて呼びにくい」だから、もう笑うしかない。
(でも、一度も言われなかったし、聞かれなかったっけ。変な名前だとか、苗字は何だとか。聞かれても困るとこだけピンポイントに誰も質問してこなかった。そういう意味じゃ、3年G組の教室は過ごしやすかった)
――幼少期の記憶など、レジスタンスに入隊して以降のものだけでよかった。
ゲイツという戦友がいたし、ミトが娘同然に可愛がってくれた。
それでも足りない愛は大勢の年配隊員たちが注いでくれた。
(トモダチなんて、ゲイツとソウゴがいれば充分だと思ってたのに)
自分でも気づかない内に、熱心になって更新されゆくメッセージを目で追っていたらしい。
ツクヨミはようやく、ウォズと美都が自分をじーっと見つめていることに気づいた。
何が恥ずかしいのか分からないのに途方もなく恥ずかしくて、ツクヨミはスマホを素早くポケットに入れ直して、脱兎のごとくクジゴジ堂を飛び出した。
廃れた湾岸のショッピングモールまで来たところで、ツクヨミは足を緩め、適当なベンチに腰かけた。
(ダイマジーンが出た日も、G組の女子が助けようとしてくれたっけ。瓦礫や人波でパニック状態の中で、避難しなさいって怒鳴った私に、逆に怒鳴り返したのよね。『あんたが逃げろ!』だっけ)
ソウゴの監視を名目に片手間で通うのではなく、もっと全力で「青春」しとけばよかったな、なんて、今さら過ぎるセンチメンタル。
「ツクヨミちゃん、みーっけ」
「……小夜」
「あれ、イヤな顔しないんだ。心細くなることでもあったとか?」
小夜はごく自然――を装ってツクヨミの隣に座った。
いつもなら気づかなかった。門矢小夜は無理をして明るく振る舞っている。無理、では言い過ぎだから、緊張しているというべきか。
「アナタこそ、今さらなに肩肘張ってるのよ」
「――バレてたか」
「気づいたのは今が初めて。私と話すの、そんなに緊張する? 私、そんなに態度キツイ?」
「まさか。問題があるのはわたしのほう。……わたしね、本当は結構な人見知りなんだ。5歳で両親が死んじゃって、外に出るのが怖くなって、そのまま10年くらい屋敷に引きこもったんだ。お世話してくれた執事の月影さんがいなかったら、孤独死まっしぐらだった」
「ディケイドの門矢士は? 実の兄でしょう」
「うーん、お兄ちゃんはコドモの頃から俺様街道だったからなあ」
その言葉だけで、門矢家の説明はこれ以上要らない。ツクヨミは割と真剣にそう思った。
「いつまでも雛のまま大事に大事に閉じ込められたから、同世代の女子と話すってだけでも耐性がないの。そのくせ一丁前に、女子の親友欲しいなー、とか憧れてるから、態度がぎこちない。今まで不愉快にさせてたんなら、ごめんね」
「そこはまあ、別に……私も、こういうふうに女の子同士で、って、あんまり経験ないから。光ヶ森高に潜入中も、戸惑いっぱなしだったし……」
「わたしも入学してから毎日どうしようってあたふたしてる」
ツクヨミは小夜と顔を見合わせた。
ぷっ――と噴き出したのはどちらの少女が先か。
気づけば女子二人、なんにもないのに大笑いしていた。
(よく考えたら変な力がある年頃の女子なんて、小夜がまさにそうじゃない。一人だけ世界で異種族になって爪弾きにされたような気がしてた私、ばかみたいね)
女子特有の連帯感にツクヨミが気を緩めた、まさにそのタイミングだった。
――スウォルツが前触れなくツクヨミたちの前に現れた。
「さしずめ自分の中の力に戸惑っている。そんなところか」
竦んだツクヨミの、手を、小夜がこっそりと握ってくれた。毅然と言い返すだけの勇気を、くれた。
「アナタには関係ない」
「私がここに来たということは、すなわち私が関係しているということだ」
「え?」
ツクヨミがスウォルツを問い質すより速く、小夜がツクヨミを抱いてベンチからわざと転げ落ちた。
「イヤなほうの予感的中ね」
「アナザーアギト!?」
ツクヨミはとっさにファイズガンを抜いた。
「貴様の場合、予感ではなく予見ではないのか。大神官ビシュム」
「いいえ、断じて。これは女の勘って言うのよ。そ・れ・と。たった今、わたし、ツクヨミちゃんのミステリアス成分には“両眼”とも使わないことに決めたから。トモダチの悩みに超能力恃みで当たるとか、薄情だしね。女子の友情は実利・実益・タイミングで出来てるのよ。覚えときなさい」
不覚にも、何の異能も用いずツクヨミと正面から向き合うと宣言した小夜に、心を揺さぶられた。
「わたしの武力行使は、コレだけ」
眼帯から闇が波状に広がり、アナザーアギトを物理的に吹き飛ばした。
小夜はツクヨミの手首を掴んで、転身。
「走って!」
小夜に引っ張られるまま、ツクヨミは駆け出した。
「何をしたの!?」
「封印用の破片の“地の石”の力を一瞬だけ開放した! それより走るのに集中して! スウォルツの奴、きっと貴女が吐くまで徹底的に追ってくるわ!」
「私に力なんてないッ!」
「大丈夫、分かってるから!」
ふり向かない、されど力強い声での肯定。
逃走中だというのに、ツクヨミは泣きたかった。
尾室さん、出世したなあ(ノД`)・゜・。 隊長だよ。隊長だよ!
ところであのあと、G3隊長としては絶対にアギトではない仮面ライダーに変身したことへの事情聴取を職務上しなければいけないと思って、冒頭に至りました。
何せ、社会的身分が保障されてるの、美都だけですから。
あとは無職の未成年19歳、住所不定どころか住民票や戸籍もない未来人19歳×2、多分成人だけど同左の男×1。
はい詰んだ。
ツクヨミの光ヶ森高校での愛称は、高校潜入のために編入した想定で用意しておいたものの名残です。
小和田隆くんはアナザーエグゼイド事件で被害者だったソウゴのクラスメートです。
青山新くんは、名前はオリジナルですが、EP1冒頭でソウゴを背負い投げした空手部男子ということにしちゃいました(*´∀`*)
小夜の「覚えときなさい」は士の決め台詞の締めの「覚えておけ!」のオマージュだったりします。何だかんだでお兄ちゃん子です。ほかに「大体分かった」も言わせたいと思ってたりします。