ウォズさんと二人で、アナザーアギト軍団との戦闘に入っているだろうソウゴ君とゲイツ君のもとを目指す。
たったさっきスウォルツさんから、戦慄ものの“ヒント”を得てしまいましたが、冷却時間を置いた今ならこう言えます。
すでに光ヶ森高校に在籍こそしていませんが、ツクヨミさんは“私の生徒”に変わりありません。そこにツクヨミさんのバックボーンが介入する余地はありません。
私は全力で、ツクヨミさんが進みたい
私とウォズさんがソウゴ君とゲイツ君に合流しようとするより早く、ツクヨミさんが走ってきて、彼らと話し始めました。
「――過去に何があっても、私が本当は誰だったとしても関係ない。だって、私は私だから」
ツクヨミさんの横顔からは、最後に見た時にあった翳りは窺えませんでした。
追いかけた小夜さんか津上さんが励ましたからか、別の誰かか、自力か。どれにせよ、彼女の精神が安定したことは喜ばしいです。
「おかえり、ツクヨミ」
若者三名の明るい輪をずうっと見つめていたいのですが、そうも言っていられないのが現実です。
私はウォズさんと頷き合ってから、彼らに声をかけました。
「せんせー、ウォズと一緒だったんだ。どうしたの?」
「――我が魔王。アナザーアギトとは戦わないほうがいい。これは罠だ」
「どういう意味だ?」
「……『アギト』というのは、仮面ライダー固有の
「ウールはキミたちでも捌ききれないアナザーアギトの群れを用意して待ち受けている。スウォルツからそう聞いた」
「どうしてスウォルツがそれをアナタや先生に教えたの?」
一拍、迷いましたが、思い切って言いました。
「前に白ウォズさんが言っていました。彼は、私たちが考えているより底知れぬ野望を抱いている、と。君たちにアナザーアギト軍団を斃させることで、私たちの想像も及ばないメリットが、彼にはもたらされるのかもしれません。ですから」
真正面から挑むのはやめて、こちらも慎重に作戦を立ててから。私はそう言おうとしたのですが。
「罠でもいいさ。それは俺がすでに視た未来だ。それに、戦わなきゃ仮面ライダーアギトの力は取り戻せない。――敵の居場所は分かってるんだ。すぐ行こう」
ふいに思い出された、アナザーフォーゼをジオウが斃した直後。私がまだ彼を「常磐君」と呼んでいた頃。あの時の彼の佇まいに、私は確かに彼の王聖を見ました。
そして今この瞬間、目の前にいるソウゴ君から、あの時と同じものを感じました。
――まだ何も知らなくて何もかも手探りだったあの日から、ずいぶんと遠くに来ました。
「
ゲイツ君は訝しみながらも私にリバイブウォッチを差し出してくれました。
私は砂時計型のそれを両手で包んで握りました。
「ライダー・シンドローム」
――この力で、彼にかかる過負荷を最小限に留めるように。
「アンタ、何してッ!」
ゲイツ君が私の二の腕を両手で掴んで詰め寄りました。
「命に関わるほどの
私の延命のために貰ったのは、ゲイツ君のジクウドライバーに残った“力”です。だから彼が対象なら、こういう微調整も利くと思いまして。実証されました。
「本当に、大丈夫なんだな? 気を遣って倒れそうなのを我慢したりしてないな?」
「はい。信じてください」
「……なら、いい」
ゲイツ君はそっぽを向いて、リバイブウォッチを腕のホルダーに装着し直しました。ちょっとだけ、さびしいというか、胸が痛むかも、です。
「
「はいっ、美都せんせー」
「無事を祈っています。心から。絶対に、死んじゃいけませんからね」
「――はい。
よろしい。これなら送り出すことに躊躇いはありません。
ソウゴ君とゲイツ君がそれぞれにライドストライカーを展開しました。ゲイツ君は単騎、ソウゴ君はウォズさんと相乗りで。2台のバイクが発進しました。
「私たちは車で追いかけましょう。ツクヨミさん、いいですか?」
「ええ。お願いします」
戦闘開始から若干遅れてしまいましたが、とにかく車で現場に乗りつけましたので、私とツクヨミさんは外に出て戦況を窺いました。
ゲイツ・リバイブとウォズ・シノビアーマーがアナザーアギト軍団を手あたり次第に千切っては投げ千切っては投げ。
ジオウⅡは本命である偽造アギトと剣を交えています。
『アギトの力を返してもらう!』
「返す? キミたちの力じゃないじゃないか」
……かっちーん。久々に先生の教育魂に火が点きました。
「論点をすり替えるんじゃありません!! そもそも他人のものを盗んじゃいけません!! それをなに開き直ってるんですか君は!!」
私の怒鳴り声はちゃんとウール君のいる位置まで届いたみたいです。ウール君はぎょっとしたように身を引きました。
『叱るポイントはそこでいいのか……?』
『タイムジャッカー相手だろうが諭すべきは諭す。それでこそ王母織部』
『いや、貴様はそこで納得するな』
『美都せんせーの言うとーり! 泥棒はよくない! てなわけで、やっぱ返せー!』
「そもそも何でボク怒られてるの!? うわジオウこっち来んなー!」
「……場がとっ散らかっちゃった」
ツクヨミさんが私にジト目。え、わ、私のせいってことですか!?
なんだか収拾がつかない空気になったところに、もっと大変な闖入がありました。
赤いサイレンを鳴らして現場に乗りつけた装甲車。フロントガラスの上には桜の代紋。つまり警察の車輛です。
装甲車から降りてきたのは、一人のG3装着者。
《2217、戦闘オペレーション開始! G3、出動!》
アナウンスの声には聞き覚えがありました。G3ユニット隊長の尾室さんです。
尾室さんのかけ声を受けて、G3は手にしていたグレネードを脇に抱えるように構えて、アナザーアギト軍団に発射しました。
ですが、口惜しいかな、G3が撃沈したアナザーアギトはせいぜいが2体。3体目の攻撃によって、転がった装着者さんのフェイスマスクが外れました。
って、え、ええぇ!? 津上さんだったんですか!?
アギトの力を奪われて、仮面ライダーに変身できなくなったというのに、彼はそれでも立ち上がった。――途方もない不屈の精神です。
確かに津上翔一さんは、仮面ライダーになるべくしてなった人物です。感服せずにはおれません。
いいえ、私だけではありません。一緒にいたツクヨミさんもです。
「津上さんッ!」
数に物を言わせて津上さんに襲いかかったアナザーアギト軍団を阻止すべく、ツクヨミさんは
――時の流れが堰き止められる。
その隙を逃さず、ゲイツ・リバイブとウォズ・シノビアーマーが津上さんを囲むアナザーアギトを一掃しました。
駆けつけた私たちの内、ツクヨミさんに向けて、津上さんは笑顔で言いました。
「ありがとう」
時間を操るなんて大それた異能を見せた彼女を、訝しむでも問い詰めるでもなく。ただ、助けられたことに、感謝を伝えた。
そんじょそこらの一般人には至難の技を、津上さんはケロリとかましてくれたのです。……ツクヨミさんの安堵の笑顔を見ては、先生、立つ瀬がありませんよ。
向こうで、ジオウⅡがついに偽造アギトに一発かまして、アギトウォッチを奪還しました。
ジオウⅡはアギトウォッチを津上さんにパスしました。
津上さんはG3スーツを脱ぎ捨てながら、戻ってきた力をキャッチしました。
ジオウⅡに促された津上さんが、アギトウォッチのリューズを押しました。
《 AGITΩ 》
すると、津上さんの腹部に変身ベルトが出現しました。――津上さんは迷いませんでした。
「変身!」
やりました! 本家・仮面ライダーアギト、戦線復帰です!
『ゲイツ! ウォズ! 俺たちも行くよ!』
《 ZI-O “トリニティ” 》
ジオウⅡがドライバーの左にトリニティウォッチをセットして、リューズを二回ひねりました。ゲイツとウォズの異なるムーブメントがジオウウォッチのインデックスと重なります。
来ました、仮面ライダーのドッキング・ラッシュ! 見守る側にはちょーっとばかりショッキングなシーンではあるのですがっ。
『ひれ伏せ! 我こそは仮面ライダージオウ・トリニティ。大魔王たるジオウとその家臣、ゲイツ、ウォズ。三位一体となって未来を創出する、時の王者である!』
『いい加減、恥ずかしいからやめろ!』
『うるさいよ、右肩』
『誰が右肩だ!』
『落ち着きなよ、ゲイツ』
帰るまでが遠足ですとよく言われるように、合体後のウォズの口上から内側3人のボケツッコミまでがワンコーラスです。先生、ちゃーんと心得てますよ。
『本当に面白いね、君の仲間っ』
「いつもアレやってるわけじゃないんですけど……」
そうですか? 割といつも通りの気がするのですが。
『俺も負けてられないな』
アギトは腰の左右のオークルを叩きました。そのアクションが合図のようで、アギトは
『これは……! 祝わねばなるまい!!』
あらま、ウォズさんの変なスイッチがONになった模様。恒例ですが本日は一発目の「祝え」、入りました。
『合わせて六位一体の力が――!』
『もーいーから! とにかくっ、これならイケる気がする!』
そこからは絵に描いたようなヒーローショーです。ジオウ・トリニティとアギト・トリニティフォームの快進撃は留まるところを知りません。
アギトの剣が燃え杖が冴え、ジオウ・トリニティのサイキョージカンギレードがジョーヌブリリアントの剣閃で乱舞する。
アナザーアギト軍団の数はあっという間に一桁まで減りました。
フィニッシュは仮面ライダー二人揃って。
彼らは同時に跳び上がり、核のアナザーアギトにライダーキックを決めました。
『『はああああああ―――でりゃああっっ!!!!』』
爆発、炎上。
爆炎を裂いて堂々と着地したジオウ・トリニティとアギト・トリニティフォーム。
ジオウ・トリニティが私とツクヨミさんのいるほうを向きました。やったよ、と笑いかけるかのように。
ツクヨミさんは晴れやかな笑みを満面に広げました。
「――ただいま――」
とても小さな彼女の声。きっと、彼らも聞き取れた。
津上さんは再び海外に発ちました。出発前に、アギトライドウォッチをソウゴ君に託して。
ツクヨミさんを励ましてくださったこと、ソウゴ君の夢にエールを下さったこと、彼らの“先生”として感謝します。
津上翔一さん、仮面ライダーアギト。進路指導教諭顔負けの“指導”でした。
普段でしたらここで、私も負けていられない、と奮起するのですが、今回はそういう気分になれません。
私が千言を尽くすより、一人の先輩仮面ライダーの勇姿が、彼らにはよっぽど良い“勉強”になると気づいてしまったのですから。
関わっていたいから関わるんだと宣言したのは自分なのに、こうしてライダー関係の事件の場にいることで彼らに煙たがられないか、不安がってる。とっても矛盾です。
神さま。
もう30歳にもなる私が、若い彼らに混ざって許されるのは、あとどれくらいですか?
クオリティーが高すぎる回は文章化に求められるエネルギーもどでかいと知った今日この頃。
あえて一歩引いた感じの美都視点描写に終始しました。何故か?
今さらですが、今回の連載は(鎧武の時と違って)「成長物語」ではありません。「成長」を書きたいならむしろ明光院ミトにスポット当てて昭和ライダー物語を連載しますよ。
自分もね、今日まで「この作品は“何”なんだろう?」と実は考えていたんです。
これは「“大人”になった人間がどこまで“大人らしさ”を貫けるかを試される物語」です。
オリ主の美都は30歳で、誕生日は1月。つまり平成に元号が変わった年に誕生して、平成が終わろうとする(リアルでは終わった)瞬間に、“20代”という“若さ”を失いました。
「もう若くない」美都が、「まだ若い」ソウゴやゲイツたちをどう助けていけるか。
仮面ライダーを見て育ち、アラサーになった我らライダーファンが次の世代にどうライダーを継承していけるか。
『70年目のサクラサク』は――きっと、“それ”を探す物語です。