70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 “セーラ”といえば『小公女』のヒロインですよね? ――ね?(⌒∇⌒)ニコ


Syndrome83 魔王坊やと“小公女” ①

 唐突だが――俺たちが下宿しているクジゴジ堂の店主、常磐順一郎氏は料理好きである。

 その腕前たるや、時計職人でなければ、カフェか小さいレストランくらいは構えていてもおかしくない。

 あんな食事を毎食3回食って育ったんじゃ、高校在籍中のソウゴが意地でも学食に行かなかったのもしょうがないというものだ。

 

 その料理趣味の延長で、店主は先日、スイーツ作りに挑戦した。品目はアップルパイ。本人申告だと、作るのは生まれて初めて。その処女作の味見を俺たちにしてほしいとのことだ。

 ……別にウキウキなんかしてないからな。

 

 それで、だ!

 話は変わるが、店主謹製アップルパイの相伴に与れるのは、何も俺たちだけではない。具体的には、客が二人来ることになっている。

 

 店内のハト時計のいくつかが午後3時を告げる。

 時間ぴったりに、クジゴジ堂の暖簾を潜って客人たちは現れた。

 

「おじゃまします」

「お呼ばれしちゃいましたーっ。やっほー、先輩方」

 

 校外で「先輩」呼びするな。鳥肌が立つだろうが。

 とまあ、何のことはない。客とは、()()()()()()の織部美都と、対外的には“後輩”の門矢小夜である。

 

「お招きありがとうございます、常磐さん」

「いえいえいえっ。ウチのソウゴが大変お世話になりましたので、一度くらいはと思ってたんですよ~」

 

 ソウゴがそっぽを向いた。そのリアクションが何を意味するか、俺たち全員がもう知っている。

 ずばり、照れだ。

 誕生日パーティーでのウォズの“本気の祝福”によって、ソウゴは照れという感情への耐性を失くした。

 今だって、店主が「ウチの」を付けて名前を呼んだのが照れくさいのだ。それが証拠に、ほら、耳が赤い。

 

「こちら、つまらない物ですが。紅茶の詰め合わせです」

「これはご丁寧に。わざわざありがとうございます。そうだっ、さっそくこちら使わせてもらっていいですか? ダージリンはアップルパイに合う定番の紅茶だっていいますし」

「まあ、そうなんですか。あ、でしたら私に淹れさせていただけませんか? 台所をお借りしてもよろしければですが」

「どーぞどーぞ。ちょうどパイも焼き上がる頃合いですし」

「ありがとうございます。ではおじゃまします」

 

 

 ――程なくして、切り分けたアップルパイを載せた皿と、水出しのダージリンのグラスが、それぞれ人数分、運ばれてきた。

 

「「「いただきまーすっ」」」

 

 ソウゴとツクヨミと小夜がアップルパイにかぶりついた。

 

「ウマい!」

「うん、美味しい!」

「そこらのお店より断然イケる~!」

 

 三人ともが、はしゃいで店主を褒めそやした。ウォズに至っては、一切れ目を完食してないのに早くもおかわりを要求している。

 俺? もちろん旨いし今でもハイペースで食べ進めているぞ。口の中いっぱいに頬張ったからとっさに物が言えないだけだ。

 

 素手で食べてもいいのに、先生だけはフォークでアップルパイを切り分けてから、一口ずつ食べている。

 ……そういうしずしずとした所作を見せられると、途端に自分がガキくさく思えてならない。かといって今さらフォークを使い出すのも不自然だし。

 

「この甘酸っぱい感じ――何て言うか、そう、初恋の味!」

 

 危うく噴き出すところだった。

 初恋、とソウゴは言った。こいつ、俺と同い年のくせに恋愛経験があるのか!?

 

「意外~。ソウゴ君でも恋とかするんだ。ねえねえ、どんな人、どんな人っ?」

「分かってる、その質問、小夜ちゃんはほんっと分かってるねえ。あれは俺が小学生の時だった――」

 

 常磐ソウゴの、ある意味では魔王の初恋エピソード。聞いておけば万が一の際に弱味になる……のか?

 

「俺、公園で泣いてたんだ。友達がまだいない時期だったから、一人で遊んでたんだけど、膝を擦り剥いちゃって。そうしてたら、通りがかったセーラー服のおねーさんが絆創膏貼ってくれてさ、それから公園で一緒に遊んでくれたんだ。別れ際に、桜の下で『さようなら、可愛い坊や』って言いながら俺の顎の下を撫でてくれたんだ――」

「お前はネコか」

「……ドキドキしちゃいました」

「するのか!? 今の話のどこに!?」

「ゲイツ君はお子ちゃまだねえ。男のほうをネコにする女はハイスペックだよー? その証拠に~――美都さん、美都さん」

 

 小夜は先生に何やら耳打ち。ろくでもない内容だと分かるのに止める術が思いつかん!

 

 小悪魔ヅラの小夜が離れた時には、先生は顔を真っ赤にしていた。

 ――まずい。嫌な予感しかしない。おもに俺の身に降りかかるという意味で。

 

 先生は赤らんだ顔をそのままに椅子を立って、俺の至近距離に立った。

 

「し、失礼します……ね?」

 

 ほら見ろ俺に照準してる! いや断じて内心で喜んだりしてないからな!

 

 ……するり

 

 ぞく、と悪寒めいた熱が二の腕を走った。

 先生の指が、俺の顎の下に滑り込んだのだ。

 顎から喉仏にかけて、適度にさらりとした指が往復する。何度も、何度も。

 動き続ける指とは裏腹に、彼女の目線は、俺をじっと見つめて揺らがない。

 ――息が、できなくなりそうだ。

 

 

 ―――

 

 

 ―――――

 

 

 ―――――――

 

 

 

「はい! 終了~♪ さあて、ゲイツ君。オトナのお姉様にネコにされた気分はどうだった?」

 

 死ぬかと思った。精神的な意味で。

 答えることすらままならず、俺はテーブルに突っ伏した。

 

「ソウゴ君はここまで行かなかったみたいね。まあ、お相手さんがセーラー服の時点で、小学生のソウゴ君にやっちゃったら犯罪だもんねー」

「何でせめて中学生じゃなかったんだあの時の俺ーっ!!」

 

 わあっ、と俺とは別の意味でテーブルに突っ伏したソウゴ。

 どっちにしても犯罪臭くないか? という指摘は俺の胸に留めておいてやろう。

 

「ところでぇ。初恋未経験のツクヨミちゃんは置いといて」

「何で断定するのよ!」

「あるの? 初恋」

「……、……ない」

「で、言い直すけど、美都さんの初恋はどんな人だったの?」

 

 せっかく起き上がろうとしたのに二度目の沈没。轟沈だ。

 

「わ、私は逆にアリで断定ですか」

「この中じゃ最年長じゃない。一回か二回は男女のお付き合い、知ってそうだもん」

 

 先生は手元のダージリンのグラスに目線を落とした。遠くを想う、懐かしげな横顔。

 

 ――何だ? この、腹の底でとぐろを巻く感情は。不愉快だ。非常に面白くない。

 

「詩的に気取ると、私の初恋は“青いカブトムシ”でした」

「かぶとむし?」

「ってゆーと、普通、黒とか茶色だよね」

「一般的にはそうですね。でも私が初めて恋した男性を思い出そうとする時は、決まってそのイメージが湧き上がるんです。その人は青いカブトムシだった、って。小学校に上がる直前でしたので、記憶はあやふやです。その人の顔も思い出せないまま何年経ったか。もっと恋愛らしいちゃんとした思い出も、あるにはあるんですが、初めての恋ならその人だと言わないと、聞いてくれた人に不誠実ですから」

 

 断言する。門矢小夜は絶対、先生が言うような真剣な意味で尋ねたわけじゃない。ソウゴが出した話題を何気なく広げただけだ。その証拠に、当の小夜の笑顔は引き攣っている。

 

「ねえねえ、美都せんせー。恋愛らしい思い出もちゃんとあるってことは、せんせー、男の人と付き合ったことあるってこと?」

 

 ……何だと?

 

 先生は頬に片手を当てて小首を傾げた。

 

「お試しでいいから! と男性のほうから迫られて、勢いに負けてお付き合いしたことでしたら何回か。私のほうは、片想いで終わったり単に憧れだったりと、まあ、歳相応の経験値がある程度です」

「初カレの座は無理だったかー」

 

 ソウゴにウォズ、なぜに俺をチラ見する?

 

 そこでクジゴジ堂に来客があったので恋愛トークは終了となった。

 

 

 

 

 

 来客は久しぶりの時計修理の依頼を持ち込んだ。店主はエプロンを外して、足取り軽くカウンターに入った。

 客と店主のやりとりを聞くに、その客は弁護士らしい。ソウゴは初めて見る弁護士にはしゃいで、何かと話が盛り上がった。

 

 店主が客の弁護士から時計を預かり、引替証を渡した。弁護士は会釈してクジゴジ堂を出て行った。

 

 ここで不意に小夜が席を立って、カウンターへ小走り。

 

「これ、さっきのお客さんの忘れ物かしら」

 

 小夜が持ち上げたのは紳士用の帽子だ。そういえばあの弁護士、店に入った時には帽子を外して――

 

 門矢小夜が――何の前触れもなく、ふらついた。

 

 まずい! あのままだと受身が取れずに床にぶつかるぞ!

 一番近い席だった俺は、イスを立って倒れかけた小夜の体をキャッチした。

 

「ごめん。ありがと、ゲイツ君……参っちゃうなあ、ほんっと。ここんとこずっとこんな感じだよ」

「小夜ちゃん、大丈夫!?」

「具合が悪いの?」

 

 ソウゴとツクヨミも席を離れて小夜を囲んだ。

 

「まあ、そんなとこ……なのかな? “眼”のほうが、ちょっとね、ここ最近、持て余し気味」

 

 先生が店主に声をかけた。小夜をリビングのソファーで休ませてほしいと伝えている。

 それを聞いた店主は一も二もなく了承、ソファー周りを片付けるから、と住居スペースに引っ込んだ。

 

 先生は小夜に低く問うた。

 

「何が視えました?」

「さっきのお客さんが怪物に襲われるとこ……」

 

 俺たちは揃って顔を見合わせた。

 

「――それって、ビシュムの右眼で?」

「うん。封印用の地の石が耐久限度なのか、それともわたし自身がパワーアップしたかは分かんないけど。とにかくここんとこ()()()()()

「今の小夜さんは、意識して“視た”ものだけでなく、偶然触ったりぶつかったりしたものの過去や未来までランダムに視てしまう状態なんです。――ごめんなさい、小夜さん。そういう事態に備えて私が付き添ったのに……」

「美都さんが気に病むことじゃないわ。それよりみんな、さっきのお客さんを追って。アナザーライダーが狙ってる」




 よっしゃやっと入れたキバ編だーーーい(≧▽≦)!
 世間では何かとイロモノ扱いらしきキバ編ですが、だからこそ調理しがいがあるってもんです!
 ……調理しがいがあって長くなりすぎたんですけどそこは大目に見てつかあさいorz
 
 さて同志諸賢。今回のキーワードは「青いカブトムシ」です。
 仮面ライダーカブトは「赤いカブトムシ」、ガタックは「青いクワガタムシ」。どちらも美都の言う条件は満たしていません。つまり美都の初恋の相手は天道でも加賀美でもないことはここで立証されました。
 実はこれクロスオーバー予定だったんですが、カブト編が上手くまとまっていたのでクロスする余地がなくなったのでその名残だったりします(-_-;)
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