倒れた門矢小夜は、先生と店主に付き添われて、クジゴジ堂のリビングで休むことになった。
そして、アナザーライダー出現予見を受けて、俺とソウゴは、小夜が言った現場に駆けつけた。
駐車場を出たところの通路で、車の外に転がり出て怪人に襲われているのは、さっきの弁護士の客だ。
俺とソウゴはジクウドライバーにジオウとゲイツのウォッチをセットしてからドライバーを装着し、逆時計回りに回した。
「「変身!!」」
《 ライダー・タイム カメンライダー ZI-O 》
《 ライダー・タイム カメンライダー GEIZ 》
まずはデフォルトアーマーで、俺がステンドグラスの意匠のアナザーライダーに攻撃した。その隙にジオウが弁護士を立たせて逃げるよう促した。
『何だ、お前たちは! 私はいずれこの世の女王となる身。跪け!』
女の声だ。アナザーブレイドも変身者は栗原天音という女だったが、今回も同じく女がアナザーライダーとして契約したのか?
アナザーライダーが指を鳴らすと、どこからともなく3体の怪人が出現した。蒼いオオカミ、紫の鈍器、黄緑色の河童をそれぞれモチーフにした怪人たちだ。
――ミトさんに習った知識を掘り起こす。
複数の怪人を味方につけて闘った仮面ライダーは、電王、キバ、ゴースト、エグゼイド。
敵の外見から、アナザーゴーストとアナザーエグゼイドは候補から除外できる。
電王とキバの内、電王の味方怪人は3体以上だった。
ならば、この女はアナザーキバだ!
敵が複数だった場合の分担は決まっている。護衛の怪人をジオウと二人でいなしつつ、余裕が生じたほうがアナザーキバに攻撃を仕掛ける。それが俺とジオウのスタイルだ。
だが、護衛怪人たちはそれぞれが、剣、ハンマー、銃に化けてアナザーキバの武装となり、俺たちを容赦なく斬り、殴り、撃ち抜いた。
三種の攻撃に翻弄されて、柱に叩きつけられたジオウの変身が、強制解除される。
『ソウゴ!!』
アナザーライダーがソウゴに歩み寄る。
俺はジカンザックス・ゆみモードでアナザーキバを狙撃しようとしたが、その前に3体の怪物が消え、アナザーキバ自身もまた変身を解いた。
中から出てきたのはやはり女。くっ、生身の人間相手に攻撃はできん――!
歯噛みする間にも、女は悠然とソウゴに歩み寄った。
その女は至近距離でソウゴの顎の下に指を滑り込ませて、妖艶な笑みを刷いた。
「可愛い子」
ソウゴは愕然と女を見上げている。
女が去った。
ソウゴは立ち上がることさえなく、虚脱して座り込んでいた。
私はクジゴジ堂でソウゴ君とゲイツ君の帰りを待たせてもらっていました。
体調不良になった小夜さんですが、お父さんがお店まで迎えに来てくれました。私には今夜、もう一つ別件で約束が入っていまして、そこを気遣ってくれてのことでした。小夜さんも心得たもので、お父さんと一緒に我が家に一足先に帰って行きました。
ソウゴ君とゲイツ君がクジゴジ堂に帰ってきたのは、ちょうど夕暮れ時でした。
「大丈夫でしたか?」
「うん、俺は平気……」
ソウゴ君、歯切れが悪いです。もしくは上の空と言うべきでしょうか。
私たちが何か声をかける前に、台所にいた順一郎さんが出てきて彼らを迎えました。
「おかえりー、ソウゴ君。あ、後輩の子だけど、おうちの人が迎えに来て、先に失礼しますって」
「小夜ちゃん……そっか。ありがと、おじさん。付いててくれて」
ゲイツ君に視線をやってみましたが、気づいたゲイツ君も、心当たりがない、とばかりに肩を竦めました。
「いやあ、それにしても、二人とも暗くなる前に帰ってくれてよかったよ。なんでも殺人犯が脱獄したとかでさ」
順一郎さんがリモコンを取ってリビングのテレビを点けました。
「世の中、物騒だよねえ。しばらく夜歩きとか控えるんだよ」
「うん……」
順一郎さんが再び台所に戻られました。
《――昨夜、
ソウゴ君がテレビに食いつきました。ディスプレイの枠を握って、脱獄犯の顔写真を凝視しています。私の見たことのないソウゴ君がそこにいました。
「彼女だ――!」
「え。もしかして、ええと、アナザーライダーが?」
ソウゴ君は何度も勢いよく頷きました。
それを聞いてツクヨミさんが迅速に動きました。情報端末のプレートで、ニュースの囚人が起こした事件に検索をかけました。
「見てっ。この裁判記録」
ツクヨミさんが検索結果を私たちに見せました。
――北島祐子。罪状は、殺人。
事件発生は、2015年ですか。確か仮面ライダーゴーストの天空寺タケルさんが闘ってらした年に当たるはずです。
アナザーライダーの使い回しが利くことは、アナザージオウだった飛流君の件で実証済み。念のためソウゴ君に尋ねてみたところ、間違いなくアナザーゴースト
ふと、裁判記録の備考欄が、目に留まりました。――接見禁止処分、とありました。
「北島祐子は、自分を冤罪に追い込んだ人間たちを襲ってるんじゃないかしら」
「気持ちは分からないでもないよ。冤罪なんだから。――彼女はきっとやってない。だって、俺の初恋の人なんだから」
「またお前がネコだった頃の話か! どうでもいいな」
「良くない!」
「大体! お前のそんな幼い頃の記憶が宛てになるのか!?」
「ぐ。そりゃ、そうだけど……」
ゲイツ君にもソウゴ君にも味方しがたい空気の中、私のショルダーバッグの中でスマホのスケジュールアラームが鳴りました。
「すみません。このあと、人と会う約束がありますので、私はこの辺りでお暇させていただきます」
私は台所の順一郎さんに、アップルパイをご馳走になったお礼を申し上げてから、リビングを出ました。
先生が帰ると言った時、俺はとっさに店を出る彼女を追った。
たったさっき、店主が「夜歩きは控えて」と言ったように、殺人犯かもしれないアナザーキバが闊歩しているのだ。
それと、「人と会う約束」の相手が誰か、好奇心を不快な方向に刺激されたこともあった。
外へ出た先生はキーを取り出しながら愛車に向かった。
……そうだった。この人は立派に自力での移動手段を持ったオトナの女性だった。ここのとこ歩く姿が多かったから素で忘れていた。
「見送りですか? ありがとうございます。先生は大丈夫です。このあとの約束が済んだら家にまっすぐ帰ります」
「誰に会うんだ?」
何気なく流れで尋ねたように聞こえていればいいんだが。
「ゲイツ君も知っていますよ。元3年G組の藤ヶ崎さんです。私に相談があるということでしたので、これから待ち合わせ場所の喫茶店に会いに行くんです」
ぶ厚いダテ眼鏡をかけた、地味な装いの女子が3Gにいたな。ソウゴがいつだったか「事情があって男子とは滅多に話さない子」とか言っていた。
何にせよ卒業後に相談を持ち込むくらいだ。引き留めるべきではない。
頭はきちんと考えているのに、口が勝手に話し続ける。
「アンタは今回のアナザーライダーについて、どう思った? ソウゴが言う通り、冤罪だと思うか?」
単に判断材料が一つでも多く欲しいから、と言い切るには、未練がましいと自覚している。
すると、先生は珍しく、温度の低い表情を浮かべた。
「彼女が冤罪かを解明すべきは、捜査機関と司法機関です。私から北島祐子の身の上に言及することはありません」
少なからず驚いた。先生であれば有罪か無罪か、どちらなのか立場を明らかにした上で、理由を順序良く答えるものとばかり。
先生は俺の胸中を察したらしく、苦笑した。
「
「傍観に徹するのか?」
「平たく言えば。ただ、今回はさほど心配してません。ソウゴ君であれば、いざという時は私の想像も及ばないやり方で解決してしまうでしょうから」
先生の、常磐ソウゴという“生徒”への信頼がいかほどか、痛感させられた。
だから、口を突いて出た言葉は、俺個人の卑屈さだ。
「もし俺がアイツの立場で、過去に恋した女だから無実に違いない、って言ったら。アンタはどうする? ソウゴと同じ“指導”を俺にもするのか?」
一秒の硬直。二秒後に驚き。三秒目で、先生は俺を凝視した。
2070年から現代に帰って来た直後、先生に抱き着いたソウゴを、先生は「もう卒業したから」という理由で振り解かなかった。
じゃあ、俺は?
俺の場合は退学だが、学生でなくなったという点ではソウゴと同じだ。
だったら、俺だってアンタに触れてもいいはずだろう?
先生が困惑げに持ち上げた腕。その手首を、掴んで、引っ張り寄せた。
ぶつかる、互いの体。
同じ生き物だと思えないくらい、柔らかくて弾力があった。
触れ合った部分から、彼女の動揺が否応なく伝わった。――今さら何だ。昼間はそっちから俺にあんな挑発をしたじゃないか。そう、だから、これはその仕返しなんだ。
先生の肩にかかったショルダーバッグの中で、LINEの着信音が大きく鳴った。
俺も、先生も、跳ねるようにしてお互いから離れた。
「……藤ヶ崎さんを、待たせてしまってるみたい、ですね」
「その……引き留めて、悪かった」
「いいえ……アナザーライダーの件については、また話し合いましょう」
先生は俺に背中を向けると、車に乗り込んで今度こそ去った。
「くそ――っ!」
――こんな体たらくじゃ、俺もソウゴのことは言えない。
フラグ? 愛のある人には視える(by某なく頃にシリーズ)
せっかくソウゴの恋愛絡みのEPだったので、我が家でも恋愛要素ちょい増しでお送りすると決めました。
「藤ヶ崎さん」が誰かは次回で明らかになります(^_-)-☆ これも原作に登場している無名の脇キャラを失敬しました。
ヒント→待ち合わせ場所が喫茶店
そろそろマンホール回が来てしまう……書けるのか!? 作者のようなへっぽこに!!(戦慄