当時ちびっ子だった私にとって、あの飛び上がらずに回し蹴り一本というのは、とても衝撃的でした。
ということで2話です。
「── 新道開人、帰投しました。」
「あぁ、お疲れ!済まないな、本当なら俺が出るべきだったんだが……」
──── NEO ZECT 作戦拠点
先程戦闘が行われていた廃ビル近くに設置された、急増の司令部。データ収集の為の機材を大量に積んだバンに、ゼクトルーパー達を輸送する為の装甲車が、其処に所狭しと並べられていた。
その司令部のテントに、新道は帰投した。其処には、モニターと睨めっこをしている男が一人。
NEO ZECT作戦指揮官、
彼は元々ZECTのライダーであり、解散と共に普通の警察官に戻る予定であったが、未だ暗躍しているワームに対抗すべく、NEO ZECTの作戦指揮官兼ライダーになった。いや、なるしかなかった、と言った方が正しいのかもしれない。
今現在、マスクドライダーとして戦っているライダーは、新道と加賀美のみ。カブトゼクターの資格者、
故に、今のNEO ZECTは事実上二人で戦っている様なもの。今回の様な、現場にライダーが間に合わない事例は、珍しい事では無かった。
「ゼクトルーパー隊の被害は…」
「……今回の戦闘に参加した20人中、4人死亡、3人重症、他13人は軽傷だ。」
「──ッ。」
死亡者が出た。その事実は、開人の胸を締め付ける。ゼクトルーパー隊は謂わば足止め係。やられる事を承知で戦う、歩兵。死者が出る事は珍しくない。最悪の場合全滅も有り得る。ライダーが少ない分、彼等が命を張って戦うしかないのだ。
開人がもう少し大人であれば、割り切っていたのかもしれない。しかし、彼はまだ17歳。人の死…それも、つい昨日まで楽しく談笑していた、自身に近い人間の死は、簡単には受け入れられない。
もっと俺が早く到着していれば、助かっていたかもしれない。そう考えてしまえばしまうほど、苦しくなる。彼が若くして背負った、命の重さであった。
「…開人、お前はベストを尽くしたんだ。逆に考えてみろ。お前が来てくれたから、16人は助かった。それは、確かにお前が救った命なんだぞ?」
「…それでも、4人救えませんでした。」
加賀美にも、命の重さに耐えられなくなった過去がある。故にその苦しみは同じ様に理解出来る。現に32歳になった今でも、命が失われる事には慣れない。否、慣れてはいけない。
だから少しでも背負う荷を軽くしてやろうと、加賀美も不器用なりにフォローを入れるが、それで納得してしまうほど、新道開人という人間は簡単ではない。
……特に、守る という目標を掲げてライダーになった、開人にとっては。
「……菅野さんの所に行ってきます。」
「あぁ。…遅くならないようにな。お前、明日羽丘学園に編入だろ?準備とかでバタバタするなよ。」
「……ありがとうございます。」
そう一言だけ残すと、ゼクトルーパー隊のテントへ向かった。その背中は、暗く、重苦しく…そして、悲しげだった。
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「おう、お疲れさん、新道。」
「…えぇ、ありがとうございます、菅野さん。」
ゼクトルーパー隊の隊長 菅野は、テントから離れた所に居た。其処には、今回の戦闘で亡くなった4人が、身体を白い布で包まれた状態で横たわっていた。壮絶な死だったのだろう、布に血が滲んで、殆ど赤くなっている。そんな彼等の前でも、菅野は悲しむ素振りを見せずに、開人に接した。
「…死んだのは、中井、久本、湯川、西郡だ。中井は、さっき息を引き取った。」
「…ッ。すみません…俺がもっと速く到着していれば…」
「過ぎた事を言っても仕方ねぇだろ。どんなに悔やんでも、コイツらはもう二度と目覚める事はねぇんだ。」
菅野の一字一句が、深く深く、心に突き刺さる。菅野横に並び、二度と口を開くことも、目覚めることも無くなった人達の前に立った。
ライダーとしてこれまで戦ってきたが、この光景は何時まで経っても慣れない。
「……お前が居なかったら、多分俺も死んでいた。全滅していただろうな。…救った命の方が多いんだ、胸を張れよ。逝っちまったコイツらの為にも。」
「……出来ませんよ。救えなかった命の前で、胸を張るなんて。」
訓練の時から良く接してもらった中井さん。お前は身体が細いから、と 筋トレを沢山教えてくれた久本さん。訓練漬けだとイヤになるだろ、と 色んな所に連れ回してくれた湯川さん。男ならメシくらい作れる様になれ、と 料理を教えてくれた西郡さん。
皆昨日まで笑って話してたのに、今目の前に在るのは、物言わぬ屍。
唇を噛み締める。血が出るのではないかという程、強く、強く。己の無力を悔いる。そんな開人の頭を、ワシャワシャと雑に撫でる菅野。
「……せめて、俺達の手で盛大にあの世に送ってやろうや。その方が、コイツらも喜ぶ。」
「……はい。」
この日で、開人がライダーになって以降失われたゼクトルーパーの命は、32人になった。
後日、隊長の菅野の手によって、NEO ZECT内で彼等の葬儀が盛大に行われた。死んだ4人の英雄を、盛大に讃えるかのように。
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夢を見ていた。
それは、自分が両親を亡くした、あの日の夢。
目の前に横たわるのは、胸を指し貫かれた母と、ズタズタに引き裂かれた父。
その横に立つのは、その身体を鮮血で濡らした、漆黒の異形。
異形は、俺を見詰める。気分はどうだ?と嘲笑うかのように。
異形は、俺に歩み寄る。次はお前の番だ、と言わんばかりに。
そして、異形は────
目が覚めた。何時もの天井、何時もの部屋、何時もの朝日。そして、あの日の夢。
何時も、同じ所で目が覚める。アイツに殺される瞬間に。きっとこの夢は、アイツを殺さない限り、ずっと見続けるのだろう。
何にせよ、この手で決着はつけなければならない。まだ覚醒しきっていない身体をベッドから起こしては、自分の部屋を出た。
「おはよう、開人!おっ、制服よく似合ってるぞ!」
「…ありがとうございます。おはようございます、加賀美さん。」
リビングに向かえば、其処にはエプロンを着けた加賀美が朝食を用意していた。
開人はNEO ZECTに所属して以降、加賀美と寝食を共にしている。最初は一人暮らしをするつもりでいた開人であったが、生活面が心配だから、と加賀美が無理矢理保護者の席に収まった。無論開人は遠慮したのだが、情に厚く熱血漢な加賀美に折れるような形で、今に至っている。
テーブルの上には、トーストとサラダ、目玉焼きにソーセージが綺麗に配膳されている。独身男性が作ったとは思えない程しっかりとした朝食。元々料理には疎かった加賀美だが、ちゃんとしたメシを食わせるため、と必死に覚えたのだ。最初こそ不格好な食事ではあったが、今では主婦顔負けの腕前になっている。勿論開人もゼクトルーパー隊の西郡から教えてもらった腕がある為、最近では当番制で料理を作っている。今日は加賀美が当番だ。
「いただきます!」
「いただきます。」
食卓につき、しっかりと手を合わせてから食事に手を付ける。これは開人の死んだ両親からの教えだった。今でも忘れずにやっている。
「そういえば開人、お前が通う高校って、元々住んでた所の近くだよな?前に言ってた幼馴染達、一緒の学校だと良いな!」
食事に手を付けながら、何時も通りのテンションで喋り掛けてくる加賀美。それに開人は、苦笑いしながら答える。
「そうですね……でも、アイツらが何処の学校に行ったかなんて、俺は知りませんから。しかも、一個年下なので、同じ学校でも殆ど会うことは無いと思います。」
「分からないぞ〜?若しかしたら、"小さい頃からずっと好きでした!"なんてのがあるかもしれないからな!」
本当に朝とは思えない程のテンションの高さである。
「でも、関わるつもりは無いです。あの時、俺は何も伝えずに居なくなりましたから。それに……ライダーである俺に関わるのは、危険です。」
「そ、そうか……なら、仕方ないな!」
そう、これは開人の決意。己がライダーとして、影から皆を守る為につけたケジメ。もし話すことになっても、突き放すつもりでいる。覚悟を揺らがせるつもりはない。流石にこれには加賀美も閉口した。
他愛も無い話をしながら、朝食を食べ終わり、加賀美は出勤、開人は登校の準備。事前に買った教材をバッグに詰め込む。勿論、いざという時の為のベルトも忘れずに。
今日は駅まで送って貰える事になり、加賀美と一緒に家を出て、車に乗る。
「もしワームが現れたら、お前の腕時計型端末に直接データが届く様になってる。バイブレーションのリズムは、」
「トン、ツー、トントントン、ですね。覚えています。」
「よし、なら安心だな!学校裏にダークエクステンダーを置かせてもらってるから、それで出動してくれ!」
車の中で諸々の確認を済ませながら駅へ向かう。ロータリーで降ろしてもらえば、
「高校生活、しっかり楽しんでこいよ!あ、彼女とか出来たら俺にも報告よろしく!」
などと捨て台詞を吐いて、加賀美は出勤していった。朝の会話を覚えていないのだろうか、と思わず溜息を吐く。しかし、その底抜けの明るさに、元気を貰える。遠くなっていく車の影を見届ければ、駅構内へ入っていった。
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Afterglowの5人は、朝から一緒に登校していた。しかし、その表情に笑顔は無い。それもその筈、昨日の超常的な出来事は、忘れられずに5人の脳裏にこびりついているのだから。
「…昨日のアレ、一体何だったんだろうな。」
巴が口を開く。明らかに不安が残っている口振りである。
「ん〜…、映画の撮影…は有り得ないよね〜…あのバケモノ、爆発して消えちゃってたし〜。」
「うん…それに、あの"カブト"って名乗ってた鎧の人…。」
『カブト』。確かに去り際にそう名乗っていた。まるで、テレビに出てくるヒーローをそのまま連れ出したような、赤黒い鎧で覆われた、謎の存在。5人の中には多くの疑疑問が残ってしまっていた。
急に誰も喋らなくなってしまった5人。この空気を変えるべく、リーダーのひまりが口を開いた。
「よしっ!昨日の事は取り敢えずまた今度考えよ?この話題だとずっと暗いままになっちゃうし!」
「そだね〜。ひーちゃんイイこと言うじゃ〜ん。」
流石ムードメーカー、としか言うほか無い。ひまりの一言で、5人の雰囲気は自然と柔らかくなった。
「あ、そういえば。今日は転入生が来るらしいぜ?」
「転入生?……何でこんな時期に。」
突然巴の振った話に、蘭は疑問符を浮かべる。
それもその筈。今は7月の上旬、本来転入の時期は学期初め。この時期に転入など不自然にも程がある。
「さぁ…アタシもクラスの女子が噂してんのを小耳に挟んだ程度だしな。」
「ねぇねぇ!その転入生って男子かな!?女子かな!?」
「何か男子だって言ってた気が…」
「よしっ!みんなで休み時間に見に行こうよ!」
「えぇ……。」
食い気味に反応してきたひまり。蘭を始めにそれぞれが微妙な反応。彼女達が親しくした男子など、一人しか居ない。あの日何も言わずに居なくなった、開人の事しか。
「え〜!?でも興味無いわけじゃないでしょ〜!」
「まぁ、どんな人かは確かに気になるけど…」
「なら決定!2時限目の休み時間に集合ね!」
優しいつぐみが微かに同意の意を見せた事で、強引に持っていかれる。またか、と蘭は溜息をついた。そんな会話を繰り広げながら、学校へ向かうのだった。
今、彼と彼女達は再び巡り会う。
一人は影として。
五人は煌めく太陽として。
──── 運命の歯車が、動き出す。
ライダーが戦っている裏で失われる命って、本編で描かれていないだけで、沢山あると思うんです。
なので、このSSではそっちにもできるだけ焦点を当てて行きたいなと思っています。
時系列、キャラクターなどの詳細設定は後々記しますので、少々お待ちを。
誤字脱字等ありましたら、遠慮なく報告してください。見た通りの駄文ですので。