じゃあなぜ投稿したかって?
1月1日という記念日に投稿したかったからさ……
叔父と叔母の家に戻ると、居間にて手際よく箸を並べていく仙座の姿が見えた。
すでにテーブルの上には昼食が置かれている。
山盛りの唐揚げがまるで宝の山のように思え、空いていないといったばかりの腹がグゥ~と低い音を立てる。
「おっ、皮もパリパリで美味そうだな」
洗面台で手を洗ってきた3人は、テーブルを囲んで座った。
部屋全体に唐揚げの良い香りが充満し、今すぐにでも腹を満たしたいという衝動に駆られる。
「んじゃ、いっただきまーす」
「「いただきまーす!」」
仕事を終えた叔父を交え、それぞれのペースで食べ始める。
炎条寺は約束を果たすため、皿に盛った唐揚げの半分を仙座に分け与えた。
「あぁ……貴重な俺の昼食が……」
1人当たり8個を想定して作られたため、炎条寺の食べられる個数は4個に減り、仙座は12個となる。
「ん~♪ 幸せぇ~はむはむ」
「ぐっ……」
態とらしく炎条寺の方を向きながら、ゆっくりと味を噛み締めて食べ進める。
余程腹が減っていたのか、口へと運ぶ端は止まることを知らなかった。
「ふぁ~美味しかったぁ~!もう食べられないよぉ~」
昼食を食べ終えた仙座は、満足げに両手足を伸ばして畳の上に転がると、スゥスゥと寝息をたてて寝始める。
そのなんとも幸せそうな寝顔に、炎条寺は複雑な気持ちに包まれた。
「ご馳走さま……」
2人から少し遅れて食べ終わった3人。
その手元に置かれている皿には、何故か唐揚げが3個づつ残っていた。
「おっ!お前ら優しいな~!んじゃ遠慮なく───」
自分のために残してくれているのだと解釈した炎条寺は、喉へ突き上げてくるような喜びを覚える。
だがそんな思いとは裏腹に、現実は悲しいものであることを告げられた。
伸ばした手と反比例するかのように、3人がそれぞれの皿を炎条寺から遠ざけてしまったのだ。
「何言ってんの。これは享奈に持っていくようだから」
「だよな。そうだよな。少しでも期待した俺が馬鹿だったわ」
幻花のその言葉を聞いた炎条寺は不貞腐れた表情を見せて、皿と箸を持って台所へと駆けていく。
叔母と一緒に皿を洗うその悲しそうな後ろ姿を見た夏来たち。
「少しだけあげちゃっても良いんじゃないかな?約束だか何だか分からないけど、ちょいと可哀想だよ」
苦笑いで語りかけてくる叔父に、夏来とニッ怪は幻花の返答を待つ。
本音を言えば、2人とも炎条寺に少し分けてあげたかった。
だがそうしてしまうと約束の意味が無くなってしまうと思い、言いたくても言えずにいたのだった。
「………そうですね。なんだか可哀想に思えてきました」
自分たちの意見を代弁してくれた叔父にナイスサインを送る2人。
すると幻花は台所にいる炎条寺に向けて、サランラップを持ってきてと呼びかける。
一体何をしようというのかと疑問に思っていると、洗い物を終えた炎条寺が居間へと入ってくる。
言われた通りに持ってきたサランラップを幻花に手渡しすると、そのまま部屋へと続く廊下への戸に手をかけた。
「どこ行くのよ」
「は?お前に関係ないだろ」
「全く……あんたは怒るとすぐ態度にでるんだから。ほら、3個だけよ」
呆れたように短い溜息を吐いた幻花は、しかめっ面の炎条寺の目を見つめながら、手元のラップに包んだ唐揚げを投げ渡す。
空中でキャッチした炎条寺は、それを見てコロッと人が変わったかのように爽やかな表情を浮かべた。
「それ食べたら、これを享奈の所まで持ってくように」
「あぁ喜んでっ!!うぉぉお!ムシャムシャ」
凄い勢いで口に頬張った炎条寺は、リスが頬袋に餌を溜め込んだような顔を見せた後に一気に飲み込んだ。
そして6つの唐揚げを包んだラップを幻花から受け取ると、戸を横へ引いて廊下に足を踏み出す。
「夏来も行ってくれない?友貴だけじゃ盗み食いしちゃうかもしれないし」
「うん。いいよ」
「おまっ、そんなことしねーよ」
「念のためよ。もし食べたらさっきのやつは没収だから」
「おいおい〜あの唐揚げはもう腹の中だぜ?はははっ!残念だったな千代さんよぉ〜?」
腹をポンポンと叩いて挑発するように言う炎条寺。
すると幻花はスッと出した右手を、無言のまま腹パンでもするかのように前に突き出した。
なるほど。吐き出させるって訳か。
「ち……ちーちゃん……」
時折見せるその物騒な考え方に、夏来は冷や汗を流す。
そして2人はすぐに帰ってくると言い残し、玄関の戸を開けて太陽の光が照らす道路へと飛び出していった────
家の裏手にある小山を登っていく2人。
あの神社に近づくにつれ、周りが不穏な空気に包まれていくように感じる。
「なんだか不気味だな」
「はは……元からじゃないかな…」
苔の生えた石段を上がりながらそんなこと話していると、視界の先に黒く変色した鳥居が映り込んでくる。
「よし、ふぅ……全く、相変わらず長い階段だぜ」
肌を刺すような冷たい風と、静寂に包まれた空間に足を踏み入れる。
境内を見渡すが、肝心の享奈の姿が見当たらない。
「どこに行ったのかな……」
「山菜でも取りに行ったんじゃねえか?この辺り結構取れるって有名だしよ」
「そうだね。じゃあこれは……」
時期に帰ってくるだろうとは思われるが、このままここに居るわけにはいかない。
正直言ってしまえば、あまり長居はしたくない場所だ。
勝手に置いておけば気付いて食べてくれるだろう。
そう思った夏来は持ってきた唐揚げを炎条寺から受け取り、駆け足で賽銭箱の前に置いてくる。
そして背を向けて歩き出した炎条寺と共に、元来た道を引き返した。
「ん?」
「どうしたの…?」
「いや、あいつは……」
するとその時、炎条寺の視界にある人物が映り込んで来る。
「………」
それは左手を背後に回して、ユラユラと身体を揺らしながら石段を登ってくる享奈だった。
思わず「あっ」と声を漏らすと、その声に気付いたのか享奈の身体がぴたりと立ち止まる。
「享奈さん……?」
「な、なんだよ……なんか怖いなオイ」
あの時の彼女とは何かが違う。
早く逃げろ。
そう脳が危険信号を発していた。
何故だかは分からない……だが、今の享奈から感じる雰囲気は決して良いものではないということだけは分かる。
「────」
その場に立ち尽くしながら固まる2人を見た享奈が、隠していた左手を身体の横に着かせる。
その手には大きな鉈が握られていた。
「う、うわぁぁあ!?」
夏来は顔を痙攣らせながら、神社の石段を無我夢中に駆け上がった。
背後から炎条寺の焦り声が聞こえてくる。
鳥居を潜り抜け、辺りを見渡し隠れそうな場所を探す。
「ハァ……ハァ……なんなんだよアイツ!?」
するとそこへ、息を切らした炎条寺が駆け込んでくる。
「どこかに身を隠さなきゃ」そう告げると炎条寺は間髪入れず本殿の中を指差した。
「な、なんで享奈さん……あんなものっ…」
「そんなこといいから早く入れ!もうすぐそこまで来てんぞ!」
決死の思いで2人は本殿の中に身を隠す。
戸を閉めた夏来は、開かないようにと手で強く押さえつけた。
直後、クスクスと言う笑い声と共に足音が聞こえてきて、2人の身体が強張る。
「っ……僕達……何かした……っけ……うぅ…」
「し、知るかよ……!第1、享奈のあの様子はなんだ?目が死んでたぞ……」
障子から差し込む太陽の光で、本殿の中は薄っすらと明るい。
夏来は手で口を押さえて息を止め、引き戸の隙間からそっと外を覗いてみた。
境内を徘徊しながら、2人を探している享奈は何かブツブツと呟いている。
何を言っているのだろう?
そう疑問に思うが、とてもじっくりと聞いていられる程の余裕が夏来にはなかった。
なぜ享奈はあんなものを持っているのか?
そしてそれを2人相手にどう使うというのか?
「え」
するとその時、享奈の視線が本殿へと向いた。
「ひっ……!」
「まさか……唐揚げに気付きやがったかっ!あんなとこに置くんじゃなかった!」
夏来が反射的にピシッと勢いよく閉めたことで居場所も丸わかりだろう。
ならば残されている選択肢はたった一つ。
「夏来、変われ!お前じゃひ弱すぎる!」
ゆっくりと近づいてくる足音と共に聞こえてくる【裏切り者】という単語。
夏来は恐怖からか、身体がブルブルと震えている。
そんな姿を見て、炎条寺は夏来をガラクタの物陰に隠れさせ戸を抑えにかかる。
ガタガタ……ガタガタガタガタガタガタガタガタ‼︎‼︎
とその時だった。
力一杯押さえつける戸が、外からの力にギシギシと鈍い音を立てて暴れる。
「裏切り者……裏切り者……裏切り者……」
「お、おいっ!享奈お前っ……一体どうしたんだよ!?」
【裏切り者】という単語を繰り返し呟く享奈に、炎条寺はダメ元で対話を試みようと話しかける。
しかし一向に聞く耳を持たない享奈に見切りをつけた炎条寺は、幻花たちに助けを呼べと夏来に言う。
ポケットからスマホを取り出して操作し、耳元に当てて幻花へ電話をかける。
だが一向に出てくれる様子はなく、ただ永遠と呼び出し音が流れるだけだった。
「だ……ダメ……出ないよ……」
「あいつマジで使えねぇなぁぁあ!!!」
シュッ──バキバキッ!!
「なっ……!?」
風を切る音が聞こえた直後、目の前の戸に鉈が食い込む。
これには流石の炎条寺も叫び声をあげて身を引いた。
ズシャッ!バキッ!ガッ!
このままではいずれ突破されてしまう。
そう感じた炎条寺は、夏来が隠れているガラクタの隙間に瞬時に身を隠す。
幸いにも奥行きがあったお陰ですんなりと入ることが出来た。
「くそ……どうする……」
相手が武器を持っている以上、無謀な戦いは避けなければならない。
だが肝心の助けは呼べずじまいだ。
仙座のスマホに掛けるという案もあったが、寝ているため出るかどうか怪しい。
「こうなったら……やるしかねぇか……」
足元に落ちている木の棒を握りしめて呟く炎条寺。
すると追い詰められた2人に助け船を出すかのように、夏来のスマホがブルブルと震えだす。
画面を見ると幻花からの着信だった。
「も…もしもし!た、助けて!」
これでやっと助かる。
そう思った夏来は縋り付くような思いで幻花に助けを求めた。
《え、どうしたの?何かあったの?》
「ゆ、享奈さんが襲い───」
かかってきたと言い終わる前に、炎条寺が夏来からスマホを奪って電源を消す。
「な、何し……」
「黙れ……静かにしろ……」
夏来の口を押さえて強制的に黙らせる炎条寺。
いつのまにか戸を壊す騒音は消え、辺りは不気味なほどに静まり返っていた。
「………?」
炎条寺の目線の先を追った夏来。
そこにはポッカリと空いた穴から顔を覗かせている享奈の姿があった。
顔を固定して瞳を左右に動かした享奈は、2人の姿が見当たらないことを目の当たりにし顔を引っ込める。
「ひっ!」
だが安心したのもつかの間、戸が蹴り破られる音が本殿内に響き渡った。
バタリと倒れ落ちた戸が、床に溜まったホコリを舞い上がらせる。
「ウ…ラ…ララ…ギリリリ……」
外の光に照らされた享奈が、言葉にならない声を発しながら本殿の中へと足を踏み入れる。
ギラギラと狂気的に輝く鉈に、細かな木片が付いている。
「まだだ……あいつが奥に行ったら逃げるぞ」
「うん……わかった…」
互いに聞こえるくらいの小さな声で会話する。
物陰から見える享奈は、辺りをぐるりと見渡して本殿の奥へと入っていく。
「よしっ……今だっ!!」
逃げるチャンスは今しかないと判断した炎条寺が、夏来を先に逃がす。
声に反応した享奈が向かってくるが、炎条寺の投げつけた木の棒に行く手を阻まれて足を止める。
「え、うおっ!?」
そして夏来に続いて本殿から抜け出した炎条寺は、不幸にも足元に散乱した木片に躓いて木の階段を転げ落ちる。
打ち所が悪かったらしく、身体が激痛のあまりピクリとも動かせない。
「うら……ぎりぃ……」
目の前に享奈が迫る。
もうダメだと感じてギュッと目を瞑った。
しかし、享奈は炎条寺には目もくれずに夏来を追いかける。
「ぐ……な……夏来っ!早く逃げろっ!」
背後からこちらに向かって走ってくる足音が聞こえ、恐怖から足がほつれ転倒する。
そして夏来は振り返ったと同時に首根っこをガシッと掴まれ、地面に頭を押し付けられ拘束されてしまった。
「ガハッ‼︎」
口の中に血の味が広がる。
強く背中を打ち付けたせいか、呼吸が苦しい。
襟を掴んで持ち上げられ、足が地面から離れる。
少女のものとは思えないその馬鹿力に、夏来は生命の危機を感じた。
手足をバタつかせ、ぽこぽこと享奈を叩くもまるで効いていないようだ。
「……まずは……貴様から……」
するとその時、それまで壊れたラジオのように同じ単語を繰り返していた享奈が、始めてまともな言葉を口にした。
掴んでいる手とは逆に握られている鉈が、夏来に再び刃を向く。
「た……助けて……助けてっ!!」
「な、なつ……き……」
今度こそ本当に最期かもしれない。
この幻叶世界で願いを叶えられずに死んでしまうのか?
ニッ怪と約束したのに、僕はそれを破ってしまうのか?
そんなのは嫌だ……死にたくないのは前提として、皆んなの期待を裏切るようなことはしたくない。
そう思い、夏来は僅かに持っていた《下らないプライド》を捨て、声の出る限り助けを求めた。
「死ね」
短く告げられた死刑宣告。
そして迫り来る命を抉り取る凶器に、夏来は目を瞑って死を覚悟した。
だが────
「はーい!正義のヒーロー登場っ!やぁー!」
聞き覚えのある声がどこからか響いてきて、夏来を掴む享奈が何者かに蹴り飛ばされる。
「せ、仙座さん!」
享奈の手から離れて地面に尻餅をついた夏来は、自分を助けてくれたその者の名を口にする。
「もぉ……せっかく気持ちよく寝てたのにぃ〜叩きおこされたじゃんかぁ」
目の前で丸く頰を膨らませる仙座に、ぺこりと謝る夏来。
「ウラ…ウララギ……ラギギギ……リィィィイ!」
プルプルと身体を震わせながら武者震いする享奈は、敵対する仙座に狙いを定めて襲いかかってくる。
地面を蹴って飛来する享奈の拳を左手で受け止めた仙座は、振り下ろされた鉈を弾いてがら空きの腹部に重い一撃を叩き込んだ。
口から血を吐き出し、弧を描いて地面に叩きつけられた享奈は、即座に身体を回転させて起き上がる。
「もぉ〜しつこいなぁ。夏来たちが何かしたの?一旦落ち着こうよぉ〜」
「フ……フフ……」
だが享奈は仙座の言葉に耳を貸そうとせず、ただニンマリと不気味に笑ってみせた。
そしてゆっくりと両手を広げながら歩み寄ってくる享奈に仙座が身構えていると、急に身体が締め付けられる感覚に襲われる。
「え……何これっ……う、動かな……」
見えない力に縛られて身動きが取れずにいる仙座の前に、首を傾げた享奈が立ちはだかる。
攻撃することも、ましてや逃げることも出来ないこの状況で無防備な姿を晒すのは危険すぎる。
そう感じた仙座は、なんとか身体を動かそうと両手足に自分の出せる限りの力を込めた。
だが妙な真似をするなと言わんばかりに、享奈は仙座の首を締め付ける。
「あが……うっ……ぁ……?」
するとその時、遠くからこちらに向かって誰かが石段を上がって来る足音が聞こえて来た。
その音を耳にした享奈は、仙座の首から手を離して夏来の元に歩み寄る。
恐怖のあまり立ち上がることが出来ない夏来を見下ろしながら、享奈は眉間に人差し指を当てる。
「や…やめ………て……」
小さく震えた声を発した夏来は、急にどうしようもない程の眠気に襲われ、足が重くなるのを感じた。
仙座の声が徐々に遠ざかり、視界が段々と薄暗くなっていく。
そして最後に、暗く深い底無し穴へと意識は落ちていった────
「な、夏来に何をしたのっ!?」
「…………フフッ」
力を失って地面に崩れ落ちる夏来。
すると享奈はその身体を肩に担いで歩き出した。
神社の方へと歩を進め、木で出来た階段を上がると本殿の前で立ち止まって振り返る。
「2人ともっ!!夏来がっ!」
とその時、石段を駆け上がって来た幻花とニッ怪に向けて仙座が叫ぶ。
2人は、その衝撃的な光景を目の当たりにして目を丸くさせた。
「享奈……あんた何やってんのよ!!」
「やはり悟神側に付くと申すか……ならば敵と見なして良いか!」
2人の怒号に怯む事なく、鼻を鳴らした享奈は本殿の中へと消えていく。
そしてそれと同時に、見えない力に縛られていた仙座は、その拘束から解放されて地面に膝を打つ。
「はぁ…はぁ……ご…ごめん……」
「ううん、逆にここまで耐えてくれてありがとう」
俯きながら申し訳なさそうに言う仙座に、幻花は肩に手を当てて感謝の言葉を述べる。
そしてその間、ニッ怪はエネルギーを操る能力で、瀕死の状態の炎条寺の身体を回復させた。
「ん……」
「……目が覚めたようじゃな」
「っ!!夏来は!?おい夏来はどうしたんだ!」
起き上がって辺りを見渡した炎条寺は、夏来がいない事に気付いてニッ怪に掴みかかった。
「享奈殿に連れていかれた……あの本殿の中じゃ」
「───っ!」
ニッ怪が指をさした方向を見た炎条寺は、鬼のような形相のまま立ち上がって走り出す。
「炎条寺殿!何を──待つんじゃ!」
ニッ怪の制止の言葉を無視して、炎条寺は本殿の中へ飛び込む。
能力者相手に武器を持たずに挑むのは危険すぎる。
そう思った3人は急いで炎条寺の後を追い駆けた。
「と、友貴ぃ………ん?」
すると、慎重に中の様子を覗き見た仙座は、とあることに気がつく。
「ねぇ…掃除でもしたのかなぁ?」
先程来た時に灯された筈のロウソクの灯りは消え、さらには足元に転がっていた大量のガラクタも綺麗さっぱり無くなっている。
「そんなのは良いから!夏来を取り返しに行くよっ!」
だがそんな仙座の言葉を聞き流した幻花は、ズカズカと先頭を切って中へと入っていく。
攫われた夏来は無事だろうか?
そして無謀にも突っ込んでいった炎条寺はどうなったのか?
そんな不安を抱きながら、ニッ怪と仙座は幻花の背中に手を当てながら、一歩先さえも見えない暗闇の中へと足を踏み入れた─────