薄弱少年と願いを叶える幻夢郷   作:わたっふ

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第4夢 能力者

少女を担ぎ、なおかつ両手にレジ袋を下げている状態で坂道を登るニッ怪。

誰がどう見ても苦しそうな光景に、夏来は背中を追いながら自分にできることはないかと考えていた。

すると、前方に見える夏来の家に、2人の人影が鎮座しているのが見えた。

その影は、夏来たちを見つけると一目散に駆け下りて来る。

 

「ち、ちょっと!大丈夫なの? ってか誰!? また新しいの増えてる!」

 

「お、おいニッ怪、それ俺が持つから貸せ」

 

汗を流しながらキョトンとしているニッ怪から、見るからに重そうなレジ袋を半ば強引に引き剥がす。

 

「かたじけぬ……名は」

 

「炎条寺だ。宜しくなニッ怪」

 

「──こちらこそ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

程なくして家に着いた夏来たちは、手に握っている物をテーブルに置く。

続いて、濡れてもいい毛布をリビングの床に敷き、その上にそっと少女を寝かせた。

 

「んで、誰だよこいつ」

 

興味深そうな顔つきで、炎条寺が指をさしながら夏来に問いかける。

しかし、等の夏来も今日初めて出会った人だ。

 

「さ、さぁ……わかんない……ニッ怪くんは?」

 

「ぇ、ぁ……我も初め──おわっと」

 

投げ掛けられた質問に、腕組みをしながら難しい表情を浮かべる。

そんなニッ怪の肩を掴んで、邪魔だと言わんばかりに押し出した幻花は、3人を隣の和室へと放り込む。

 

「ほら、今から身体とか拭くんだから……男たちはそこで大人しく待ってて」

 

良い? わかった?との忠告を最後に、リビングとの戸を完全に閉められる。

決して広いとは言えない和室に、男3人閉じ込められるという最悪な展開。

すぐに息苦しさを覚えた夏来は、2人から離れて深い呼吸を何度か繰り返す。

 

「おいニッ怪」

 

しばらくの沈黙の後、落ち着いた声のトーンで炎条寺が口を開く。

すると、あろうことかリビングへ続く戸に手をかける。

驚いて声をあげた夏来とニッ怪の方に振り返った炎条寺の顔は、いつも通り……いや、いつもよりも真剣な表情をしているように見えた。

 

「見たくねぇか……小山をよ……」

 

「何を申しておるのじゃ炎条寺殿! お主正気か!」

 

冷や汗を流しながら炎条寺の手を鷲掴む。

これ以上はいけない、そう思ってはいるものの、心の何処かでは見たいと言う感情が芽生えている。

 

「なぁ、よく聞けよ。男は女に全裸を見られたら嬉しいだろ?」

 

「う、うむ」

 

「い…いや……嬉しくはないと思うんだけど……」

 

「てことはだな、逆に考えてみろ。 女は男に全裸を見られたら?」

 

「──嬉しい?」

 

「パーフェクトッッ!!」

 

「いや何でそうなるの!?」

 

意味のわからない解釈に、夏来は声を荒げてツッコミを入れる。

するとちょうどその瞬間、ガラッと勢いよく戸が開かれ、幻花が目の前に現れる。

呆れたように深いため息をつき、入ってきて良いよと手招きする。

 

「ありがとう、ちーちゃん」

 

「これくらいしか出来ないけどね。ってかほら、ボサッとしてないで昼ごはん作ったら? あっ、私の分も宜しく〜」

 

大きなバスタオルに身を包まれた少女。

その側にしゃがみ込む幻花は、出てきた3人にお昼を作るよう指示する。

 

「俺たちをメイドのように扱うな」

 

「あらごめんなさい友貴。あ、いや今日からはメイドだったかしら?」

 

「フライパンで叩きのめすぞ クソアマ」

 

「あん? 良いからさっさと作れ」

 

「はい。すいません」

 

力強く拳を握りしめた幻花を見て、反抗的な態度を取っていた炎条寺が子犬のような弱々しい声で返答する。

そしてそそくさとキッチンへ移動した炎条寺は、2人を呼んで何を作るか話し始める。

 

「……それにしても凄い傷ね……一体何があったんだか」

 

夏来たちから少女へと視線を移した幻花は、バスタオルからはみ出している右腕に付いた無数の傷跡を見つめながら呟く。

薬箱から消毒液を取り出して、傷口に垂らした後にグルグルと包帯を巻く。

 

「だっひやぁ──!? 燃えてる燃えてるっ!!」

 

「い、いかん! 水、水をっ!!」

 

「あぁもう……めちゃくちゃだよ……」

 

耳を塞ぎこむ程の騒がしい男たちの声で、少女が目を覚ましてしまわないか。

そう不安は募るばかりだった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が真上に差し掛かった昼過ぎ、昼食をとり終わった4人はリビングにて少女を囲むように座り込み、各自物思いに耽ていた。

 

「改めて顔を見たけど……すっげぇ可愛いなコイツ」

 

「あんまり変なことしないでよね」

 

「わーかってるって! おりゃ」

 

じろじろと少女の顔を覗き込む炎条寺。

そんな彼に危険な香りを感じたのか、幻花は今すぐにでも炎条寺を取り押さえられる体勢を取っている。

すると早速、炎条寺が少女の頰をプニッと押し出した。

「うにゃ」と変な声が聞こえてくる。

その可愛らしい反応に、目を見開いてニタニタと笑いながら連続プッシュを繰り返す。

側から見ればただの変態、いや危ない人にしか見えないであろう光景だった。

 

「ん……ぁ……うぅ…うみゃん……」

 

「炎条寺くん……そこらへんてやめた方が……」

 

「え? おっふ」

 

顔を上げた炎条寺は、汚物でも見ているかのような目を向ける幻花に思わず声が漏れる。

「別に変な気があったわけではない」と主張するも、あれ程までに楽しそうな表情を見た後だ。

その場にいる3人は、炎条寺の言葉に下心が隠されていることなど見え見えだった。

 

「ぅ…ぁ…あれ……?」

 

すると、そんな気まずい雰囲気を搔き消す声がリビングに響き渡る。

それぞれが声のした方を向くと、それはキョロキョロと辺りを見渡している少女から発せられたものだと理解する。

ゆっくりと起き上がった少女は、怯えたような目つきで夏来たちを1人1人見つめている。

 

「おっ、大丈夫か?」

 

「い、いやっ! 触らないでぇ!」

 

少しでも安心出来るようにと、友好の印として近づきたかっただけだった。

しかし少女は、炎条寺の伸ばした手を払いのけて勢いよく立ち上がる。

 

「あっ…」

 

「おや…これはまた……」

 

ただ単に身体に巻きつけただけのバスタオルは、突然の激しい動作に型を保つことが出来なかった。

身体からズレ落ちてカーペットに落下したバスタオルを見て、夏来とニッ怪は手で素早く目を隠す。

 

「うぉぉぉお!! キタコレぇ!!」

 

「っ───!!」

 

だがそんな事は御構い無し、むしろ絶好のチャンスだと言わんばかりに直視する炎条寺は、次の瞬間、少女の甲高い悲鳴と共に左頬に強烈なビンタを食らうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頬を膨らませて炎条寺を睨みつける少女に、幻花は夏来の承諾を受けて仮の服を着させていた。

「男物だけど、ごめんね」との言葉に、何度か頷く仕草を見せる。

 

「……なぁ、何で俺が悪いみたいになってんだ? なんもしてねぇよな」

 

「良いから、お主は少し黙っておれ」

 

「本当……あんたって酷いやつよね」

 

叩かれて赤くなった頰に手を当てながら、どうしてこんな目にあうのか分からないと言った表情を見せている。

そんな無神経さに、嫌悪の意味の篭った鋭い視線を向ける幻花。

 

「あぁ!はいはい! 謝るよ、ごめんなさい」

 

「ふんっ」

 

多少嫌々な感じが込められた言葉ではあったが、きちんと頭を下げ謝罪を述べた炎条寺。

しかし、そんな彼に少女はそっぽを向くという行動を取る。

 

「あ──頭に来た……いつまでもそうやってメソメソ泣いてるんだな。俺はテレビ見て盛大に笑ってやるよ! お前のこともな!!」

 

無愛想な態度に、炎条寺は何故か逆ギレし始める。

ドタドタと足音を立てながらテレビの前へと移動し、腰を下ろしてリモコンの電源ボタンを押す。

テーブルに肩肘をつき、眉間にしわを寄せている。

 

「ん? おい……またかよ」

 

すると、そんな怒りの感情が一瞬で消え去る光景がテレビ画面いっぱいに映り込んで来た。

 

 

『ニュース速報です。本日未明、石川県○○市にて大規模な能力者狩りが行われたであろう形跡が見つかりました。 これにより、能力者を含む約30名が死亡し────」

 

 

眼鏡をかけたニュースキャスターの言葉の後に、多くの建物の残骸が足元に転がっている映像が流れる。

泣き叫びながら瓦礫をどかす人や、ビニールシートの周りの石にこびりついた赤黒い色の液体。

それは文字通り、見るにも耐えない光景だった。

 

「あれ……血、だよね……それに能力者狩りって……」

 

一体何が起こっているのか。

普段から聞き慣れたニュース番組で【能力者】なんて単語はおろか、血を映すなんて非常識だ。

 

「また特滅隊か……ここの所多いな」

 

【特滅隊】という、明らかに危険そうな言葉に、夏来とニッ怪は互いに顔を見合わせる。

複雑な表情を浮かべて唇を噛む炎条寺は、すぐにテレビを消して深いため息をつく。

 

「あいつらは….…国が作った悪そのものだよ。絶対に許さない……」

 

すると、それまで黙りを続けていた少女が震えた声で呟いた。

 

「俺も同じ気持ちだ。だけどよ、特滅隊のおかげで能力者は着実に減って来ている。だから犠牲も───」

 

「私たちはみんなと同じように生きたいの!! 能力があるから何!? 能力者のみんながみんな悪いことをするわけじゃない!! それなのに……なんで殺されなきゃいけないの!?」

 

声を荒げた少女は、きっとした顔でそう口走る。

すると、それを聞いた幻花と炎条寺は、何かを察したかのように考え込んだ。

 

「ま……マジか…」

 

「あ、ごめん……声荒げちゃって」

 

身体を小さくし俯きつつ、2人を見上げる形で申し訳なさそうに言う。

その背後で、夏来とニッ怪は3人に背を向けて小声で話していた。

 

「ね…ねぇ……あのさ、能力者って……なに? ァ…アニメとか漫画でみるアレ?」

 

この世界は、元いた現実世界となんら変わらない場所。

そう思っていたが、先程の会話から分かるようにどうやら少しばかり違うらしい。

思えば幻叶世界に来てからというもの、新聞やテレビなどの情報が得られる物に目を通していなかった。

おそらく、この幻叶世界には超人的な力を持つ【能力者】という者が存在しているのだろう。

 

 

「どうやらそのようじゃな。我の知っとる世界とは違うようじゃ」

 

「………」

 

【自分の知っている世界とは違う】

その言葉に、夏来は違和感を感じて尋ねてみようと口を開く。

しかし、心の何処かには【聞いてはいけない】と言った思いがある。

小さな興味が強大な禁句という壁に阻まれて消え去った。

初日からの不可思議な言動から察するに、この男【ニッ怪 滝】は、幻叶世界の住人ではないのかもしれない。

何らかの偶然により、夏来の夢に入り込んでしまった……そう考えるのが妥当だろう。

 

だが、もしそうだったとしても、初日のあの言葉の意味が理解できない。

 

【お主はまだ死んでおらん、一命は取り留めておる。だが、それも時間の問題じゃ】

 

何故あの時、夏来が幻叶世界に迷い込んでしまったことに気付いていたのか。

そして幻叶世界の仕組みと、願いが叶えられなかった時の夏来に齎す影響を何故知っていたのか。

表情1つ崩さないで、冷静かつ慎重に話していたニッ怪の姿は、まるで過去に【同じ時間を繰り返して来た】と言っていたように今は思える。

 

「ねぇ2人とも。どうしたの?」

 

「え、あ、な、なんでもないよ」

 

幻花に呼ばれた2人は、のっそりと立ち上がって少女の横に並んで座る。

 

「君も、あいつらにやられたんだね」

 

すると少女は、自分の右目を指差しながらニッ怪にそう問いかけた。

「一体何のことだ」と言いたげな表情を浮かべて首を傾げるニッ怪は、人差し指で目元から顎までをなぞる少女を見て、何かを思い出したかのようにクスリと笑う。

 

「これかい? あまり詳しくは言えんが、その特滅隊とやらに付けられた物では無い」

 

「君もって……まさかお前もっ!?」

 

「いかがした炎条寺殿? 我が──」

 

「とぼけんな……お前もこいつと同じ能力者なんだろ!?」

 

冷や汗を流しながら、感情的に声を張り上げて言い放った言葉に、ニッ怪と少女は驚愕に目を見開く。

 

「え、の、能力者……? え?」

 

突然の出来事に、理解が追いつかない夏来の腕を引っ張り上げた炎条寺は、立ち上がってニッ怪と仙座から距離を置く。

夏来を背後につかせ、守るような形で拳を構えて戦闘態勢に入る。

 

「ちょっと友貴。何もそこまで敵対することもないじゃ無い。ほら、座って話でも聞こ」

 

「千代、お前……よく平気でいられるな……能力者だぞ? 何されるかわかんねぇよ!」

 

「いいから座って。ニッ怪たちが悪い奴に見える?」

 

そう言われ、改めて2人を見つめ直す炎条寺。

ニッ怪の無邪気な笑顔が、先程までの敵対心を和らげていく。

 

「……あほくさ」

 

大きなため息をつき、炎条寺は3人に歩み寄る。

その後を追って、夏来もニッ怪の横に座るとホッと胸をなでおろした。

少しの間、沈黙の時間が続く。

それはほんの数秒だったのかもしれない。

だが、この気まずい雰囲気の中で感じた体感時間的には数分にも及んでいたように思えた───

 

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