仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
「うぅ、うーん」
上体を起こして軽く伸びをする。目が覚めたな…。
部屋の中を見渡してみる。くたびれた煎餅布団に壊れかけの棚、カーテンが閉めてあるってことは窓があるのか?カーテンの外側からぼんやり明かりが差しているのでもう朝なのだろう。他には何も無いな。時計も無い。
「とりあえず、顔を洗おうか…」
おもむろに立ち上がる。そしてハッとした。
そういえば、部屋の外に出られないじゃないか。まだ長門から返答をもらえていない。それなのに部屋の外に僕が出たら、昨日の努力が水の泡になってしまう……。
「待つしかないな…」
かといってこの部屋には本当に何も無い。仕方がないので僕は再び布団に横になり、その時を待った。果報は寝て待てだ。
どれくらい時間が経っただろうか?この部屋のドアがノックされる。さて、僕の命運はいかに?
ドアを開けると陸奥が立っていた。
陸奥「…おはよう」
「おはよう」
陸奥「昨日の答えを伝えに来たわ。とりあえず中に入れてもらっていいかしら?」
「もちろん」
緊張の瞬間だ。
陸奥「単刀直入に言うわ。貴方がここにいることを長門が認めた」
僕はジワッと体の中心から熱が広がるような感じがした。顔がにやけそうだ。
陸奥「ただ、私たちは貴方を信用したわけじゃないの。不審な挙動が確認され次第、直ちに出ていってもらうわ」
「望むところさ!昨日言ったことは絶対に違えない!」
そう言うと陸奥は僕の目をじっと見つめてきた。でも昨日程の敵意は感じない。というか、昨日は緊張のせいか分からなかったけど、陸奥は美人さんだな~。いや、陸奥だけじゃない、思い返せば長門もとても美しかった。
ついこちらも陸奥の顔をまじまじと見つめてしまった。
陸奥「ッ!」
ああ、顔をそらされてしまった。うーん、惜しい!
陸奥「とりあえず、そういうことだから…」
陸奥はそう言って部屋の外に出ていこうとする。あ!ちょっと待った!
「その前にいくつか頼まれてくれないか?」
陸奥「…なに?」
陸奥はそう言うと少し身構えた様だった。やっぱりそう簡単に距離は縮められないか…。
「この鎮守府の案内図があれば欲しい。さすがにトイレとかにも行きたいもんで、トイレ探して無闇に歩くわけにもいかないしな」
陸奥「分かったわ」
「それと長門にこの鎮守府の艦娘リストのようなものがあれば見せて欲しいと頼んでくれないか?こちらも把握しておきたくてね、もちろん悪用はしないさ。ただ無理にとは言わない」
陸奥「そう…それも分かったわ。もう無いかしら?」
「最後にもう一つ」
少し陸奥の顔が曇ったような気がする…。そりゃこれだけ頼んだら面倒に思うよな。しかも今から言うことは、結構手間をかけさせるかもしれない。
僕は本当に申し訳なさそうな顔をして最後の頼みを伝えた。
「とある艦娘たちをこの部屋に呼んで欲しい」
神通「昨日は残念でしたね、姉さん」
???「うん…」
神通「どうしますか?あの男が提督として着任した今、私たちのことを探し出すのも時間の問題かと」
???「そうだよね…。昨日の時点で勝負を決められなかったのが痛かったな」
神通「罰せられるのでしょうか?」
???「提督に暴行を加えたからね。少なくとも私と神通は…ね。ごめんね、私が不甲斐ないばかりに神通に迷惑かけちゃって…」
神通「いいえ!!姉さんは悪くありません!全て人間が悪いのです!」
???「本当にごめん…。せめて那珂に危害が加えられなければいいけど……」
神通「那珂ちゃん、ぐっすり寝てますね…」
???「はぁ、ずっと可愛い妹たちといたかったなぁ…」
神通「姉さんを一人にはしません!私がお供します!」
???「それじゃ那珂が独りぼっちになっちゃうでしょ?だからさ…………」
神通「?」
???「ごめんね、神通」
ドカッ!!!
神通「ね…姉さん…。な、何を……」
???「神通と那珂は私が守るから」
そう言って私は部屋を飛び出した。可愛い妹たちをあの男の毒牙にかけてはいけない。たとえ何をされても私はあの二人を守ってみせる!絶対に!!!
神通「待っ…………て、姉…さん」
陸奥「全く人使いが荒いんだから!」
私は今とある艦娘たちの部屋に向かっている。
とある艦娘…神通とその姉の艦娘を探してきてと頼まれたのだが、理由は聞いていない。ただ、私も連れていったらその場に同席するつもりだ。もしあの男がなにか下手なことをするなら私が守らなければならないし……。
よくよく考えれば、あの男の方が危害を加えられる可能性の方が大きい様な気もしてきた……。
とにかく早いところ連れていきましょう。
すると向こうから誰か走ってくるのが見えた、あれは…。
陸奥「川内!」
川内「!」
川内「陸奥さん!おはようございます」
陸奥「おはよう。丁度貴方たちを探していたのよ」
川内「! それは提督となにか関係があるのでしょうか?」
陸奥「(提督?ああ、そうか私と長門以外は昨日提督が着任したと思っているのね)えぇ、そうね」
私がそう言うと、川内は一瞬震えたように見えたが、すぐに覚悟を決めた目で私を見てきた。
川内「私も提督の所へ行こうとしていました。提督は執務室にいらっしゃるのでしょうか?」
陸奥「いいえ、訳あって今は別室にいるの。私が案内するわ」
川内「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
陸奥「それで神通も一緒に連れてくるように言われているのだけれど、連れてきてもらえるかしら?」
川内「・・・」
川内「いいえ!提督は勘違いされているようですが、関係があるのは私だけです!その事で私も話がしたいので…。」
陸奥「そ、そう…。なら行きましょうか」
私は川内があまりに真剣に訴えてくるので、気迫に押し切られる形で川内だけを案内することとなった。
正直、いつもの川内とは様子が違って見えるが、私は既視感を覚えた。そして思い出した。以前にも川内のこのような姿を見たことがある、それは前提督が神通と那珂を作戦が失敗したことを理由に暴行しようとした時だ。川内が間に割って入って、提督と二人きりになりたいと訴えたんだよね……。あの時も川内から鬼気迫るものを感じた。
その後提督と川内の間でどんなやり取りがあったのかは分からないけど、神通と那珂は不問になったらしい。
………あの後、川内が執務室から出てくるのを見た艦娘がいたらしいが、凛とした顔をしていた反面、着衣は大きく乱れ、肌の見えているところは生傷が絶えず、異様な姿だったらしい………。
川内「はい!」
私は一抹の不安を覚えながらも川内をあの男のいる部屋まで案内した。