仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

17 / 91
見えない何でも屋8

「さてと…」

僕は手を洗いながらそう呟く。川内はきっと健気にもトイレの入り口付近で待っているのだろう。

 

……一体川内はそこまでして何を僕に伝えたいのだろう。分からないことばかりだ。でも一つ、はっきりしていることがある。

 

「なんだ、変われてないじゃん」

僕は自嘲するかのように独り言を言う。

僕は身勝手なやつだ、それこそ前任と変わらないじゃないか…。

最初は川内のような艦娘が仲良くなるのに最適だと思っていた。でも川内の発言や報告書から、それは大きな過ちだと気付いた。だから川内から距離を置こうと考えた。

しかしながら、その川内の言動をしっかりと見ていただろうか。もし川内が明確な敵意を見せていたら、距離を置いて正解だろう…でも果たして川内はそうだったろうか。違う。

 

川内は僕に何かを伝えようとしてくれている。歩み寄って来てくれている。

僕はそんな彼女に背を向けた。僕は蔑ろにしたんだ、川内を。彼女を気遣ったんじゃない、気遣うことを口実に逃げたんだ。

 

僕は居てもたってもいられず、無意識の内に駆け出していた。こんなに近くに居ても、早く川内に会いたかった。

伝えよう、僕も、しっかりと。

 

「川内!」

僕は彼女に声を掛けた。

 

川内「提督!お腹の方は大丈夫ですか?」

 

「そんなこと、どうでもよかったんだ!」

 

川内「え、それは…どういう…」

僕は彼女が言い終える前に彼女を思いっきり抱き締めていた。素直に彼女に僕の気持ちを伝えるために。

恐らく川内が人間を恐いっていうのは間違いじゃない。

…だけど僕も同じように川内から拒絶されるのが恐かったんだ。きっと。だから自分の中で勝手に川内と離れた方がいいと決めつけた。

 

川内「て、ててててて提督!!?///」

川内の鼓動を感じる。僕はそれを噛み締めながら彼女に語り掛けた。

 

「川内、すまなかった。僕は再び君を失望させるところだった」

 

川内「うぅぅ///」

川内の顔は紅潮し、熱を帯びているようだった。僕は川内と目を合わせようとしたが、彼女は視線を逸らしてしまった。構わない。僕は続けた…。

 

「川内、まず謝らせて欲しい。僕は君のことを蔑ろにしてしまった。本当にすまない!」

 

川内「! そ、そんな一体なんのことでしょうか?私こそ提督に謝ろうと…」

 

「僕に?」

 

川内「はい…。私達は提督を襲いました。それは許されることではありません」

確かに二重の意味で襲われたな…。一つは男冥利に尽きそうだけど、理由が理由だからな…。

 

川内「ですから、わ、私は…!」

大粒の涙を流しながら川内は言う。

 

川内「あ、あれ…?また…。どうしてだろう…」

 

「川内、大丈夫…。ゆっくりでいいんだ。ゆっくり、君の伝えたいことを教えてくれるかい?」

川内の背中をさすりながら、諭すように声を掛ける。

 

川内「はい…」

 

川内「私は…。私達は提督に酷いことをしてしまいました。本当に申し訳ございません!」

 

川内「上官に刃向かった私達は、処分されるのでしょう…。ですが!処分されるのは私だけにして頂けませんでしょうか!提督にこんなことを懇願するのは筋違いだと思います!でも、どうか…。どうか私の処分だけにして下さい!!解体でも何でも受け入れます!」

今まで塞き止められていた思いを全てぶちまけるかのように川内の口から悲痛な思いが溢れ出てくる。

 

「川内」

僕は依然として涙で顔を濡らしている彼女の名前を呼んだ。彼女は弱々しく返事をした。

 

「確かに上官を襲ったら、相当の処分を受けなければならないと僕も思う」

 

川内「はい」

消え入りそうな彼女の声。

 

「けどね、君は…。川内も神通も提督を襲ってやしないんだよ?」

 

川内「ど、どういうことでしょうか?私達は確かに貴方を…」

 

「ああ、それはね…」

僕は昨夜長門と陸奥に話した内容を川内にも淡々と話した。

 

川内「そう、でしたか…。それでも!」

 

「川内。僕は今、提督じゃないんだ。見えない何でも屋みたいなもんさ!だから、川内たちが気に病む必要はこれっぽっちもないんだよ?」

 

川内「し…しかし…」

彼女は精一杯僕の顔を見て、誠意を示そうとしていた。頑固なんだな…それが良いところなんだろうけど。

 

「川内!」

僕は彼女をさらに強く抱き締めた。

 

川内「あぅ///」

 

「川内。今までよく頑張ったね。よく妹たちを守ろうと一人で頑張ったね。でも、もう君も頑張らなくていいんだよ。妹たちと幸せに過ごしていいんだ。僕が保証する、まだ提督じゃないけどさ。それでも、もし君の中で納得がいかないなら僕と仲良くなってくれないか?そうだな…。上官と部下ってより友人としてさ!どうかな、川内。僕と友達になってくれるかい?」

僕はそう言い終わると、自分が今言った恥ずかしい言葉のオンパレードに身が悶えそうになった。思えば、友達になろうって素直に言えたのは子どもの頃だけだよな…大人になるとさ、素直になれないというかなんというか…。

ただ、川内には思いが伝わったのだろう。

彼女は僕の胸に顔を埋め泣いていたのだ、それこそ子どものように声を出しながら…。

 

「お疲れさま、川内…」

僕は彼女の頭をそっと撫でながら、そう呟いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。