仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
「ご苦労さん!」
執務室のソファーに深く腰を掛けていた僕は、任務のためにドアから出ていこうとする人物に向け、労いの言葉を掛ける。
川内「これくらいお安いご用だよ!それより…」
川内の表情が暗くなり、どこか心配そうな顔で僕の顔を見つめる。
川内「本当に一人で大丈夫?」
「大丈夫さ、気にせず頑張っておいで!」
川内「うぅ、分かったよ…。くれぐれも気を付けてね」
そう言うと川内は僕に背を向け足早に執務室から出ていった。
「ふぅ、さて……」
僕は川内が出ていった後、目線をドアの方からある艦娘の方へと向ける。その艦娘は緊張したような、不安でいっぱいなような表情を浮かべている様だった。
「とりあえず、楽にして?そこにある椅子に腰を掛けてよ!」
僕は相手の表情をいくらか和らげようと、気さくな態度で接しようと努めた。ただ椅子を勧められ、礼を言うその艦娘の声は震えており、僕に対して相当の怯えを感じているようだった。
「今日はありがとう、朝潮。無理に来てもらって悪かったね?」
朝潮「い、いえいえ…そんなことは、あ、ありません」
今にも泣いてしまいそうな顔をしながら、上ずった声で懸命に話す朝潮。
むー、こんな娘に地下牢の場所を聞くのは酷だ。だが、長門も陸奥も川内たちも地下牢を知らないとなると残されるのは雲龍たちなわけで……そんな中で一番話せそうなのが朝潮なんだよな…。
やり方は汚いが、すまない朝潮!
僕は心の中で朝潮に謝罪しながら、地下牢について率直に聞くことにした。
「それで朝潮、地下牢についてなんだけど…」
と僕が言い掛けた時、朝潮の瞳から大粒の涙が零れ落ち始め、痛々しい表情で僕に訴えかけてきた。
朝潮「この度は、大変申し訳ございませんでした!どうか、どうか妹たちだけは……妹たちだけは助けてくださいぃ!!私が全て罰を受ける所存ですので、どうか…どうか!!」
あまりに鬼気迫る朝潮の表情。
僕はこの顔に見覚えがあった。それはつい先程この部屋を出ていった川内が初めて僕に迫った時に見せたものにそっくりであった。
「朝潮」
僕は朝潮を落ち着かせるため、穏やかな口調で話し掛ける。
「朝潮、前にも言ったけど僕は提督ではないんだ。だから、君や君の妹たちを罰することもしないし、もちろん雲龍たちのことだって罰しないさ!」
朝潮「・・・」
「それに今から聞く地下牢のことだって、答えにくければ無理に答える必要はないし、もし僕が怖いなら陸奥や長門だってこの部屋にいるんだ、二人に助けを求めたっていい!」
そう言って僕は長門たちのことを見ると、長門も陸奥も朝潮の悲痛な叫びを聞いて、心配そうにこちらの様子を伺っているようだった。そして僕と目が合うと慌てて目線を逸らしている。
「だから朝潮、もし大丈夫なのであれば地下牢の場所を教えてもらえないかい?」
再び朝潮の方へ目線を遣り、朝潮の答えを待つ。
朝潮「・・・」
朝潮は俯いたまま何も答えない。きっといろいろ思うところがあるのだろう…。
今日は無理かもしれないと思い、朝潮を部屋に帰そうと声を掛けようとしたその時、朝潮が重い口を開く。
朝潮「一つ…約束願えますか?」
「なんだい?」
朝潮「私が地下牢の場所を教えます…その代わり…」
目を閉じ、心を落ち着けようとしているのか静かに息を吐く朝潮。
朝潮「もう二度と誰かを傷つけないと約束してください!」
真っ直ぐと僕の顔を見つめる朝潮は、やはり以前の川内の様に凛としていた。
いや、というよりもここの艦娘たちは人間から自己と他人のどちらを犠牲にするのか何度も天秤にかけられてきたのだ。究極の選択を何度も何度も突きつけられ、哀れながら彼女たちは自分を犠牲にして仲間を守ろうとした。それは川内や朝潮、そして報告書の記述を見れば嫌と言うほど分かる。
「そりゃ凛々しいと感じるよな…」
僕はそっと呟く。そして、朝潮が今の呟きを聞いていないかと焦った。幸いにも朝潮は気づいていなかった様だが。
今の何気ない呟き…ただ、それは僕にとってだけかもしれない。
人間が彼女たちに強いたこと、それを彼女たちのことを分かった振りをして、他人事のように語ることは許されないのだ。
「朝潮、約束するよ。僕は絶対に君たちを傷つけない」
朝潮は僕がそう言うと、小さく頷き、大きく息を吐いた。
朝潮「この鎮守府の見取図はありますか?」
「あ、ああ!」
僕は直ぐに長門からもらったこの鎮守府の案内図を手に取り、広げる。
朝潮「地下牢は……この部屋の床から通じる階段を降りたところにあります」
朝潮が指をさした場所。そこにすぐにペンで丸をつける。
「ありがとう!朝潮!」
朝潮「……私がお教えできるのは地下牢の場所だけです」
「いいさ!後は自分の目で確かめるよ!本当にありがとう」
それを聞いて朝潮は僕にお辞儀をすると、静かに部屋から出ていった。
「よーし!」
僕は両膝をパチンと叩くと、地下牢へ行くため準備に取りかかった。