仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
闇夜に乗じて、鎮守府の廊下を物音立てぬよう静かに歩く。夜間哨戒で出撃している艦娘以外はもう自室にいるはずだ(長門曰く)
「今が地下牢へ行く絶好の時だ…」
誰もいない廊下を黙々と進む。
本音を言えば、あんなことがあったばかりだ。しかも行く場所のことを考慮すると、誰かに付いてきてもらいたかった。だが、長門や陸奥に頼むのは気が引ける。となると、頼みやすいのは川内たちが候補に上がるのだが、川内は出撃任務があったらしい。彼女は長門に掛け合ってくれようとしていたが、さすがに僕の我が儘で振り回すわけにもいかず断った。川内に聞いたところ、神通も那珂もそれぞれ用があるとのこと。
川内「神通は三銃士の集まりがあるみたいで、那珂は次のリサイタルの準備があるって……」
頬を赤くして、妹たちと喧嘩したのだろうか、ぶっきらぼうにそう呟く彼女。まあ正直、神通と那珂は川内ほど僕に気を許してくれてるわけではないのだろう。この前の神通の発言…姉の為というのを那珂が照れ隠しだと言っていたが、実際姉の為というのが彼女たちの本音と考えるのが妥当か。川内が居てこそ僕の味方になってくれるであろう二人、まぁ少しずつ信頼深めていけばいいや。
その後僕は、無理にでも付いて来そうな(有り難いのだが…)川内をなんとか宥め、やっと彼女も心配そうな表情を浮かべながら執務室を後にしたのだ。
「ここか…」
朝潮に教えてもらった部屋のドア前に辿り着く。入るのに少し躊躇してしまったが、何しにここまで来たんだと思い直し、意を決してドアを開く。
川内から借りた懐中電灯(持参したやつは初日に紛失した)で部屋の隅々を照らす。何も置いていない殺風景な部屋だった。しかし、よく目を凝らして床を見てみると部屋の隅の方に、一見すると床下収納かと思われるような小さな扉がついていた。扉を開けると錆び付いているのだろうか…鈍い金属音が鳴り響く。
「・・・」
中を照らしてみると、辛うじて階段のようなものが見えるが、正に一寸先は闇という感じで、慎重に足元を照らしながら降りなければ階段からの転落もあり得ない話ではない。
そして、鼻をつく異臭。古びた本から香る埃っぽい匂い、それだけなら全く気にはならないのだろうが、それに加えて気味の悪い生暖かさを感じるような血生臭さが地下牢から漂ってくる。まだ地下牢へ続く階段にでさえ足を踏み入れていないのに…だ。
「行くか…」
慎重に慎重に。足を踏み外さないように階段を降りる。
漆黒の闇の中に、懐中電灯の明かりだけが揺れ動いている。だが、不思議なことにしばらく歩を進めていると、ぼんやりとしたオレンジ色の灯りがポツポツと見え始めた。暖色と言えば文字通り暖かさを感じ、安心するような色合いなはずなのだが、そのオレンジの照明は怪しく、不安を煽るように光を放っている。僕が階段を降りきる頃にはその灯りが辺り一面を照らし、懐中電灯を使う必要がなくなった。だが、この鎮守府は確かまだ節電をしていたはずだ……。僕の着任(仮)により上層部からの援助もあるのだろうが、今のところは節電を敢行しているようだったのに…なんでこんなに灯りが?
「不安はあるけど…」
詳しいことはわからないが、この地下牢の全貌をこの目で確かめるべく、僕は震える足を動かした。