仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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地下牢2

思った以上に広い、それがこの地下牢を探索して最初に感じたことだ。ただ、その広さに圧倒されるだけで終われればよかった。

あまりにも直視し難い非道さ。この地下牢は、いかにこの鎮守府の艦娘たちが劣悪な環境に立たされていたかを僕に容赦なく突きつけてくる。

ぼんやりと橙色の光が灯る中、各牢を見回ったが、言葉が出てこなかった。

 

牢の数はざっと確認しただけでも数十あり、広さこそ違いはあれど、どれも入るのを躊躇わせる禍々しさを放っていた。

勇気を振り絞り、牢の中へ。もはや点かないであろう割れた電球が天井からぶら下がっている。それだけなら問題はない、普通だ。だが……それとは別に縄が幾つもぶら下がっているのだ…そう簡単に断ち切れなさそうな太い縄。縄の先には輪っかが作られ、それが何に使われたのかは容易に想像がついた。

 

吐き気を催しつつも、次の牢へ向かう。気が進まない、もう帰るべきだ…そう考えて止まない頭を横に何度も振って、無理やり足を動かす。

 

「ここの艦娘たちが受けた傷はもっと重い」

誰もいない牢で、静かに、自分に言い聞かせるように呟く。この牢には……壁に無数の鎖が打ち付けられていた。おそらく手枷、足枷だろう。錆び付いた鎖は捕らえた者を何があってもこの牢から逃がさず、拘束された艦娘を地獄の底へ誘ったのだろうか…。よく壁を凝らして見れば爪で引っ掻いたであろう傷が幾つも刻み込まれている。さらにどす黒い「しね」という文字が呪詛の様に羅列されていて、僕の体中から気持ちの悪い汗が噴き出す。

 

この牢には、病院でお目にかかるような手術台が置かれているのだが、ひどく変色した拘束器具が病院のそれとは全く別物であることを表していた。古びた棚には怪しげな薬品が並べられ、床には注射器の様なものが散乱している。だが、僕の目を釘付けにしたのは、牢の隅にあった小さな木製の机に山積みになっている幾つもの透明の瓶だ。その中には切り取られたであろう毛髪、しかもその色は実に様々で、黒色から赤、青、白…銀髪もあった。

何の為に?理由は分からないが、その場から足早に立ち去るには十分なものだった。

 

数多の牢を巡る内に僕は何も感じなくなってしまった。何も感じない。心が感じることを拒んでいるかのように。早い話、疲れてしまったんだ僕は。あまりの凄惨さ、残酷さ、無惨さ。 もはや作業として足を動かし、目で見る…それの繰り返し。ロボットの様に感情を無くして、僕は地獄を巡った。

 

少し牢とは雰囲気の違う場所を見つける。テーブルと椅子があり、テレビがある。それだけならごく普通の居間だと思ったかもしれない。何本もの酒瓶が無造作に散らばり、壁一面に艦娘たちのあられもない姿を捉えた写真が貼られていなければ。

ここにきて久々に一つの感情が沸き起こる。憎い。前任が憎い。激しい憎悪が僕の心に溢れ、気がつくと食い込んだ爪により掌から血が滴る。

この場所で、悲痛な顔をしている艦娘の裸体を写した写真を見ながら酒を飲んでいたのだろうか…下品な笑い声が幻聴だろうか、部屋中に響いている気がした。

 

「・・・」

自分のくたびれた革靴が左右で前後に入れ替わる様子を見ながら、僕は完全に沈黙を貫いていた。

故に気が付かなかった。

僕の伏した目が小さな頭を捉えた次の瞬間、僕の腹部に小さな衝撃が走り、僕は思わず尻餅をついた。

 

???「はわわわわわっ!?なんなのです!!?」

ぶつかった相手も尻餅をついたようだった。

 

「す、すまない!余所見をしていた」

僕はその人物に駆け寄り、すぐに手を差し出した。

 

???「あ、ありがとうなのです!」

おそらく、艦娘だろうか…。白い制服を纏い、ニコッと笑うその娘は、パンパンと手でお尻を払うとこちらを見つめてきた。

 

???「こんなところに…びっくりしたのです!」

それはこちらも一緒だと言おうとした時、その娘の周りに紙が散らばっているのに気が付いた。

 

「これは君の?」

 

???「はわあああああっ!!?大変なのです!?大事なものなのに、やってしまったのですうううう!!」

血相を変えてぶちまけた紙を集めるその娘。僕もとりあえず紙を一緒に集めることにした。

そして一通り集めた紙をその娘に渡す。

 

???「ありがとうなのです!!助かったのです!!」

年端のいかない、いたいけな少女がする敬礼は少々不自然にも感じるが、僕は笑顔をこぼした。

 

「おっと…ここにもまだ一枚…」

僕はしゃがんでその紙を掴むと、再びその娘に渡そうと立ち上がる。

 

その娘の姿はどこにもなかった。

 

一瞬、ほんの一瞬目を離しただけなのに…彼女は足音無く姿を消した。夢ではないのかと自分の頬をつねる。

いや、つねるも何もその手には一枚の紙が握られているではないか。

紙を見てみると、所々かすれているが文字が書かれていた。

 

 

『深海……と艦…の……体。まさに………叡知を………たこ……世紀の一……………限りだ。艦娘の……と深海棲艦の獰猛……合わされ…、………に史上最強…兵器が出……がる。第一実験……薬を投与…………娘たちも確かに強靭な装甲……凄まじい火力…誇ったが、その比ではない………。今や……副作用で錯乱する物体と化した奴らより、こいつらの方が何倍も活躍が見込める。

 

破壊の神が……………。正にその表現が適切だ。試しに薬を…………艦娘たちと深海…………複合体を戦闘させたら、見事なまでに薬………………たちを海の藻屑に変えて…………ないか。しかも命乞いをする………顔をなんの迷いも……吹き飛ばす残忍さ。最強だ。

 

もはや不要…………薬漬けのゴミ共には、複合体のいい練習相手…………もらった。最後まで情けない叫び声をあげて沈んでいくゴミ共を恍惚の表情を浮かべ見ている複合体たち。こいつらのみで…………を組めば、神憑った力が……の手に入る』

 

 

訳のわからない文を目で追い、頭が痛くなった。

とりあえず、部屋に戻ろう。ここでは何も考えられない。

 

この文を読んでいる間、ずっと後ろから視線を感じていたが、もう正直どうでもいい。

 

僕は紙を折ると、ポケットにしまいこみ、自室へ向かい歩きだした。

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