仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
川内「とりあえずお腹すいてるでしょ?どーぞ!」
そう言って川内は、二つの塩むすびを僕に差し出す。
「ああ、ありがとう」
トイレに行って顔を洗い幾分か目が覚めた僕は、受けとるや否やすぐにそれを頬張る。少し病んだ精神に川内が持ってきてくれたおにぎりの味が優しく染み渡った気がした。
「ふぅー、ありがとう川内!元気出たよ」
川内「そ、それならよかった///」
「あ、そうだ、川内」
僕は顔を伏している川内に問い掛ける。
「掃除用具と工具を探しているんだけど、どこに行けば手に入れられるかな?」
川内「うーん、掃除用具なら私の部屋のやつを貸せるけど……工具かぁ…」
川内は目を瞑り、必死で考えてくれているようだった。
川内「あ、工厰にならあるかも♪」
川内が閃いたという感じで微笑む。かわいい。
「ありがとう、それで申し訳ないんだが…その」
川内「わかってるよ!私が持ってくるから、ここで待ってて?」
そう言うが早いか川内は走っていってしまった。
川内「おまたせ!」
川内は掃除用具と工具箱を持って、再びこの部屋に帰って来た。
「ありがとう、本当に助かるよ」
川内「もー、気にしないで?私、なんだって力になるよ?」
川内……。君ってやつは……。僕は嬉しさが込み上げてくる。
「感謝してもしきれないよ」
再びこの鎮守府が闇夜に包まれた時、僕は地下牢へと続く階段の前に佇んでいた。
装備は万端。無線機を首からぶら下げ、手にはそれぞれ掃除用具と工具箱を持っている。両手が塞がってしまったので、工具箱に入っていたガムテープで懐中電灯を肩に頑丈に貼り付けておいた。まるでどこかの捕食者の様だが気にしない。
「よし!」
自分を奮い立たせる様にそう呟くと、僕は階段をゆっくりと下り始める。
「・・・」
「・・・」
階段を下る足音がよく響く中、僕は違和感を感じ始めていた。
あれ?オレンジの照明は…?
昨夜、あれほど怪しく光っていた橙色は今夜に関しては一向に見られない。
もう大分下ったような気がするけど……。
そしてそのまま僕はそれを拝むことなく地下牢へと辿り着いてしまった。
「おかしいな…昨日はあんなに…」
僕は掃除用具と工具箱を置いて、肩に取り付けた懐中電灯を取り外す。そして、辺りを照らすと、どうやら照明自体が消えてしまったという事実に気が付いた。
昨夜の不気味な発光体は全て消失し、今ある光はこの懐中電灯の頼りない光だけである。あまりの変貌ぶりに僕は驚きを隠せなかった。
そして、薄暗い。とにかく薄暗く、闇に包まれているこの地下牢は昨夜とはまた違った意味で恐ろしさを孕んでいる。
「これじゃあ、作業が出来ない…」
本来、今夜はこの地下牢から拘束器具や例の写真などを処分するつもりだった。
…実を言うと、今日は川内たちが地下牢の掃除を手伝うと言ってくれていたのだが、さすがに「じゃあお願い」とは言えなかった。
仲間の裸体を撮った写真を川内が見たらどう思うだろう?仲間を縛り付けた拘束器具を神通と那珂が見たらどう思うだろう?
数多の艦娘を虐げてきた証拠品が溢れる場所に、川内たちを易々と連れてこられるだろうか?そんなのあまりに無慈悲だ。
だから、手伝ってもらうにしても、幾らかは前もって僕だけで処分する必要があるのだ。
「あーー、もうこうなったらヤケだ!」
僕はとりあえず片っ端から牢を掃除することにした。
天井からぶら下がる縄を切り取り、写真を外し、散乱した注射器や酒瓶を集めるなど、とにかく各牢をしらみ潰しに掃除していった。
牢の半分近くを掃除し終わる頃には、今まで夜だけ作業していたのを、川内から朝食をもらったらすぐに地下牢へと足を運び、片付けに入るという風に変え、一日でも早くこの地下牢を綺麗にしようと努めた。
そして、ようやく。
僕は川内たちを地下牢へと案内出来るくらい地下牢から前任の遺物を消し去ることが出来たのだ。