仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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ヘル・アンカーズの尖兵4

灯台もと暗し…という言葉があるが、まさか追跡者は逃亡者が一度逃げた場所に舞い戻ってくるとは夢にも思わないだろう。

僕は吹雪たちが部屋から出るのを見計らって、再び地下牢へ降り立った。まず自室や執務室は絶対に吹雪たちが来るだろうし、かと言って鎮守府を逃げ回り続ければ、別の艦娘に見られてしまう可能性がある。

 

「本格的に僕の隠れ家にでもするか…」

長門たちの言葉を思い出し、少し笑みがこぼれる。だが、吹雪が今にも僕を捕らえようと躍起になっている姿を想像すれば、すぐにその笑みが消えたのは言うまでもない。

廊下の陰から彼女たちが部屋を出るのを待っていたが、もはや吹雪は筆舌し難いほどの殺意を僕に抱いたのは間違いないだろう。逃げるためとは言え、火に油を注ぐようなことをしたのだから。

そして、あの隻眼。あれはもうよく分からない。いつかの川内の様に眠気眼を擦りながら歩いていったが…果たして彼女は何なのだろうか。

朝潮は…、これまたよく分からない表情を浮かべていたな。敵意がある感じでもないし…。うーん。

 

そんなことを考えながら、とりあえず階段から少し離れた牢へ移動し、ポケットに入っていた飴玉をなめる。

疲れた体に甘味が染み渡る。

さて、今考えるべきはどうやって川内たちと合流するかだな。今はきっと風呂に入っているだろう。

 

川内がお風呂…か。

 

なんだか体が熱くなってきた。いや!いかんいかん!あんなに尽くしてくれた川内を、その…うん。

首を左右に乱暴に振る。そしてもう一度、どうこの窮地を抜け出そうか考え始めた時、不意に誰かの声が聞こえてきた。

息を殺す。

まさか来ないだろうという読みは見事に外れたわけだが、ここで見つかるわけにはいかない。細心の注意を払いながら、牢から少し顔を出して、声のする方を注視する。

 

だが、どうやら様子がおかしい。声と言っても泣き声のようだ。しかも、その声はどんどん大きくなっていく、号泣と言ってもいい。

 

怪しい、罠かもしれない。それが率直に思ったことだ。

 

でも…泣く必要あるのか?泣いて僕をおびき寄せているのか?だとしたら僕がここにいると分かっている?いや、それならわざわざそんな回りくどいやり方しない?

次々に浮かぶ疑心を振り払うかの様に僕は声のする方へ歩み寄る。

本当なら無視してやり過ごすのがベストなのだろうが、仮に誰かが傷付いて泣いているのであれば一大事だ。

慎重に慎重に近づいていく。

そして、泣いている人物の姿を目に捉えた時、しまったと思った。

何故なら泣いていたのは朝潮だったからだ。やっぱり罠か?そう思い、辺りを見回すが、吹雪や隻眼がいるような気配はない。

もう一度朝潮を見る。大きな泣き声をあげて、溢れてくる涙を懸命に拭っている様だったが、それでもポタポタと床に涙が落ちている様だった。

さすがに演技には見えない。

かと言って、怪我をしているようでも、どこかが痛い様子でもない。一体朝潮は何故泣いているのだろうか?

 

声は……掛けられなかった。

 

なんと言葉を掛ければよいのか、僕には分からなかったのが最大の理由だ。また泣いている原因も分からない上、朝潮が教えてくれる可能性も低い。無理に話し掛けるのは愚策だと思った。

本当は声を…一言「大丈夫?」とだけでも掛けられればいいのだろうけど…僕にそこまでの度胸はなかった。

 

それからしばらく朝潮が泣き喚く様子を無力感に苛まれながら見ていたが、一頻り泣いたのだろうか、赤く腫れた目を擦り、階段の方へ歩いて行った。

 

……。

 

一体あれからどれ程時間が経っただろうか。結局、吹雪や隻眼が地下牢に戻ってくることはなかったが、朝潮のことが気掛かりで落ち着かない。

そこで自室に戻って、朝潮に関する報告を見たいのだが、まだ油断ならず地下牢から出られないのが現状だ。

非常に歯がゆい。こんな時に無線機があれば…とどれ程思ったか。

すると誰かが階段を降りてくる音がした、しかも会話をしているようで一人ではない様だ。川内たち?いや、吹雪たちか?階段から少し離れた牢へ身を潜め、様子を伺う。

 

???「ほぉ、こんなに広かったとはな…」

 

???「そうね…あら、この壁紙かわいい」

 

???「あんまりはしゃぐなよ?陸奥」

 

陸奥「そういう長門だって、本当はこの壁紙かわいいと思ってるんでしょ?」

 

長門「フフ、まあな」

どうやら助かったらしい。

 

「長門!陸奥!」

僕が大きな声で名前を呼びながら駆け寄ったので、長門も陸奥も一瞬身構えた様だったが、僕と分かると優しい笑顔を見せてくれた。

 

陸奥「凄いわね、驚いたわ」

 

「ありがとう!」

 

長門「まだ何かしていたのか?」

 

「あー、まあそうね…」

 

陸奥「あまり根を詰めすぎると体に毒よ?」

 

長門「そうだな…ちゃんと休んでいるのか?」

 

「もちろん!川内たちも手伝ってくれているしね。大丈夫さ。それよりも…」

 

陸奥「それよりも?」

 

「執務室に誰か来なかった?」

僕は恐る恐る尋ねる。

 

長門「誰も来ていなかったと思うが…」

 

陸奥「もう!長門は海図ばっか見ているから気づかないだけよ!えーっと、確か帰投の報告に何人か来ていたわね」

 

「そ、そうか…。あの…なんか誰かを探している様子の娘は来ていなかった?」

 

陸奥「んー、そうね…。特には…。あ、そう言えば」

思い当たる娘がいたらしい。

 

陸奥「吹雪が執務室を少し見たいと言ってウロウロしていたわね」

あの黒パンめ…。

 

「ありがとう!」

 

陸奥「……あなた、まさか駆逐艦の娘に手を出したわけじゃないわよね?」

ちょっと目付きが怖いですよ、陸奥さん。まあ、ここは正直に話しとくか、味方は多い方がいい。

僕は雲龍や吹雪に襲われたこと、阿武隈たちの訪問を二人に話すことにした。

長門も陸奥も真剣に僕の話を聞いてくれていた。

 

長門「そうか…それで貴方はどうするんだ?」

 

陸奥「・・・」

 

「もちろん、仲良くなれるなら仲良くする!どんなに時間がかかってもね!」

長門も陸奥も少々驚いた顔をしていたが、お互いに顔を見合わせると少し笑って、再び穏やかな顔つきで僕の顔を見る。

 

長門「そこまでして提督になりたいのか…それともただのお人好しなのか…」

 

「まあどっちもだよ」

僕も少しおどけて言ってみる。

 

陸奥「ここまでお人好しだと、さすがに愚かに思えてくるわ」

口ではそう言う陸奥も口角をあげ、小さく笑っている。

 

陸奥「…まぁ、貴方が変なことをしない限りは私も手を出さないわ」

あぁ、これ吹雪のパンツのことも言っとくか…。

 

陸奥「・・・」

 

長門「・・・」

無言で睨む二人。以前の敵意は感じられないが、ちょっと軽蔑されたかも、やめてよー。

 

陸奥「気を付けなさいよ、駆逐艦は繊細な娘が多いんだから」

 

長門「吹雪は黒いのかぁ…」

なんか長門から場に似合わない言葉が発せられたような…。あ、陸奥が長門の足を踏みつけた。

というか、そろそろ本題に入らないと!

 

「それでさ、せっかく二人に来てもらったばかりで悪いんだけど、ちょっと、そのボディーガードを頼めないかな…その、川内たちの部屋まで…」

川内と違って、この二人に頼むのは少し緊張する。

 

陸奥「いいわ。私だけでもいいでしょ?長門には地下牢を見物してもらいたいし…。そうだ!この際、長門も言っちゃいなさいよ?」

 

長門「そうだな…。いやなに、また会った時にでも言おうかと思っていたのだが、やはりこの地下牢を少し使わせてもらおうかと思ってな」

 

「おお!それは全然構わないよ!むしろ助かる!」

 

長門「そう言ってもらえるとこちらも助かる。たまに邪魔するかもしれないがよろしく頼む」

 

「でも、一体何に使うんだ?」

 

長門「あー、それはだな…その」

珍しく歯切れの悪い長門。なんか聞いたのはまずかったか?

 

陸奥「多分、長門の趣味よ」

 

長門「む、陸奥!!」

長門が陸奥のことをじっと睨んだ様だったが、陸奥はどこ吹く風という感じだ。

 

陸奥「さぁ、川内の部屋まででよかったわね?行きましょう?」

陸奥が僕の背中をそっと押し、階段の方へ誘導する。長門の顔がほんのり赤みを帯びていた様な気もするが、陸奥に押されるままその場を後にしたので、真相は分からなかった。

 

 

 

 

 

 

陸奥「ここまででいいかしら?」

 

「うん!ありがとう!」

 

陸奥「それじゃあ、私は地下牢へ戻るわね」

僕に背を向け、歩き出す陸奥。

 

「よかったら、陸奥も地下牢使ってよ?」

 

陸奥「考えとくわ」

そのまま陸奥は行ってしまった。

 

久々に川内の部屋まで来たなと思いながら、ノックする。もし、風呂から帰ってなかったらどうしようと今更ながら思う。陸奥は…もういない。

 

「はーい」

中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

川内「あれ!?どうしたの?」

ああ、さっき会ったはがりなのに、なんだがすごい久しぶりに会った気がする。

 

神通「誰ですか、姉さん?」

 

那珂「ZZZ…」

川内の後ろから神通が覗き込む。那珂は…寝ていた。

川内からほんのりシャンプーの香りだろうか、いい匂いがする。

 

「すまないね、こんな時に…それで、あのさボディーガード頼める?」

 

いきなりのことに川内も神通もポカンとしていたが、どうやら僕の話を聞いてくれるようで、部屋に招いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川内「全く!吹雪のやつ~!!」

 

「元々は人間が悪いんだから仕方ないさ…でも吹雪たちともその内仲良くなれればな…」

 

川内「むー」

 

神通「先程、隻眼と言っていましたが…どんな風貌だったか覚えていますか?眼帯をしていましたか?」

 

「あー、確か前髪が片目を隠していたけど、眼帯だったかどうかは分からないな…」

それを聞くと神通の顔がパァと明るくなる。

 

神通「そうですか!それなら…」

それならの後が聞こえなかったが、僕の返答に安堵している様子だった。

 

川内「とにかく、部屋に戻るんでしょ?もちろん私たちも同行するよ!」

 

「頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それで自室に戻ってきたわけだけど…。

何故か僕の煎餅布団がふっくら隆起し、微かに寝息のようなものも聞こえている。

僕は川内、神通と顔を見合わせ、そーっと掛け布団を捲るとあの隻眼が気持ち良さそうに目を閉じて横たわっていた。

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