仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
「・・・」
川内「・・・」
神通「・・・」
目の前の状況に頭が追い付いていないからだろうか、誰も言葉を発っしない。
???「グーグー」
うん、これだけは分かる。この隻眼は常に眠いらしい。
川内「どうする?」
川内がそっと僕に耳打ちする。声を抑えているのは川内なりの配慮だろうか。
「うーん、とりあえずそっとしとこうか…」
なんかこの隻眼なら直ぐ仲良くなれそうな気がする。恐らくだけど…。
川内と神通に隻眼を見張らせ、僕は報告書に目を通す。
結局、前回は川内たちについての記述くらいしか読めなかったんだよな…あまりの前任が残した悪行の多さに伴って文量も半端ないし…。
それで、朝潮は…。あ、これかな?
内容は大方の予想通り、酷いものだった。朝潮は特に性的被害には遭っていないようだが、相当暴力を振るわれたらしい。また彼女の妹たちも激しい暴行を受けていたようで、何人かはあの地下牢に入れられているようだった。
朝潮とは、この前一度話したけど、あの様子だとまた怯えられて終わる気もするな…。謝罪はしたいが…さて、どうしたものか。
???「グオーZZZ」
「・・・」
この隻眼についても調べてみるか…。
重巡洋艦、加古。それがこの隻眼の名前だった。
そして彼女の報告についても読んでみたが…ただ一言、解体申請中と赤字で書かれているだけだった。
ここで言う解体は僕たちにとっての死刑と同義だ。この加古というのが解体を申し出たというよりは、前任が解体しようとしたのだろうけど、それは実際加古に聞いてみないと分からない。
うーん、朝潮に加古。彼女たちとも仲良くなりたいが…。多分、僕だけじゃ怖がらせるかボコボコにされるだけだろうし……。
考える。なんとか彼女たちと打ち解ける方法はないかと無い頭を捻る。だけど、そうそう名案は浮かぶもんじゃない。ただ時間だけが過ぎ去っていった。
また川内たちには頼ることになるのは絶対だよな…。
ここ最近ずっと彼女たちを頼りっぱなしなのでそろそろ愛想を尽かされないかと内心ヒヤヒヤしているのだが…あ。川内で思い出した!
「川内!」
川内「うぇ!?な、急に大きな声出さないでよ!!?」
「ご、ごめん…。というか、川内に聞きたいことがあるんだけど」
川内「なに?」
「那珂ってアイドルなの?」
川内「ブッ!!な、那珂がアイドル?あー、まぁ一応というか…なんというか…」
神通「那珂ちゃんが自称しているだけだと思いますよ」
「あー、そうか…」
川内「突然どうしたの?那珂がアイドルかどうかだなんて?」
「いや…それ、朝潮や加古と仲良くなる為に活用できないかなと思ってさ!」
川内「えー?いくらなんでもそれは…」
神通「……ック」
僕の提案があまりに突拍子もなく、また可笑しかった様で神通はプルプルと体を小刻みに震わせながら笑いを堪えているようだった。
おい、傷つくぞ。でも悪くはないと思うんだよなこのアイデア。だが、事態は急速に変化する。
???「その話…乗ったあ!!!」
突然ドアが開かれ、そこには話題の渦中にいる張本人、那珂が立っていた。目には見えないけどバーンっていう効果音が背景に付いてそうだ。
川内「な、那珂!?」
那珂「フフフ、起きたらみんな居ないからさ…探したんだよ!大体、居る場所なんて限られてるし!それで案の定ここにいたわけだけど!!那珂ちゃん、すっごいイイ話聞いちゃったぁ!!!」
えっーと、那珂がすごいキラキラした目でこちらを見てくるのですが…。いや、これは好機か!?渡りに船!?
僕は無言で那珂に近づく。そして、彼女の目の前に立つと、笑顔で手を差し出した。示し合わせたように那珂も手を出し、握手。固い握手が交わされる。
那珂、やはり君とはいい酒が飲めそうだ。
川内と神通は完全に蚊帳の外だった様だが、「おぉ…」と引き気味に拍手をしてくれている。
那珂「朝潮ちゃんと加古ちゃんと仲良くなる…その為に那珂ちゃん、いや艦隊のアイドルが全力を尽くしちゃうよ~☆」
「那珂…ありがとう!!」
那珂「…で、具体的に何をすればいいの??」
「ふふふ、それはね…」
後日、川内が執務室のプリンターで大量の紙を刷っている様子を長門たちが目撃していた。
そして印刷が終わった頃合いに陸奥が川内に訳を聞くと、「これ見てくださいね」と言って一枚の紙を差し出し、どこかへ行ってしまった。
紙にはこう書かれていた。
『艦隊のスーパーアイドル!怒濤の二時間ライブ開催しちゃいます☆ ~届け!那珂ちゃんの想い~』
長門「・・・」
陸奥「・・・」
他には開催場所、日時、出演メンバーが書かれていた。
陸奥「食堂でやるつもりなの…」
長門「・・・」
そして出演メンバーのところを見て二人は閉口した。
そこには
スーパーアイドル:那珂ちゃん
バックダンサー:朝潮、加古
その他:何でも屋、川内、神通、長門、陸奥
鎮守府は国防の要である。
日々深海棲艦と熾烈な戦いを繰り広げる最前線として、国の沿岸部を始め、至るところに配備されている。
そして、その数多の鎮守府を束ね、統轄しているのが、海軍の最高機関「ZEUS」である。
それこそ深海棲艦が現れるまでは、国家の中枢は政治を統べる国会が担い、軍は形だけの飾り、腰巾着としか見られていなかったが、今やそれは覆され、国家の存亡を握る牙城として君臨している。
そして今、「ZEUS」の中心部に軍の中でも名高い者たちが集められ、話し合いを行っていた。
「今回集まってもらったのは他でもない、最近の深海棲艦の動向についてだ。…どう思う?」
「貴奴らが現れてから今日まで、我々は死闘を繰り広げてきたわけだが……はっきり言って劣勢だな」
他の者も賛同するかの様に静かに頷く。
「今年は最低だよね?北の方は幾つか鎮守府が壊滅させられているみたいだし…」
「ある鎮守府からは、出撃した艦娘たちと連絡が取れなくなったと報告があったが、結局その鎮守府とも連絡が取れなくなってしまったからな…そこで俺の艦隊を偵察に行かせてみたが…」
「…どうだったの?」
「既に瓦礫の山と化していたらしい。生存者は無しだ」
「・・・」
「貴様!不安を煽るようなことを…!」
「事実を話したまでだ!」
「おいおい!内輪揉めしている時じゃないだろ?」
「大体何なのだ!?今まで我々が優位に立っていたのに、今年に入ってからというもの…」
取り乱す者、冷静にその場を収めようとする者、目を閉じ黙っている者。反応は異なれど、皆一様に得たいの知れない不安を感じていた。
「静粛に!!!」
はっきりとした声が響き渡る。
そして、その声を発した者に皆が注目する中、その人物は淡々と話始めた。
「…未曾有の事態に、皆が不安に駆られるのも無理はない。先程、北の鎮守府が幾つか荒廃したという話が出ていたが、北だけではない。東西南北に至って、被害の大きさは違えど、確実に貴奴らは進攻してきている。アース・メンストールを覚えているか?」
アース・メンストール…深海棲艦、そして艦娘の出現に始まり、黎明期から我等海軍と共闘してきた鎮守府に属さない艦娘だけの組織。元々は八つの隊で構成されていたことから、海軍では「LEVEL8」と愛称を込めて呼ぶ者もいる。今ある鎮守府の配置に戦略的助言を与えてくれたのも彼女等だ。と言っても、彼女等の存在を知るのは海軍でも極僅か、「ZEUS」の最高位の者たちだけである。
「…これから話すことは我等の士気を下げるものかもしれない。だが、それを秘匿にするのは散っていった戦友たちへの無礼に当たると判断した。故に私は話す。アース・メンストールは崩壊した」
その場にいた者たち全員が目を見開き、絶句した。
「青葉から報告を受けてな…見事な最期だったらしい。そして、その最期の言葉を僭越ながら私が彼女等の代わりに皆に伝える。『黒い艦娘に気を付けろ』これが我等の同胞が遺した言葉だ」
涙を流す者もいれば、決意を新に凛とした顔をする者もいた。
「深刻な状況に変わりはないが、この国家を生かすも殺すも我等の闘争に懸かっている。我等が破られれば、この国の全ての命が貴奴らに蹂躙されるであろう。故に我等は、国家の中枢及び最強の国防の盾として奮戦しなければならない!」
そしてその者は突然起立し、大きな声をあげ次のように言った。
「六艟を召集せよ!!!」