仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
朝潮「む、無理です!」
「そこをなんとか頼みます!!!」
現在、僕は自室にて目の前の娘に深々と頭を下げている。理由は簡単。那珂のライブにバックダンサーとして出演してもらうためだ。
朝潮「出来ませんよ…無理、無理です!」
「頼みます!」
こんなやり取りがもうかれこれ一時間程続いている。交渉は難航すると覚悟していたが、やはり厳しい様だ。
川内「そもそもバックダンサーって…朝潮は踊ったことあるの?」
朝潮「無いですよぉ!!」
川内「ねぇ、いくらなんでも酷じゃない?」
川内が心配そうな顔をして、僕の顔を見る。
「…だけどさ、どうしてもライブに出て欲しくて…。それとも朝潮は踊るより歌う方がいい?」
朝潮「嫌です!!!」
そういう問題じゃねぇとでも言わんばかりに朝潮は声を張り上げた。あの朝潮が…。これは相当嫌らしい。
朝潮「大体、私は川内さんが話があるということでここに来たんですよ…それなのに、こ、こんなのって…騙し討ちじゃないですか…」
川内の方をちらりと見ると、ばつの悪そうな顔をしていた。だが、確かに僕が話があるからと言っても朝潮はここまで来なかっただろう。朝潮には悪いが…川内、ナイスだ。
「騙すような真似をしたのはすまない、謝るよ。だけど、どうしても朝潮と話がしたかったんだ!」
朝潮「・・・」
「朝潮、もう一度頼む。バックダンサー、引き受けてくれ!」
朝潮「嫌です!!!」
…埒があかない。助け船を求めて那珂を見る。すると那珂は察してくれたようで、朝潮の方へ近づくと朝潮の肩に手を乗せ、優しく諭すように語りかける。
那珂「朝潮ちゃん、どうして無理なのかな?」
朝潮「だ、だって私、踊ったこと無いですし…」
那珂「大丈夫!ダンスで大切なのは技術とかじゃない…心だよ?上手い下手よりも自分が楽しんで出来たら、それはもうすっごい幸せなことなんだから!百点満点なんだよ?」
朝潮「で、でも…」
那珂「不安なら那珂ちゃんが全力でダンスを教えるよ!それに朝潮ちゃんがこんな風に踊りたいっていうのがあれば全然言ってくれていいし!」
朝潮「・・・」
那珂「だからさ、お願い!那珂ちゃんと一緒にライブに出よう!?」
朝潮「…どうして」
那珂「?」
朝潮「どうして私なんですか?」
那珂「えっーと、それは…」
「…朝潮。前にも話したと思うけど、僕はここの鎮守府の娘たちと仲良くなりたいと思ってて…」
朝潮「…知っています。でも、それは司令官になる為ですよね?」
「いや、確かにゆくゆくはそうなりたいと思っているけど…それはメインじゃないよ?あくまでここの皆と仲良くなること、それと自分を変えるというのが目的であって…」
朝潮「仮に…」
「?」
朝潮「仮に貴方が皆と仲良くなって、司令官として認められたらとしましょう。そして、貴方自身の願望も叶った…。そしたら、貴方は私たちを蔑ろにしませんか?自分の欲求さえ通れば、後は私たちなんかどうでもよくなったりしませんか?」
「もちろん、そんなことはない!」
朝潮「どうしてそんなこと言い切れるんですか!!?」
怒り。はっきりとした怒りが朝潮の顔から読み取れる。
「・・・」
「…今は信じてくれ、としか言えない。すまない…」
ちゃんと証明が出来ればどれだけよかっただろう。でも今の僕にはそんな大義名分は無い。それ故、朝潮からしたら僕の言葉など、薄っぺらい言葉にしか聞こえないのだろう。
朝潮「・・・」
「でも、僕は絶対に君たちを傷つけない!約束する!」
朝潮「……私は」
朝潮「私は、役立たずで…妹たちのこともちゃんと守れなかった…それに、私は貴方を傷つけようとしたんですよ!?吹雪ちゃんのことだって止められなかった!私は、私は…!!」
「…朝潮」
朝潮「…偉そうなことを言ってしまいましたが、結局私は何も出来なかったんです。実を言うと……貴方が私と仲良くしようとしてくれること、何か思惑があるのかもしれませんが、ちょっと嬉しいって思っちゃいました、こんな私でも必要としてくれてるんだって。でも、私は協力は出来ません…。だって、私がいても何の役にも立たないんですから」
どこか寂しそうに彼女は笑う。
「・・・」
朝潮「ご期待に添えず申し訳ございません。失礼します」
朝潮は丁寧にお辞儀をすると、部屋から出ていこうとする。ここまで言われてしまえば、もうこちらとしても無理強いは出来ない。
朝潮をバックダンサーに起用するのはもう誰の目に見ても不可能、そんな諦めの空気が流れていた。
でも、僕は…。
「ま、待っ…」
往生際が悪いのは重々分かっているが、僕はしぶとく声を掛けようとする。だがそれ以上は言葉が出てこない。
そして、朝潮がドアノブに手を掛け、もう行ってしまう…そんな時だった。
「へぇ~、面白そうじゃん」
聞き覚えのない声が室内に響く。そして、その声の主が誰かと分かると、その場にいた全員が驚いた様な顔をした。
加古「あたしも混ぜてよ」
隻眼が笑いながら、上体を起こし、軽く伸びをしてこちらを見つめている。それはあまりに突然だったので、僕は動揺を隠せなかった。
「…え?」
加古「あ、初めまして。人間さん」
「あ、ど、どうも」
加古「それでさっきの話だけど…」
彼女はそこまで言い掛けると、立ち上がり、悠然とこちらに近づいてきた。僕はその様子を緊張した面持ちで眺めていたが、川内に至っては何か怪しいと感じたのだろうか、僕の前に立つと身構えている。
加古「なんだよ、あたしはあんたの後ろの人間さんに用があんの!」
川内「…何するつもり?」
加古「ライブ!やるんでしょ?あたしも混ぜてってこと!」
川内「・・・」
加古「なんだよ~。あたし全然歓迎されてないじゃん!」
大袈裟に困ったような顔をして僕の方を一瞥する隻眼。
「あの、加古」
僕は勇気を振り絞り、隻眼の目を見据えながら話しかける。
「ライブに参加してくれるってのは本当かい?」
加古「ああ!面白そうだし!!」
これは…。
「…分かった!よろしく頼むよ、加古」
川内「ちょっ!?」
川内「いいの?なんか怪しくない?」
川内が僕の耳に手をあて小声でそう言う。まあ確かに今までの感じから言うと加古みたいなのは新鮮だ。その分、怪しさも募る。特に、彼女は吹雪とも繋がりがあるみたいだし…何か企んでいる可能性も捨てきれないけど。
ただどちらにせよライブに誘うつもりだったのだから、手間が省けたと考えて、後は問題が起きたときに解決すればいいか。こういう時は考えるよりも動け…だ。
そんな旨を川内に伝えると、あまり納得のいっていない顔をしていたが渋々了解してくれたようだった。
加古「おーい、話は済んだのー?」
「ああ。それとライブにはバックダンサーとして出てもらうけど問題ないかい?」
加古「別にー。あたしは構わないよ」
すると、僕たちのやり取りを黙って見ていた朝潮が加古に駆け寄り、慌てた表情で話しかける。
朝潮「い、いいんですか!?加古さん!」
加古「えー、何が?」
朝潮「な、何をって…阿武隈さんに確認もとらずに…こんな…」
加古「…んー、別に平気じゃない?あ、もしかして阿武隈達のことを気にしてライブに参加できないの?それならあたしが阿武隈に言っといてあげるよ!」
朝潮「そ、そんな…私は…」
加古「よーし、決まり!じゃあ、人間さん!あたしと朝潮はバックダンサーとしてライブに出るからよろしく~!詳しいことは後で話そうや!」
そう言うと、加古はまだ何か言い掛けていた朝潮を無理やり押して、部屋から出ていった。隻眼が起きて、ほんの数分の出来事だった。
事態があまりに急展開を迎えたので、しばらく何が起きたか頭で理解するのに時間が掛かった。
だが、どうやら朝潮と加古はライブに参加(朝潮に至っては半ば強制的だが)
してくれるらしい。
そうと決まれば…。僕は呆然と立っている三姉妹に声を掛ける。
「一応、役者は揃ったみたいだ…それで、川内と神通に聞きたいんだけど…二人も協力してくれるのかい?」
僕がそう問うと、二人は顔を見合せ、再びこちらを見てニコッと笑いながら首を縦に振ってくれた。
「ありがとう!じゃあ、さっそく…」
こうしてライブ開催に向け、僕たちは動き出した。
???「あれ、なんか置いてある」
とある艦娘が出撃から自室に戻ると、机の上に見慣れないものが置いてあるのに気が付いた。
???「紙?」
その艦娘はきれいに折り畳まれた紙を広げる。何やら書いてあるようだ。
???「ライブ…?」
どうやらライブが近いうちに開催されるらしい。
面白そうだ…。
興味深々な様子で、その艦娘は文字を追っていたが、ある部分を目にした途端、顔色が急変する。
その目は出演メンバーのところで止まっている。そしてしばらくの間、その部分を穴が開くほど見つめると、その艦娘は紙をグシャグシャにしてゴミ箱に投げ捨てた。
怒りとも悲しみとも取れない目をして、その艦娘は立ち尽くす。
そして、ふと棚に置いてある小さな写真立てを見ると、一筋の涙を溢した。
写真にはこぼれるような笑みを浮かべる二人の艦娘が写っていた。