仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
川内「やっばいよ…心臓止まりそう」
加古「意外とあんた、小心者なんだね…」
川内「足ガクガクしてるあんたに言われたくない!」
「やめてくれよ…。もうライブ始まるぞ」
那珂「また昨日みたいに揉めるのは嫌だからね…とにかく楽しんでやろー!!」
神通「那珂ちゃんって、意外に頼りになりますよね」
那珂「今更ぁ!?」
現在、僕たちは食堂に設けた特設スペースの舞台裏に潜み、ライブ開催時刻を息を呑んで待っている。
毎度のことながら人の前に出るというのは緊張するもので、さっきから喉が渇いてしかたない。
そして、意外や意外。川内や加古が緊張した面持ちでいるので、余計に僕の心臓は早く鼓動する。
神通も顔は凛としているものの、スカートの裾を震えた手で握っていた。朝潮は…目を閉じ、体育座りをしている。え…気絶してるわけじゃないよね?
唯一、那珂だけが皆を鼓舞するように、いつも通り明るく振る舞っている。今思えば、これに大分救われたのだろう。
舞台裏からでも分かるのだが、観客は大にぎわいだ。嬉々とした声があちらこちらから聞こえてくる。
恐らく、前任の頃にはこんな催しは話に出ることさえ有り得なかっただろう。それが今、目の前で行われようとしている。
吐きそう…。
そして、いよいよライブ開催まで一分前を切った時。
那珂が小声でメンバーに呼び掛ける。
那珂「よーし!円陣組むぞー!!!」
その呼び掛けに、照れたように笑う者もいれば、奮起する為に進んでしようとする者もいたりと反応は様々だったが、いざ円陣を組むと皆真剣な顔つきになった。
那珂「それじゃ、スーパーライブ…楽しむぞ!エイ、エイ、オー!!!」
長門「本日のライブへの参加、誠に感謝している。…思えば、皆が日頃から海の平静を保つため尽力してくれていること…」
陸奥「もう!そう言う堅苦しいのは今日は抜きって言ったでしょ?」
長門「あ、ああ。すまないな。それでは只今よりスーパーライブを開催する。皆、心ゆくまで楽しんでいってくれ!」
陸奥「もー、皆!背筋を張らなくていいのよ?もっとゆったり見てね?」
長門と陸奥が壇上で司会をしてくれている。
いよいよかぁ。
僕が川内を見ると、目が合った。よーし!やってやるぜ!
川内「と、とうっ!悪を貫き、正義を滅ぼす、暗夜忍者、川内、た、只今参上!」
川内「わ、わたすの刀の錆となれぇ!」
大分、川内は緊張していた様で所々言い間違えたり、噛みまくったりしている。そういう僕はセリフがない分、気楽なものだ。
黒いシーツを被ってはいるが、ちょうど目のところに二ヶ所、穴を開けているので、川内の表情や観客の様子も見られるのだが、やはり知らない顔ばかりだ。まあ当たり前か。でも、最前列に座っている子どもっぽい娘たちは息を呑んで見てくれているようで安心した。
…時折、観客席の後方から「大丈夫かー?夜戦バカー」という声が複数聞こえてきたが、どうやら盛り上がってはいるようだ。
…というか今、劇のクライマックスで、後は新聞の刀で僕を切って終わりなんだけど、一向に叩かれない。
気になって川内を見る。あ、腰に差してないやん。
すっかり僕たちは新聞の刀を忘れてきてしまっていた。
川内の顔が青い。ここは…。
僕は体をクネクネ動かす。それに伴い、シーツも揺れ動く。すると、前列の方からキャッキャ、キャッキャ笑う声が聞こえ始めた。
「うわっ、キモッ!」という声が聞こえた気もするけど、気にするものか…絶対。
川内を見ると、クスッと笑い、すぐ意を決した様な顔になった。フッ、持ちつ持たれつ…だな、と心の中でかっこつける僕。その頭に川内の手刀が結構な勢いで落ちてくるとも知らずに…。
川内「フハハハハハ!悪は滅んだ!いざ、サラバサラバ!」
軽快な音と共に劇は閉幕、僕は頭に大きなたんこぶを作って舞台袖へと退散することとなった。
神通「・・・」
神通の前には藁の束が三本鎮座している。そして、神通は目を閉じ、ただ静かにその時を待っていた。
さすがに一分で終わられてしまうと、こちらも困るので、演出を加えさせてもらった。神通にその事を伝えると、むしろそれなら…と快く引き受けてくれた。
僕が加えたのは、約九分間、静かに目を閉じ瞑想してもらうことだ。正直、これはまずいかと思ったが、神通の佇まいと申し訳程度のスピーカーから流れる和を感じさせる音が功を奏した様だった。
そして…カッと神通が目を見開いたかと思えば、まさに神業と言っていいほどの早さで、たちまち藁の束を斬ってしまった。
轟音と言えるまでの拍手喝采。「さすが三銃士ー!!」という声まで聞こえてきた。そう言えば、三銃士って?
神通もさすがに照れたのか、頬を赤くして俯いていた。
那珂「みんなー!!盛り上がってるかぁー!!?」
先程の拍手喝采に負けないくらいの声が、那珂の呼び掛けに返ってくる。
那珂「那珂ちゃんのスーパーライブへようこそ!!今日はみんなが倒れるほどの美声をお届けしちゃうよ~!!そ・し・て!バックダンサーとして二人のパートナーを紹介しまーす!!朝潮ちゃん!加古ちゃん!ステージ!オン!」
すると、朝潮と加古が颯爽と舞台袖から現れ、はにかみながらも前を向いている。キャーキャーと歓声が上がり、場のボルテージは最高潮だ。まあ、元々の目玉はこれだしね。
那珂「さぁ、いくよ……」
那珂「那珂ちゃんの歌を聞けええええええ!!!」
その後の三十分は狂喜乱舞と言ってよかった。
那珂の歌声に聞き惚れる者、加古の流れるようなダンスに目を奪われる者、朝潮の懸命な姿に心を打たれる者。
その感動を心に押し止めておくことが出来ず、それは那珂、加古、朝潮の名を呼ぶエールとなって食堂にこだました。
ほぼ、大成功と言える。テンションMAXになった那珂が観客席にダイブしたこと以外は。
トークタイムでは、『最近のお気に入り』とか『私の宝物』みたいな話題を幾つか設け、長門と陸奥が壇上から指名した娘に答えてもらう方式で時間を費やした。
実はこのトークタイムが一番長かったりする。
長門「ほお、睦月はそれが大切な物なのか、なるほど」
長門「潮は曙と仲が良いのだな、ふむ…なるほど」
長門「満潮には髪にそんなこだわりが…そうか…」
なんか、長門は心なしか小さな娘ばかりを指名している気がするけど、気のせいだよな?
長門「フフ、素晴らしい時間だ。もっと長くてもいいかもしれんな…」
陸奥「次は私の演目よ!!」
陸奥に連れられる形で長門は退場した。
スピーカーからは民族音楽だろうか…遠い異国の地を思い起こさせるような、そんな音楽が流れている。
陸奥の演舞『火炎』。
陸奥はゆっくりと舞台の中央まで来ると、静かに目を閉じる。そして、手に持った扇子を開くと、優雅に舞い始めた。陸奥の一挙一動は何故だが背徳感を感じるほど、甘美且つ妖艶だった。皆が固唾を呑んで、その華麗なる舞いを見つめている。
どうやら、前列の娘たちには刺激が強すぎたようで、皆一様に口を開け、まさに呆気に取られていた。
十分という短い時間の中で、先程までの熱気が嘘かと思えるほど、辺りは静まり返っていた。
舞い終わった陸奥の表情は艶かしく、そして妖しい。
「お姉さま…」そんな呟きがポツポツと聞こえてくる気がした。
長門「そこへやって来たのはウサギさん。一緒に遊ぼうよとタヌキさんに言う」
長門「うん、遊ぼう!そしてそこには沢山の動物さんたちが集まってきて、楽しく遊び始めたのでした」
……誰だ、この人?
舞台に置かれた机の上で、まるで生きているかのように動く人形たち。
そして、とても可愛らしいそれらを手で操っているのは、紛れもない長門だ。
長門「えーん、えーん。クマさんは泣いてしまいました。そこにやって来たゾウさんは…」
この日一番と言っていいくらい、前列の娘たちは食いついていた。
いや、もう名前とか艦種分かんないけど、恐らく前方に居るのは大方駆逐艦だろう…。それこそ戦艦クラスの人が子どもを追いやってまで前に来てたらドン引き………なんか巫女服を来たエセ外国人みたいなのが前の方で盛り上がってるけど……あれも駆逐艦なのか?結構、大きい娘もいるんだな……。
何はともあれ、陸奥がある意味やらかしてくれた(青少年健全育成的な意味で)のだが、長門の人形劇はそれを浄化する役割を果たしてくれたと思う。
そして、本来は次に朝潮の番なのだが、少し準備がしたいということで、加古に先にやってもらうことになった。
加古「セリフは何がいい?」
「な、なんでもいいです…///」
壇上には、加古、そして挙手した後に指名され、意気揚々とやって来た艦娘がいる。
そして、何故か一枚のパネルが用意されている。
加古「ふーん、そう…じゃあ」
バンッ!
加古「今夜は寝かさないぜ?」
なんだ、このイケメン!?
大歓声とはいかないまでも、至るところからキャーキャーという黄色い声が聞こえてくる。
壁ドンねぇ…。あーあ、壁ドンされた娘、両手で顔を隠して悶えてるよ。ふん、羨ましくはなんてない…パネドンじゃねぇか。うぅ…。
その後も何人もの艦娘が加古の壁ドンならぬパネドンに沈められていった。
…というか、せっかく長門が空気を戻してくれたのに、また変な方向に戻っちゃったぞ!?
まぁ、次の朝潮はそんな感じなことはしないだろうし、大丈夫だろうけど…。
朝潮「私がこのライブの最後を飾らせてもらえること、光栄に思います!そして、私がする演目…それは…」
すると朝潮は先程加古が使っていたパネルに一枚の大きな紙を張り付けた。そしてその紙には何人かの艦娘だろうか、大きく拡大された顔写真が張られている。
朝潮「ここに写っているのは、私の大切な妹たちです!私の、かわいいかわいい大事な妹たち」
そうか、これが朝潮の…。
朝潮「でも、私はダメな姉です。妹たちのピンチにちゃんと守ってあげられなかった、助けてあげられなかった」
重苦しい空気が流れる。
朝潮「せっかくのライブなのに、空気を台無しにしてごめんなさい…。私はこんな感じで、誰かの足しか引っ張れないんです…無能だから…」
辺りがざわつき始めている。僕たちも一体どうしたと動揺を隠せない。
朝潮「この前、私は妹たちの前から逃げてしまいました。かけがえのない妹たちから目を逸らしたんです。…理由は簡単です。…私は失望されるのが恐かった、それが確定してしまうのが!」
朝潮「おかしいですよね、自分ではダメな姉って分かっているのに、妹たちに失望されるとは認めたくない…認めたくないんです!」
観客席のざわつきはいつの間にか消えていた。だが、とある箇所からすすり泣く声が聞こえている。
朝潮「だって大好きなんですもん!妹たちのことが!私の大事な大事な妹たちなんですもん!!…部屋を飛び出したのに、何度部屋の前まで戻ったと思っているんですか!?私はあの娘たちと離れたくない!離れたくないんです!!」
朝潮「私はわがままでいいです!お願いですから、側にいさせてください!!また一緒にいさせてください!!ダメな姉でも許してください!!」
堰を切ったように話す朝潮。隣にいる川内の呼吸が聞こえるほど、食堂内は静まり返っている。
だが、先程のすすり泣く声は次第に大きくなり、泣き声の様になっていた。
複数の泣き声……その主たちはきっと…。
朝潮「……私に特技なんてありません。…もし、唯一あるとすれば、それは妹たち…ただそれだけです」
そうか…朝潮。君が見せたかった、伝えたかったのは、これだったのか…。僕は思わず目頭が熱くなっていた。
朝潮、君の妹たちへの想い…きっと間違いなく届い……
朝潮「それでは聞いてください!!!」
へ?
すると、軽快な音楽が大音量でスピーカーから流れ始める。突然のことに再び食堂内はざわついている。
皆、驚きを隠せなかった…舞台に立つ彼女以外は。
…というか、今流れているこの音楽は、食堂内を支配していた重苦しい、シリアスな空気とは正反対のものだ。
なんでここで流した!?そしてなぜマイクを持つ?
この曲は朝潮に頼まれて、僕が購入したものだ。
今や巷で大流行している曲で、ダサカッコいいというキャチコピーが付いているのだが、確かに雰囲気こそ昔っぽいが、とにかくテンポが良くて、めちゃくちゃカッコいいのである。
だが、これはボーカル抜きのインストバージョンっていうやつだ。
ま、まさか!?
朝潮『S-S-S. I. S.』
朝潮『S-S-S. I. S.』
は?
朝潮『S. I. S.』
朝潮『頬をさすり泣く霞』
朝潮『S. I. S.』
朝潮『疲労困憊の霰』
朝潮『S. I. S.』
朝潮『泣き腫らした瞳』
朝潮『S. I. S.』
朝潮『本当は限界だった』
朝潮『瞬く間に私たち だいぶ変化したようだ』
朝潮『だけれど私はお姉さん』
朝潮『貴方達の守り神』
朝潮『C'MON, SISTER O☆O☆SI☆O』
大潮「ふぁっ!?」
朝潮『素敵な帽子を WEARD』
朝潮『C'MON, SISTER A☆RA☆SI☆O』
荒潮「ひゃん!?」
朝潮『大人ぶっている MAIDEN』
朝潮『C'MON, SISTER MI☆TI☆SI☆O』
満潮「にゃっ!?」
朝潮『頑張り過ぎて TIRED』
朝潮『C'MON, SISTER A☆SA☆GU☆MO』
朝雲「ひぃっ!?」
朝潮『赤髪を素敵に BRUSHED』
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朝潮「ありがとうございました!!!」
朝潮は歌いきった。妹たちの事を曲にのせて歌った彼女は今、最高に清々しい顔をしている。
こうして、怒濤のライブは幕を閉じた。