仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
橙色に染まる海面。そこに幾つもの大きな水しぶきが上がる。辺りには、けたたましい警報音が轟き、悲鳴や怒号、爆音が鳴り止まない。
ここはとある南の鎮守府。
いつもならば、この時間帯になると沈みゆく夕陽が非常に美しく、その日の任務を終えた艦娘たちが鎮守府の展望席から楽しくお喋りをしながらその光景を眺めているのだが、今日は誰もそこに姿を見せない。
代わりに、鎮守府の母港には多くの艦娘が押し寄せ、次々に出撃し、母港を中心に近海の防衛にあたっている。
暗い。夕陽が沈んだのだろうか。
違う。
「あそこだ!」
誰かが空を指差す。そして、その声を合図に多くの艦娘が指のさされた方向を見上げ、戦慄した。
遠くの方に黒い飛翔体。それが近づいてくるにつれ、脳内に響くような、おぞましい音が聞こえてくる。
目視できるものだけでも、その数は膨大で、まさに無数と言っても過言ではない。
「迎撃用意!」
対空砲火では間に合わない。だが、やらなければならない。多くの艦娘はここを死に場所と覚悟し、自分を奮い立たせる。
空母からは多くの艦載機が飛び立ち、もはや巨大な闇と化した敵飛翔体に突っ込んでいく。
美しい夕陽が海面に儚く沈んだ時、そこにあったはずの鎮守府は消失し、瓦礫の山だけが残っていた。
???「どういうこと…?」
潮風に髪をなびかせながら、彼女は呟く。辺りには幾つもの煙が上がり、強烈な匂いが鼻をつく。
???「…間に合わなかったのね~」
彼女の呟きに応える様に、その場に似つかわしくない間延びした声が発せられる。
???「龍田…今の時刻は?」
龍田「え~っと、一八○◯ね。…援軍要請の連絡を受けてから一時間も経っていないわね~」
???「…だったら、なんで!!なんで…こんな…」
龍田「叢雲ちゃん…」
叢雲「…クソッ!これで何度目よ…」
龍田「…敵さんも相当強いみたいね~。この鎮守府は所属する艦娘も多くて、南の砦と言われていたのに…」
叢雲「なにが六艟よ…!いざという時、まるっきり役立たずじゃない…!」
龍田「自分を責めちゃダメよ~。それに…まだ」
そこで彼女は言葉を止め、手に持った薙刀を瓦礫と化した鎮守府に向ける。
龍田「私の勘違いかもしれないけど~、あそこから視線を感じるのよね~。…確か、あそこはこの鎮守府の母港だったはず…」
叢雲「生存者ってこと!?」
龍田「どちらかしらね~。生存者、…あるいは」
叢雲「どっちにしても行くわよ!!もしかしたら、助けられる命があるかもしれない!!!」
そう言うと叢雲は海面を蹴りあげ、猛スピードで進む。龍田もそれを追いかける。
龍田の言っていたところは…ここだ。
叢雲「誰かいるー!?返事をしてー!!」
辺りには叢雲の声が響くだけで、返事はない。
龍田「叢雲ちゃん、敵さんの可能性もあるのよ~。もう少し慎重に…」
叢雲「分かってるけど!!もし、生存者だったら…」
焦る叢雲。
彼女と龍田はここ数日、数多の鎮守府から援軍要請を受け、現場に駆けつけるのだが、時既に遅し。
あるのはいつも煙が燻り、血にまみれた鎮守府の成れの果てだった。
「ZEUS」から召集を受け、六艟のメンバーである彼女らはここ最近の深海棲艦、そして黒い艦娘についての話を聞いた。私たち六艟が召集された…それが意味すること…現状況を物語るには十分だろう。
「ZEUS」の命を受け、私と龍田は南方を中心に、深海棲艦の動向及び黒い艦娘について情報収集を行っていた。
そして、南に展開する各鎮守府には、緊急時には六艟が援軍に駆けつけることが伝えられているのだが…。
叢雲「…また救えなかった」
そう言って彼女は膝をつく。そんな彼女を支えるように寄り添う龍田。そして、叢雲をなだめようと言葉を掛けようとした時、龍田は感じとったのだ、鋭い殺気を。
辺りを見回し、警戒する龍田。薙刀を握る手に力がこもる。叢雲もそんな龍田の様子を見て、辺りを警戒し始めた。
龍田「誰かしら~?盗み聞きは感心しないわよ~?」
叢雲「出てきなさい!!」
返事はない。吸い込まれる彼女たちの声。
静けさが辺りを支配する。
しかしその静寂はすぐに消え去った。
なんと、彼女たちを目掛けて禍々しい形をした巨大な錨が空中から幾つも落ちてきたのだ。激しい音を立て、辺りには砂ぼこりが舞う。視界が開けると、そこには錨が地面に突き刺さっていたが、叢雲も龍田も避けたようで、既に臨戦体勢に入っている。
叢雲「…敵のお出ましみたいね!!!」
激しい怒りを目に宿し、叫ぶように言う叢雲。
龍田「すごいわね~。じゃあ、私も」
そう言うが早いか龍田は錨に付いている鎖の大元となっているところを見つけ、颯爽と接近すると、手にした薙刀を振り降ろした。
???「ひゅー、危ない危ない♪」
…どうやら敵は腕に巻き付けた錨で龍田の薙刀を受け止めたようだ。
龍田「お喋りしている暇はありませんよ~?」
龍田はそのまま振り降ろした薙刀を振り回し、謎の敵に追撃を加えようとする。錨と薙刀が激しくぶつかり合う音が断続的に聞こえる。
叢雲「あんたがこの鎮守府をやったの!?」
龍田に遅れながら、叢雲は槍を敵に突き立て様と突っ込む。
???「あ~~!二体一とかズルいよ!!ま、楽しめそうだけどね♪」
不気味に笑う敵に怪訝さを覚えながらも、龍田と叢雲は互いの武器をふるう。
叢雲「質問に答えなさい!!あんたがこの鎮守府を…」
そのまま言葉を続けようとした時、叢雲は背後に忍び寄る気配を感じた。そして、振り向き様に槍を突いたのだが、どうやら敵も相当の手練れな様で、刀で彼女の槍を横に流していた。
???「よく分かりましたね?私のこと」
叢雲「…!」
なんとか槍を振り回すが、敵は刀で軽く槍を流してしまうのだ。
叢雲「くっ!」
やはり槍は突きに限るのだが、相手もそれを知っているのか、なかなか隙を与えてくれない。
???「まさか私の妖刀『風舞』と渡り合えるのがいるなんてね。嬉しいな」
叢雲「ふざけないで!!」
大きく槍を振り回し、間合いを取る。どうやら龍田も敵から距離を取ったようだ。そして、叢雲と龍田は互いに背中を合わせる。
叢雲「…強いわね」
龍田「そうね~、けどこれが黒い艦娘っていうやつなのね~。少し情報が欲しいわ~」
叢雲「…そうね。早く倒しましょう」
再び、敵に意識を集中させる。しかし、その対峙している敵は思いがけないことを口にした。
???「あーあ、そろそろ帰投しないと…」
???「むー、せっかく好敵手に会えたと思ったのだが、楽しい時間はすぐ過ぎるのだな…」
叢雲「なっ!?待ちなさい!!」
龍田「…逃がすと思っているの~?」
二人は直ぐ様、追撃を加えようとしたが、どちらの敵も跡形もなく姿を消してしまった。まるで、霧のように。
叢雲「……わけが分からないわ」
龍田「えぇ」
叢雲「…とりあえず一度、本部に戻りましょ?」
二人は再び静けさを取り戻したその場から撤退する。
しばらくして叢雲が振り返ると、守れなかった鎮守府が恨めしそうにこちらを睨んでいる気がした。
静かに、大きな決戦への火蓋が切られたのをまだ僕は知らない。