仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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鎮守府防衛戦3

…鎮守府全体が大きく揺れたかと思えば、今度は小刻みに揺れ動いている様にも感じる。

一つ言えることは絶え間なく、この鎮守府が揺れているということだ。

だが、それが地震によるものではないのは、この場にいる全ての者が理解をしていた。

 

そんな中、とある一人の人間は揺れにも屈せず、その背中に少女を抱え、入浴施設ならぬ入渠施設へと駆け込む。

そこは阿鼻叫喚とまではいかないが、苦しそうな呻き声で溢れ返り、浴槽に力なく浸かる艦娘達の姿があった。

…その人間は、一番手前の浴槽に入っている艦娘の姿を何とも言えない表情で一瞥すると、まだ誰も浸かっていない浴槽のところへ走り、背負っていた少女をゆっくりとその中に浸す。

そして、それを終えるや否や、再び入渠施設を飛び出していった。

 

 

 

酷い有り様だ…。

僕はそんなことを思いながら、鎮守府を縦横無尽に必死で走り回る。

あれほどコソコソと過ごしてきて、いつかは堂々と鎮守府を出歩きたいと切望していたが、まさかそれが、従来僕が思っていた『ここの皆に認められる形』ではなく、この様な『鎮守府襲撃』によって叶ってしまうとは…あまりに酷い。

だが、そんな不満を抱いている暇がないのは百も承知。

とにかく、僕が今出来ること。それは艦娘達の救護しかなかった。

 

「うぅ…痛いよ……」

 

全身に生傷が絶えないこの娘も、本当であれば僕を拒絶もしくは排除しようとするのだろうか。

 

だが、それがどうしたというのか!?

 

その背中に傷だらけの少女を背負うと、僕は再び入渠施設を目指して走る。

 

この娘が死んでしまったら、それこそもう意味がない。

本末転倒も甚だしい。

仲良くなる前に、お別れなんて絶対に御免だ!

…それが僕の独り善がりのとんでもない我が儘だったとしても、僕はそれを自分の矜持として貫こう。

 

「大丈夫だ!頑張れ!!」

 

苦しそうな声をあげる背中の艦娘に、気休めにしかならない声援を送る。

 

だけど、送られずいられるか!

 

救ってみせる!ここにいる皆を!!!

 

 

 

「う…ぁ…」

 

…あれほど沢山あった浴槽もそろそろ数が足りなくなってきた。

とりあえずこの娘を入れたら、入渠出来る場所は無くなってしまう。

 

…いや、浴槽に一人しか入れてはいけないなんて言う決まりはないはずだ!

少し強引だけど、無理やり押し込めるしかない!

よし!それならまだ治療が出来るはずだ!

 

「…頑張れよ!!!」

 

僕が背負っていた娘を最後の浴槽に浸けると、その娘は大きく息を吐いた。

僕はそれを見ると、少し安堵感を覚える。

そして、思いついたのだ。

 

台車を使えば、もっと効率的に救護出来る。

 

善は急げだ、僕は自室へ急いで向かうことにした。

 

そんな僕の背中に向かって、「ありがとう」と消え入る様な小さな声で、その娘が感謝を述べていたことに僕が気付くことはもちろんなかった。

 

 

 

 

 

「………んぅ」

 

「…あ、っあぅ」

 

鎮守府の廊下を台車が物凄いスピードで駆け巡る。

ケチらずに特大の台車を購入しておいたのは、まさに正解だったなと思いながら、僕は廊下に倒れている艦娘を見つけ、既に乗っていた二人に寄り添わせる形でその娘を台車に乗せる。

 

どんどん行くぞ!!!

 

相変わらず揺れが続いているが、少しでも早く入渠させる為には止まるわけにはいかないのだ。

台車を押す手に力がこもる。

すると、一番最後に台車に乗っけた娘が揺れのせいか、目を覚ました。

…よくよく見れば、この娘はあまり外傷を負っていない様だが……あれ?この娘は、確か……。

 

「んぅ…!こ、ここは…?」

 

その艦娘は今しがた開けた目をキョロキョロとさせている。気絶でもしていたのだろうか、今自分がどの様な状態にあるのか、その艦娘は分かっていない様だったが、僕と目が合うと、急に口をパクパクし出す。

 

ま、まさか!?息が出来なくなったのか!?

 

もし呼吸困難に陥ったのであれば一大事だ。

僕は足を止め、その艦娘の肩を掴むと、「大丈夫か!?息が出来ないのか!?」と叫ぶ。

 

その艦娘…睦月は、その顔を真っ青にし、先程より激しく口をパクパクさせている。

 

ど、どうする!?呼吸困難は入渠で治るのか!?

 

だが睦月はビックリする様な大声で悲鳴をあげたかと思えば、台車から転がる様に降り、僕に砲口を向ける。

その時の睦月の顔は、前回同様に人間を恐れて、強張っているが、同時に以前は見られなかった感情も見てとれた。

 

怒り。

 

そう、睦月は怒っていた。震える体を奮い立たせ、涙を浮かべた目で必死に僕を睨み付けている。

睦月自身は気付いていないのだろうが、唇を噛み締めるあまりツーっと口から血が滲み出ている。

 

睦月「あ、貴方が…貴方が今回の襲撃の犯人ですね!」

 

あ、やばい……。これは、相当マズイ誤解を生んでいるようだ。

だけど、確かに事情を知らない娘からしたら僕が今回の襲撃を引き起こした敵の一派だと思うのも無理はないよな…。

 

だけど…。

 

僕は睦月から視線を外すと、再び台車を押し始める。

 

睦月「ま、待ちなさ…」

 

「睦月!…確かに君が怪しいと思うのも無理もない!だけど、今それを確認し合う時間はないと思うんだ!!今は一刻でも早く救護に奔走しなきゃいけないと僕は思ってる!!!…もし、僕を信用出来ないのなら、その砲を向けたまま僕を監視していればいい!!」

 

僕はそう言うと、走り出す。

ここで話し合っていては救える者も救えない。

僕は賭けたのだ。

人間への恐れを抱きながらも、鎮守府の為にその砲を懸命に向けたその勇ましい艦娘、睦月に。

 

睦月「・・・」

 

睦月は僕の話した内容に困惑している様だったが、台車に乗った負傷した仲間を見て、何かを悟った様だ。

 

とりあえず、睦月の誤解は解けたか…と思った矢先。

 

睦月「二人をどうするつもりですか!?…か、返して!」

 

そう言って睦月が僕にタックルしてきたではないか。

砲弾じゃなくて良かった…じゃなくて!!!

 

「む、睦月!状況を考えてくれ!!!」

 

睦月「なんで睦月の名前を知ってるんですか!?と、とにかく二人を解放してください!!!」

 

睦月は丁度吹雪くらいと同じ背格好なのだが、自分より大きな僕に必死に食らい付いてくる。

きっと仲間想いの娘なのだろう…だけど、これは大幅な時間ロスだ。

 

「む、睦月!僕は二人を入渠…」

 

睦月「う、嘘をつくなッ!!早く二人を離して!」

 

いや、台車に乗せているだけで、拘束はしてないぞ!?

 

「ちょ!?だ、誰かー!この娘を引き離してくれ!!」

 

睦月「…!?まだ仲間がいるにゃしい!?」

 

さっきまで怯えていた子猫の様だったのに、今は食らいついたら離さない肉食獣の様だ。

おい!猫被ってたのか!?

こんなことしてる場合じゃないのに!!!

 

僕と睦月が不毛に揉み合っている間にも、消え逝く命があるかもしれない…こうなったら多少強引にでも…。

そんな時に、不意に後ろから声を掛けられる僕と睦月。

そして二人は同時に振り返り、不思議なことに二人ともホッとしたような顔になる。

 

「…こんな時に、何をしているのかしら?」

 

「「雲龍(さん)!!!」」

 

雲龍「また艦娘をたぶらかしているの?相変わらず、熱心だこと…」

 

軽蔑したような顔をしている雲龍。

ちょ!?雲龍には僕が怪しいやつじゃないと証言してもらおうと思ってたのに!?

あ、睦月の目がやばくなってる……。

 

「…雲龍!今の状況で誤解を生むようなことを言わないでくれ!ただでさえ、この娘に無実の罪で疑われているんだから!!!」

 

睦月「雲龍さん!この人が今回の襲撃の犯人です!一緒に捕まえて下さい!!!」

 

…決して、イチャイチャじゃれあっているのではない。

だからそんな目で見るな、雲龍!!

 

雲龍は、台車に乗っけられた生傷の絶えない艦娘の姿を一瞥すると、ふぅと息を一つ吐き、落ち着いた様子で睦月を僕から引き離す。

 

睦月「う、雲龍さん!?何をしているにゃ!?逃げられちゃう!?」

 

雲龍「…行きなさい」

 

「ありがとう!雲龍!」

 

雲龍「…礼を言われる筋合いはないわ。ただ、仲間を救いたい…それだけよ」

 

僕は雲龍に頭を下げると、急いで入渠施設へ向かった。

 

 

 

 

 

睦月「雲龍さん!!どうして逃がしたんですか!!!」

 

雲龍「…睦月」

 

食って掛かる睦月をその名を呼ぶだけで、静かにさせてしまう雲龍の強さよ…。

 

雲龍「…一応、言っておくわ。あの人間は敵ではない」

 

睦月「へ!?」

 

目を丸くしている睦月。

 

雲龍「…だけど味方でもない。とりあえず、この後は貴方の好きにするといいわ。私は母港の方へ行かないとだし…。それじゃあ、お互いに頑張りましょう?」

 

雲龍はそう言い残し、行ってしまう。

そして、取り残された睦月は呆然とその姿を見ていた。

 

 

 

 

 

入渠施設へ入ると、先程までなかったもの…複数の視線を感じた。

だが、もう気にしている余裕など僕になかったのは言うまでもないだろう。

急ぎ、台車の二人を一番手前の浴槽に無理やり詰め込む。

 

川内「…うーん」

 

川内の顔色が心なしかほんのり良くなってきている気がする。

 

ちょっと窮屈かもしれないけど、我慢してくれ。

 

そして、また台車を押し、救護に向かおうとした時。

 

???「…待ちなさい」

 

うわー、今日はよく呼び止められるな…。

声のした方を見ると、銀色の髪を後ろで一本に縛った小柄な娘がキッとした目付きで僕を睨み付けている。

 

というか、この娘も見覚えが……。

 

あ。

 

???「アンタが朝潮姉の言ってた、人間ね…。とりあえず、助けてくれてありがとう。ここにいる娘達を代表して私が礼を言うわ!」

 

朝潮の大事な妹の一人……霞がそこにいた。




朝潮「来ました!来ましたよ!!!」ガタッ

陸奥「…落ち着きなさい、朝潮」

夕立「ぽい~」

朝潮「l☆YA☆DE☆SU!」

村雨「ふぇぇ…朝潮が狂っちゃったよ~」

夕立「ぽい~」

朝潮「霞キター!遂に霞が喋りましたよ!?だ、誰かボイスレコーダー持ってませんか?」ドタバタジャンゴ

陸奥「…誰か朝潮を止めてくれる?」

夕立「無理っぽい!」

村雨「むー、村雨より目立たないでよ~!!!」

朝潮「可愛いよー!素敵だよー!霞ー!!!」

鬼怒「アブ、この世界は鬼怒には荷が重すぎる」ガクッ

朝潮「皆さん、いいですか?霞は可愛いんです!無論、それは顔だけの話だけではありません。聞いて驚くなかれ!巷では霞をママという司令官もいるのですよ!?これは、まさに霞の厳しさの中に見え隠れする母性、慈愛を世の司令官達が感じ取った結果なのです!!!普段の厳しい一言も裏を返せば、司令官を思ってのもの!それを汲み取れば、霞の可愛さが絶対的なものだと理解できますよね!?」

夕立「ZZZ…」

村雨「ねぇ陸奥~?今度、一緒に近所に出来たオシャレなカフェに行こーよ?」

陸奥「あら、いいわね」

鬼怒「ヒエー!?皆のスルースキル、パナイってぇ!」

朝潮「KA☆SU☆MI!フォーエバー!!!」
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