仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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主人公の鎮守府が襲撃されるよりずっと前の、とある鎮守府でのお話。



「姉貴…無理すんなよ…」

力なく発せられたその言葉は、果たしてその聞いて欲しい人物の耳に届いたのだろうか。
生気のない瞳は、ただ部屋の一点だけを見つめ、光がない。

あぁ、どうしても前の様には戻れないんだな…。

声を掛けた人物は、何も出来ない無力な自分を呪った。

「姉貴…」

それでも。
それでも声を掛ける、掛けずにはいられない。
触れたら消えてしまいそうな、その衰弱しきった体を優しく抱き締める。
抱き締められた艦娘は、それに対して特に反応を示さないが、構わない。

「姉貴、覚えてるかい?僕が姉貴に初めて会った時のこと」

その艦娘…松風は、姉貴と慕う艦娘の背中を優しく撫でながら、落ち着いた様子で話した。

こうやって姉貴を抱き締めながら、思い出を語るのはこれで何度目だろうか。
別に姉貴は記憶を失っているわけじゃない…いや、むしろ本当に記憶喪失にでもなれば姉貴は救われるんじゃないか…そんな考えが頭を過る。
話しかけるのを一旦止め、目の前の生者とは到底思えない顔を覗き込む松風。

…相変わらず、虚ろな瞳。

ああ、姉貴。今日、僕が姉貴を救ってみせるよ…。

松風はそっとその艦娘から離れると、静かに部屋を出ていった。







松風の所属するこの鎮守府は、所謂ブラック鎮守府と呼ばれる様な所で、日々多くの者が人間の非情な振る舞いに涙を流していた。
人格否定をされる毎日に、身も心も疲弊し、轟沈した時こそ救われると言う者さえ居たほどだ。

明日に希望を見出だせない艦娘たち。
松風そして彼女の最愛の艦娘…神風もまた、そんな艦娘たちの中に含まれていたのは言うまでもない。

悲しみやら苦しみやらで、顔をグチャグチャにして泣き喚いていた神風を見たのは、もうどれくらい前になるだろうか。
今では喜怒哀楽を失い、古びた人形の様に部屋に居る姉を想いながら、松風は部屋の戸を静かに叩いた。
中からは、散々艦娘を足蹴にしてきた者のおぞましい声が聞こえてきたが、今日…今日に限っては松風もその声に怯えることは無い。
いや、むしろ今日で最期なのだ…この穢らわしい声を聞くのも。

「なんだその目は?」

部屋に入るなり、鋭い目つきで松風を睨む人間。
どうやら松風の目が気に入らなかった様で、いつもの様に顔を真っ赤にさせ、唾を飛ばしながら、怒鳴り散らす。
それに対して松風はと言うと、最初こそ冷めた目でその様子を見ていたが、次の瞬間には自分の砲をその人間に向け、相手の反応も見る間もなく躊躇なく撃っていた。






轟音。
巨大な風穴が空き、黒煙や砂埃が舞っているこの部屋がこの鎮守府で最も豪華絢爛な場所だったとは、誰も思わないだろう。
だが、この鎮守府から笑顔を奪った者は跡形もなく消え去った。
呆然とした様子で、壁に空いた大穴を見つめる松風。
そしてあまりの呆気なさに拍子抜けしてしまったのだろうか、彼女はその場に力なく座り込む。








間もなくして、松風は捕縛されることになった。
…おそらくこの後の自分の運命は死あるのみだろう。
だが、それは覚悟していたことだ。
程なくして、どこからともなく現れた見知らぬ艦娘に挟まれるようにして、鎮守府から連行される松風…そんな彼女の姿を拝む様に見ているかつての仲間達。

これでいい…。これで…。











「…着いたぞ」

「こっちなのです!」

両隣にいた艦娘たちに促され、巨大なホールの中へ案内される松風。

ここが僕の死に場所か…。

そんなことを思いながら、その終わりを静かに待つ松風だったが、辿り着いた先…そこには人間が一人いるだけだった。

「やぁ、ご機嫌よう」

明かりがないわけではないのだが、どうもこのホールは薄暗く、喋りかけてきた者の顔はよく見えない。

「趣味の悪い場所だね…早くやるならやってくれるかな?」

得たいのしれない不気味さもあるが、それでも毅然とした態度で臨む松風。
いいだろう…顔さえ見えぬ相手だが、最期の悪あがきでこの目の前の人間も殺してしまおうか。
そんなことを企む松風だったが…。

「…美しい。美しい目だ。本当に美しい!」

「はぁ?」

その者は思ってもみなかったことを松風に言ったかと思えば、先程まで両隣で松風を拘束していた艦娘たちもそれに同調し始めた。

い、意味が分からない。僕の目が美しいだって!?

「…ふざけるのも大概にしろよ、人間!お前如き、すぐに殺せるんだからな!!」

松風は自爆覚悟でその砲を人間に向け、激昂する。
…が、その対峙している者を砲撃することは叶わなかった。
おそらく先ほどの艦娘たちだろうか…後頭部に強い衝撃を受け、松風は倒れてしまったのだ。
そんな彼女が薄れ行く意識の中で、聞いたのは……。

「…ようこそ。私の艦隊へ」

そんな言葉だった。


鎮守府防衛戦4

???「オラオラ!どうした!!お前の力はそんなもんか!?」

 

松風「ク、クククッ…やるじゃないか…」

 

???「…遅い」

 

松風「…グッ!?」

 

鎮守府の後方に広がる大海。

穏やかな海風が潮の匂いを運んでくる。

深みのある青色が心底美しいこの海に、日々艦娘たちは白い水しぶきを描きながら出撃していくわけだが、今日はまだ誰もこの海へと出ていこうとはしない。

 

何故かって?

…それは鎮守府の艦娘達の心の拠り所が紅蓮の炎に焼かれ、不気味な黒煙があちらこちらから上がっているからだ。

 

鎮守府の母港…そこは海へ出た艦娘達が『今日も無事に帰って来れた』と実感出来る場所である。

前任の元、無理に出撃し、何人が海の底へ沈んで逝ったことか…。

もちろん現在は長門の指揮により、轟沈する者は居なくなったものの、この海に出ていく限り、死が彼女達を付きまとうのは必定だった。

 

だから、ホッとするのだ。

 

いつもの景色。いつもの匂い。いつもの空気。

まさに字のごとくだが、戦いで傷付き、疲労困憊の彼女達を優しく出迎える母の様な存在…それがこの母港だった。

だからこそ…この場所から出撃し、この場所に帰って来る彼女達にとって、そこを破壊されるというのがどれ程のものかと問われれば、想像に困らないだろう。

 

???「オラオラオラァ!天龍さまのこの攻撃が避けられるかぁ!?」

 

眼帯をした艦娘…天龍が大剣を振り回し、松風を壁の方へ追いやる。

松風はその手に砲門…ではなく拳銃の様なものを持っており、それを撃って迎撃を図るが、巨大な剣を持っているにも関わらず、天龍はそれを易々と回避する。

 

松風「…ッチィ!」

 

天龍「そんなチンケな物で俺を止められると思ってんのかぁ!?」

 

挑発するように松風を睨む天龍。

そんな天龍の後方から黒いマントを羽織った別の艦娘が颯爽と現れる。そしてもう一人、天龍の後ろに居るようだが…。

 

???「…天龍、少し遊びすぎだ。そろそろ仕留めるぞ」

 

天龍「あぁ!?俺に指図すんじゃねぇ!!」

 

神通「…落ち着いて下さい。天龍さん、木曾さん」

 

戦いの最中であるのにも関わらず、味方である艦娘に掴みかかろうとする天龍を冷めた目で見る艦娘…木曾。

そして、そんな二人(主に天龍だが…)を冷静に落ち着かせようとする神通。

 

白兵戦になれば、この鎮守府最強と謳われる剣客部隊…それが三銃士である。

その活躍は目を見張るものがあり、彼女達が一度戦場に現れれば、どんなに劣勢な状況でもひっくり返ってきたと言われる。

今日は久々に三銃士同士で剣の稽古でもしようかと、母港に集まってきていたわけだが、そんな中で松風が破壊活動な勤しんでいたところを発見したわけだ。

 

松風「…ッやれやれ!僕も舐められたものだね!!」

 

壁に追い込まれたのにも関わらず、追撃されることなく、下らない喧嘩を見せられる松風。

苛立ちを覚えながらも、松風はその手に持った銃を天龍、木曾、神通に向け、弾丸を撃ちまくった。

だが、三人はそれを身軽に避けると、再び喧嘩を始めたではないか(神通は、天龍と木曾を諫め様と必死)。

 

松風「…この銃を只の銃だと思わないことだね!ほら!ご覧よ!!」

 

そう松風が言うと、その手に持っていた銃から黒い靄が溢れだす。次第に靄は銃を包み込み、そして松風の手を飲み込む様に広がり始めた。

黒い靄が消える頃には、先程の拳銃とは全く形状が異なる長い筒状の物が、鈍い音を響かせながら現れる。

…どうやら松風の手と完全に同化している様で、松風はそれを天龍に向けると、ニコリと笑った。

 

松風「ククク…死ねよ?」

 

そう呟いたかと思えば、目を奪われる様な黒い光線が天龍の居るところへ一直線に放たれる。

凄まじい轟音、そして黒煙。

 

松風「フン!この程度か…。舐めてるからそうなるのさ!」

 

以前に北の鎮守府を攻めた時に、この光線を撃ちまくった時は、一瞬の内にそこは崩壊してしまった。

なので、今回の主目的である『たくさん遊ぶ』のには適していない武器ではあるのだが、天龍達の態度に少々ムカついていた松風はついついこの武器を取り出してしまった様だ。

 

黒煙が晴れると、天龍達の姿はそこに無く、地形も先程と比べ大きく変わり、辺りにコンクリート片が大量に散らばっている。

松風は勝ち誇った様にそれを見ると、再び破壊活動をする為、その場を後にしようと踵を返そうとした。

 

だが、一瞬でもそこから目を反らし、後ろを向いたのが松風の運命を決めた。

 

神通「油断しましたね?…これで終わりです」

 

そんな声が聞こえたかと思えば、激しい痛みが松風の背中を走る。

 

松風「…なぁっ!!?」

 

血が口から溢れ出すが、それでも後ろを向く松風。

 

…なぜ生きている!?

いいや、まずは!

 

どうやってあの光線を避けたかは理解出来ないが、まずはこの艦娘を消し飛ばすことが先だ。

松風は黒光りする『手』だった物を神通の方に向ける。

 

…が。

 

天龍「…近距離戦でそんな物、何の役に立つんだ!?」

 

気付いた時には、天龍がその大剣を漆黒の筒に振り下ろしていた。

 

松風「ッうああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

松風の腕からはおびただしい量の血が噴き出し、地面にはさっきまで自分の体の一部だったはずのものが転がっている。

痛みの余り、松風はその場にうずくまる。

地面に頭をつけ、苦悶の表情を浮かべる松風の頭上から誰かの声がした。

 

木曾「…留めだ」

 

木曾の背筋が凍る様な一声。

今、木曾の持つ刀が松風の首を狙って振り下ろされようとした…その時。

 

松風「…な、舐めるなぁぁぁぁぁっ!!!」

 

松風は残された方の手に黒い靄を纏い、鉤爪を出すと、なんとか木曾の一閃をすんでのところで受け止める。

そして、背中から先端の尖った黒い筒状の物体を幾つか取り出し、浮遊させたかと思えば、それを三人に向け、発射する。

お尻の部分から火を噴き出し、迫る鉄塊。

だが、標的がこれだけ近距離にいるのだ…着弾するのも早いし、撃った本人も爆発に巻き込まれるわけだが…松風はそんなことはどうでも良かった。

 

爆音と共に、黒煙が辺りを包み込む。

 

天龍「…オラァ!」

 

大剣の一振りで、黒い煙を晴らす天龍。

その額からは血が出ているが、まだまだ戦える様で、闘志を剥き出しにしている。

同様に木曾や神通も多少の怪我はあるものの、立ち上がって、松風に最期の一太刀を浴びせようとしている。

 

しかし、その松風の姿はそこにはない。

 

天龍「…死んだのか?」

 

木曾「分からん。だが、油断は出来ないからな。…どうやら鎮守府の方も攻撃を受けている様だ。あちらの援護にも回った方がいい。ここは俺に任せて、お前達は行け」

 

木曾が目をやった方向からは、煙が上がり、爆音が鳴り響いている。

 

神通「…お願いしますね」

 

天龍「…ったぁーく!どこのどいつだぁ!?かつて『雷霆』と言われたこの鎮守府を襲撃したバカ野郎は!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞「…ほら!こっち!」

 

「…あぁ!」

 

僕は今、霞と共に鎮守府内を駆け回っている。

 

…入渠施設で霞に呼び止められた時、僕は事情を話す時間も惜しいと思われ、その場を急いで立ち去ろうとしたのだが、「だ か ら!待ちなさいったら!話が聞けないの?」と言われ、腰のベルトを捕まれてしまった。

 

え?

本当にこの娘、駆逐艦?人間恐れてるんじゃないの?

てか朝潮の妹にしては…なんか、その、粗暴な気が…。

 

霞「アンタが急いでる理由くらい容易く想像がつくわ!ほら、何ボサっとしてるの?走りながら話すわよ!」

 

「いや、今…」

 

今、僕を無理やり呼び止めたのは君だろ…と言いかけたが、確かに止まってる時間はないのは事実だ。

僕は霞を追うようにして入渠施設を飛び出す。

 

そして、今に至るわけだが、霞のおかげで救護の効率が上がっているのは確かだ。単純に人数が増えたのもあるが、鎮守府の内部構造に詳しい者がいると、僕が気付けなかった場所まで救護に回れる。

そして霞が居るということで、先程の睦月の様な誤解を招く心配もなくなった。

 

霞「大丈夫?立てる?」

 

「…ぅぁ」

 

霞「…立てないみたいね。この娘は台車に乗せるとして…。ほら!アンタも!!!」

 

「あ、あぁ!」

 

あれ以降、「あぁ!」としか喋ってない気がする。

まぁ、霞が大分指揮を執ってくれてるからなんだけどさ。

 

睦月「…むむむ」

 

あ、そう言えば睦月もいたわね…。

 

ちょうど霞と救護活動をしている時、後ろから背中を叩かれ、誰かと振り向いたら睦月がいて…「変なことしたらすぐにやっつけますからね!」と言われたんだよなぁ…。

 

で、そんな睦月に霞が「手伝いなさい!」と一喝して、「にゃしい!?」と叫んだかと思えば、今は一緒に救護活動をしてくれている。

相変わらず不信感たっぷりの目を向けてくるけど、仲間を助けようとする気持ちは皆一緒だった。

 

そんな時。

 

「…うぅ…この僕が…この僕とあろう者がぁッ!」

 

苦痛に溢れた声が聞こえ、僕は声のした方を目を凝らす。

すると、何者かが地面を這いつくばっているのが分かった。

僕は急いで駆けつける。そして驚いた。

なんと、あの配送のお兄さんが、血だらけの体を引き摺りながら、必死にもがいていたのだ。

…お兄さんの周りには血だまりが出来ており、鎮守府の廊下には引き摺られた血の跡が痛々しく残っている。

 

「大丈夫ですか!?」

 

急いで助けなければ!

でも、この血の量…素人目に見てもマズイということが分かる。

 

松風「…あぁ!?なんだお前は……!」

 

声を掛けた時はキッと睨みつけられたが、僕の顔を見るや否や表情を歪めるお兄さん。

相当痛いのだろう。早く救急車を呼ばねば…!

 

松風「…お願い!助けて!」

 

「もちろん!助けます!今、救急車を呼びますので…」

 

松風「…いい!そんなものは必要ない!!!」

 

「!?」

 

急に怒鳴ったお兄さんに目を丸くする僕。

 

松風「あ…ち、違うんだ!僕は人間じゃないんだ!艦娘なんだよ!だから、入渠させてくれ」

 

……。

確かに、これだけ血が出て死なないのは凄いと思ったけどさ…じゃなくて!

えっと、いろいろな意味でパニックなのだけど、まずはこのお兄さ…この娘を助けないと!

 

「と、とりあえず入渠させればいいんだよね!?任せてよ!」

 

松風「…ありがとう」

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