仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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鎮守府防衛戦5

「先端恐怖症」…とまではいかなくても、尖ったものを突き付けられたら誰だってビクッとなるものだ。

まぁ、僕に至っては先端が尖っていようがいまいが何かが向けられた時点でビビってしまうが…。

 

ん?なんでそんなことを冒頭で話しているかだって?

 

向けられているんだもん、今まさに。

黒光りした数多の『モノ』が僕の方にね!

 

…正確には、僕が台車に乗せていた人物に向けられていると言った方がいいか。

 

僕は霞、睦月と共に救護活動に奔走していた。

それで満身創痍の艦娘(お兄さん)と遭遇したわけで…とりあえず一旦、霞と睦月とは離れ、この娘を入渠させる為に僕だけ施設へ戻って来た。

うん、ここまでは大丈夫だよな。

 

で、施設に入ると相変わらず視線は感じたけど、それは特に問題なかった気がする。

 

それで僕がお兄さ…じゃなくて、この娘を入渠させようとしたら、「待ちなさいよ!」と怒鳴り声とも取れる様な声が聞こえて……それで間髪入れずに砲を向けられたと…。

 

え?

 

なんで?

 

 

???「…誰よアンタ!?」

 

「あ、僕は…」

 

???「アンタじゃなくて、そっちのよ!!!」

 

赤色とも橙色とも言える様な色の髪をした艦娘が捲し立てる様に言う。

 

凄い剣幕だ。

 

しかも、その後ろには桃色の髪をした艦娘と黒髪の艦娘がいて、めちゃくちゃ睨んでくるのですが…。

 

え?

 

ほんとになんで?

 

松風「・・・」

 

渦中の艦娘は俯いたまま無言だし…うーん。

だが、一刻を争う事態なのには変わりなくて…とりあえず入れちゃうか!

 

???「待ちなさいったら!!こんなヤツ、見たことないんだけど!!」

 

「おぉ、そうなんだ。じゃあ今、はじめましてだね。よっこらせっと!」

 

事態は一刻を争うので、入れちゃry

 

???「耳が無いのかしら!?…アンタは知り合いなのかもしれないけど、私を含めて不知火も黒潮も…ここにいる全員がソイツを知らない!それで違和感を感じて、『こういう状況』になってるんじゃないの!?違う?」

 

なんだ、このツインテール!?

 

「ちょっ!?ちょっと!?今はそんなことどうでもよくないか!?」

 

思わず叫ぶ僕。これだけ重傷なんだ…この際、この鎮守府に居ようが居まいが関係なく助けるべきだろ?

 

「この娘は配送の…」

 

とりあえず身元をはっきりさせればいいのかと思った僕は、この艦娘が軍の検閲及び配送を担う機関の者だと証言しようとする。

 

しかし…。

 

???「アンタ…バカなの?ここの鎮守府は襲撃を受けたのよ?それで見知らぬ者を信じろという方が無理な話だわ!…てかアンタも誰なのよ!?私達を入渠させたってことは敵ではない…のよね?」

 

あ、あれ?なんか雲行きが怪しくなって参りましたよ!

すると、髪が桃色の艦娘がツインテより一歩前へと歩み出る。

 

???「…陽炎。とりあえずここは不知火が押さえておきますから、長門さんに報告を…。黒潮も手伝ってくれますか?」

 

黒潮「…もちろんや!ここはウチらに任せて、陽炎は報告に行きや!」

 

そして桃色と黒髪が砲をこちらに向けながら、ジリジリと僕たちの方へ寄ってくるではないか。

ツインテは「分かったわ」と言いつつ、施設を出ずに、こちらの様子を注意深く伺っている様だった。

 

…いや、こっちの話を聞けよ!?

僕は目の前の艦娘を抱き締める様にして、叫んだ。

 

松風「!?」

 

「人を助けるのに…人を助けるのに理由がいるのか!?違う!違うだろ!!たとえ…たとえ敵であろうと傷付いた人がいたら救う、それが人が人たる所以なんじゃないか!?」

 

そんなの…当たり前のことじゃないか!

僕はそっと目の前の艦娘を抱き締める手を離し、勢いよく立ち上がった。

 

「これが僕の…」

 

不知火「黙ってください」ポコッ

 

「ぐぇ…!?」

 

…鳩尾に強い衝撃を受ける。そして暗転。

情けないことに、僕の意識はそこで途絶えた。

 

黒潮「なんや、えらそーなことばかり言うて、こんなもんかいな!」

 

不知火「…所詮、人間ですから。それに…」

 

不知火「殺すか、殺されるかという状況でこの人間の言っていることは戯言に過ぎません」

 

不知火は正体不明の艦娘と気絶した人間を恐ろしい程の眼光で睨みつけながら、吐き捨てるように言う。

 

黒潮「そのとぉーりや!そんなこと言うてたら、命がいくつ有っても足らん!…そういう訳やから、おまえもお縄についてや……!?」

 

黒潮は驚いた。いや、黒潮だけではない。

不知火、陽炎、この場にいた艦娘全員が驚いた。

 

目の前の名も知らぬ艦娘が涙を流していたのだ。

だが、その涙の理由は悲しみによるものなのか、痛みによるものなのか、はたまたそれ以外のことなのか、判別はつかなかった。

 

無表情なまま、目から大粒の涙が溢れだしている。

 

それは何とも『異様』な光景だった。

 

それで誰かがその涙の理由を聞こうとしたのだろう。

だが、結局その答えを聞くことは叶わなかった。

 

???「見つけたのです♪」

 

突如、入渠施設に現れた小さな娘。

そして、「誰?」という疑問が頭を掠めたその一瞬の内に、その娘は目の前の傷だらけの艦娘を連れ、消えてしまった。

 

陽炎「何よ…今の巨大な手は……」

 

陽炎がそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が目を覚ました時、そこは闇の中だった。

…胸のところに痛みを覚えながらも、なんとか立ち上がる。そして甦ってくる記憶。

 

…今までのは夢?

 

そう思うのは無理もない。

あれほど、揺れていた鎮守府は今は微塵の震動も感じない。そして、何も音が聞こえないのだ。静寂。

 

「川内…」

 

僕は不意にそう呟く。

 

とりあえず、ここはどこだ?

電気が消えている様で手探りで探索をするしかないのだが…。

 

すると急に光が目に飛び込んでくる。

 

そして気が付いた。ここは僕の自室だ。

そして光の先には、部屋に入ってきたであろう人物がいたのだが、それは先程僕が呟いた名の者だった。

その艦娘は暗闇の部屋に光を灯す。

 

…しばらくは目が眩しさに慣れず、その表情は見えなかったが、次第に目が慣れてくると、その顔をしっかりと見ることが出来た。

 

目を赤く腫らしたその顔。

 

ただ事ではない…そう感じた僕は彼女に声を掛けようとするが、彼女は一枚の紙を僕に差し出した。

それを静かに受け取る僕。

受け取った紙には、何名かの艦娘だろうか…その名前が書かれている。中には見知った艦娘の名前が幾つかあった。そして、そこに名を記された者たちがどういった意味でこの紙面に名を連ねているのか僕は知る。

 

僕は『戦争』の残酷さを噛み締めることになった。


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