仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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栄枯盛衰

静かな、本当に静かな夜明け。

…あの日の朝もちょうど今くらいの静けさだった。

 

もうしばらくこの部屋から外に出ていない気がする、それこそトイレに行くぐらいか…。

鉛のように重くなった体をおもむろに起こすと、僕は部屋の扉を開ける。

 

…どうやら今日も『それ』は扉の真横に置いてあるようだった。

 

僕はそれを手に取ると、直ぐさま部屋の中へ戻る。

そして、それを貪るように口に運んだ。

…律儀にも彼女はこんな自堕落な僕に朝食を持ってきてくれている。

そんな優しさを噛み締めていると、僕の頬を何かが伝っている気がした。

 

まるで死人のように床に横たわる毎日。

あの日から一体どれだけの時間が経っただろう。

…いや、実は時間などそれほど経っていないのかもしれない。それとも、もうかなり長い時間が過ぎてしまったのだろうか。

 

…どうでもいいか、そんなことは。

 

だが、今日はこの部屋で過ごすわけにはいかない。

なぜなら昨晩、ある艦娘が僕の部屋を訪ねてきたのだ。

それは突然の来訪だったが、その艦娘は部屋に入ってこようとはしない。

 

随分と気を遣わせているらしい。

 

そしてドアの向こうから聞こえる穏やかな声。

その声からして、長門だったと思われる。

 

 

長門「…しばらく振りだな。体の調子は大丈夫か?」

 

「・・・」

 

長門「返答はなし…か。まぁ返事がし辛いなら無理にする必要もないが…たまには川内たちにも姿を見せてやってくれ。心配しているようだぞ?」

 

「・・・」

 

長門「…さて、私がここを訪ねてきた理由だが、なにもこれだけを言いに来たのではない。…明日、この鎮守府に海軍本部からお偉いさんが来るようなのだ。…以前、貴方はこう言っていたな?上層部には『自分が提督として着任した』と報告してくれ…と」

 

「・・・」

 

長門「…気が進まないのは分かるが、貴方に是非とも会いたいそうなのだ。…明日の朝、執務室で待っている。必ず来て欲しい」

 

「・・・」

 

長門「…私からは以上だ。それと、明日必要になるであろう書類を扉の前に置いておく。私も貴方達の話し合いの場に同席するが、念のために目を通しておいてくれ」

 

…結局、僕はそれに肯定も否定もしなかったわけだが、とりあえず自分が言ったことだ、責任をもたなくてはならない。

 

僕は昨日一読した書類を手に取ると、執務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~青葉の記録~

先日、とある鎮守府が『黒い艦娘』に襲撃された。

確認された敵の数は四で、その内の二機を撃破し、残り二機は行方知れず。

その鎮守府から送付された報告書を見る限り、今回の襲撃で多数の死傷者が出ており、鎮守府の東館は完全に崩落しているらしい。

現在、復旧作業を行っている……と。

 

最近『黒い艦娘』の進撃が顕著なのは、海軍本部も六艟も把握していたが、今回の襲撃で特異なのは、陸から攻め込んでいるという点だ。

 

それまでの『黒い艦娘』の奇襲攻撃にはパターンがあった。

 

今までの調査結果から、崩壊した各鎮守府の近海には、多数の航空機の残骸が漂流していたことが分かっている。

そしてその残骸を解析したところ、その多くが深海棲艦の発艦する飛翔体とデータが一致したと報告があった。

…まず敵空母から発艦した無数の航空機が総攻撃を仕掛け、鎮守府の戦力を大幅に削り取る。

 

そして鎮守府の機能がほぼ停止したと思われる頃合いに追い討ちをかけるようにして、海から少数の部隊が上陸し、攻め込むというのが『黒い艦娘』の常勝戦法と考えられるのではないか。

龍田さんや叢雲さんが会敵したのはまさに残党狩りを行っていた部隊と考えるのが妥当だろう。

 

要は空を制されたら終わり…ということか。

 

…もちろん、今は亡き数多の鎮守府にも空母や対空砲火の出来る艦娘がいたのだが、それを圧倒的に凌駕する程の航空戦力が『黒い艦娘』にはあると考えられる。

それこそ誰も生き残ることが出来ない程に…。

 

そういった意味で、その『特異』はこちらの初勝利に貢献することになったのかもしれない。

報告書を見るに、敵航空機はその姿さえ見ることはなかったようだ。

 

今回の襲撃の流れを要約すれば、早朝に一台の車輌が鎮守府の門を突き破って、その敷地内に侵入。

その車輌の荷台部分から『黒い艦娘』が二機現れ、鎮守府の正面玄関と東館をそれぞれ攻撃し、残りの一機は鎮守府の母港を奇襲。

ちなみに、この母港で破壊活動を行っていた『黒い艦娘』は、『PROMETHEUS』の所属であったことから、現在同機関を調査中である。

 

そして、正面玄関・東館・母港の各所にて鎮守府の艦娘と『黒い艦娘』が交戦。

正面玄関と東館の『黒い艦娘』は撃破され、母港で敗走した『黒い艦娘』は鎮守府の入渠施設で目撃された後、行方不明となっている。

 

…気になるのは、入渠施設で行方不明となった者とそれを手助けしたもう一人の『黒い艦娘』だ。

 

この四人目の『黒い艦娘』は特に破壊活動を行うわけでもなく、鎮守府の戦力である戦艦や空母、重巡を悉く気絶させていたとのこと。

 

…戦力を削ぎたいのであれば、なぜ殺さなかったのか?

 

これも、襲撃すれば全滅させるのが常だった『黒い艦娘』の今までの戦闘パターンと比べれば、違和感を感じる。

 

ふむ、これに関してはまだまだ調査が必要だな。

 

とは言え、今回の襲撃を乗り切ったこの鎮守府には本当に頭が上がらない。

 

『黒い艦娘』の遺体。

それを回収することで分かったこともあったのだから。

 

遺体は損傷が激しかったものの、解析の結果、白露型の村雨と夕立ということが判明した。

確かにそう言われて見れば…と思ったが、どうにも自分の知る村雨、夕立とは程遠い異質な存在にしか見えないというのが感想だ。

 

容姿こそ、村雨と夕立そのものだが、その身に纏う艤装は筆舌し難い不穏な雰囲気を醸し出し、その闇のように黒い装備で一体どれだけの命を奪ったのだろう。

もちろん、本部の技術班がそれの解析を行ったのだが、どうやら村雨と夕立には外部から手が加えられたような跡が見つかったらしい。改造と言ったらいいだろうか。

 

そこで、現存している全艦娘のありとあらゆる情報を包括している『ZEUS』のデータベースと照合すると、基本ベースは村雨と夕立であることは間違いなかった。

そして同時に遺体からは、村雨と夕立以外のデータが抽出されたのだ。

正確に言えば…艦娘は戦う時に内部に格納した艤装を展開して戦うのだが、それに対して『黒い艦娘』は、その内部に別の艤装を格納しているようで、それが具現化した所謂『武器』から、海軍が大戦の黎明期に鹵獲した深海棲艦と同一のデータが高い数値で検出されたようだ。

 

謎が謎を呼ぶとはこのことか。

まぁ、これに関しては自分の専門ではないので技術班に一任することになるのだが…。

自分も六艟のメンバーの一人として、情報収集に赴かなければ。

 

どうやら近々、その鎮守府を阿野さんが直々に訪れるようなので自分も同行させてもらおう。

…なんの因果かその鎮守府は、自分が目をつけていた鎮守府なのでもあるのだから。

 

かつて最強と謳われ、現在はその見る影もない鎮守府を実際にこの目で確認しなければ。

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