仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「…えっと、この度は…その、わざわざ遠いところからお越し頂き…」
「堅苦しい挨拶はいい。…君はこの鎮守府の長なのだろう?そう緊張しないでくれ」
「は、はい」
あぁ、どうしてこうなった!
僕は今、執務室で海軍のお偉いさんを相手に、必死にその対応をしている。
…長門は早々にこのお偉いさんが連れてきた艦娘と部屋を出ていってしまうし、目の前のお偉いさんは、筋肉モリモリマッチョな大男で、まさにTHE・軍人という感じだ。
普段長門が海図を睨んでいる机を間に挟み、向かい合うようにして座る僕たち。
対峙しているだけで、かなりの威圧感を感じる。
「…まず、艦娘たちを的確に指揮し、今回の事態を切り抜けたこと…本当に見事であった!」
そんなことを僕が思っているとも知らず、目の前の男は厳格な表情を崩さずにそう切り出した。
「今回の勝利には我々海軍本部も驚いているのだ。もっと誇りに思ってくれていいのだぞ?」
「は、はぁ…」
ついつい生返事をしてしまう僕。
実感がない。
そりゃそうだ、僕がやったことなんて…。
「…だが、今回の偉業を成し遂げるにあたって、この鎮守府も多大な犠牲を払ったようだな。…その尊い犠牲に我ら海軍は最高位の敬意を払おう」
…そんなこと僕に言わないでくれ、僕は…。
「君はまだ士官学校を出て間もないというのに、よくここまで健闘した。…我らも最大限の支援を君の鎮守府にしよう」
たから、僕は……。
「 」
その後の会話はよく覚えていない。
ただ頷いていただけな気もする。
最後にその男は、僕に茶封筒を一通渡すと、いつの間にか執務室に戻ってきていた連れの艦娘と共にこの鎮守府を去っていった。
長門が僕の肩にそっと手を置き、「ご苦労様」と労いの言葉をかけてくれたことで、どうやら今回の訪問が終わったということが分かった。
「…青葉」
青葉「はい!なんでしょうか?」
ガタガタと揺れる車内にて、六艟から『阿野さん』と慕われる男が隣に座る艦娘…青葉に話し掛ける。
ここの道はきちんと舗装がされていないようで、乗り物酔いを催しそうな揺れがずっと続いているのだが、このような揺れがもうしばらく続くと思うと、嫌気が差す。
…男は気を紛らわせるために、他愛のない話でもしようと自分に話しかけたのだろうかと青葉は考える。
だが、それは違ったようだ。
「彼は、一体あそこで何をしているのだろうな?」
青葉「え?」
意図が分からない質問に困惑する青葉。
だが、構わず男は続ける。
「おそらく…彼は艦娘の指揮などしていないのだろう」
青葉「…なぜ、そう思えるのですか?」
「…軍人の勘、とでも言うのかな」
そう言って青葉の質問を濁す男。
その目は流れるように変化する車外の景色に向けられていた。
「…学校を出たばかりの彼に『黒い艦娘』の襲撃を打破する指揮が執れたとは到底考えられない。…それにあそこの鎮守府の艦娘たちは、かなり曲があって、ついこの間まで、ほぼ艦娘だけで運営されていたと言っても過言ではなかったのだ」
青葉「そうなのですか…でも」
「そう、彼らは乗り越えたのだ、絶体絶命の窮地を。それに対してケチをつける気は毛頭ない。海軍としても、『黒い艦娘』の実態把握に大きく貢献してくれたこの鎮守府に頭が上がらないくらいだ」
そして男は一息つくと、青葉の顔を真剣な顔つきで見つめる。
「あの鎮守府がかつて『雷霆』と言われていたのを青葉は知っているか?」
青葉「はい、一応は」
「そうか…。あの鎮守府はな、今でこそ廃墟と言われても仕方ないくらいの有り様だが、あの鎮守府が建造された当初は、それこそ海軍一の強さを誇った鎮守府だったのだ」
まるで昔を思い出すかのように、哀愁のある顔で語る男性。
「もう随分と昔の話になるな…。所属する艦娘も強ければ、指揮する者も才能に溢れる男で、まさに我ら人類にとってはそれまでの絶望感を光照らす眩い雷光であり、深海棲艦にとってはその身を焼き払う雷撃となったわけだ」
そこまで男は言うと、一瞬顔を曇らせる。
まるで、何かを話すことを憚っているような、そんな顔だ。
「…なぜ後任にあのような下賤な者を選んでしまったのだろうな…当時の上層部は」
男のどこか悔しそうな顔を見て、青葉も話始める。
青葉「…青葉もあの鎮守府は気になっていたんです。それこそ、世の中にはブラック鎮守府は腐るほどありますが、そんな中でも単機出撃による轟沈が断トツで多いんですよ、あそこは」
「…単機出撃による轟沈?」
青葉「はい!そして驚くことに、なんの因果か分かりませんが、あそこの鎮守府は村雨と夕立を単機出撃で轟沈させているんです!」
「…つまり、どういうことだ?確か、村雨に夕立と言えば、今回の襲撃を行った者たちと同一の艦だったと記憶しているが…。それに…単機出撃による轟沈とそれがどういう関係があると言うのだ?」
青葉「…まだ断言することは出来ませんが、あくまで青葉の仮説として話すのであれば………」
執務室で手に持った紙を静かに見つめる艦娘…長門。
この執務室はこんなにも広かっただろうか…という疑問も最近は当たり前になってしまい、気に留めることもなくなった。
その紙には『鎮守府襲撃による被害実態』と大きく赤字で記されており、その下には戦没者の欄、行方不明者の欄と書かれたところがあった。
戦没者
鬼怒・朝潮
行方不明者
陸奥・古鷹・吹雪
何度見ても、その羅列された文字が変わることはない。
事態が終息した時、まず長門は正面玄関へと足早に向かったが、そこには見知らぬ艦娘の遺体と砕け散った陸奥の艤装の一部が落ちているだけだった。
それからしばらくして、さらにそこから大分離れた草の生い茂るところに、朝潮が静かに横たわっているのを鎮守府の艦娘が発見した。
そういえば、先程渡されたこの茶封筒。
…あの人が私に押し付けるようにして渡したそれを迷ったが、開けてみることにした。
そこには複数の紙が入っていたのだが、その多くがこの鎮守府に支援をする旨が書かれているようだ。
そんな中でも長門の目を惹いたのは、軍備増強と題し、上層部から何名かの艦娘を着任させるという旨が書かれた書類だ。
…これは送られてくる艦娘の写真とその情報だろうか、こんな倒壊しかけている鎮守府に着任するなど、この艦娘たちは気の毒だなと自嘲気味に笑う長門。
だが、すぐその笑みは消え、厳しい顔つきになる。
長門「陸奥…」
静かに呟く彼女の声に応えてくれる艦娘はもういない。