仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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川内の想い

今が朝だろうと昼だろうと夜だろうと関係ない。

流れ行く毎日をこの部屋で特に何をするでもなく、ふいに過ごすこの僕にそんなことは関係ない。

 

それに最近、ちゃんと眠れない…。

 

目を瞑ると、暗い暗い闇の中に僕は居て…ちょっと先のところに光が照らされているから、そこへ向かうんだけど、見知らぬ…いや、本当は『知っている』娘たちが僕に背を向けてそこに居るんだ。

声を掛けようとすると、フゥと霧のように消えてしまうその後ろ姿に、何度も冷や汗をかきながら目を覚ます。

 

「仲良くなりたいっていう気持ち…」

 

誰に言うまでもなく、一人呟く。

いつからかドアの向こうから呼び掛ける声もなくなった。それでも、扉を開ければそこには大体食べ物が置かれている。

 

うん、僕は変わるんだったよな…。

 

……。

 

簡単なことだ、変わるなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの最悪な一日を境に、アイツは部屋に籠って、出てこなくなってしまった。

毎日毎日アイツの部屋を訪れては、声を掛ける。

でも最近はなんて声を掛けたらいいのか分からなくて、ただご飯を置きに来るだけになってしまった。

でも、扉の前に空になった食器が置いてあるのを見ると私は安心するのだ。

 

あぁ、アイツはまだ生きててくれてる。

 

そう思えるのだから。

もちろん、変わってしまったのはアイツだけではない。

私を含めて、この鎮守府は大きく変わってしまった。

 

先日、鎮守府の近海に多くの艦娘が赴いた。

長門さんは鎮守府を離れるわけにはいかなかったので、代わりに赤城さんがその場で集まった私たちに静かに言う。

 

赤城「ここで朝潮さんと鬼怒さんを見送りましょう」

 

黒い棺に入れられた私の仲間。

 

二つある内の小さい方の棺に、霞や大潮たちが大声で泣きながらすがりついているのを、私たちはただ見守ることしか出来ない。

そして、那珂が泣くのを私は初めて見た気がする。

涙と鼻水で顔をグシャグシャにして泣く妹。

頭では分かっていたけど、こんな、こんなことって…。

 

一方で、もう一つの棺には静かに目を閉じた阿武隈が手を置いている。その顔は何故か笑みを浮かべていて、この場に相応しくないと私は思った。

 

そして赤城さんの令の下、私たちはその棺を海に浮かべる。

すると、ゆっくりとゆっくりとその棺は海の中へと消えていった。

 

 

そしてそれからしばらく経った頃、上からとある命令がこの鎮守府に下ったのだが、それには多くの艦娘が反発した。

元々、この鎮守府はアイツが来るまでは…というかアイツが来てからも、長門さんの指揮の下、私たちは動いてきたのだ。

ただ、アイツが以前話してくれた内容を顧みれば、上はアイツがここの鎮守府の提督として着任したと思っているようで、このような内容の命令を易々と下せたのかもしれない。

そういった意味では、艦娘だけで運営していたあの頃の方が勝手が良かったと思う。

 

『引き続き、海の平定に益々努めよ』

 

必要最低限の設備を残し、ほぼ機能が停止しているこの鎮守府で、引き続き海の平定に努めるということ、それは上が私たちをどう見ているかをありのままに表していた。

 

「私たちに無駄死にしろというのか!」

 

「一時的にでも、他の鎮守府へ移籍させろ!」

 

「せめて、傷が癒えるまでは休ませてくれ!」

 

そんな意見が毎日のように長門さんの元へ寄せられたそうだ。それを長門さんは静かに頷くばかり。

皆もあんなことがあった直後だったから、『死』に過敏になっていたようだった。

 

そしてそんな思いは、燃え盛る火のようにどんどん大きくなって、遂には「上からの命令など無視しろ」という艦娘たちの集まりが出来てしまった。

 

長門さんはそれに何を言うまでもなく、ただ静かに日々の執務を行っているようだった。

 

そして、今日。

中庭に集められた私たちに、改めてこの鎮守府で引き続き海の平定に努める旨が長門さんから伝えられた。

それを聞いて、複数の艦娘がその場を立ち去ってしまった。

 

バラバラだ、みんな。

 

それで、私は遅くなった朝食をアイツの部屋に届けに来たんだけど、なんと部屋の扉が開いているではないか。

恐る恐る部屋の中を覗くと、アイツが私の姿を見て、笑顔で挨拶をしてきたのだ。

私は久々に聞くアイツの声に、つい涙を流してしまったのだが、アイツはそんな私を黙って抱き締めてくれた。

それからしばらく抱き締めてられていた私だったが、「もう、心配させないでよ!」と捨て台詞を吐いて部屋を後にした。

アイツの体はとっても温かくて、それでとても安心したのだ。

私はきっと赤くなっているであろう頬をアイツにバレないようにするのに必死だったんだ。

 

だから、気付けなかったのかもしれない。

 

アイツが不自然な笑みを浮かべながら、とある決意を固めていたということに。


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