仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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鎮魂祭

川内「…ごめん、今回ばかりは協力出来そうにない」

 

「あぁ、分かってるよ。気にしないで?」

 

川内「…ごめん。本当にごめん」

 

時折目元を拭いながら、本当に申し訳なさそうな顔をして謝罪の言葉を述べる川内。

彼女にこんな悲しそうな表情を浮かべさせ、苦渋の決断を強いたであろう自分が情けない。

なんとか平素を装うと努める僕だったが、その痛々しい姿に胸が詰まる思いがした。

 

そして沈黙が流れる。

 

この気まずい空気を打開しようと、僕は口を開こうとするが、それは目を伏せ、足早にこの場を立ち去る川内の行動によってついに開くことはなかった。

 

「…すまない、川内」

 

誰も居なくなった執務室に僕の声が空しくこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日はちょうど昼時だった。

瓦解した鎮守府の復旧作業に追われる艦娘達の耳に鎮守府のスピーカーから放送が入る。

 

あの襲撃以来、スピーカーでの全体放送などあまり無かったので何事かと彼女達は耳を澄ます。

そして聞こえてきたのは……。

 

「あー、初めまして。僕はこの鎮守府に居座らしてもらっている者です。…きっと僕の存在を知っている娘もいると思うけど」

 

…まるで時間が止まったの如し。その一瞬、誰もが驚きのあまり、息をすることさえ忘れていた。

そして、その驚きが次第に別の感情へと変化する。

怒り、憎しみ、恐れ、悲しみ。

怒鳴り声をあげる者や過呼吸になって別の艦娘に支えられる者もいた。

 

だが、スピーカーから流れ出る声は止まらない。

 

「…グダグダ言うのもなんだから、単刀直入に言おうと思う。あんなことがあったばかりだけど……いや、あんなことがあったからこそ!鎮魂の意を込めて、祭をやらないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は全艦娘に祭を行う旨を伝え、異論がある者は執務室に来る様に告げると放送を切る。

長門はその一部始終をなんとも言えぬ表情で眺めていたが、僕が放送を切ったところでその口を開いた。

 

長門「…貴方は、一体何を考えているのだ?」

 

「長門……ごめんね?これが僕の意志なんだよ」

 

長門「・・・」

 

彼女はそれ以降黙ってしまった。

…そもそも全体への放送さえ長門は渋っていたのだが、それを僕は無理やり押し退ける形で強行した。

 

彼女からの視線を気にしない様に振る舞いながら、僕はソファーに腰を下ろす。

…どうやら長門は海図の方へ目線を戻したらしい。

そんな彼女の様子を横目で確認していると突然、執務室のドアが乱暴に開かれ、憎悪を一切隠さぬ表情を浮かべた艦娘たちがぞろぞろと部屋になだれ込んで来た。

 

「そりゃそうなるよな……」

 

僕は誰に言うまでもなくそう呟くと、その来訪者たちへと向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仲間が死んだのに祭だなんて……私たちをバカにしないで!!!」

 

こんな言葉を何度聞いただろう…。

 

全身に複数の殺意に溢れた視線を浴びながらも、手が出されないのは長門がこの部屋に居るからか、はたまた艦娘たちの良心からか……。

これほどまでに罵詈雑言が執務室を飛び交うということが今までかつてあったのだろうか?

 

…そして、その言葉を向けられた者が断固として祭は執り行うという姿勢を崩さないことに、艦娘達はさらに激昂する。

 

「お前なんか出ていけ!!!」

 

「お前が死ねばよかったんだ!!!」

 

そんな言葉を吐き捨てながら、艦娘たちは執務室を出ていく。

 

だが、息をつく暇などない。

 

なぜなら、ある艦娘が執務室を出て行ったかと思えば、すぐにまた別の艦娘がやって来て、恨みがましい目を向けながら、激しい感情をぶつけてくるのだから。

 

僕の気持ちは折れそうだった。

 

しかも、その次々と押し寄せてくる顔触れの中に見知った者を見つけたら、それは尚のことだ。

 

例えば、霞。

…おそらく朝潮の妹と思われる他の艦娘を二人ほど引き連れ、執務室の扉を勢いよく開けたかと思えば、凄まじい速さで僕の方へ突っ込んでくる。

そして、涙でいっぱいの目を見開き、僕の胸ぐらを掴むと捲し立てるように罵声を浴びせてきた。

 

例えば、神通、那珂。

彼女たちは特に罵声を浴びせてきたという訳ではなかったが、彼女たちの答えはシンプルだった。

 

「私たちに関わらないで下さい」

 

感情など微塵も感じさせない冷たい一言が神通の口から発せられる。そして、彼女はそれだけ告げると僕が言葉を掛ける間もなく、静かにその場から立ち去る。

 

「…見損なったよ」

 

溢れる涙を拭うことなく、ただ僕の顔を真っ直ぐ見つめる那珂。

 

…そこに少し前まで僕に見せてくれていた笑顔はもうない。

 

これでもかという程の敵意をその瞳が映していると僕が理解した時には、那珂の平手によって僕の頬は叩かれていた。

 

その後も見知った者、そうでない者を問わず、僕は艦娘たちの激情を受け止め続けることになった。

…いつの間にか長門は執務室から姿を消している。

そして、かなりの時間が経って身も心も疲弊し切った頃に、出来れば会いたくなかった艦娘が僕の元を訪れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして冒頭でのやり取りを経て、僕はしばらく力なくソファーに腰を掛けていたのだが、再び執務室のドアが開けられる。

 

今度は一体誰だろうかと思って、訪問者に視線を向けるとそれは知った顔だった。

 

阿武隈「…ふふ、久しぶりね!」

 

「・・・」

 

阿武隈「反応無しなのぉ!?」

 

…阿武隈か。そういえば彼女も……。

 

阿武隈「なんだかすごいことを企んでいるみたいね!」

 

「…ごめん」

 

何とか口をついたのは謝罪の弁だった。

そうだ。それしかない。それ以外に何が出来る?

今までの艦娘たちの態度を見れば、阿武隈がこの部屋に何をしに来たのかくらい容易く想像出来た。

…阿武隈を含め、他の艦娘にとって僕の謝罪など何の意味も持たないだろう。

でも、無力な僕にはそれしか出来なかった。

 

阿武隈「・・・」

 

僕の謝罪を聞き、無言になる阿武隈。

僕はじっと、きっとこの後に来るであろう罵声を静かに待ち受ける。

だけど、阿武隈の口から発せられたのは実に意外な言葉だった。

 

阿武隈「お祭り、楽しそうね!!!」

 

 

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