仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
阿武隈「まずはお祭りを実行出来るだけの人員確保が優先ね!」
「お、おぉ」
阿武隈「…それにしても全体に放送を入れるなんて、正気の沙汰じゃないわ!限りなく少ないとは言え、あなたを慕う娘もいたのに……アホね!」
「…ごめん」
朝早くから部屋の中がギャーギャー騒がしい。
しかし、その喧しさも今の僕にとっては頼もしい限りである。
…昨晩、阿武隈が執務室を訪れ、僕に言ったことには本当に度肝を抜かれた。
阿武隈「お祭り、やるんでしょ?あたしも手伝うわ!」
衝撃的な言葉。
…もしかしたら、川内からその言葉を聞けないかと期待していた僕だったが、まさか阿武隈から聞くことになるとは…。一瞬何を言われたのか理解できず、硬直する僕。
阿武隈はそれを見て、「本当に反応がないのね!」と言うが、その顔に悪意は感じられなかった。
でも、阿武隈。君だって大事な人を……。
そんなことを考えていたのが顔に出ていたのだろうか、阿武隈は目を閉じ、大きく息を吐くと、じっと僕の瞳を見つめてきた。それはあの日…阿武隈と鬼怒が初めて僕の前に姿を現した時と同じようで違っていた。
殺意は感じられないが、親しげなわけでもない。
だが、阿武隈の目が真剣なことだけは何となく分かった気がした。
阿武隈「ま、詳しいことは明日でも話しましょ?」
そう言って阿武隈は部屋を出ていったが……どうやら本当にこんな朝早くから来てくれたところを見るに、僕もしっかりと阿武隈に向き合う必要があるようだ。
一人で喋り続ける阿武隈…僕は意を決して彼女の名を呼ぶ。
「…阿武隈」
阿武隈「それからあたしとしては…」
「阿武隈!!!」
阿武隈「わ!何よ!急に大きな声を出して!?」
話を途中で遮られ、少し不機嫌そうな阿武隈。でも、僕は構わず続ける。
「…なんで阿武隈は僕に協力してくれるんだ?君は人間が嫌いなんだろ?」
阿武隈「うん、嫌いよ」
…即答。目の前に人間がいるのに惜しげなく…いや、いるからこその即答か…。
「じゃあ、なんで…」
阿武隈「お祭りが楽しそうだったからじゃ、ダメかしら?」
阿武隈は笑みを浮かべながら、しかしどこか憂いを感じさせる様な表情で僕の顔を見つめている。うーむ、阿武隈の真意が読めないな…。阿武隈はそんな僕をよそに言葉を続ける。
阿武隈「まー、本音を言えばヘル・アンカーズのメンバーを増やす為の宣伝も兼ねていると言えるかしらね」
「・・・」
阿武隈「もー、疑り深いわね!そんなんだと、ここぞという時にチャンスを逃すわよ?」
阿武隈の言葉に頭にガツンと衝撃を受ける。
…なんだかんだ疑心暗鬼になってたけど、確かに…と思った。いや、思い知らされた。それはそうだ、もし阿武隈が祭を手伝うと言ってくれなかったら、僕は昨日の内に鎮守府を出ていくことになったかもしれない。
はっきり言って、僕に疑念を抱いている余裕はない。
…危うく最大のチャンスをみすみす自分から潰すところだった。
阿武隈は何かを企んでいるかもしれない、けどそれがどうしたというのだ。もう後がない状況なんだ!やれるだけやって成功したら丸儲け、失敗したらバイバイ、ただそれだけだ!
僕は覚悟を決め、阿武隈の瞳をしっかりと見据える。
「…分かったよ、阿武隈。お祭、絶対成功させよう!」
阿武隈「フフン、熱い展開じゃない!!!」
阿武隈「……で、さっきも言ったけど人員確保が先決よ!そ こ で!提案なんだけど…」
阿武隈の自信に満ち溢れた顔が輝かしい。
人員確保と言われ、全く希望のない僕にとっては彼女の提案が頼みの綱だ。
阿武隈「…まず、何人かの艦娘が数日後、この鎮守府に着任するという噂が流れているのを知ってるかしら?」
「いや、全く」
へ?そうなの?そんなこと全然知らないんだけど…。
阿武隈「ホントにダメダメね!艦娘たちの噂に耳を傾ける余裕もないのに人心掌握なんて夢のまた夢ね!」
…結構手厳しい。そんな僕にやれやれと言わんばかりに首を横に振る阿武隈。
阿武隈「…その艦娘たちをこちら側に引き入れるの!着任したてなら、特に警戒されずにイケるはずよ!!!」
お、おぉ……。なんか、イケ…そうかな……?
いや、どの口がいってるんだ!阿武隈の意見に従うしかないだろ、今の僕は……。
「…分かった」
阿武隈「…ただ、それだけじゃ不完全よ!もっと数が欲しいわね!…だ か ら!あなたのやることは、それにプラスして何人か協力者を見つけること!出来るかしら?」
「…あぁ、任せてくれ」
正直、無理ゲーに近いけど、初心に帰って頑張るしかないな…。
阿武隈「フフ、それなら早速取りかかるわよ!」
…で、チラシ作りから始まったわけだ。
だけど、執務室のプリンターは使えない(長門に顔を合わせられないっていうのが大きい)。
なので、前のライブで使ったチラシをひっくり返して、裏面に手書きで文言を書く作業をしているわけだけど…阿武隈は「こんなのさっさとやっちゃいましょう!」と言って、すんごいスピードで筆をふるっている。
書かれた言葉は実にシンプルだ。
「祭 協力者募集 阿武隈まで」という達筆な文字。
…いや、大雑把すぎじゃない?
阿武隈「間違いないわ!これでヘル・アンカーズも安泰ね!」
ま、阿武隈先生がそう言うならそうなんだろうね。
それにしても…。
まずは、チラシを作るところからか…。なんだかライブを思い出すな……。
あの頃に帰りたいな。