仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
金剛「待って欲しいネ!紅茶の用意がマダヨー!」
島風「おっそーい!」
「・・・」
うーむ…ここ数日彼女たちと居て分かったことがある。
……この娘たち、大分キャラが濃い。
金剛「この紅茶が心を開くトリガーになるネ!…なんでもかんでも早ければイイワケジャナイヨー!」
島風「うるさーい!島風は一番がいいのー!」
…会話が噛み合っていないですよ、お二人さん。
そんなアーダコーダ、ギャーギャー揉めている二人を尻目に、川内は静かに目を閉じ、壁に寄り掛かっている。…来たるべき時(勧誘の時)を冷静に待っているのだろうか。
こういう状況でクールな娘が一人でもいると、助かるというものだ。
…本日、阿武隈先生の情報では、約六人の艦娘が新たに着任するらしい。
それで、その内の一人は長門の補佐にあたるらしく、狙うとしたら残り五人が最適だと先生は宣う。
それで、肝心の勧誘についてだけど、今まさに執務室では、新規着任組が長門から挨拶兼この鎮守府の現状について説明を受けているはずだ…。
そして、あと数分後には、執務室を出て、これから生活を送る部屋へ新参組は案内されるらしいのだが、そこで僕たちの登場というわけだ。
…予定では、「着任を祝して、紅茶パーティーでもいかが?」という謳い文句で、艦娘たちをこの部屋に連れてくる。そして、親しくなったところで本題である祭りの勧誘と……。
…先生曰く完璧らしい。
あ、ちなみに阿武隈先生はこの日出撃らしく、この場には居ない。
「ヨッロシクゥ!」と先生から有難いお言葉も頂いている。
は?
まぁ、なんとかなるか?いや、なんとかしないとか…。
なんでもかんでも、阿武隈達に頼りっぱなしという訳にはいかないもんな。
…幸いなのは、以前と違って、僕もコソコソせずにこの鎮守府を闊歩出来るようになったことだ。
それが鎮守府の娘たちにとって、良いことなのか、悪いことなのか…今のところ後者だろうけど…それをひっくり返せる様に頑張るか…。
金剛「Oh、ノオオオォォォォ!!島風が急かすから、紅茶を溢してしまったヨォォォォ!」
島風「島風のせいにしないでぇぇぇ!!!」
…掴みあっている二人。
うん!大丈夫、川内がいる(白目)。
こんな時でも先程と変わらぬ様子で、その冷静な佇まいを崩さない。さすがだよ、川内。頼りになる!
それで、僕はこの後の流れを再度確認するため、彼女に近づいた。
川内「…ZZZ」
寝てんじゃねぇか。
長門「…以上だ。とりあえず長旅で疲れただろう?こんな鎮守府だが、部屋を用意した。…まずは体を休めてくれ。…それとすまないが、大淀は残ってくれ。今後のことについて話がしたい」
長門の解散の号令を聞き、呼び止められた者を除いて執務室から出て行く艦娘達。
その顔は緊張していたものから、一気に緩やかなものとなり、思わず軽い笑みが溢れる。
…だが、そんなおだやかな雰囲気も束の間。
後ろから彼女達に声を掛ける者が現れ、再び張りつめた空気が辺りを支配する。
摩耶「よう!お前達が新しく来た艦娘か?」
声のする方を振り向けば、そこには勝ち気な表情を浮かべた艦娘が一人。
…なんとなく粗暴な感じを察した彼女達は、自己紹介をして、頭を深々と下げる。
それを見た艦娘…摩耶は少し寂しそうな顔をしていた様だったが、すぐにその口角を上げ、はっきりとした口調で喋り出した。
摩耶「…おう!よろしくな!あたしは防空重巡洋艦、摩耶様だ!」
立てた親指を自分の方に向け、ニカッと笑う摩耶。
…それを見て、再び頭を深々と下げる新参者たち。
摩耶「そんな固くなるなよ!!執務室から出てきたってことは、長門さんに挨拶はしたんだろ?」
???「はい!」
一人の艦娘が新規着任組の代表として、一歩前に歩み出る。
摩耶「それならちょうどいいや!今からあたしの部屋に来いよ!」
???「は、はぁ」
突拍子もない提案に思わず生返事をしてしまう彼女達。
摩耶「おっし!じゃあ、決まりだな!オラア!あたしが荷物は持つからちゃんと付いてこいよ!」
まだ肯定したわけではないのだが、どうやら摩耶はさっきの生返事を承諾と捉えたようだ。
付いていかざる得ない状況に少し困惑した彼女達だったが、特にやることもないので、黙ってその言葉に従う。
そして、それを廊下の隅から悔しそうに眺める三人の艦娘と一人の人間。
金剛「…なんでアイツが、あんな親しげに」
島風「もう!金剛が呑気に紅茶なんか淹れてるから!」
金剛「Shut up!それをイマ蒸し返しますカー?!それに、紅茶が今回のキーポイントなんだヨー!最高のモノを用意するのが当たり前ネー!」
島風「うるさーーい!!!」
またやってるよ…。君たち本当は仲良いだろう?
川内「シィ!聞こえるよ!ここでバレたら全部パーでしょ?」
「…川内の言う通りだ。理由は分からないけど、摩耶がいる以上、下手には動くわけにはいかない」
島風「じゃあ、どうすんの!摩耶たち行っちゃうよ?」
…そうなんだよなぁ。実は僕も冷静を装ってるけど、内心焦りまくっている。うーん、どうしたものか。
頼りの川内も目を閉じて、唸っているし…。
そんな時、金剛が何かを閃いたのか、手をポンッと叩いた。かなりのオーバーリアクションだ。
金剛「…仕方ないネ!ワタシが起死回生の一手を見せてアゲルヨ!!」
かなり自信があるようで、一人でガッツポーズを取る金剛。うん、もう任せます。
そして、僕たちは戦艦のパワープレイを目の当たりにすることになった(白目)。
???「ここは…どこだろう?」
目が覚めるとそこは薄暗い場所だった。
目を凝らして見れば、ぼんやりと辺りの様子も分かるような気もするが、どうやら今の今まで自分は巨大な闇のような空間にポツンと仰向けになって寝ていたらしい。
耳を澄ませても、聞こえるのは耳鳴りのように高いキーンとした音だけ。
???「…ッ!頭が痛い!」
急に立ち上がったせいか、頭を激しい痛みが襲う。
ズンズンと響くような、ガンガンと頭が割れるようなそんな痛み。頭を必死で抱え、倒れそうになるのをぐっと堪えるが、遂にはうずくまってしまった。
???「…うぅ、痛い!痛いよ!」
一体この痛みはいつまで続くのだろうか。
あまりの痛みに発狂しそうになるが、永遠と思われたその痛みは、不意に聞こえた声によって、呆気なく雲散霧消してしまった。
???「お、目覚めたのです?気分はどうなのです?」
矢継ぎ早に質問を投げ掛けてくる相手は、自分より背丈は低いようだが、手を差し出し、自分を立たせようとしてくれていた。
その手を取り、立ち上がる自分を見て、目の前の相手はニコニコと笑っている。
???「…とりあえず適応したみたいなのです!さぁ、では早速あの方のところへ…と行きたいのですが、あの方は今少しお忙しいのです!だから、この建物の中でも巡って……」
???「ちょ、ちょっと待ってよ?…いきなり何なの?ここは…一体?」
…何やら勝手に話を進めているようだか、自分を置いてきぼりにしないで欲しい。適応?あの方?そもそもここは?訳の分からないことばかりだ。
それに……なんだろう、無性にイライラする。
自分の知らないところで話を勝手に進められたからだろうか…激しい怒りが込み上げてくる気がした。
…そう認識するが早いか、自分は目の前の相手の肩を思いっきり掴み、怒りに任せて押し倒していた。
そして気付いた時には、自分の口から大きな怒声が発せられ、その拳を地面に組伏せた相手の顔に叩き込もうとしている。
???「…うん!いい暴れっぷりなのです!期待が高まるのです!!」
…随分と余裕の様だが、関係ない。
もうその満面の笑みを浮かべた顔に、自分の拳が降り落ちる…そんな瞬間だった。
気が付くと、自分は空中に浮いていた。
ただそれは自分の力によって浮いているのではない、どこからともなく現れた巨大な黒い手によって自分の体が掴まれ、持ち上げられているのだ。
???「…おのれぇ!おのれぇぇぇ!!!」
…何故だろう。
激しい怒り、憎悪が止めどなく溢れてきて止まらない。そして、何もかもを破壊したいという気持ちでいっぱいになる。
???「これではあの方には絶対に会わせられないのです。うーん、とりあえず自分の名前を言えるのです?」
自分を見上げるその小さな相手は、わざとらしく口元に指を置いて、自分の名前を問う。
その間も自分は力任せにこの黒い手を振りほどけないかと暴れていたのだが、その問いを聞いて、意図せず自分の名前が分からないことに気が付いた。
私は……。
あ、あれ………私は………。
私は………誰?
というか、記憶が………。
???「ふむふむ、名前は分からない様なのです!通常運転なのです!」
黙っている自分を見て、そう判断したのだろうか。
ウンウンと一人で頷きながら、納得している相手。
それを見ると、さらに力が溢れだす。
???「…殺してやる!絶対に!!!」
そう思って、体に力が入ったことで一つ思い出した。
あ、そうだ!艤装を出せばいいんだ!
なんでそんなこと忘れていたんだろう……。
そんな『破壊の手段』を忘れるなんて…。
相変わらず自分が誰なのかも分からないが、獣の咆哮にも似た様な声をあげ、体に力を込める。
ククク、これで……。
???「…『吹雪』。それがあなたの名前なのです!」
…その名を聞いた瞬間、自分の力が一気に抜けるのが分かった。
おかしいな…。
相変わらず、破壊衝動に駆られているのに、力が入らない。しかも、先程の頭痛がさらなる痛みを伴って復活したようだ。
???「…やっぱり適応したての時は、危ないのです!あの方にも少し自重してもらうのです!」
吹雪「…うぅ!頭が…頭がぁぁ!!」
???「…さて、吹雪の覚醒についてもあの方に報告しておきたいのです!でも、このまま放っとくのも厄介なのです!」
頭の痛みで悶える吹雪。
それを意に介さず、この艦娘は悩ましげに何かを考えているようだった。
そして何かを閃いたのか、その顔がパッと明るくなる。
???「…利根さん!出てくるのです!」
そう誰かの名を呼んだかと思えば、今まで誰もいなかったはずのところに人影が…。
そして、そこにはいつの間にか一人の人物が腕を組みながら立っていた。
利根「…呼んだか?吾輩はまだ眠いのだが…」
???「吹雪が覚醒したのです!それで…なかなかの暴れん坊なのですが、利根さんに調整をお願いしたいのです♪」
利根「むぅ…吾輩も暇ではないのだが…仕方ない。電、この借りは返せよ?」
そう言うと、利根という艦娘は吹雪を黒い手の中から解放すると、彼女と共にその姿を消した。
電「はい!なのです♪」
ぼんやりと怪しく光る橙色の光源が幾つも輝く室内。
不安を煽るようなその光に照らされ、一人の人間が閉じていた目を開ける。
こじんまりとしてはいるが、窮屈なわけでもないこの部屋。年季の入った椅子に深々と腰を掛け、どうやら眠ってしまっていたようだ。
大きく息を吐き、壁に掛かった時計を見る。
すると、不意に部屋の扉が開かれた。
電「失礼するのです!」
「…おや、電か」
電「電なのです♪報告なのです!!吹雪が目覚めたのです!それで今、利根さんが調整に入ってくれているのです!」
「…それは良い知らせだ。報告ありがとう」
電「えへへ…というか司令官!寝てたのです?」
「…あぁ済まない。少し仮眠をね」
電「むむむ、電も寝たいのですぅ!」
…他愛のない会話が繰り広げられる。
しかし、この人間と電にとってはいつもの光景だ。
電「あ、それと。海軍がPMTの本格的な調査に動き出した様なのです!」
「…そうか。思ったより早かったな」
電「全く!松風たちのせいなのです!…よりによってあの鎮守府を襲撃…しかも村雨と夕立は無駄死にするで、大変だったのです!」
「…そう松風を責めないでやってくれ。私が皆に伝えておくべきだったよ、あの鎮守府には手を出さないように…とね。それに村雨と夕立至っては、本当に惜しいことをした」
電「司令官は優しすぎるのです!!…というか電のこともちゃんと褒めて欲しいのです!」
そう言って電はその頭を目の前の人物に差し出す。
差し出された者は、いつもの調子でその頭を優しく撫でる。
電「…とっても心地いいのです」
目を閉じ、嬉しそうにはにかむ電。
「…よくやってくれてるよ、電は」
電「…嬉しいのです!あ、それと。松風は明石さんが再改造をする様なのです!なんでも、記憶が蘇ったとかどうとか…本当に厄介なのです!」
「…そうか。報告ご苦労」
そして、その人物は電の頭を撫でる手を止めると、大きく息を吸った。
電は少し不服そうだ。
「…さて、海軍がPMTの調査に動いた訳だが、やはり人間は信用出来ないな。……あの男も下賤な者よ。せっかくPMTの高い地位に着ける様、斡旋してやったというのに…」
電「…どうするのです?」
電が嬉しそうな声で問いかけると、その者は少し考えた末、その答えを口に出した。
「…ご退場願おうか」