仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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鎮魂祭5

摩耶「…まぁ好きなところに座れよ!狭いところだけどさ」

 

「「・・・」」

 

案内されるがまま、歩いて数分。

…辿り着いた先は、こじんまりとした部屋だった。

 

私たちの荷物を部屋の隅へと運ぶ艦娘を尻目に、私は連れて来られたこの場所をまじまじと観察するように眺める。

 

床には乱雑に敷かれた座布団。

古びたちゃぶ台には大小異なるワイングラスが置かれ、何とも似合わない。

とてもじゃないが、整理整頓が行き届いているとは思えなかった。

 

…やっぱり先程察した粗暴な感じは当たっていたな…と心の中で嗤う私だったが、ふと目線を上に上げると一枚の紙が壁に貼ってあるのが分かった。

 

書きなぐった様な汚くて非常に読みにくい文字。

 

…やれやれ、粗暴さが文字にも表れているとは…と再び嗤う私だったが、その文字が何と書かれているのか少々気になった私は目を凝らすことにした。

 

ふむふむ、辛うじて読める。

えーっと、なになに……。よ、う、こ、そ?

 

え?

 

マジックペンで書かれた「ようこそ」という拙い文字。

 

これは…もしかして…。

 

摩耶「…歓迎するぜ!」

 

ほんのりと頬を赤らめながら、ニカッと笑う摩耶。

 

???「摩耶さん…」

 

私はその名を呼ばずにはいられなかった。

…エリート部隊に所属していた私たちが突然の上からの命令。

こんないつ崩壊してもおかしくない鎮守府へ送られるとは心外だった。

 

だけど、決してそれを顔や態度には出したりしない。

…どんな状況でもポーカーフェイスで命令をこなす私たち…それがエリート部隊に所属していた私たちの矜持、気高き誇りなのだ。

 

それでここに着任して、長門さんからこの鎮守府の現状を聞いた。

やはり左遷だったか…と落胆しながらも、それを悟られないように、それはそれは真面目に話を聞く私たち。

…執務室を出た時、私は思わず自分たちの過去と現状を鑑みて、自嘲する様な笑みを浮かべてしまった。

 

気付けば、他の娘も私と同じ様な笑みを浮かべている。

 

…きっと皆、これから待ち受ける栄華も誇りも無い、ただ鎮守府の建て直しに汗水を垂らす下らない毎日を想像して、笑ってしまったんだろう。

そんなことを思っていると、不意に声を掛けられ、驚いたものだ。

 

はぁ、なんだこの粗暴な艦娘は?

皆そう思っていた。

 

そして、仕方なくこの目の前の艦娘に付いてきたわけだけど…。

 

あ、あぁぁぁぁぁぁ~ッ!!!(即堕ち二コマ)

 

隣にいる私の妹は感激したのだろうか…その目をウルウルさせているのが分かる。

他の者たちも摩耶の好意に胸を打たれているのがよく分かった。

 

摩耶「…ッ!オ、オラァ!とっとと座れよ!そんなとこに棒立ちされてたらいつまでも歓迎会出来ねぇじゃねぇか!」

 

照れ臭そうに頬を掻く摩耶……いや、摩耶さん…いいえ摩耶姐さん。

 

???「姐さんと呼ばせて下さい!!!」

 

…気付いたら私……秋月はそう叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

摩耶「そんじゃあ、長ったらしい挨拶は性に合わねぇし、さっそく乾杯すっか!」

 

姐さんの言葉を聞き、私たちはグラスを手に持つと、静かに合図を待つ。

 

摩耶「大変な時だけど、これからよろしくな!乾杯!」

 

「「乾杯!」」

 

グラスに注がれたブドウジュースを一気に飲み干す姐さんを見て、素敵と感じたのは私だけの秘密だ。

 

…涼月が頬を赤くして姐さんを見ているのが気になる。

 

わたし、気になります!

 

後々、妹とは雌雄を決しなければならない時が来るかもしれない…そんなことを思いながら、私も姐さんの真似をしてブドウジュースを一気に飲む。

 

摩耶「…まぁ…ジュースだけじゃ物足りないだろ?そろそろ食いもんも来るからさ、待っててくれよ」

 

申し訳なさそうに言う姐さん。

あぁ、憂いを見せる姐さんの横顔もまた素敵///

…私は姐さんのそんな顔を見れただけでも眼福です!

 

秋月「こんな時に私たちを歓迎してくれる姐さんのご好意……それだけで私たちは十分です!!!」

 

摩耶「ね、姐さんって……。や、やめろよ///」

 

先程から私たちが姐さんと呼ぶ度に姐さんは顔を赤くする。

 

あぁ、素敵ィ///

 

涼月「…姐さんの他にも歓迎会を企画してくれた方がいるのですか?」

 

涼月が顔を赤らめながら、姐さんに質問する。

抜け駆けとは…さすが私の妹だ。

 

摩耶「お、おうよ!何もあたしだけでこの歓迎会を企画したわけじゃねぇんだ!…今、食堂で簡単な食いもん作ってくれて……」バァァァァァン!(ドア崩壊)

 

涼月の問いに律儀に答える姐さん(女神)。

でもその答えは、勢いよく扉を開けて入って来た人物によって遮られてしまった。

 

…一体、誰だ?

姐さんの言葉を遮るなんて。

そして、私はその人物を睨み付けようとドアの方へと目をやったのだが……。

 

???「北上さあああああああああん!!」

 

…へ?

な、なんだこの威圧感!?

わ、私が気圧されているッ!?

いや、私だけじゃない…涼月、他の娘までッ!!

 

摩耶「お、大井!?」

 

そんな内心慌てている私たちを尻目に、姐さんは突然の訪問者の名を呼ぶ。

い、勇ましい///

 

大井「北上さんは!?北上さんが着任したんでしょ?北上さんが着任したのよね!?北上さん?北上さあああああん!?」

 

大井と呼ばれた艦娘は、私たちの顔を何度も何度も見渡している。

その眼は血走り、息も荒い。ちょっと怖い…。

いや、もっと怖いのは理由は分からないのだが、爛々とした顔がどんどん曇っていくことだ。

 

怖いよ……ね、姐さん…。

 

…すがるように姐さんの顔を見ると、姐さんがハッとした表情を浮かべ、私たちと大井さん?の間に入ってくれた。

 

あ、ぁぁぁぁぁぁ~~ッ!!(即堕ち二コマ)

 

…そんな目がハートになっている私たちを置いてきぼりにして、大井さんが言葉を発する。

 

大井「……北上さんは?」

 

摩耶「北上?そんな奴、着任してねぇけど?」

 

姐さんがはっきりとした口調で断言する。

そうなのだ…私たちの中に北上という名の艦娘は居ない。

 

だけど、そんな事実はこの大井さんという艦娘には相当衝撃だったようで……。

 

大井「・・・」

 

完全に沈黙してしまった。

そして急にワナワナと震え出す大井さん。

 

えぇ…。

 

そして、「ぅあ…」と呻き声を上げたかと思ったら、今まで見開いていた目を閉じてしまった。

 

摩耶「…お、大井?」

 

姐さんが心配そうに大井さんの顔を覗き込んでいる。

…その対象が私でないのが、本当に本当に残念だが、まぁそれは後々姐さんと親密になっていけばry

 

摩耶「…わ、悪いな。あたしも訳が分かんねぇけど、気分悪くしてないか?」

 

困ったような顔をして私たちを見る姐さん。

こんなことに巻き込んでしまって申し訳ないといった想いが姐さんから溢れ出ている気がした。

 

秋月「…気にしてません!」

 

だから私はちゃんと伝えた。姐さんは何も悪くない、姐さんはちゃんと私たちを守ってくれた、姐さんは本当に素敵だ…そんなあらゆる想いを込めた一言を伝える。

 

摩耶「…悪い」

 

尚も申し訳なさそうに姐さんは言う。

 

はぁぁ///

姐さん///

その顔は卑怯ですよぉ///

 

姐さんのちょっぴり泣きそうな顔、頂きました!

 

…本当はずっと見ていたいという思いもあるが、私は姐さんにもう一度気にしていない旨を伝えようと口を開こうとする。コレデネエサンノココロハワタシノモノ。

 

でもその時、私の策略とは裏腹に大きな声がこの部屋にこだました。

 

「Hey!!お困りのようデスネ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金剛「作戦の概要はこうネ!」

 

自信満々の笑みを浮かべながら何故か小躍りしている巫女服。

胸騒ぎがするけど…川内いるし、大丈夫だよね?

 

島風「は~やくぅ~!!!」

 

勿体振っている金剛に痺れを切らしたのか、島風が金剛を急かす。

それに対して、やれやれと首を振る金剛。

そしてようやく語り出した。

 

金剛「…摩耶が何を考えているかシラナイケド、部屋の中へ連れて行かれた以上、ワタシたちはもう手も足もデナイネ!!」

 

うん、確かにそうだ。

新規着任組を早々にこちらの部屋へ招くという緒戦から僕たちは敗北している。

…波風立てずにことを済ませるのは、ほぼ不可能だ。

 

…あ、何か金剛の作戦が読めた気がする。

 

そんな僕の考えを感じ取ったのか、金剛は勝ち誇ったような笑みを見せる。

 

金剛「…フフ、摩耶には悪いけど、力業でデストロイさせてもらうヨー!!」

 

~金剛の想像~

ニューフェイスもビックリの大作戦ダヨ!

 

メイビー、ニューカマーは摩耶の部屋で緊張しているハズね!あんなイカツイ摩耶の顔を見たら尚更ダヨ!

 

…とは言え、摩耶もバカじゃないヨ!

なんの算段も無しに部屋に招くハズはナイネ!

摩耶の狙いは不明ダケド、ぜかましの言う通り、ボヤボヤしていたらダークサイドに堕とされちゃうヨ!

 

そ こ で!

 

根本からデストロイするネ!!

摩耶のデーモンハンドがニューカマーに伸びる前に、部屋の中で大パニックを起こせばイイね!

そうすれば、摩耶もパニック!ニューフェイスもパニック!!パニックだよ!!!

 

そして現れるネ!

このワタシが!!!

 

「…いかがなされた?私の姫君たち」キリッ

 

王子様のコスプレは出来ないカラ、とりあえずこのまま行くけど、これで大勝利間違いないネ!

 

~金剛の想像終了~

 

金剛「…どうネ?」

 

「・・・」

 

川内「・・・」

 

……。

金剛、君は天災だ。

ここまでブッ飛んだ作戦を思い付くなんて…もう新規着任組は諦めた方がいいな(白目)。

 

島風「金剛、すっごーい!!!」

 

……。

 

いや、ダメだからね?そんなことしたら間違いなく終わる。全てが終わる。

川内も青い顔してるし…これはやった時点で負け確定だよ。

 

…だけど、せっかく金剛も考えてくれたんだ。

キッパリ否定せず、やんわりと別の作戦に出来る様に断らないと……。

 

「あー、金剛。ありがとう、いろいろ考えてくれて!なかなか奇抜な作戦でいいと思うよ?だけどさ、いろいろと設定がブッ……」

 

金剛「フオオオォォウ!!!!」

 

は?

 

金剛「そう言ってくれると思ったヨ!!さっそく作戦開始ネ!!!」

 

「ちょっ!」

 

人の話は最後まで……。

 

島風「じゃあさ、じゃあさ!!誰を乱入させる!?」

 

ピョーンピョーンと跳ね回っているウサミミ。

この娘たち、どうなってんの!?

 

金剛「任せるネ!!乱入させるのに適任なヤツをワタシ知ってるヨ!」

 

「ま、待って……」

 

島風「よーし!やる気出て来た!!私、先におやつとか勧誘の用意しとくねーー!!」タッタッタッタッタ

 

川内「あ、待って!!」

 

とてつもないスピードで駆けていく島風の後を川内が追う。

 

あ、おい!

ここで川内居なくなったら、誰がこの巫女服止めるんだよ!?

 

金剛「それじゃあ、行くネェェェェ!!!」

 

い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!




先の襲撃で大きな損傷を受けたこの鎮守府だが、入渠施設や工厰等の必要最低限の施設はなんとか健在である。
そしてまた、艦娘たちの腹を満たす食堂もその中に含まれていた。そんな食堂の調理場で鼻歌を歌いながら、ウキウキした表情を浮かべる艦娘が一人。

???「出来た!」

突然、その艦娘は叫ぶ様にそう言うと、オーブンからそれはそれは大事そうに鉄板を取り出す。
…鉄板の上には、食欲を大いにそそる様な甘い匂いを薫らせるシフォンケーキ。

後ろで結んだ赤髪を揺らしながら、急いでそれをお皿の上へ移す。
そして少し冷ましてから、それに包丁で切れ目を入れていく。
それはそれは手際がよい。

???「うん!おいしい!」

そして、ほんの少しだけ味見をしてみたが、どうやら上手く出来たようだ。これなら…きっと。
頬にほんのりと小麦粉をつけながら、ニコリと笑うその艦娘…イムヤ。
彼女は早くこれを新たな仲間に食べさせてやりたいとエプロンを着けたまま、シフォンケーキを摩耶の部屋へと運ぼうと急ぐ。

そして、食堂を出る…そんな時だった。

島風「イムヤ?」

不意に呼び掛けられ、驚くイムヤ。
急ブレーキをかけた拍子に、もう少しで皿ごとシフォンケーキを落とすところだった。危ない。
そして、体勢を立て直すと、一息ついてその声の主に声を掛ける。

イムヤ「…ふぅ、急に声かけないでよ!ビックリしちゃうじゃない!」

頬を膨らませるイムヤに対して、島風は「ゴメン」と一言。だが、その目はイムヤの顔にではなく、別のところに向けられている。

そして、鼻をヒクヒクさせ始める島風。

島風「…なーに、それ?」

キラキラとした目で尋ねる島風。
イムヤはそれに自信たっぷりな笑顔で「シフォンケーキだよ!」と答えた。
そりゃ、自分で言うのもなんだが、この日の為にずっとシフォンケーキを作る特訓をしてきたのだ。
…襲撃以降はあまり作ることが出来ず、今日上手く出来るか不安だったが。

島風「へ~!美味しそう~!」

お腹をさすりながら、先程よりキラキラとした目を向ける島風。
イムヤはそれに対して、少し困惑した様な顔をしていたが、「ちょっとだけなら…」と思ったのだろうか、「食べる?」と尋ねる。

島風「ほんと!?」

本当に嬉しそうな顔をする島風を見て、ついつい自分も嬉しくなるイムヤ。
そして、食堂のテーブルにシフォンケーキを置き、その一切れを島風に渡そうとすると、島風はそれを目にも止まらぬ早さでひったくる。

島風「ん~!!おいひ~!!」

イムヤ「そ、そう?」

目の前で自分が作ったシフォンケーキを美味しそうに頬張る島風。褒められて頬を赤くするイムヤ。

…これなら新たな仲間も喜んでくれるだろうか?

美味しいって言ってくれるかな?
お友だちになれるかな?

…島風の幸せそうな顔を見つめていると、イムヤはそんな不安が掻き消される様に感じた。

島風「ごちそうさん!」

イムヤ「お粗末さまでした」

満足げに笑う島風に、照れているのがバレない様にそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに言うイムヤ。

あ、そう言えば……。

そこでイムヤは思い出した。
摩耶の部屋にコップやジュースはあっただろうか?
せっかくシフォンケーキを食べるのだ…飲み物も欲しいところ。ちょっと冷蔵庫を探ってみるか。

イムヤ「…これお願い出来る?」

そこで、イムヤはほんの少しの間、島風にこのシフォンケーキを見張ってもらえるように頼むことにした。
誰かに食べられてはしょうがないし、虫がついたりしても嫌だ。

島風には悪い……と思ったイムヤだったが、意外にも島風は「いいの?」と驚いていた様だった。

イムヤ「引き受けてくれるの?」

島風「もっちろんだよー!!!」

…正直、島風は自分のことばかり考えている、スピード娘だと思っていたイムヤだったが、どうやらそれは誤解だったようだ。

イムヤ「…すぐ戻るから!よろしくね」

島風「…?いってらっしゃい」

…島風の優しさに触れ、ついついまたぶっきらぼうに言ってしまうイムヤだったが、今度島風にもシフォンケーキを作ってやろうと、その場から足早に立ち去る。

…と言っても、冷蔵庫なんぞ、このテーブルから少し離れた調理場にあるのだ。すぐに戻って来れる。

島風、すぐ戻るからね?









島風「あー!川内!はっやーーい!!」

川内「…はぁ、やっと来た」

あまりの島風の速さに追い付けないことを早々に悟った私はこうしてアイツの部屋で待つことにした。
そして、思った通りウサミミはやって来たわけだ。

だけど、驚いた。

おやつを用意すると言っていたが、まさかこんな美味しそうなケーキを持ってくるとは…。
ほんのりと湯気を出していて、出来立てホヤホヤ!
見ているだけでお腹がすく。

川内「ど、どうしたの!?それ!?」

思わず私は叫んだ。

島風「んー?イムヤがくれたんだ!」

…イムヤが?なんで?

私はそんな疑問を覚えつつも、美味しそうな匂いを薫らせるケーキをまじまじと見つめる。

島風「さ!早く勧誘の準備をしよー!!」

…理由は分からない。
けど、このケーキは勧誘にはもってこいだ!

後はアイツと金剛次第だけど……。
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