仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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「……姉!翔鶴姉!!」

…ふと誰かに呼ばれた気がして目を覚ますと、そこは窓から朝陽が差し込むいつもの私の部屋だった。

夢か……。

私の名を呼ぶその声はひどく懐かしく、そして儚い。
…今ではどんなに渇望しても聞くことが叶わないその声に私は呼び起こされ、そして落胆した。

目尻から溢れ落ちる涙が枕を濡らす。
この枕を使用していた者はもう二度とこの部屋に帰ってくることは無い。もう二度と並んで寝ることも無い。もう二度と可愛らしい寝顔を見ることは無い。

もう一度その声を…もう一度その顔を……。

手を伸ばし、今は亡き妹を想う。
しかし、その手は握り返されることもなく、ただ空を掴むばかり。

……起きよう。

翔鶴は最愛の人のいない今を生きる為、静かに起き上がった。





…目覚めの悪い朝をなんとか乗り越え、食堂で食事を摂っていると、不意に肩を叩かれ声を掛けられた。

???「翔鶴さん、今日はお願いしますね?」

振り向けばそこには麗しい巫女服を纏い、静かに微笑む艦娘……戦艦榛名がいた。

翔鶴「…こちらこそよろしくお願いします」

…きっとぎこちないであろう笑顔を彼女に返す。
彼女が私に声を掛けた理由、それは恐らく今日の集いが関係しているのだろう。

『反長門派』の集会を行う。

そんな話が出たのは、数日前の長門さんの宣言以来か。
…この話を聞いた時、私は驚いたが、上からの命令を頑なに通そうとする長門さんの姿勢に異議を唱える艦娘たちの数は決して少なくない。
もちろん長門さんに恨みがあるわけではないので『反長門』という言葉に違和感を感じ得ないのが私の本音だ。

しかし人間。その存在は別だ。
私たちを虐げ、酷使し、沈めた人間たち。

…私の最愛の妹を単機出撃という惨い仕打ちで帰らぬ者にしたあの人間。

私がその集まりに出席するのは必然だった。

榛名「それでは後程…」

彼女の言葉に適当に返答し、その姿が食堂から出ていくのを見送ると私は静かに目を閉じた。

果たして、この選択は正しいものなのだろうか。
そんな疑問が湧いてくる。気持ちの整理がつかない。
私の敬愛する赤城さんはきっと長門さんを裏切る様なことは無い。つまり、下手をすれば赤城さんとも袂を分かつことになるかもしれない。
想像すればするほど、先行きは不透明になる。
そんな中……。

「翔鶴姉」

…懐かしい声が耳に聞こえた気がした。

きっと幻聴だろう。
だけど、それが躊躇していた私の背中を押す。
空の食器を載せたトレーを返却口へと運ぶと、私は会合が行われるであろう部屋へと向かった。






榛名「…お集まりの皆さん、今日はありがとうございます」

相変わらず笑顔を振り撒きながら、落ち着いた口調で話す榛名。鎮守府のとある一室で執り行われている秘密の会談。
…恐らくこのことが長門さんに露呈すれば、大変なことになるのは明白。それこそ物理的に崩落した鎮守府が精神的にも瓦解し、完全崩壊することになる。
それゆえここに来るまで、まるで通せんぼをするかの如く、雪風と時津風が見張りに立たされていたのか…。
…その会場はしばらく来訪者がいなかった様で、埃っぽい匂いに溢れ、あるのは古びた長机だけという殺風景なところだった。

榛名「…早速ですが、長門さんの決定に反対の意志を持つ皆さんはある意味逆賊です。もちろん、私もその中の一員ですが、皆さんには仲間や姉妹を裏切る覚悟はありますか?」

その笑顔に似合わぬ重たい内容を淡々と話す彼女。
この場にいた誰もが、目を伏せ、何かを考えている様だった。だが……。

霞「…いいわ。たとえ仲間を裏切ることになろうとも絶対に人間の指示には従わないわ!…それが私たちの、いいえ、朝潮型の総意よ!!」

凛とした表情で強く断言する霞。
その瞳にはうっすらと涙を浮かべ、握り締めた拳が震えている様にも見える。
…それでも霞が今言った言葉は私たちに重く響く。

陽炎「…陽炎型も同じくよ。長門さんには悪いけど、人間の指図は受けないわ」

???「私と羽黒も入れてもらえるか?」

霞の言葉に続くように周りからは背反の意が高々に宣言される。そして……。

翔鶴「…私も皆さんと共に歩みます」

榛名「…皆さんのお覚悟、確かに。今から私たちは運命共同体です」

彼女はここにきて初めて笑みを捨て、厳しい顔つきになった。だが、口調は変わらず落ち着いている。

榛名「…それでは今後について話し合いましょうか?」





時を同じくして、鎮守府の母港。
とある艦娘が腰に差した剣の柄を時折握りながら、潮風に黒いマントを靡かせ、静かに佇んでいる。
その顔を覗けば、眼帯を着けていない露になった片方の目は眠っているのか、はたまた瞑想をしているのか定かではないが閉じられている。

そして何かを思い出したかの様に、何処からか小型の機械を取り出すと、それを耳に充てる。

「…俺だ。アイツは元気にしているか?」

…どうやら誰かと連絡を取っている様だ。

「…フッ、俺とアイツの仲だ。『あの方』等と呼ぶ必要はない。それにお前も司令官と言う時があるだろう?」

その艦娘は相変わらず瞳を閉じているが、時折笑顔を溢している。まるでそれは昔の友との話に心を踊らせている少女の様だ。

「…それとアイツに伝えておけ。鎮守府を襲撃するなら事前に俺に知らせろとな。…どこで尻尾を捕まれるか分からないんだぞ?」

その言葉に相手は怒ったのだろうか、機械のスピーカー部分から捲し立てる様な声が聞こえ、思わず耳を離す。

「…フッ、俺も危険な橋を渡っているんだ。それに、今回は俺の正体が分かっていなかったから、良かったものの、同士討ちなんて御免だぞ?俺は本気で殺す気だったんだからな……あぁ、分かった。今回はアイツは何も知らなかったんだな、謝るよ」

…口元を緩め、笑う彼女。

「それと、鎮守府はお前の言った通り、人間に対する不信感に溢れている。そろそろ頃合いなんじゃないか?」

ここに来て、ようやく彼女は閉じていた瞳を開ける。

「…フッ、分かったよ。慎重に…な。……それとアイツに伝えておけ、あまり俺に寂しい思いをさせるなとな」


鎮魂祭6

金剛「グエエェェェェ」

 

潰れた蛙の様な声を出す巫女服をただ傍観している僕。

なんで、金剛がこんな声を出しているのかって?

その答えは簡単。金剛が首を絞められているのだ。

 

金剛は必死で自分の首を掴む手を引き剥がそうとしているけど、その手は吸い付いたかの様にしっかりと彼女の首を押さえている。

そして金剛が僕の方へ何やら目配せしているが、僕は彼女を助けることが出来ない。

 

…それは呆れた作戦を決行した金剛を見捨てた為ではない。とてつもない威圧感が僕を襲っていて、動けないのだ。摩耶の部屋には艦娘だらけ、衆人環視、四面楚歌。

そんな中、味方は……。

 

金剛「グエエェェェェ」

 

なぁにこれ?

 

…遡ること数分前。

金剛の後を追って向かったのは、摩耶の部屋…ではなくて見知らぬ艦娘の部屋。そっとドアに近付き耳を澄ませる金剛に従って僕も耳を澄ます。

 

???「…それじゃあ、お姉ちゃんたちはちょっと出掛けてくるクマ。大井、留守を頼むクマ」

 

???「よろしくニャー」

 

この鎮守府には喋る熊と猫もいるのか…。

 

冗談はさておき、金剛に促され、ドアから離れると廊下の曲がり角に隠れる僕たち。

すると、僕たちが身を潜めてすぐ、二人の艦娘が部屋から出てきたかと思えば、何やら喋りながらこちらに歩いてくる。

 

???「…全く、『反長門』なんてネーミングが悪すぎクマ!せめて『反人間』くらいならいいのにクマ」

 

???「名前を変えてもらえるか、聞いてみるニャー」

 

そう言って、僕らのすぐ側を通りすぎていく彼女たち。おい、なんかとんでもないこと聞いちゃったぞ。

 

金剛「…よし、邪魔者は消えたネ。イクヨー」

 

誰も廊下に居ないことを確認すると、金剛はそのまま部屋に突撃していった。

 

え?僕?とりあえず、ここで様子見です。

 

…で、僕はそのまま廊下の角から様子を見守っていたのだが、急に悲鳴にも似た声が金剛の突っ込んで行った部屋から聞こえて、見知らぬ艦娘がそれはそれはもの凄いスピードで飛び出して行った。

 

そして、その跡を追う様に出てきたのは、満面の笑みを浮かべ、グーサインをした巫女服だった。

 

それで、現在に至るわけだけど…。

「完璧ネ!」と意気揚々と摩耶の部屋に入って行った金剛は入室早々首を思いっきり絞められている。

 

…ほんと、なぁにこれ?

 

威圧感は主にその首を絞めている艦娘から放たれているのだけれど。

…金剛よ、一体何を吹き込んだ?

 

???「…北上さんは?北上さんはどこにいるの?」

 

金剛「グエエェェェェ」

 

…うん、ある意味パニックだよ、これは。

 

摩耶「…お前らの仕業か?」

 

ギロリと鋭い目付きで僕を睨む摩耶。

…あぁ、こんなに間近でこの娘と会うのは、鎮魂祭のことを全体に流した時以来か。

今にも殴りかかってくるんじゃないかと言うくらいの勢いで、僕の胸ぐらを掴むと、「祭なんて…ざけんな!」と怒鳴られたんだっけ…。

 

うぅ、恐いぞよ。

 

だけどさ、僕だって踏み留まるわけにはいかないんだ!

 

「…やぁ、あの時以来だね。摩耶」

 

摩耶「気安くアタシの名を呼ぶんじゃねえ!」

 

???「…姐さん、この人は?」

 

…睨み合う僕たちの間に入るようにして、これまた見知らぬ艦娘がそう言う。

 

…というか、この娘たちが新規着任組だよな?

えぇ、姐さんって…短時間でどんだけ親密になってんのよ!?

 

摩耶「……後ろに下がってろ、コイツはお前たちにとって百害あって一利無しだ」

 

相当な言われようだ。

…というか摩耶から溢れる主人公感。

そして新規着任組であろう艦娘たちはウットリした顔で摩耶の顔を見つめている。

 

…手遅れですね、これは。

 

摩耶「…何考えてるか知らねえが、さっさとこの部屋から出ていけ!アタシも新しく来た仲間にいきなり血を見せたくねえからな!」

 

そう言って拳をポキポキと鳴らす摩耶。

なんか後ろから帰れコール出ているんですが…。

すごいなぁ、摩耶は。姉御だなぁ。

 

とりあえず…。

 

「…分かった。出ていくよ。でも、金剛を助けてやってくれ」

 

摩耶「…あぁ!?」

 

すごむ摩耶。

そりゃいきなりお邪魔したのはこっちだし、その態度もわかるんだけどさ…僕に金剛を絞殺しようとしている艦娘を退ける力はないんだ。

 

「…頼むよ」

 

頭を深々と下げ、懇願する。

こんな奴だけど…巫女服は大事な仲間なんだ。

 

金剛「グエエェェェェ」

 

摩耶「・・・」

 

…しばらく、沈黙が続いた。

こりゃ、金剛を置いて逃げるか…と思った僕だったが、摩耶がその沈黙を破る。

 

摩耶「…ったく!何したんだよ、大井をこんなに怒らせやがって!…オラァ!!大井!離れろ!!」

 

…助けてくれるんだな、摩耶。さすが姐さん!

そして渦中の艦娘は大井というのか…、うんヤバイね!

とりあえず、大井を羽交い締めにして、なんとかしようとしている摩耶には本当に頭が上がらない。

 

「ありがとう」

 

摩耶「…頭下げてないで、こっちを手伝えって!!」

 

…どうやら頭を下げている場合じゃない様だ。

 

おっし!やるかぁ!

 

 

 




阿武隈「…何かしら、凄い悪寒がするわ」ガクブル
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