仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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鎮魂祭7

テコでも動かないとはこのことか…押しても引いても、うんともすんとも言わない不動の艦娘…大井。

 

金剛の顔がそろそろ青白くなってきたので、冗談を言ってる暇も無くなってきた。

おいおい!いくらなんでもやり過ぎだろ!?

 

摩耶「おい!ちゃんとひっぺがせって!」

 

「…やってるって!!」

 

摩耶がこう言うのも無理はない。

彼女が大井を羽交い締めにし、僕が大井の手を金剛の首から引き剥がそうしてもう数分。一向に事態は好転しない。

 

大井「・・・」

 

渦中の艦娘は完全に沈黙。

でも、その目は見開かれて充血しており、パッと見、般若の様だ。そしてとんでもなく力が強い。

 

???「姐さん、がんばれー!!!」

 

外野は摩耶に声援を送るばかり。

 

…手伝えや。

 

摩耶「…悪い!お前たちも手伝ってくれ!!」

 

???「…キャー!姐さんに頼られちゃったぁ!!」

 

…摩耶の言うことをすんなり聞く新規着任組。

おそらく後々の話になるだろうが、仮に新規着任組をこちらに引き入れるのであれば、摩耶を攻略した方が早いかもしれないな…。

 

摩耶「…秋月はコイツと一緒に大井の手を引き剥がしてくれ!他の皆はアタシと一緒に大井を押さえるぞ!」

 

摩耶の指示を聞き、迅速に動く新着さんたち。

そして、息を合わせて大井を引き剥がそうとする。

 

「「せーーの!!!」」

 

それでも、それでも大井は離れない。

ちょっ!?誰か川内呼んできてー!!

 

摩耶「…ッ!馬鹿力が!!」

 

摩耶も相当力を振り絞って羽交い締めにしてくれている様で、顔が真っ赤だ。

クッソー!なんとしてでも引き離してやる!!

 

金剛「アァ…ヴァルハラが見えるよ……」

 

…金剛がなんか呟いている。

喋れるならまだ余裕なんだな!金剛!

 

……あ。

 

そういえば、大井が言ってた単語『北上』って…。

もしかしたら、いや…いけるか!?

 

「…北上に会いたいのか?」

 

大井「…!」

 

たった一言。おそらく誰かの名であろうその一言に、あれほど頑なに金剛の首を絞めていた大井がその手を緩める。

そして、その隙にそのまま僕と秋月によって金剛の首から手を引き剥がすことに成功。

 

金剛「・・・」

 

金剛はそのまま座り込んでしまった。

息も絶え絶え、肩でゼエゼエと息をしている。

大丈夫か!?

 

けど、僕には金剛を心配している余裕なんて無かった。

 

大井「北上さんはどこなの?」

 

おや~、標的がこちらに切り替わりましたか。

…蛇に睨まれた蛙の気持ちが今分かった気がする。

体が動かない。正直、生命の危機を感じる。

 

大井の目は黒く淀み、僕の憔悴した顔をただひたすらに覗き込む。そしてその手を僕の首にかけようと近付いて来ようとする。

 

…恐い。

 

摩耶「……何してんだ、早く逃げろ!」

 

へ?

だけど、そんな極限の状況下で、僕は思ってもみなかった言葉に耳を疑う。

そしてそれを言った人物に驚きを隠せなかった。

 

…摩耶?なんで?

 

摩耶「…ったくよぉ!大体分かったぜ!大井が何でこんなに怒り狂ってるのか!…アタシは北上なんて艦娘、よく知らねえが、大井にとっては大事な奴なんだろ?それを金剛のヤローがどういうわけか着任したってホラ吹きやがったんだ!…そりゃ、暴れたくなるよなぁ!!」

 

「・・・」

 

…摩耶の言う通りだ。

金剛はパニックを引き起こすトリガーに大井を選んだ。そして、その大井をここまでの状態にする為、彼女にとってのパンドラの箱を開けたのだろう。

 

それが『北上』。

 

でも……。

金剛を救った上で尚、なぜ摩耶は大井を羽交い締めにしたままなのだろう。これでは、まるで……。

 

摩耶「…とっとと行っちまえ!人間!!…金剛はバカだけど戦艦だ。パワーはある!だけど、それでも大井を引き離せなかった!…つまり人間のお前が捕まったら、どうなるかなんてすぐ分かるだろ!?」

 

「摩耶…」

 

摩耶「…勘違いすんな、アタシは人間は嫌いだ。…ッ!オラァ!!!早く行け!!アタシたちもそろそろ限界なんだよ!」

 

「…ごめん、ありがとう!!」

 

必死で大井を抑える摩耶と新規着任組の皆。

僕は彼女たちに一言礼を言うと、そのまま駆け出した。

 

摩耶「……ッおい!正気に戻れ、大井!!!」

 

…後にした部屋からは摩耶の絶叫が聞こえた様な気がした。

 

 

 

 

目指すは自室だ。

おそらくだけど、そこには川内たちがいるはずだ。

確証はないので、居なかったらジ・エンドだけど、今は信じてそこへ行くしかない!

…その後は、もう知らん!!

 

しかし……。

 

大井「…待ってぇぇぇぇぇぇぇ!北上さああああああああああん!!!!!」

 

…ファッ!?

 

摩耶ァ!もうヤられちまったのかぁ!!

 

…僕の駆け抜けているこの長廊下。その後方に見える豆粒みたいなのが、大井なのだろうけど。すんごいスピードでこちらに迫ってくるよ!!!

 

…唐突にホラゲー始まったぞ、これ!?

 

と、とりあえずクローゼットに隠れ…。

 

大井「北上さああああああああああん!!!!」

 

…冗談抜きに川内の元へ急げええええええ!

 

…だが、早い早い。

大井の走るスピードは僕の走る速度を余裕で上回っていた。あれほどあった距離はどんどん縮み、狂気を孕んだ大井の瞳をちゃんと確認できる程の距離まで迫まれている。

 

…くそ、あと、あともう少しで!

 

自室まではもう少しだ。

頼む!奇跡よ、起きてくれ!!!

 

僕は死に物狂いで走る、走る、走る!!!

 

そして……。

 

自分の部屋へと転がり込んだ。

 

川内「…うわぁ!?ど、どうしたの!?」

 

島風「オウッ!?」

 

…これほど安心したのはいつ振りだろう。

川内だけでなく、ウサミミの顔を見ると僕は腰が抜けてしまった。

 

川内「…一体なにが?」

 

島風「見て見て~!島風、こんなケーキを用意したよ」

 

心配そうに僕を見つめる川内とこの状況で何が起きたか気にせず、ケーキを差し出す島風。

 

うん!通常運転だな!

とりあえず、そのいつもの感じが僕の心を救う。

 

「…と、とりあえず」

 

とりあえずドアを閉めてと僕は言うつもりだった。

でも、その後の言葉は続かない。

 

なぜなら、後ろに……。

 

大井「みーつけた」

 

大井が満面の笑みを浮かべ立っていたのだから。

 

「…あ、あぁ」

 

言葉が出ない。

これ程まで狂気に満ち溢れた笑顔を誰が見たいと思うだろうか…。

川内と島風を見れば、困惑している様で、お互いに顔を見合わせている。

 

大井「…北上さんは?どこにいるんですか?」

 

…まるで機械のような冷たい、無機質な声。

 

あぁ!なんとか!なんとか!!この状況を変えられないか!

必死で思考を巡らせる。

 

…………。

 

………。

 

……。

 

…。

 

あ。

 

そこで、僕は思い出した。

とある言葉を。

 

「駆逐艦、島風です!スピードなら誰にも負けません!!よろしくお願いします!!!」

 

スピードなら誰にも負けない……。

 

スピード……。

 

……。

 

すまん、ウサミミ!

 

そこで僕は思いっきり大きな声で叫ぶ。

 

「大井!北上の居場所はこの島風が知っている!!」

 

大井「…!!!」

 

島風「…オウッ!?!?」

 

…これは賭けだ。

僕の言葉を大井が信じなければ、僕は終わる。

でも、これだけ盲目的な大井だ。

 

おそらく……。

 

ジリジリと大井が迫るのは…僕の方……ではなく島風の方。

 

うん!やったね!

 

一方で島風はと言うと……。

 

島風「…えーと」

 

困惑するよな、そりゃあ。

だから言ってやるさ、存分に!!

 

「…おいかけっこだぁ!島風!!!」

 




なぜか唐突に始まったおいかけっこ。
…だけど、私はとても嬉しかった。

…後ろをチラリと見れば、猛スピードで迫る艦娘。
うん、それくらい迫力がなくっちゃね!

きっと走っている私の顔は笑みを浮かべているだろう。
やっぱり思いっきり走るのは最高だ。

島風は駆け抜ける。

…ケーキを持ったまま走ってきてしまったので、全力を出せないのが残念だが、それでも追い付かれる心配はないだろう。

島風「フフ、島風がいっちばーーん!!!」

私より早い艦娘などいるものか。

どれ程走っただろうか、もう後ろには誰もいない気がする。
…実際、後ろを振り向けば、もう追跡者の影もない。

島風「おっそーーい!!!」

…まさに島風の速力はこの鎮守府一だろう。
そして、その速さが島風にとってのアイデンティティーであり、自信、誇りでもあった。

…だが、誰しも長けたところもあれば、短所となる部分もあるというもの。

島風においてもそれは例外ではない。

…島風は後ろにばかり気を取られていて気が付かなかった。
島風が迫る方向には眠そうにしている二人の艦娘。

前方不注意。

ドーーーン!!!

…後に川内は語る。

駆逐艦が三隻折り重なって、まるで鏡餅の様だったと。

ちなみにケーキは無事床に叩きつけられ、粉々になったとさ。
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