仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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六艟集結2

「今日はお集まり頂き、ありがとうございます!…先程波乱がありましたが、一旦それを忘れて、青葉の話を聞いて頂ければ…と思います」

 

顔を上げ、丁寧な口調で話す彼女に注目が集まる中、ふと目線を手元に移すと黒い艦娘と題された資料が一枚。

…どうやら、それは今日集まった者たち各々に一枚ずつ用意されているようだ。彼女は「お手元の資料をご覧下さい」と前置きした上で、その内容に触れ始めた。

 

「…まず皆さんもご存知の通り、黒い艦娘の進撃による鎮守府の崩壊が相次いで報告されています。津々浦々、東西南北の至るところに設置された鎮守府が瓦解し、今や海軍の戦力は今までにないほど落ちているのが現状です」

 

彼女の発言は、この場に居る者たちにとっては耳が痛いほどのものだ。なぜなら、六艟は黒い艦娘の情報を収集するのもそうだが、各鎮守府の緊急時には支援にあたる役目も背負っている。

しかし救援要請を受け、すぐにその場に駆けつけても、いつも目にするのは荒れに荒れた鎮守府と数多の亡骸だけ。死屍累々と化した鎮守府の成れの果てを己の無力さを痛感しながら、それでも生存者はいないかと歩き続ける……それが現実。

 

「…ですが、海軍もやられっぱなしというわけではありません。ほんの少し前、とある鎮守府が黒い艦娘と交戦し、これを見事に撃退しています。さらに、この戦闘により、黒い艦娘の遺体を回収することに成功しました。…今までその実態を全く明かさなかった黒い艦娘という存在…これは大きな進歩です」

 

…聞いている。

阿野や青葉からその内容を直接聞いた者もいれば、ある鎮守府が崩壊しながらも、得体の知れぬ敵を打ち破ったと風の噂で聞いた者もいる。

 

どちらにせよ、敗戦続きの海軍にとってはこれ以上にないくらいの朗報であったことは間違いないだろう。

 

「…そして、判明したことがあります。ややこしい内容ですので、順を追ってゆっくり話しますね?」

 

彼女はそこで一呼吸置くと、周りに目配せをして、ゆっくりと話始めた。

 

「…まず、回収された遺体についてですが、これは白露型の村雨と夕立であると結論付けられています。ただ、青葉の中ではまだどこか信じられないというか…不思議な感覚です。…抽出されたデータは、白露型のお二人のものでまず間違いないのですが、その姿形からして、あまりに違いすぎるというか…まさに黒いというのは言い得て妙…という感じですね」

 

…資料に添付されている写真。

そこには、おそらく今彼女が話しているであろう艦娘の遺体が写っているのだが、確かに自分たちが知る白露型の彼女たちとは似ても似つかないほどに黒い。

…顔だけ見れば、可愛らしい村雨と夕立である。

だが、その体を覆う艤装と思われる部分は禍々しいほどに黒く輝き、本当に死んでいるのかと疑わせるほどのものだ。

 

叢雲と龍田は顔をしかめ、その目線は村雨…と言っていいのか分からないが、静かに目を閉じた亡骸に注がれている。

その漆黒はまるで深淵に広がる底のない闇のようで、慈悲もなく浸食を繰り返した。

南の砦をはじめとする、南方に点在していた多くの鎮守府を飲み込んだ闇。

…その闇が静かに横たわる姿を一体どんな顔で見ればいいのか二人には分からなかった。

 

「…ただ重要なのはこの後です。抽出されたデータは村雨と夕立のもの…だけではなかったのです。なにか別のもの、異物とでもいうのでしょうか。…そして、その検出された異質なデータ…それをデータベースで照合したのですが…なぜか海軍が黎明期に鹵獲した深海棲艦のものと一致したのです。それに、この村雨と夕立には外部から手を加えられた跡がありました…つまりは」

 

「ちょ、ちょっと!?待ちなさいよ!!!」

 

ここで声を荒げたのは叢雲。

困惑を隠せないような表情を浮かべ、勢いよく立ち上がると青葉に迫る。

 

「…外部から手を加えられたって、改造ってこと!?しかも深海棲艦のデータとか…意味が分からないわ!」

 

「…その通りです。叢雲さんの仰ることは尤もです。…ですが、これが真実、現状なんですよ」

 

しっかりと叢雲の目を見据えて話す青葉。

その目は普段の青葉とは別人のようで、思わず叢雲はたじろいでしまった。しかし、叢雲も自分の中に渦巻く疑問を払拭出来ず、その場に留まってしまう。

 

…しばらく、両者の睨み合いが続いた。

 

だが、そんな緊張の中、叢雲はふと自分の肩に優しく触れるものを感じ、振り向く。そこには……。

 

「…まだお話は始まったばかりよ~?とりあえず、最後まで聞いてから、皆で考えましょ~?」

 

相変わらずのんびりとした口調で話す龍田がいた。

しかし、その間延びした声は極度に高められた緊張感を解すのには十分なもので、頭が少し冷えたのか、叢雲は自分の席へと戻ると謝罪を口にした。

 

「…ごめんなさい、少し取り乱したわ」

 

「…青葉も上手く伝えられず、すみません。龍田さん、ありがとうございました!」

 

場を収めてくれた功労者に感謝する青葉。

龍田は優しそうな笑みを浮かべ、そんな彼女を見つめている。

 

「さて、話を元に戻しますね?…先程、叢雲さんも仰っていましたが、おそらく黒い艦娘は何者かの手によって改造を受けているのだと思われます。そして、その改造に使われたのは海軍とも深い関わりがある深海棲艦…」

 

「…なるほどね。敵は案外近くにいるわけか」

 

北上が何かを察したように、深く溜め息をつく。

だが、彼女だけではない。他の六艟のメンバーも何かを悟ったようだ。

 

「…そうですね。海軍が二分されるような事態は極力避けたいところですが、最悪の場合『ZEUS』は崩壊するかもしれません。…それと阿野さんには既に話したのですが、村雨と夕立至っては何の因果か、今回の襲撃を退けた鎮守府に以前所属していたことが分かっています」

 

「「…え?」」

 

さすがの六艟も驚きを隠せないようで、わけが分からないというような顔をしている。

だが、青葉はそんな反応が帰ってくることを予期していたのか、気にせず続ける。

 

「…ここからはあくまで青葉の仮説です。確証はありません。…村雨と夕立は、今回襲撃した鎮守府の所属となっていますが、正確には既にその存在は轟沈したものとなっているんです。それも単機出撃による轟沈。おかしいですよね、死者が蘇ったとでも言うのでしょうか」

 

「…単機出撃による轟沈」

 

鳳翔は以前、青葉から轟沈についての定義を聞かれたことがあったのを思い出した。鎮守府のレーダーの範囲内であれば、レーダーからの消失が轟沈を示す。そして、範囲外であれば、僚機による報告が轟沈の判断となるだろう。

しかし、単機出撃……。

仮に、レーダー外で轟沈したとしたら?

何をもって轟沈と判断出来る?

 

「…轟沈等していないんですよ、全部デタラメです。あの鎮守府の司令官は虚偽の轟沈をでっち上げていた可能性が高いんです!!!」

 

「…それって、何の意味があるの?……あ」

 

「…もしかして、今回の鎮守府襲撃はヤラセだったってこと!?」

 

青葉の話に、北上と叢雲はヒートアップした。

まさか、その鎮守府の長は自分で改造した艦娘に自分の鎮守府を襲わせ、それを撃退するという八百長を行ったのだろうか。悲劇の英雄にでもなろうと思ったのだろうか。その為に、多くの犠牲を……。北上と叢雲は怒りに震えるが……そんな二人の反応に慌てて、青葉が訂正する。

 

「言葉が足りませんでしたね!お二人が思っているようなことは決してありませんからご安心を。その単機出撃を強いたのは、あくまでその鎮守府の前司令官です」

 

「…彼は士官学校を卒業したばかりの青年だ。そんなことが出来るような男にも見えなかった」

 

青葉に同調するように阿野が口を開く。

それを聞いて北上も叢雲も少々考えすぎたかと、顔も見たこともない青年を悪の親玉だと誤解したことを反省するが…。

 

「…ですが、考え方としては悪くありませんよね?わざわざ単機出撃をさせ…いや、その出撃でさえ怪しい。僚機がいない以上、その人物はどのようにでも話を作ることが出来たのではありませんか?そして、鎮守府の艦娘及び海軍の目を欺いてまで……言い換えれば、それほどのことをする必要があることをした…ということですよね?」

 

「その通りです、鳳翔さん。おそらく、あの鎮守府の前司令官は自軍の艦娘を改造し、一連の襲撃を引き起こした。目的は不明ですが、そう考えられませんか?」

 

事態の重大さに皆が複雑な顔を覗かせている。

…そうなると気になるのは、その人物の足取りだが、その答えを阿野が語る。

 

「あの鎮守府の前任は姿を眩ましている。……それこそ黒い艦娘が現れる前から海軍も総出で行方を追っているが、未だに成果はなしだ。…青葉、仮にその男が黒幕だとして、単機出撃させられた艦娘は何人いるんだ?」

 

「…本部に報告されただけでも約十機の艦娘が単機出撃させられています。今回の村雨と夕立を除けば、単純に考えて、残りの八機も黒い艦娘と化している可能性は十分に有り得ます。…さらに、松風のようにあの鎮守府と何ら関係のない者も黒い艦娘となっていますから、果たして敵の規模は……」

 

「…絶望的だね、こりゃあ」

 

思わず北上は呟いてしまった。

…深海棲艦が可愛く見えるほどの圧倒的な火力を持つ奴等に対して、自分たちを含めた海軍はあまりに戦力が落ちている。それこそ、今こうして話している間にもこちらの戦力は削がれているかもしれない。

 

…勝てるのだろうか。本当に。

 

おそらく、そんな疑問は北上だけでなく、この場にいたすべての者の胸中に芽生えていただろう。

 

「…おそらく」

 

そんな中、一人。まるで、その考えを必死に払拭しようとでも言うように、阿野は声を張った。

 

「近い内に我々はその存亡をかけて、大きな戦に身を投じることになるだろう。…そして、その戦いの中心となるのは……あの鎮守府」

 

「…だから、秋月さんたちを配属させたのですね」

 

鳳翔は落ち着きを払いながらも、怒りに満ちた目を阿野へと向けた。

鳳翔は悟った。今までの話、そして阿野の発言から。その鎮守府が最終的にどのような役割を負うことになるのかということを。

ゆえに静かなる怒りを阿野へと表した。

 

「…私たちは戦いでその命を散らすことに何ら不満はありません。それが私たちの役目でもありますし、そういう時代なのですから。…ですが、それならきちんとそのことを秋月さんたちやその鎮守府の者たちに伝えるべきなのではないですか?空の要塞(スカイ・ガーディアン)と謳われた精鋭部隊から何の説明も無しに、見知らぬ鎮守府へと送られた秋月さんたち。今起きている事態を全く把握する間もなく、決戦の地にされた鎮守府…あまりに惨いと思いませんか?」

 

鳳翔は自分が今、悟ったことを渦中の者たちに伝えるべきだと感じた。

それは、最終的に命をかけて戦う者たちへの最高の礼儀だと考えたからだ。だが……。

 

「…それが戦争なのでは?鳳翔さんも仰ったでしょう?戦いで身を散らすのが私たちの役目だと。ならば、わざわざ捨て石だということを言う必要もないはずです。いくら空の要塞(スカイ・ガーディアン)が手塩にかけて育てた部隊だからと言って、変な情は無用ですよ、鳳翔さん」

 

静かな怒気を孕んだ鳳翔の言葉に噛みついたのは大和。

鳳翔は「そんなことは…」と反論するが、大和は息を深くつく。そして黙って阿野を見つめると口を開いた。

 

「…阿野さんはあの鎮守府を決戦の地と睨んでいるのですよね?それなら大和は阿野さんの判断に身を委ねます。そして、それはきっとこの場にいる者全員が思っていることです。ですから、阿野さん…貴方は貴方のしたいようにやればいいのです」

 

沈黙がその場に流れる。

それは大和の意見に同意してのものなのか、それとも…。

 

「…すまないな。大和、鳳翔。だが大和の言った通り、あの鎮守府は間違いなく、再び黒い艦娘との戦闘の中心地となるだろう。…そして決戦となれば、おそらく敵も全力で来る。だが、圧倒的な航空戦力に対抗するにはあまりにあの鎮守府は貧弱だ。…ゆえに秋月たちを配属させた。鳳翔には悪いが、空の要塞(スカイ・ガーディアン)は後々全員があの鎮守府へと配属されることになるだろう。…加賀には鳳翔から話しておいてくれ」

 

「…阿野っちはさ、何を根拠にそう言ってんの?」

 

ようやく口を開いた北上に阿野は少し笑って答えた。

 

「軍人の勘だ」

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