仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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役割分担2

「…とりあえず理解したわ。仲間が増えたのはいいことよね……うん。………うん。……はぁ」

 

阿武隈が彼女自身に言い聞かせるように呟く。

…すまないな、先生。当初の目的だった新規着任組の勧誘は上手くいかなかったよ……。

 

…その代わりに、雪風と時津風、そして大井をこちら側に率いれることが出来たんだけどさ。

うん、なんで素直に喜べないのかは大体察しがつくよ。

 

「人手も増えたし、そろそろ具体的に鎮魂祭で何をするのかを決めないとね」

 

阿武隈が絞り出すような声でそう言うと、それにすぐに反応したのはウサミミだった。

 

「はーい!かけっこ!かけっこやるぞー!」

 

「「わー!やろう!やろう!!」」

 

島風のトンチンカンな提案に雪風、時津風が同調する。

あー、部屋の中を走らないで…。

ただでさえ狭い部屋に鎮魂祭実行メンバーが勢揃いしてんだからさ…。あ、金剛にぶつかった。

 

…これだもんな。

まともな回答が返ってくるとは最初から期待していなかった阿武隈は「あー」と生返事をしている。

そしてジーッと僕の顔を見つめてきた。

 

まるでその目は「どうすんの?」と訴えかけてきているようだった。

 

「かけっこはいつでも出来るしさ……。普段出来ないようは特別なことをやった方が祭は盛り上がると思うんだよね…。だから、かけっこはまた今度!」

 

「「えぇー!!!」」

 

駆逐艦三隻から大ブーイングが起きているが仕方ない。

そのまま僕は続ける。

 

「例えば、盆踊りとか出店はこれやりたいとか…何でもいいんだけど……」

 

「「かけっこ!!!」」

 

うーん、この……。

 

…とは言え、僕の無謀とも言える挑戦に付き合ってくれているだけ感謝しないとだよな。せっかく意見も出してくれているし、かけっこ……やるかぁ!

 

「…分かった。さっきはダメって言ったけど、かけっこやっていいよ」

 

「「ほんとー!?やったあああぁぁぁ!」」

 

ブーイングは歓喜の声へ。

阿武隈からは「正気か?」という視線を向けられたが、ものは考えようさ。

僕は今しがた思いついたことを口にする。

 

「かけっこと言っても、ただのかけっこじゃない。そうだな…例えばレースにするとかどうだい?」

 

「「???」」

 

僕の発言にみなが首を傾げている。

だが、その反応は尤もだ。

…かけっこもレースも大体同じ意味だし、何を今更。

でもさ、少し工夫をすれば……。

 

「…レースと言ってもただのレースじゃない。賭けるんだよ!賭けレース!!!」

 

「…ブッ!」

 

…誰だいま吹き出したの?

こっちは本気だぞ!あぁ、そうさ!賭けるんだよ!

 

「島風たち……いや何も島風たちだけじゃない。祭の当日に走る参加者は募ってもいいかもしれないな。…それで走る前にさ、誰が一番になるか賭けるんだよ。それを見事に当てたら、賞品を贈呈…」

 

「…でもさ、それだと島風が一位になっちゃうんじゃないの?それだと賭けが成り立たなくない?」

 

「オウッ!」

 

…確かに。川内の突っ込みは至極当然。

この鎮守府に居る者であれば、おそらく誰もがこのウサミミが速いことくらい知っているだろう。

すると、賭けが成り立たない。

うーん、そうか……。良いアイデアだったと思うんだけど…。

 

「…障害物とかを設置したらどうですか?そこの駆逐艦が一位になれないくらいの…皆が平等に競い合えるくらいのものを幾つかレース中に設置するんです」

 

「「…おぉ~!」」

 

思わぬ人物が助け船を出してくれた。

大井の意見に川内たちも疑問を払拭したようで、感嘆の声を挙げている。かくいう僕もその一人だ。

 

「…じゃあ、とりあえず賭けレースはやるということでいいわね?」

 

阿武隈の呼び掛けに異議は挙がらなかった。

そして、大井が再びその口を開く。

 

「…よろしければ、障害物については私に任せてもらえませんか?」

 

すごいやる気だ。

 

「もちろんいいけど…大変じゃないかい?一人でやるのは?僕たちにも手伝…」

 

「あ、大丈夫です。こういうの得意な娘、知っているので。ありがとうございます。…早速打ち合わせしてきますので、失礼します」

 

…。

あれ?怒ってる?

 

大井はそれだけ言うと行ってしまった。

僕は先程と全くキャラの異なる彼女に困惑を隠せなかった。感じたのは冷たさ……追いかけられた時とは異なる冷たさを彼女から感じたのだ。

だけれど……。

 

「…大井さんっていつもあんな感じだから気にしなくていいと思うわ。そもそも、なんで祭に協力してくれるのか…あたしには理解できないし!あの人が心を開いているのは、姉妹艦くらいだと思ったけど…」

 

阿武隈がそう言う。

へぇ~、そうだったのか。どうやら僕の知らない彼女の側面があるらしい……。

…というか、珍しく阿武隈がさん付けで人の名を呼んだからビックリしてしまった。

 

「大井と仲良いの?」

 

「…はぁ?」

 

率直な疑問を彼女にぶつけてみたが、軽くあしらわれてしまった。うーん……まぁ、詮索するのも野暮だしな。

 

「出店はもちろん紅茶ネー!」

 

いつの間にか復活した巫女服。

さっきまでなんか元気ないなと思ってたんだけど…。

それにしても……。

 

「紅茶か…」

 

思わずため息をつく。

というか、思ったんだけど……。

 

「この中に料理出来る人いる?」

 

「「・・・」」

 

僕の問い掛けに返ってくる答えはない。

あー、これは……。

 

「とりあえず紅茶はいいとして…。川内!確かおにぎり上手だったよね?」

 

「…へ?」

 

急に名指しされた川内は目を丸くしている。

だけど、料理が出来るメンバーが誰もいないとなると金剛の紅茶、そして川内のおにぎりにすがるしかないんだよなぁ。うん、これで出店は二つ確保出来たね(白目)。

 

「…じゃあ、川内と金剛!出店は任せるよ!」

 

「Foo!!腕がなるヨー!!!」

 

「…いや、おにぎりって!?本気!?」

 

金剛は乗り気だ。対して川内は……頭を抱えている。

というかこの場合、川内の反応の方がまともなのかもしれない。

普通の祭で出店が紅茶とおにぎりだけとか…僕も行きたくないし。そこら辺はもう少し詰める必要があるかもしれないな。でも、今は……。

 

「…頼むよ」

 

「……うーん」

 

懇願。

何度、川内に頭を下げてきたのだろう。僕は再び頭を彼女に深々と下げる。

 

…思えば、僕は彼女に頼りっきりだ。

今もこうして…。なんでだろう。川内は……。

 

「分かった」

 

…彼女はいつもこう言ってくれる。

だから僕はこうして頭を下げるのだろうか。

 

「ちょっと間宮さん所へ行ってくる」

 

彼女が優しいから?彼女に頼めば何でも言うことを聞いてくれるから?

 

…そうこう考えている内に彼女は行ってしまった。

 

「あ、そう言えば!黒潮がお好み焼きとかたこ焼き作るの上手だよ!」

 

「時津風たちがカンユウしてきてあげる~!」

 

「紅茶♪紅茶♪」

 

「よーし、かけっこ頑張るぞー!!!」

 

「…はぁ、やれやれね」

 

…気が付けば、部屋に残ったのは僕だけになってしまった。皆がやるべきことをやろうと部屋を後にしたのだ。

 

だから、僕もやるべきことをやるべきなんだろう。

 

…だけど、僕はその一歩を踏み出せないでいた。

 

頭をかすめるのは川内の顔。

 

…川内。

 

…。

 

最近、川内は笑っていただろうか?

彼女の笑顔を僕は久しく見ていない気がした。

 

だが、それもそのはずだ。

 

……。

 

あぁ、そうか……。

 

思わず自分の身勝手さに呆れてしまう。

 

よくよく考えれば……すぐに分かることじゃないか。

 

……。

 

川内は…、彼女は…。

 

知らぬ間に僕の頬を何かが伝う。

 

…同じだ。これじゃあ、何も変わってない。

 

僕は居ても立っても居られなくなり、すぐに彼女が向かったと思われる場所へと走った。

 

彼女に伝えなければ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川内。

君は僕に協力しちゃいけなかったんだ。




「電ちゃん。ちょっといい?」

「…ん?なんなのです?」

古い書籍が所狭しと並ぶ部屋。
そこで電は本の整理をしていた。薄暗く、埃っぽいところだが彼女にとっては案外ここがお気に入りの場所だったりする。
そして、そんな彼女の近くでは一人の艦娘が静かに本を読んでいた。

お互いに干渉することはない。

聞こえるのは、ページを捲る音、時計の針が進む音、本を棚にしまう音だけ。

だが、唐突に静寂が破られた。

電にその艦娘が話し掛けたのだ。

「…マザーと聞いて何を思い浮かべる?」

「…急になんなのです?由良さん」

目線を由良の方へやるが、当の由良は読んでいる本から視線を外そうとはしない。電はそんな彼女をしばらく眺めていたが、ふと気が付いた。

由良が読んでいる本。
その書籍は電が司令官と慕う人物がよく読んでいるものだ。

『受胎告知』。

その本の題目はそう書かれていた。
だが、その内容は知らない。
タイトルからして難解そうな内容に電は読む気がどうしても起きないのだ。

「…そう。それならいいわ」

「…気になるのです」

相変わらず目線を本から離さない由良に若干不快感を覚えながらも、問われた内容が気になった電は食い下がる。

「…本当に知らないの?」

「だから、何をです?」

ようやく目線をこちらに向けた由良に語気を強める電。

「新たに目覚めた娘たちに明石さんが自身をマザーと呼ぶよう声を掛けている…ただそれだけよ」

「…ふーん、そうなのです?」

なんだ、そんなことか…と電は呆れた顔を由良に向けると彼女も同じような顔をして電を見つめ返す。

そのまま睨み合う二人。
しばらくそのままだったのだが…ふとした瞬間、電がその視線を外す。
その顔はひどく慌てている。

「あ、そう言えば司令官に頼まれてたことがあったのです!あわわわ!忘れてたのです!!」

彼女は急いでその場を後にした。

そして、残されたもう一人の艦娘は何事もなかったかのように視線を手元の書物へと戻した。

そして、ポツリ。

「…電も知らなかったか。木曾も武蔵も知らないとなると……」

そこで彼女は本を閉じると、真後ろにあった本棚にそれをしまう。
そして、小型の機械を耳に充てると誰かと会話をし始めた。

「もしもし?…やっぱり同期である私たちには声をかけていないみたい。…………うん、そうね。第二世代で声を掛けられていないのは貴方だけよね。まぁ、これから貴方に声を掛けるつもりだったのかもしれないけど…………。それにしても……マザーねぇ。何を考えているのかしらね、彼女は……。……うん、任せるわ。貴方はこの艦隊で唯一の空母なのだから、もっと誇っていいのよ?ふふ、提督の身はこの私が守っているから…安心しなさい?」
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