仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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大逃亡

乱暴にドアを開け、床に転がっていた財布を手に取るとそのまま僕は転がるように部屋を飛び出した。

 

すぐにここから離れなければいけない。

 

そんな思いが恐怖で固くなった僕の体を必死で動かす。正直ここに来てからいろいろな出来事があったが、自分の身が案じられる場面は何度かあった。

 

だが今回は格が違う、桁違いに違う。

 

強張って鈍くなった足が何度も縺れ、転倒しながらも死に物狂いで進む。擦りむいて、血が出ようが構わない。

 

目指すは、正面玄関を抜けた門、そしてその先。

 

心臓の鼓動が早くなり、息も絶え絶えになる。

胸の辺りに激痛が走るが、足を止めてはならない。止まれば終わる。

 

そして目を見張った。

視線の先、正面玄関へと続く階段付近には既に何人かの艦娘が立っているではないか。

 

辺りが騒がしい。

 

さっきまでの静けさが嘘のように、嵐の前の静けさだったと言わんばかりに今は彼方此方から声が響いてくる。

がむしゃらに走ったせいか、はたまた別の要因か…呼吸が荒い。

しかしその激しい息遣いが聞こえないよう、必死で息を殺す。そして思考を巡らす。

 

なんとかこの状況を打開出来ないか。

 

そんな時だ。

不意に肩を掴まれ、思わず小さく叫ぶ。

恐る恐る、振り返ればそこには………。

 

「雲龍…」

 

僕を憐れむようにも見下すようにも見える視線を向けながら、一人の艦娘が静かに佇んでいた。

 

ここまでか……。

 

一気に溢れ出す絶望感に僕は思わず目を閉じた。

そして震える体に懸命に力を込めようとするが、最早どうにでもなれという投げやりな気持ちも心に生まれ、僕は抵抗する気さえ失ってしまった。

 

そして待った。これから来るであろう審判の時を。

 

「…何をしているの?こっちよ?」

 

…と思えば強引に手を引かれ、バランスを崩す体。

勢いで前のめりになった体が雲龍の体に触れてしまい、訝しげな顔を向けられたが、それはこちらとしても同じだった。

 

だが悠長にしている間は無いと言わんばかりに、そのまま彼女は僕を拘束もせずどこかへと誘う。

 

正直、手を振り払って逃げようかという思いも芽生えたが、結局は彼女にされるがままに。

そして、そうこうしている内に彼女は僕の考えを察したのか、僕の手を強く握る。あまりの力に手が痺れたほどだ。

 

そして、着いた先は…。

 

「…なんで、なんで助けてくれるんだ?」

 

外の世界へと繋がる鎮守府の門の前だった。

着任当初、提督になることを拒絶され、陸奥にここまで見送られたのを思い出す。

 

まさかこのタイミングでそんなことを思い出すとは…。

 

そして、理解出来ない雲龍の行為に僕は問い掛けられずにはいられなかった。

そんな僕の問いに彼女は不思議そうな顔をして一言。

 

「あら…死にたかったの?」

 

「・・・」

 

しばらく僕は黙って彼女の顔を眺めていたが、意を決して歩み出した。彼女は黙って僕のことを見ている。

 

「…ありがとう」

 

彼女の横を通りすぎる際に、自分でも驚くような弱々しい声でそう伝えてみた。

 

雲龍はそれに特に返答することはない。

僕は興味無さげに自分を見ている彼女を横目で一瞥すると、そのまま鎮守府を後にした。

 

 

 

「…ふぅ」

 

次第に小さくなる人間の背中が完全に見えなくなるのを確認すると、雲龍は大きく息を吐いた。

 

そして独り…ポツリと呟く。

 

「…感謝することね。貴方が今までやってきたこと、そしてそれによって成し得たものに」

 

そして彼女は小さく笑みを浮かべると、喧騒で溢れ返る鎮守府へと戻っていった。

 

鎮守府を渦巻く憎悪。

 

そしてそれに駆られ、大挙して押し寄せる艦娘たちは、まるで巨大な津波のようだ。

憎しみに突き動かされた者たちで埋め尽くされた戦線。

 

だがそこを去り逝く人間は知らないのだろう。

 

必死でその憎悪から彼を守ろうと防波堤の役目を果たした存在が少なからず居たことに。

 




「…やっと海軍もここの調査を終えたか。時間ばかり掛けやがって、無能共がぁ!」

その人物は乱暴に椅子を蹴り上げると怒りを露にする。
そしてその怒りの矛先は、怯えた様子で震えている艦娘へと向けられ、その者は容赦なくその艦娘に滲り寄ると顔を殴り付けた。何度も何度も、怒りに任せて。

ようやく殴るのを止め、その人物は椅子に深々と座り、煙草に火を着けると顔をしかめた。
すすり泣く声を聞きながら、そわそわと落ち着かない様子のその人物は拳を机に何度も叩き付ける。
そして灰皿を室内に響き渡る声の主に乱暴に投げ付け、黙らせると大きく息を吐いた。

「…おのれぇ、松風め!勝手なことしやがって!危うく俺の存在が海軍に露呈するところだったじゃないか!ふざけるな!!!俺は……俺は優れた人間なんだ!絶対に捕まって堪るものか!!」

その人物の怒声に床を這いつくばっていた艦娘はビクリと体を震わしながら、いつその怒りが収まるかと必死で体を縮ませている。

「やっと糞みたいな人生が好転したんだ。あんな化け物共と一緒に海の平和を守れだぁ!?…フンッ!馬鹿らしいんだよッ!あんな奴ら、金輪際二度と関わりたくねぇんだ!!!俺は…このPMTで!!!」

そこまで言い掛けるとその人物は下から視線を感じ、そちらに目を遣る。そこには先程殴り倒した艦娘が恨みがましい目を向けていた。

「…なんだ!?その目はァ!!!」

机の上にあった酒瓶を手に持つと大きく振りかぶる。
それを目にした艦娘は頭を抱え、グッと目を瞑るが…。

一向にそれは投げ付けられない。
いや、正確には投げ付けられそうになったのだが、急に開けられた扉から、焦った表情を浮かべた一人の人間が入ってきた。そしてその人間が部屋に入った直後、室内いや建物全体が大きく振動する。

「な、なんだ!!?」

遠方から多数の叫び声が聞こえる。
爆発音も轟き始め、いよいよ何が起きたか分からなくなった時。
その来訪者は叫んだ。

「襲撃です!海軍を…海軍に至急救援要請を!」
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