仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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因果応報

「ばッ、化け物だああぁぁ!」

 

「助けてくれええぇぇぇぇ!!!」

 

「は、早く…早く艦娘を呼べ!殺されるッ!!」

 

今の今までいつもの日常を生きていた者たち。それをあっという間に炎が包み込む。

業火に巻かれ、絶叫を上げながら死んでいく人々。

 

阿鼻叫喚、死屍累々、ここは正に現世の地獄。

 

…辺りを見渡せば、墨のように真っ黒くなった人形(ひとがた)が無数に転がっており、強烈な異臭を放っている。

 

軍の流通を司る機関…PMT。その一部は焦土と化した。

大地は焼かれ、その上にあった全てのものは紅蓮の炎に包まれた。そんな猛火の中で。

 

「ゴオアアアアアァァァァァッ!!!!」

 

耳をつんざくような咆哮。

不運にもまだその命を落としていない者たちはその叫びを聞いて、恐怖に顔を歪ませる。

 

「海軍は…!六艟はまだ来ないのか!!?」

 

生命の危機を感じ、恐れで顔面蒼白となりながらも必死で逃げ惑う人々。その後方から黒光りする巨体がとてつもない速さで迫る。

 

「「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

…刹那。

最早人の形を保っていない肉塊が血だまりの上に散乱しているその光景は筆舌に尽くし難い。

 

狼狽える者たちは口を揃えて言う。

深海棲艦とも艦娘とも、そして人間とも形容出来ない。

圧倒的な力で蹂躙の限りを尽くすその存在を。

 

「化け物」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な!PMTが襲撃されるだと!?…敵は!?敵は何だ!!?深海棲艦か!?それとも誰かのクーデターか!!?」

 

縦にも横にも大きく揺れる建物に足を取られながらも、その人物はなんとか窓へと近付き、外の様子を伺う。

見る限り黒煙が各所から舞い上がり、火の手があがっている。

 

左を見れば焼け野原、右を見れば火の海。

 

だが果敢にもその火を消そうとしている者たちもいるようで、水を組んだバケツをリレーしながら必死で火に水を掛けている。その様子を見て、その人物は狂ったように吐き捨てる。

 

「馬鹿共がぁ!!!そんなの焼け石に水だ!とっととここを襲ったゴミ共を叩き潰せ!!それでも優秀な兵隊かァ!!?ここは…ここは俺の国だ!俺の、俺だけの王国なんだ!!!誰にも壊させはせん!!!」

 

「…そ、それがぁ」

 

怒り狂ったその人間に恐る恐る声を掛けるのは、先程襲撃を報告に来た人物だ。

普段であれば勇猛果敢と市民から囃されるような風貌をしているはずのその顔はひどく強張り、今から口にしようとすることを言い渋っているようにも見えるが、何かを覚悟したように叫んだ。

 

「P、PMTに所属する戦闘員のほとんどが…その、戦闘不可能!せ、戦死しています!!!」

 

「…な、に!?」

 

「で、ですから…海軍に救援要請を……早急に」

 

「ふ、ふざけるなあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

真っ赤になった顔でそう絶叫したかと思えば、その人物は地面に這いつくばっている艦娘の胸ぐらを掴み、無理やり立たせると、ものすごい剣幕で彼女に捲し立てた。

 

「…いいか、神風!?お前は忘れていないだろうな?俺が曰く付きの鎮守府から引き取ってやらなければ、お前は一生掃き溜めで生きることになったんだぞ!?その恩に今こそ報いる時だ!命を懸けて俺を守れ!!!」

 

その人物の言葉に何の反応も示さず、ただじっと顔を見つめるだけの艦娘を乱暴に突き飛ばすと、彼は壁に備え付けられた電話を手に取る。そして受話器に向かって、再び怒鳴り付け始めた。

 

「…六艟はまだ来ないのか!?阿野は!?阿野はどうした!!?いいや、六艟でなくてもいい!!駆逐艦でもいいから増援を送ってくれ!!火の勢いが凄すぎて、逃げることも叶わん!」

 

そして叩き付けるように受話器を置くと、何やらぶつぶつ言い始めた。

 

「何故だ!?なぜ!なぜ!?何故なんだ!?俺は化け物共を嬲り、改造の手伝いをしっかり務めたんだぞ!?だからこの機関に天下り出来たんだぞ!?この安寧の地に!なのに、なのになのになのに!!?…アイツは何をしている!?早く援軍をよこしてくれ!!」

 

まるで念仏を唱えるかの如し。

その人物は恨み言を言いながら、頭を抱えて苦悶の表情を見せている。そして同室する人間はその狼狽える姿に不安を覚え、反対に艦娘は清々しい笑顔を見せている。

そしてこの場にもダクトを通じて、とうとう黒煙が侵入し始めると人間たちはパニックになった。

そこへ……。

 

「あはっ!無様!無様ですね~!?人間共!」

 

慌てふためく人間たちを嘲笑うかのような笑みを浮かべ、一人の少女が入室してきた。

そして室内にいた二人いる内の一人の人間の顔をじっと見つめたかと思えば、途端に狂ったように笑い始めた。

戸惑いを越えた言いようのない恐怖感が襲う。

 

「な、なんだ!?お前は!!?」

 

「…誰でもいいじゃないですか、もう死ぬんですから!でも不思議ですね、人間!お前とは初対面じゃない気がするんです!!…しかもすっごく昂ってるんですよ、身も心も全て!!!」

 

少女はそう言うと、自身の手に黒い(もや)を這わせる。そしてその靄が晴れた時、そこには手ではなく、先端部分に歪な歯を生やした深海棲艦を思わせるような生命体が宿っていた。

 

「「グギュュュウウウルルルルル!!!」」

 

彼女の両手のそれがまるで呼応するように吠え立てる。

そして彼女はいとおしそうにそれを見つめながら…。

 

「ああッ!!可愛い!可愛いですよ!!!」

 

一人、悦を感じているようだった。

一方でそれをまざまざと見せられた者たちは、これでもかというくらいの恐怖に怯え、その場に立ち尽くしていた。

そしてそれを見た彼女は、手前にいた人間に近付くと、目を見開きながら自身の手をその人間の頭へと擦り付けた。

 

そんなことをすればどうなるか…。

 

体をガタガタと震わせながらも残された人間と艦娘は目を逸らし、耳を塞いだ。

そうしないと見えてしまうからだ、聞こえてしまうからだ。

ゴリゴリと骨を砕く音を立てながら、どす黒い血を巻き上げてその手、もとい生命体は人間の頭部を喰らっていた。

 

頭部を失った体はその場に力なく横たわる。

そして今しがた頭に食らい付いた方の生命体は、光の灯っていなかった瞳を爛々と輝かせ、不気味な緑色の閃光を放っているようだ。それを見て、彼女は極上の悦びを露にする。

 

「あぁ!!よかったねぇ~!!美味しかった?」

 

「グギャアアアアアァァァァァッッッ!!!」

 

「そっか、そっか~!!最高だったかぁ~!!」

 

言葉を介さずとも彼女たちは通じあっているのだろうか、常人には理解できない状況に生者は思わず息を呑んだ。

 

「さぁーて…ごめんね?あなたもご飯食べたいよね?」

 

ドキリと心臓が跳ね上がる。

先程よりもひどい震え、さらには悪寒が生者を襲う。

そんな二人を尻目に、彼女はもう片方の生命体を慈愛に満ちた目で見つめながら何か囁くと、ゆっくりと二人の方へ視線を移した。

 

「お、お前は…黒い艦娘だな!?」

 

彼女と目が合った瞬間、人間は震える声で絶叫する。

そしてその言葉に呼び掛けられた張本人は、少し驚いたような反応を示した。

それを好機とばかりに人間は饒舌に語り出す。

 

「…フ、フフフ、フハハハハハッ!!そうか、そうだったか!お前は黒い艦娘なのだな!?…フハハハッ!それなら話が早い!俺はお前たちの産みの親…とまではいかないが、それに尽力したんだ!!つまり俺はお前たちの仲間なんだよ!!だ、だから殺さな…」

 

そこまで言うとその人物の視界は急に暗転し、闇に包まれる。それが生命体の口の中だと理解した時には、彼は既にこと切れていた。

体がドサリと床に叩き付けられる。

 

一瞬の出来事だった。

 

殺戮の一番最後に残された艦娘…神風は絶望のあまり嘔吐する。そして待った。どちらの生命体に私は喰われるのだろう…そんな思いが溢れだす。

 

いやだっ!いやだっ!死にたくない……!

 

ギュッと目を瞑り、必死に目の前の過酷な現実から逃避する。獣のような唸り声が自分の間近で聞こえても、彼女は目を開けなかった。

そしてふと聞こえた。

 

「貴方より人間の方が美味しいんですよ?」

 

その一言に今まで固く閉じていた瞼を開く。

目の前には誰もいない。

そして彼女は、自分一人だけが生き残ったという事実に気が付くまでに少々時間を要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「派手にやっていますね♪」

 

黄金色の片眼を煌めかせ、指についた血液を丹念に舌で舐め回すとその人物はゆっくりと腰を上げる。

…よくよく見れば、彼女が今まで腰を掛けていたのは死体が折り重なって出来た屍の山だ。

そして彼女が立ち上がった瞬間、漆黒の光が彼女の背中で瞬いたかと思えば、巨大な黒い羽が生え、上下に激しく振幅する。それは小さなものから次第に大きくなり、遂には空中へと彼女を誘った。

 

そのまま彼女はニコリと笑みを浮かべ、爆音轟く戦場へと飛び立った。

 

彼女が飛び去ってから間もなく…。

死体の山に隠れ、なんとか(むくろ)にならずに済んだ生存者は後に語った。

PMTの救援へと急ぎ向かっていたところを空から飛来した謎の少女に強襲され、部隊は壊滅状態に陥ったと。

…少女だからと油断していたわけではない。

 

生存者は目を伏せながらも必死で自身が見た光景を話した。少女がその背丈に似合わぬ大鎌を一度振り回せば、多くの命がそれに刈り取られた。

一瞬でも反応が遅れたら……。

 

その生存者は発狂した。そして最後に呟いた。

 

「…悪魔だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グオオオオアアアアアァァァッッ!!」

 

その咆哮だけでPMTの建物全体を軋ませる(くろがね)局躯(きょく)。PMT敷地内で「化け物」が暴れていると緊急連絡を受け、六艟の叢雲と大和は急いで駆け付けた。

 

そして目にした。

 

全体的に黒光りした屈強な局躯。銃弾や砲弾を跳ね返すほどの強固な鋼の鎧。PMTの兵団をいとも容易く屠ったであろう六つの豪腕。鼓膜を破るような狂瀾怒濤(きょうらんどとう)蛮声(ばんせい)を あげる巨大な口。

まるで何度もあげられるその咆哮は、殺戮を楽しむ歓声にも、無慈悲に命を奪うことへの慚愧(ざんき)の念から号哭(ごうこく)しているようにも二人は感じた。

 

「生存者は絶望的ですね」

 

「…まだ分からないでしょ!?早くあの化け物を倒して仲間を救いましょう!」

 

敵と対峙しながらも、叢雲と大和は軽く言葉を交わし、化け物をしっかりと見据えるところは、さすが六艟と言わしめるところか。

 

だが二人は思っていた。

 

もうあの人には会えないかもしれない……。

 

「グエエエェェェェェァァァァァッッ!!」

 

一向に仕掛けてこない二人に痺れを切らせた化け物が絶叫しながら、その巨体に似合わぬ俊敏さで一気に突っ込んでくる。

 

たとえ…たとえそうだとしても……。

 

二人は示し合わせたように目を閉じる。

 

コイツは倒すッ!!!!

 

「「艤装展開!」」

 

ほぼ同時に両者がそう叫ぶと眩い光が二人を包み込む。

 

「「これより人類の敵を迎撃する!!!」」

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