仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
「とりあえず叢雲も大和も明日には復帰出来るって!顔色も悪くなかったし…ま、叢雲は空の要塞が援軍に駆け付けてくれなかったらヤバかったって愚痴ってたけどねぇ…」
そう言いながら目を細める北上。
そして彼女の視線の先には、憂いを帯びた顔を覗かせながらも、悠然と椅子に腰を掛けた軍服の男が一人。
北上の言葉を最後にお互いに黙してしまった両者だったが、唐突に軍服の男は言った。
「…敵の戦力を見誤っていたのは私のミスだ。そしてその些細なミスで叢雲と大和を危険に曝したことにお前が怒っているのも分かる。…以前大和が戦争の本質について独自の見解を述べていたな。結局、お前たちはその場で反論することはなかったが…内心納得がいっていないというのも分かる。だがな、北上。六艟が海軍本部つまりは『ZEUS』から全機出撃した場合。当然ここは手薄になるわけだ…そして敵がそれに突け込んできたらどうする?六艟でさえ手を焼く相手を人間の兵士と艦娘だけで凌げると思うか?…答えは無理だ。まず間違いなくここは壊滅する。だからお前たち全員を…」
「…阿野っちらしくない!」
北上が大声を張り上げたことで、男の言葉は遮られ最後まで語られることはなかった。
突然の叫びに目を丸くする阿野。だがそんな彼にまるで言い聞かせるように、北上は言葉を続けた。
「…あたし達がどうして阿野っちに付いていくのか、ちゃんと考えたことある?」
「・・・」
「最近の阿野っちはさ…縛られているような、自由を奪われているような…見ていて息苦しいんだよねぇ、なんだか。もちろん阿野っちが海軍本部を大事に思う気持ちも分かるけど…あたし達六艟が付いていきたいと思ってるのはさ、無鉄砲で向こう見ずな…筋肉バカなんだよねぇ」
「…そう、か」
「うん、少なくともあたしはそう」
北上はそこまで言うと静かに息を吐いて口元を緩めた。そして北上の言葉に対して、歯切れの悪い彼に「ま、阿野っちがそう言うならしょうがないのかもしんないけどさ…」と小さく笑いながら呟くと、手をヒラヒラさせながら出ていってしまった。静かに閉まる部屋のドア。
「このままだとただの筋肉ダルマだよ~!」
…と思えば、彼女は今しがた閉めた扉を半分ほど開け、顔だけ覗かせながらそれだけ言うと、今度こそ部屋を後にしたようだ。
遠ざかっていく足音が阿野の耳に聞こえた。
そしてその言葉を向けられた彼は、自身の体をチラリと眺めて笑みを浮かべると、静かに呟いた。
「…ありがとうな、北上」
「阿野さん!すごいことが分かったんですよ!」
北上が去ってからしばらくして、何か急いでいたのだろうか…私の元を息を切らした青葉が訪ねてきた。そして私が声を掛ける間もなく、上気させた顔で機関銃のように彼女は話始めた。
「…三日前のPMT襲撃に於いて、叢雲さん達が討ち取った怪物なんですが……その正体が分かったんですよ!技術班の皆さんが徹夜で頑張ってくれたみたいで!」
「…!」
「かなり装甲が硬かったようで…当初解剖は絶望的だったみたいなのですが、驚くことに!思い切った技術班の一人が怪物の口腔内に入って解剖を試みたみたいなんです!そしたら…硬い表面の皮膚とは打って変わって、内部は軟らかかったようで、口腔内からあっという間に解体が進んだとか!!そして重要なのは、ここからなんです!怪物の所謂心臓部分と言うのでしょうか…中心部にまるで生き物の血管のような管で縛り付けられた艦娘の遺体があったとか!そしてその遺体を回収して解析したところ……駆逐艦松風ということが判明したそうなのです!!」
「松風というと…行方不明になっていたあの艦娘か?」
「そうです!解析データが本部のデータベースにあったものと合致したみたいで……」
興奮気味に語る青葉。
そんな彼女の言葉を聞きながらも、私の頭は別のことを考えていた。
松風…後に彼女は黒い艦娘と判明したわけだが、いったい何故PMTを狙ったのだろうか?
軍の流通機関をストップさせ、各鎮守府への補給ラインを断ったのだろうか。確かに供給が停止すれば、各鎮守府の戦力は徐々に減退、弱体化を免れないだろう。
だがなぜ?なぜ今更?
PMTは比較的に歴史の浅い、新設の機関だ。
それこそ元々あった機関をわざわざ一新してまで作った機関である。おそらく松風はPMT開設当初からその身をPMTに置いていたはずだ。
ならば、なぜPMTをすぐに壊滅させなかった?
…今ところ、黒い艦娘は皆一様に改造を施されているということだが、その時は改造を受けていなかったということか?
なるほど、データを登録する際に深海棲艦のそれを持つ黒い艦娘であればすぐに分かるというものだ。だが特にそのような報告は入っていない。つまり改造を受けたのはPMTに配属されてからしばらくして…。
いや、おかしいな。
だとすれば、松風が一時的にでも行方を眩ますことがあったはずだ。だがPMTからはそのような報告は入っていない。仮に例の鎮守府の前任が黒幕だとして、PMT新設時には、既に彼の行方が分かっていなかったのだから、どこか別の場所、例の鎮守府以外の場で松風を改造したと考えるべきなのだろうが…。
配送に向かった軍の職員が一向に帰ってこなかったら、配送先で何かあったと考えるのが妥当ではないか?
ましてやPMTは軍の機関なのだ。どんな小さな異常でも敏感に反応すべきなのだが…。
改造にはあまり時間を要さないのか?
技術班からの話によれば、黒い艦娘は相当手の込んだ改造が施されているようだ。
それを時間を掛けずに行ったというのは信じ難いが、仮にそうだと考えても、改造を受けた松風がPMTに所属していて、PMTの方では何も気が付くとことがなかったというのか。いや、それだけではない。松風はPMTを襲撃する前に例の鎮守府を襲っていたではないか。
つまり時系列的には、PMTを襲撃するタイミングは十分にあったはずで…。
PMTは本当に何も知らなかったのか?
私の中に疑問が次々と浮かび上がる。
少し話が変わるが、PMTの長に就いた者も今まで海軍では見聞きしたことのないような人物だった。新機関に素性のよく分からぬ者を置くという判断。
それ故、海軍内部でも不信感を募らせる者も少なくなかったのだが…。何かを隠蔽していた?
PMTは黒い艦娘と繋がりがある?
そして今になってPMTが襲撃されたのは、軍の流通を止める為ではなく、別の理由?
だが真相は闇の中だ。まるで口封じと言わんばかりの事態。死人に口なし。先の襲撃で、PMTの職員は全滅しているのだ。艦娘を一人保護したと聞いてはいるが。
…全て私の取り越し苦労であればいいのだがな。
そんなことを考えていると、私はふと鋭い視線を感じてそちらを見やる。
するとそこには、頬を膨らました青葉がいた。
「…聞いてましたか?」
…どうやらもうしばらくは、青葉の長い話に付き合わないといけないようだな。
事態は深刻だ。
PMTから襲撃の一報を受け、海軍本部は救援部隊を直ぐ様送ったが、その救援部隊もPMTの地を踏むことなく全滅。遅れて叢雲と大和をPMTに向かわせたが、結局はPMTの完全崩壊で終わってしまった。
ふと窓に目をやれば、すっかり外は闇の世界。
まるで今の暗雲立ち込める海軍を示すかのように、暗い世界がどこまでも広がっていた。
私は今日北上と青葉に言われたことを思い出しながら、少し早めの就寝をとろうかと寝台に横になっていた。
そして目を閉じようとしたその時。
「…遅くに失礼致します!」
ノックされた扉はすぐに開けられ、一人の男が入室と共に敬礼をした。
まさか黒い艦娘の襲撃かと慌てて身を起こした私だったが、どうやらそういった類いのものではないらしい。
そして話を聞くに、どうやら素性の分からぬ者が私に面会を求めているようなのだ。
「ただ今、青葉殿が対応して下さっています」
ふむ。青葉が対応してくれているのか。
この時間帯に私…ひいては海軍本部を訪ねて来るなど怪しさが募るというもの。
なにせ黒い艦娘の黒幕は、元提督謂わば海軍の身内だ。警戒するのが…。
「阿野さん!お客さんですよ!」
…どうやら。
私はまだ眠れないということを悟ると、その訪問者を迎え入れるべく寝台を離れた。
夜遅く、私の元を訪ねてきたのは…あの青年だった。
部屋の扉が開かれ、青葉と共に彼が入ってきたのを見た時、私は思わず目を見開いてしまった。
そして驚いた。
お世辞にも提督とは思えないような格好で、彼は現れたのだから。護衛の艦娘も付けず、何かを持っているわけでもない。裸一貫というわけではないが、身に纏う衣服のみでの登場。しかもその衣服でさえ所々汚れ、ひどいところは破けてしまっている。当然、一目見れば門前払いされてもおかしくない状態だ。青葉が彼を知っていたからこそ、ここへ来ることが出来たというもの。
そして彼の顔は、ひどく疲れていた。
それでも彼はフラフラとした足取りで私に近付いて来ると、最後の力を振り絞らんとばかりに語ったのだ。
彼の鎮守府で起きたこと、その全てを。
彼の体調を考慮し、話は後日にしようと私や青葉が言っても彼は首を横に振った。そして彼は話続けたのだ。何度も何度も口ごもりながら、懸命に話す彼にいつしか私は引き込まれていた。
「僕は本当は提督じゃないんです」
疲労の色が隠せない彼の表情が悲壮感でいっぱいになった時、私は胸に込み上げてくるものを感じた。それはいつしか私が忘れてしまったようなものを思い起こさせる位の強さがあった。
そして彼は、涙や鼻水で顔をグシャグシャにしながらも話続けたのだ。
ようやく話終えたのか、彼の言葉が止まる。
それを見た青葉が彼を寝台へと連れていこうとしたのを私は制した。青葉は驚きの表情で私の顔を見ていたが、どうしても…今、今この時に聞いておきたい、いや聞かなければならないという想いに駆られ、私は彼の目を見据えるとハッキリとした声で彼に尋ねたのだ。
「…それで君はどうしたいんだ?」
私の言葉に、青葉の表情が驚きから怒りに変わったのを感じたが、私はその答えを絶対に聞き漏らしてはならないと耳を澄ます。
そして彼は、私の問い掛けに一瞬目を伏せたようだったが、すぐに私の目を力強く見つめると、覚悟を決めたように言ったのだ。
「大事な人たちを助けにいきます」
「あ、提督~~!!今、会いに行こうとしていたんですよ!…フフ、先程榛名さんから連絡がありましてね!もういつでも着任出来るみたいですよ~!それでですね~まず利根さんと古鷹さんを先発隊で送ろうかと思っているんですよ~!榛名さんと野分ちゃんと合流させようかと…」
「…え?鎮守府に抵抗勢力はいないのかって?フフ、提督はどこまでも慎重なお方だ!ですが心配ご無用!提督とされる人間は行方知れず…わずかにいた反乱分子も地下牢で捕らえていると報告を受けています!まだ何人か近くの山林に潜んでいるとのことですが、フフフ問題ないでしょう!」
「…あぁ、明石も提督よりひと足先に鎮守府へ入る予定です!フフフ、提督が来た時には最高の軍隊が出来ていると思いますから、どうぞゆっくりと来て下さい!」
「フフフ!!腕が鳴りますよ~!!!」