仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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交戦そして崩壊

「きゃあ!?」

 

誰かが叫んだ。

耳をつんざくような衝突音。

そしてそれに続くようにして断続的な銃声が静かな鎮守府の朝に轟いた。歩哨に出ていた者以外は、この事態が夢か現実かの区別さえ出来ぬまま、自分の寝台から飛び起きると状況を確認しようと部屋を飛び出す。

見れば廊下には、困惑した表情で右往左往しながら「何が起きたの!?」と叫ぶ者たちで溢れかえっている。

そして鳴動と共に、廊下の全ての窓ガラスが粉々に砕けて一気に吹き飛んだかと思えば、凄まじい風圧の熱風が吹き込んでくる。

 

「きゃああああああああぁぁぁぁ!!!」

 

絶叫がこだまする。そして脳裏を過るのは前回の襲撃、あの時の悪夢が蘇る。

 

「もう長門さんは居ないのに…どうしよう!?」

 

「榛名さんは?榛名さんはどうしたのッ!?」

 

「そ、そうだよ!榛名さんのところへ!」

 

硝子の破片が体に突き刺さった者が数名いるようだ。廊下が血の池と化す中、その場にいた者たちは動けなくなった仲間の肩を支えると、懸命にこの事態を打開しようと歩き出した。

唯一の希望の名を念仏のように唱えながら、ただひたすらに歩いた。

 

そして絶望した。

 

「な、なんで……?」

 

誰かがポツリと呟いた。

その場に居るべき艦娘は…唯一の希望は、跡形もなくその姿を消していた。

もぬけの殻となった執務室を目の前に、顔を青く染め上げた艦娘たちは静かに膝をつき、絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!爆発が起きてるぞ!!!」

 

天龍さんの怒声が目を閉じていた私を現実の世界へと引き戻す。そして黒煙がもうもうと上がる様子を木立の間から確認すると、私は驚きの声をあげた。

 

「どういうことだ、赤城?俺たちの鎮守府が攻撃を受けているじゃねえか!?」

 

私の驚きに応えるように、隣で血相を変えた天龍さんがそう叫んだ。そして厳しい顔付きで黒煙を眺めている。そしてその黒煙に交じって、次第に赤い光が明滅し始めたのだが、私には目の前で起きているこの現状を飲み込むことは出来なかった。

 

全くの想定外の事態。

 

…いや、そもそも長門さんが殺されたことを発端に始まったこの一連の出来事…その全てが想定外なのだ。

いったい誰がこんなことを予想出来るだろうか。

確かに不穏な空気が鎮守府に流れていたのは赤城自身も知ってはいたが、僅かな期間でこんな……。

 

「…っおい!赤城!しっかりしろ!!!」

 

天龍さんに肩を掴まれ、激しく揺さぶられる。

そして彼女の苛立った言葉を聞いて、私は気が付いた。

 

…このままでは皆が死んでしまう。

 

大きな爆発音と共に巨大な火柱までもが上がり始めている。そして耳を澄ませば、わずかに聞こえる絶叫。

気付いた時には既に私は天龍さんに指示を出していた。

 

「加古さんと雲龍さん、摩耶さんたちを至急呼んできてください!…本来はもう少し時間を掛けてから潜入するはずでしたが、緊急事態と判断します!」

 

私の言葉を待っていましたと言わんばかりに彼女は力強く頷くと、樹海の奥深くで静かに反攻の時を待っている同志たちの元へ走っていった。

そして彼女の姿が樹林の中へと消えたのを確認すると、再び鎮守府の方を見据える。

 

この判断が吉と出るか、凶と出るか。

それは激しく流転するこの戦況に於いては分からない。

だが一つだけ。私は過ちを犯していたようだ。

 

先程、天龍さんを見送る私の横を一つの風が駆け抜けていった。その風を引き起こした、いや最早風となったと言ってもいいかもしれない存在を私は呼び止めることが出来なかった。

あまりの速さに横目で私がその姿を捉え、振り向いた時には、彼女は私の声が届かぬところまで行ってしまっていた。もちろん彼女がどんな面持ちでそんな真似をしたのか…その表情は伺い知ることが出来なかった。

 

だがほんの一瞬。私の横を通りすぎる時。

彼女は消え入るような声で一瞬だけ囁いたのだ。

 

「…行かなきゃ」

 

そんな小さな小さな呟きが私の心を捉えて離さない、私の脳内に反芻して消えない。

 

そんな言葉を残して、彼女は行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラアアアアアアアアアアッ!」

 

阿野が構えた機関銃は、激しい発砲音を響かせながら弾丸をばら撒き続けていた。だが銃弾をものともしないのか、何発もの弾丸で撃たれながらもその射撃の的となった者は呑気に欠伸をすると、笑みを溢した。

それならばと、彼が一頻り銃撃を行った頃合いに、槍を持った叢雲が接近戦を仕掛ける。だがその者は、自身に突かれた槍を手で掴むと、そのまま引っ張るようにして叢雲に肉薄した。そしてもう片方の手で叢雲の髪を掴んだかと思えば、一気に彼女を地面に叩きつける。

 

「…吾輩に接近戦を挑むとは、浅はかじゃな」

 

「叢雲!!!」

 

そして地に背を付けた叢雲の腹部を目掛け、追撃の一手を打とうとしている者に阿野は突貫した。

そして持てる力の限りを拳に込めると、それを敵の顔面に叩き込む。

だが痛みを感じたのは殴られた方ではなく、殴り付けた方のようだ。

 

「…ッ」

 

まるで鋼鉄の塊のように硬い。彼の拳には血が滲んでいた。だがその痛みを悠長に感じている暇はないようだ。

 

「…滑稽じゃな。人間風情が(おご)るなよ?」

 

するとその者は、彼の胸ぐらを乱暴に掴むと、腕に力を込め、勢いよく投擲(とうてき)した。

そしてそのまま放物線を描くようにして、彼の体は空を翔ると、鎮守府の窓ガラスに衝突した。粉々に砕け散る硝子音と共に鎮守府の廊下に叩き付けられた彼は呻き声を上げる。

 

「おのれえええええぇぇぇぇ!!!」

 

その一部始終を見ていた大和が怒りの咆哮をあげ、それと同時に大きな砲声が轟く。だが砲撃を軽い身のこなしで避け続ける敵。その状況に彼女は苛立ちを抑えられなかった。そして怒りに身を任せ、もっと近距離から砲撃を試みようとした彼女だっだが、その肩は不意に掴まれる。そしていったい何事かと振り向く彼女の目が捉えたのは、睨み付けるような視線を投げ掛ける加賀の姿だった。

 

「…大和さん、落ち着いてください」

 

「……ッ!で、でも!!!」

 

「敵は接近戦に長けているようです。無理は禁物ですよ?」

 

加賀の言うことは尤もだった。

砲撃に於いてその真価を発揮する大和。

たとえ遠方にいてもその砲撃をまともに食らえば、間違いなく大きな損傷を与えることが出来る…それほどの火力を有しているのだ。それがわざわざ敵に肉薄する程の距離に迫る必要はない、むしろ格闘戦となれば、その長い砲塔が邪魔をして彼女は瞬く間に圧倒されてしまうことは火を見るより明らかだった。

 

「…それなら!どうすれば!?」

 

狼狽える大和を尻目に、加賀は弓を構えると静かに矢を放った。そしてその矢が瞬く間にその姿を航空機の形に変えたかと思えば、日差しをそのメタリックな機体に反射させ、エンジン音を響かせると大空を縦横無尽に駆け巡る。

 

「弱点を…隙を探すんです。それがこの戦いを終わらせる唯一の手段です」

 

大和に言い聞かせるように加賀はそう呟くと、天高く挙げた手を勢いよく振り下ろした。それを合図と言わんばかりに、空を翔る航空機の一斉攻撃が敵に降り注ぐ。

 

激しい爆発音と共に火柱が上がる。

絶え間ない空爆に大和も、そして加賀でさえも吹き飛ばされそうになるが、必死で地面に食らい付く。

そしてようやく攻撃が止んだ時。

黒煙に乗じて、大和と加賀は地面に伏していた叢雲を抱え上げると、そのまま爆心地から距離を取った。

 

「…派手にやりすぎよ!私を殺す気!?」

 

叢雲のいつもの口調に大和も加賀も安堵した。

そして激しく立ち上る煙の中心地をキッと睨み付けると、叢雲は続けた。

 

「…あれは黒い艦娘よね?まさか普通の…私たちと変わらぬ普通の艦娘とは言わないわよね?」

 

口元から流れる鮮血を乱暴に拭いながら言う叢雲に、加賀が答える。

 

「…おそらく。…そしてあれは、利根型のネームシップである利根を基盤にした黒い艦娘かと」

 

「利根って…カタパルトがどうこうっていつも騒いでいるあの利根!?…全然雰囲気が違うじゃないの!?」

 

「叢雲さん…。私たち艦娘はこの世界に姿形が同じ者が複数居るんですよ?ですがその性格、気質まで一緒かと言われればそんなことはない…。現に海軍にいる利根とは全くの別物だと、今まさに叢雲さんが仰ったじゃないですか?」

 

「アンタ…こんな時にも突っ掛かってくるなんて…大したもんよ」

 

「おや?大和は褒められたのでしょうか?」

 

「褒めてないわよッ!?」

 

加賀は目の前でギャーギャー言い争いをしている二人を見て、こんな時なのに…と思うのと同時に、先程までの嫌な空気が払拭され、いつもの六艟らしさが出てきたことに安心感を覚えていた。

 

だがこの喧騒の起点となった者は、どうやらまだ生きているらしい。

強烈な殺気を感じて身構えた三人。直後猛煙の中からまるでそれを嘲笑うかのように、利根がわざとらしく首や指を鳴らしながら三人の目の前に現れた。

 

「…面白い、面白いぞ!!吾輩の心が久々にときめいておる!」

 

そう言うと、彼女はまるでストレッチをするかのように体を伸ばし始める。その光景に呆気に取られていた叢雲たちだったが、屈伸運動を止め、唐突に立ち上がった利根の姿に思わず体を震わせた。

 

「…さぁ、貴様らの胴を穿(うが)つ一撃を吾輩が直々に叩き込んでやろう」

 

利根の言葉を合図に黒い(もや)が何処からともなく顕現したかと思えば、とぐろを巻くように彼女の手を包み込む。そして時折、紫紺の光を放っていた靄が晴れた時、三人が目にしたのは、先程とは比べ物にならないくらいに肥大化した利根の手だった。

しかもその手は単に巨大化しただけではない。その手を覆うのは生身の肌ではなく、光沢を放つ頑丈な鋼。まるで触れる物全てを無慈悲に破壊し尽くさんと言わんばかりに、機械の拳が太陽の光を反射させ、煌めいている。そして明らかに生物の手とは思えない無機質なそれを利根は突き合わせると、力を込めるように大声をあげた。

 

「オオオオオオオオォォォォォォ!!!」

 

利根の声に呼応するように次第に大きくなるエンジン音。加賀はその音を聞いた当初、自身の航空機が地面すれすれを飛行しているのではないかと錯覚したほどだ。

だが突如そのエンジン音が止み、ニヤッと嗤う利根の姿を見て、三人は悟った。

ここからが本番なのだと、先程までは遊びなのだと。

このまま利根の射程圏内に身を置くことを危険と判断した三人は、散り散りになると、それぞれがあの利根の金属の手に捕まらないよに距離を取る。

 

「…ふむ、距離をとられたか。そうかそうか!どうやら貴様らは本当に吾輩を楽しませてくれるようじゃな?」

 

―仕掛けてくるッ!

 

三人が身構えた時、利根の手もとい拳には変化が現れていた。握り締められた無機質な拳からは、黒光りした筒状の太い管が並列するように幾つも突き出す。そしてそれら飛び出した管からは、すぐさま黒煙が排気され始めた。

 

再び辺りにエンジン音がこだまする。

何とも不吉だが、三人はそれに惑わされまいと警戒を解かずに、利根の動向を静かに伺っていた。

 

そしてその黒煙が紫色の炎に変わった時。

 

一斉に、そして一気に噴出した紫の炎が利根の体を大地から切り離す。その光景は信じられないものだった。

 

「…浮かんでる?」

 

三人の内、誰が呟いたかは定かではない言葉。

だがその言葉は目の前の信じ難い現象を如実に表していた。利根は拳から突き出た筒…そこから噴出する火の勢いを調整して自由自在に空を飛び回る。そしてそれをまざまざと見せつけたところで、彼女は嗤った。

 

「…潰れて無くなるがよい」

 

その一言を最後に…。

利根は一気に管から紫の炎を放出すると、ちょうど目が合った艦娘…大和を目掛けて一直線に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…青葉ちゃんたちは、そのままあの子を守ってあげて~?ここは私だけで大丈夫よ~」

 

鎮守府の長廊下。

対峙する者に睨みを効かせながらも、後方から自分の身を案じて声を掛ける者に龍田はそう言い放った。

しかしそれでも…彼女の言葉を聞いても尚、その場に留まろうとする艦娘に…彼女と共に戦おうとする艦娘に、彼女は優しく微笑みかけると穏やかな口調で諭すように言った。

 

「青葉ちゃんは優しいのね~。うん、その優しさはず~っと大切にしなきゃダメよ~?…その優しさは間違いなくこの戦いを終えた時に必要になるわ~。だからね、ここは私に任せてほしいわ~」

 

「で、でも…!」

 

「青葉ちゃん。…あなたの優しさはここでは余計なのよ~。私の足手まといになられても困るわ~」

 

なかなか食い下がらない青葉から視線を外すと、龍田は間延びした口調を崩さずに、だが声のトーンを少し落としてそう言った。さすがの青葉も龍田の言葉に最初こそ沈黙したが、やはり譲れないものがあるようで、再びその口を開こうとする。

だが…。

 

「ほーら!行けって言われてるんだからさっさと行くよー?」

 

「ちょっ!?北上さん!?」

 

北上に強引に引っ張られる形で、青葉はその場を後にすることになった。だが青葉は次第に小さくなる龍田の後ろ姿を見て、叫ばずにはいられなかった。

 

「龍田さんッ!!絶対に死なないで!!!」

 

龍田はその呼び掛けに返事をしない代わりに、手に持った薙刀を横に大きく薙ぎ払った。それはまるで対峙する相手に青葉たちの後は絶対に追わせないという覚悟を見せつけたようにも青葉は感じた。

 

そして青葉たちの姿が見えなくなった頃、龍田はそっと呟いた。

 

「ありがとう。青葉ちゃん、北上ちゃん」

 

龍田は自分の髪をかき上げると、大きく息を吐いた。

その様子を静かに眺めていた銀髪の艦娘は、やれやれと言わんばかりに肩を竦めると、腰に付けた鞘から愛刀を抜いた。そしてそのまま刀の(きっさき)を龍田に向けると、疑問を呈した。

 

「…なぜ自ら不利な状況にする?私の刀の錆になりたいのか?それとも仲間を守るつもりか?フッ、どちらにせよ、貴様を斬った後、今走り去っていた奴らも斬るのだがな…なに無理に答える必要はない。死に逝く者は静寂の中で静かに消え去るのが美しいのだから」

 

「…う~ん?難しくてよく分からないわ~」

 

「…フッ、そうか」

 

沈黙。

お互いの呼吸音が聞こえる位に…辺りは静まりかえっていた。いや、実際は爆発音やら銃声やら絶叫やらで大分騒がしいはずの鎮守府なのだが…彼女たちのいるこの廊下だけは、静けさに包まれていた。

 

だがその沈黙を先に先に破ったのは龍田だった。

 

足腰に力を込め、一歩踏み出すと彼女は一気に加速し、銀髪との距離を詰める。そしてその勢いを殺さずに振るわれた薙刀は銀髪の首を取った…かに思われたが龍田の薙刀は、刀の(しのぎ)の部分で軽く受け流され、空を切っていたようだ。そしてそのまま流されて無防備になった龍田の腹部に、銀髪は刀の柄の部分を強く押し当てると呟いた。

 

「フフッ…もしこの柄が鋒であれば、貴様は死んでいたぞ?」

 

「…あら~?随分と舐められているのね~?」

 

龍田はすぐに体勢を立て直し、薙刀を大きく振り回す。まるで円を描くように振り回された薙刀の攻撃範囲は広く、その反撃に銀髪は刀でいなすことを諦め、間合いを取ることにした。

だがそのことを想定していたのだろう…龍田は突然薙刀を振るうのを止め、後退る銀髪の懐へと一気に飛び込んでいく。彼女の思わぬ行動に、銀髪は意表を突かれたようで、すぐに迎え撃とうとするが、なにしろ一気に肉薄されたので、後退していた足が縺れてしまった。そしてそのまま足を取られ、自由の利かない銀髪の体に、龍田は薙刀を払…わずに、代わりにその腹部に強烈な蹴りをお見舞いした。

 

「…お返しよ~」

 

「フッ…フフ…なるほど…ね」

 

そして交戦前の状態へ。

再び彼女たちは間合いを取ると、お互いに睨み合った。

 

「…野分ちゃん、だったかしら~?貴方も黒い艦娘なんでしょう~?」

 

「…貴様、前に一度刀を合わせたことがあるな?はてさて、いつの頃だったか?」

 

噛み合っているようで、噛み合わない会話。

彼女たちは手に持ったそれぞれの武器を相手の顔に向けながらも、そんな不毛とも言える…彼女たちだけの会話を楽しんでいた。

…いや、正確には龍田は楽しんでいなかった。

なぜなら目の前の…この野分という艦娘が全力を出していないことが、龍田には嫌でも分かったからだ。そしておそらく…大きく距離を取った今…彼女は本気で自分に襲い掛かってくるだろう。そしてそれは龍田の予想通りだった。

 

「…フフッ、貴様は相応しい。私の全力をぶつけるのに一点の迷いもなく断言出来る…そんな相手だ。そして悲しいものだ。ようやく巡り会えた好敵手と、もう今生の別れをしなければならないとは…無念なものだ。だからこそこれだけは言っておこう」

 

野分はその後ろで結われた銀色の髪を(ほど)くと、まるで(なび)かせるように首を降った。

そして髪を下ろした野分は、憂いを秘めたような目で龍田を見つめると、名残惜しそうに言った。

 

「私の愛刀にして妖刀…『風舞』は、今まで多くの血を吸ってきた。そしてその血を吸ってきたのは…龍田、貴様を屠る為だったのだな…。半ば諦めていた貴様のような存在との出会い…今や空前絶後は幻となった。…さぁ、御託はここまでだ!最高にして最後の宴を始めよう!」

 

野分の言葉を合図に静かだった廊下にこだまするのは、何かが脈を打つ音。ドクンッ、ドクンッと不安を煽るような不快な音。龍田はその音の出所を探り、気が付いた。まるで生き物の心臓のように鼓動を打つのは…野分が持つ刀、それだということに。

 

思わず薙刀を握る手に力がこもる。

そして悟った…これは先手必勝であると。

 

―何かを仕掛けられる前に。たとえ倒すことは出来なくても、深傷を負わせる必要があると。そうしなければ自分だけでなく、皆が死んでしまうと。

 

龍田は悟った。

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

決死の覚悟で突っ込む龍田。

たとえ手足がもぎ取られようとも、命を落としたとしても、この野分が今からしようとすることを止めなければならない―そんな思いに龍田は駆られていた。

 

だが。

それは少し遅すぎた。

 

「……ッく!」

 

凄まじい風圧に足を取られ、よろめく龍田の体。

彼女が今しがた突っ込もうとしたところでは、竜巻のように黒い風が渦巻いており、目を開けることさえ憚られるような強い風が吹いてくる。

だが龍田は必死で食らい付いた。

 

そしてその暴風が止んだ時、彼女が目を開けるとそこには…翡翠色の瞳を煌めかせながら、黄金色の閃光を放つ刀を手にした野分が立っていた。

 

こんな時にこんなことを言うのはご法度かもしれない。だが龍田は思わず呟いてしまった。

 

「…綺麗」

 

敵であるはずの野分が構えたその金色(こんじき)の刀は本当に美しかった。目を…いや、命でさえ奪われることを厭わないような美しい輝きを放つそれ。

龍田は釘付けになっていた。

 

そして野分が軽く刀を振るった時、龍田は驚いた。

先程の暴風に押され、ある程度野分とは距離が空いていたはずなのに…龍田の腕は斬られていた。

 

「…ッ!!!」

 

幸いにも傷の程度は軽いようだが、鮮やかな血が傷口から流れ出る。

 

…一体いつの間に?

 

見ていた限りだが、野分は刀を振るう以外、微動だにしなかったはずだ。そしてこれだけの距離が空いていて、なぜ斬りつけることが出来る?

 

だが次の瞬間、龍田はその理由を知ることが出来た。

 

野分が振り上げた刀、それは今まで放出していた光をさらに増長させ、輝きを増したかと思えば、上へ上へと伸展していく。どうやらその刀は自在に伸縮させることが出来るようで、なるほどそれなら先程斬り付けられたのも理由がつく。そして見る者全てを魅了するように、天高く真上に掲げられたそれは、激しい光を放ちながら、大きく大きくさらに膨張していく。

 

そして遂には天井を突き破り、それはまるで天をも穿つような巨大な光の柱となった。

 

美しい光の集合体。

 

龍田はただ黙ってそれを見上げていた。

そしてその光の大元となっている艦娘は、そんな龍田の状態を知ってか知らずか、一歩踏み出す。

そして大声で叫びながら、真上に掲げていたその手を一気に振り下ろした。

 

「堕ちろオオオオオオオォォォォォッ!!!」

 

燦々と耀く巨大な光が、今まさに龍田の身を葬らんとばかりに迫っていた。

 

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