仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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後悔

あたしの人生は後悔の連続だった。

 

常に後手に回る、思い通りにいかない毎日。

あたしが考えて成すこと全て――無意味だった。

…そのせいであたしは大切なものを失った。

 

重い瞼に木漏れ日が差す。

自分の名を誰かが呼んでいるような気がして、あたしは目元を擦りながら、その眼を開いた。

 

「…こんな時まで寝やがって!お前は本当にぶれない奴だな!」

 

そんな呆れた声があたしに投げ掛けられる。

 

…それはそうか。

 

「こんな時」にもあたしは居眠りをしていたのだから。

 

でも。

 

―――あたしが目を閉じたいのには理由がある。

 

 

…目を閉じさえすれば。

 

あたしはこの現実から一時的に乖離される。

直視したくない、対峙したくない世界を一瞬でも忘れることが出来る。

 

あたしの愚かな選択によって産み出された「負」。

 

あたしはそれから目を背けたかったんだ。

 

だけどそんなのは結局、現実逃避以外のなにものでもない。その目を開ければ最後…瞬時に過酷な現実があたしに凄まじい勢いで襲い掛かってくる。

 

「赤城からの伝達だ…鎮守府が攻撃を受けている。潜入には時期尚早…とは言ってられないみたいだ。…すぐに鎮守府へ向かうぞ!」

 

――あたしはその言葉に何の感情も抱けなかった。

 

あたしの鎮守府が、あたしの仲間が危険に晒されているというのは分かっている。頭では分かっている。

だから一刻も早く、援軍に駆け付けなきゃいけないのも分かってる。

 

…でも。

 

あたしは心にポッカリと穴が空いたように。

全くもって、何の想いもその心に宿すことが出来なかった。

 

「…ああ」

 

結局出たのは、生気を感じない返答。

だがあたしの生返事を聞いて、その者は軽い会釈をすると、大きな剣を片手に踵を返した。

 

ならばあたしもその後を追うのが筋というもの。

だけどあたしの足は一歩も前へと進まない。まるでその場に固定されてしまったかのように、あたしの足は動かなかった。

 

――どうして川内はあんなに必死になれたのだろう?

 

…いや、川内だけじゃない。

神通に那珂、さらには阿武隈や雲龍まで…。

 

――なぜ自分以外の存在の為に必死になれるのか?

 

あたしには分からなかった。

いや正確には――分からなかったというよりも、理解したくなかった、忘れたかったんだ。

 

…誰かの為に自分の身を切るなんてこと。

 

そんな後悔しかない…後悔しかなかった選択をまた選ぶなんて絶対に嫌だった。

 

結局そんなの独り善がりだった。

あたしは自分の自己満足の為に、大切な人にあたしの「犠牲」を押し付けて、きっと心のどこかで愉悦を感じていたんだ。

 

だから失ってしまった。

 

…大切な人を。

 

ふと蘇るのはあたしの勝手な判断、それをあのクソ野郎に進言した時のこと。

 

――この思い出は謂わば、あたしの背に重くのし掛かる十字架だ。

 

あたしが二度と光の元へ浮上出来ないように…その身を深い深い海の底へと沈める為にそれはあたしの心に強く刻まれている。

 

思い起こされた記憶は、あたしにあの時の自分を俯瞰させる。

…大切な人を守る為に「解体」を申し出たあたしは笑みを浮かべていた。

 

きっと…いや絶対に感じていた。

 

自己満足、自己憐憫、優越感。

 

もちろん、あたしは悲劇のヒロインになりたかったわけじゃない。大事な人を守りたかったのは事実だ。

 

だけど――

 

知らず知らずの内に抱いていたんだろう、そんな「負」を。

 

だから罰が当たった。

大切な人はあたしを見てくれなくなった、あたしの言葉を聞いてくれなくなった、あたしを信じてくれなくなった。

 

見透かされたんだ…あたしの驕りを。

 

それが悲しくて、悔しくて……。

あたしは大切な人をもう一度振り向かせる為、わざと彼女の元から離れ、それでも尚、自己満足を押し付け続けた。

 

まるで子どもじゃないか…。

 

思わず自嘲する。

 

そしていつまでも――あたしは成長しなかった。

 

だから変わりたかった。

こんな矮小なあたしを少しでも大きく見せたかった。

そしてもう一度、見て欲しかった。

 

…阿武隈たちと共に行動したのも、ライブに参加したのも結局は気紛れとかじゃなくて、全部あたしが独りじゃ変わることが出来ないから…あわよくばあの娘に振り向いてもらいたかったから。

 

暖かな風があたしの頬を撫でる。

そしてふと、何気なく呟いてしまった。

 

「…いつまで囚われてんの?」

 

…いったいどの口がそんなことを言えたのだろう。

この言葉は間違いなく自分を言い表した言葉だ。

なのにあたしは卑怯だから自分のことを棚に上げて、そんな言葉を以前冷たく言い放ったんだ。

 

あたしの言葉を聞いて、その娘は何を思ったのだろう?今ではそれを知る術はない。

 

――あの娘は遠いところへ行ってしまった。

 

あぁ、またあたしは後悔するのだ。

――あたしの言動は常に「負」を纏う、「負」を引き起こす。

 

――いつのまにか優しい風は止んでいる。

そして一転…周りの木々がざわめき始め、不気味な音を立てている。

 

…まるであたしの心のざわめきと一緒だ。

 

そして再び静寂が訪れ、あたしは悟った。

 

「…こんな形で再会するなんて、やっぱりあたしのすることは全部間違ってんだね」

 

何もかも諦めるように、ぶっきらぼうに呟く。

そして続ける。

 

「…どこ行ってたんだよはこっちの台詞だよ。古鷹」

 

蒼天に黒い影。

そしてそれは天高くから直下――巨大な黒い翼をはためかせ、彼女はゆっくりとあたしの前に降り立った。そして歪な鎌のようなものを携えながら、彼女は静かに嗤っている。

 

「…随分とイメチェンしたんだね、古鷹」

 

あたしの問い掛けに彼女は答えない…代わりに大きくその羽を羽ばたかせた彼女は、黄金色の瞳を爛々とさせ、ニヤリと嗤う。

 

そして手に持った鎌を高く振り上げると、抑揚のない声で…一方でその表情には愉悦を浮かべながら彼女は言った。

 

「貴方を見ていると…すごい興奮するの」

 




※86話で睦月をにゃしい将軍と呼んだことに対しては、活動報告の方に書いてあるんで…(震え声)

急に出てきたので「は?」となった方もいられたと思いますが、まあそこは目を瞑って頂ければ笑。

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